転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
※前書きです。
本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。
シンはオーブの街並みを歩いていた。
もう二度と帰ってくることはないと思っていたオーブの街並みを歩きながら、
「せっかく帰ってきたのだから」と家族の墓に花でもと思い、
オーブ防衛線の犠牲者の慰霊碑に足を向けていた。
そこにはシン以外にも意外な人物が慰霊碑の前に佇んでいた。
「トダカさん?」
それはオーブ軍のトダカ三佐だった。
「?ああ、君か」
慰霊碑の前のトダカの足元には小型の酒瓶と花束が置かれていた。
「その、トダカさんも・・・」
「ああ、と言っても君のように家族が亡くなったわけではない。唯の知人だ」
嘘だ。
唯の知人の為に忙しい軍務の合間を縫ってわざわざここまで訪れる筈がない。
自分は知人を亡くしていたトダカに泣き喚き、暴言を吐き、散々迷惑をかけた挙句、
プラントへの移住まで手配してもらっていたのだ。
シンは自分の事しか頭になかった当時の自分を恥じた。
もっとも家族を目の前で亡くしたばかりの少年に「もっと周囲の事を考えろ」というのは酷であろう。
それを知ってか知らずかトダカの答はシンに気を使わせないようにしたものだった。
「君が気にする事は無い。私もこいつが死んだことを知ったのは戦闘が終わって相当経ってからだった。
それまでは何も知らず、「あいつはどこへ行った?」と暢気にしていたものさ」
「トダカさん・・・」
「全く。殺されても死ぬようなタマではないと思っていたんだがな。
最後までこちらの予想を外してくれる奴だったよ」
言っている内容とは裏腹にトダカの口調と表情は柔らかいものだった。
「親友・・・だったんですね?」
「いや?それどころか私は常々「顔も見たくない」と公言していたよ」
「は?」
トダカの答えはシンの想像とはかけ離れたものだった。
「いちいち人のやる事なす事に文句を付けてきてね。「ああしろ、こうしろ、お前ではこれは無理だ」などと言いたい放題の奴だったな」
「ええ?」
「誰に対してもそんな調子だったから、誰にも相手にされなくてね。
昔からなぜか一緒にいた私が後始末に狩り出されていたんだ」
「そ、それは何といって良いのか・・・」
プラントに移住してからの自分を省みて、シンは無性にいたたまれなくなった。
「酒が好きなくせにすぐ酔いつぶれるやつでね。こいつを迎えに散々夜の店へ呼び出されたものさ」
「その、その人は何で・・・」
訊いてからシンは後悔した。
慰霊碑の前にいるのだ。
自分の家族と同じに決まっているではないか。
「ああ、一応こいつも軍人でね。避難民の誘導に狩り出されていたんだ。
全く、軍人なのだからちゃんと民間人を守る責務を実行しろと言いたいね」
「そ、それは・・・」
避難民の誘導をしていた結果、自分の家族と同じように死亡したのだ。
(やっぱりオーブは自分達を見捨てていなかった)
それを改めて確認してシンの胸の中にはやり場のない怒りと虚しさがさらに降り積もって行った。
「一応こいつは軍務中の戦死という事になるのでね。軍史にはこいつの名前が記載される。
まったく、戦史編纂官が記載される側になってどうするんだ」
「え?」
「こいつは戦史編纂官でね。戦史を記録するのが仕事だったんだ。
オーブ防衛の時はそんな事に構っていられなくてね。
動けるものは誰でも総動員されたんだ」
それはさらにオーブの正しさを証明していた。
通常の戦闘配置ではない、文字通り「軍の総員を動員して」オーブ防衛は成されたのだ。
自分も軍人になった以上、それがどれだけの緊急事態だったのか理解できる。
理解できてしまう。
その彼らの必死の努力を否定する事などできる筈がなかった。
そんなシンの内心も知らずトダカの言葉は続いた。
「いつもこいつは言っていたよ。「戦死した兵士はまだいい。しかし犠牲になった人たちを数字でしか書けず、名前を書けないのがつらい」とね」
「え?」
「戦史とは後日に軍の判断の参考の為に記録されるものだ。
『誰が命令し、どんな命令が出て、どのような経緯で、どのように戦況が推移し、誰が、どんな状況で死亡したのか?』
それらを記録して、少しでも後日の戦訓に活かす為のものだ。
そこに戦死した兵士でもない、犠牲者の個人名が入れば、それは「戦訓」ではなく「慰霊」になる。
もちろん例外はあるだろうが、それは戦史とは言えないだろう」
「それは・・・」
それはそうだ。
だからこそ、この慰霊碑のように犠牲者を追悼するものが存在するのだ。
公務として戦史を記録する者が「戦訓」と「慰霊」を混同できるはずもなかった。
「だから、あいつを慰霊するならこちらの方だと思ってね。
君たち遺族には迷惑かもしれないが勘弁してやってくれ」
「め、迷惑だなんて、そんな!」
自分たちを逃がそうと、職域を超えて必死に動いてくれた人間を、誰が否定できようか。
その結果自分まで戦死してしまったのだ。
それなのにその行為を迷惑などと言えるわけがなかった。
「こいつの事はもう記録でしか残らない。
だから私はあの世でこいつに会うまでに、こいつが飲みたがっていた各地の銘酒を散々飲みまくる事にしている。
再会したこいつに、迷惑を掛けられた仕返しに、こいつが飲めなかった酒の事を散々自慢してやる事にしている。
せめてそれぐらいやり返す権利は私にはある筈だからな」
「トダカさん・・・」
「私たちは軍人だ。私もいつこいつに再会する事になるのか分からない。
それこそ明日にもそうなる可能性はある。
せめて今日を悔いのないようにな」
トダカはそう言い残して歩み去って行った。
――――
「『今日を悔いのないように』か・・・」
シンはトダカの言葉を口の中で繰り返した。
自分は今日を悔いのないように生きているか?
そんなわけはなかった。
自分は今でも悔いてばかりだ。
未来どころか、今日ですらない、過去にしか自分の居場所はないと思い込んでいた。
しかしトダカは、オーブの軍人達はそれすら飲み込んで「今日」を生きている。
自分とはなんという違いだろう。
「俺も明日死ぬことになるのかな?
その時にトダカさんみたいに、父さんや母さんやマユに胸を張って報告できるのかな?」
そんな筈はなかった。
むしろ家族と再会したら「何をやっていた!」と怒られる様子しか目に浮かばなかった。
「アスハの言っていた事は正しかったんだな」
アーモリーワンでカガリに言われた言葉を思い出す。
『お前の家族が亡くなったことは、残念で悲しく思う。
だが私は──お前に謝らない。
もし私が謝ったら、あの戦いが間違いだったことになる。
オーブを守るための戦いが、間違いだったことになる。
それは国を守ろうと必死に戦った皆の努力を否定する行為だ。
だから私は謝らない』
その言葉の通り、オーブは全力を振り絞って民を護ろうとしていた。
自分だけ安全な場所に隠れていたのではない。
戦史編纂官でさえ駆り出され、避難民を誘導し、その結果避難民と一緒に戦死しているのだ。
それなのに戦死したトダカの知人や皆の努力を否定する事などシンにできる筈がなかった。
「わかっちゃいたけど、やっぱり結局は俺のは唯の八つ当たりか・・・」
今までシンの心の中にあったオーブへのわだかまりは、ゆっくりとその形を失いつつあった。
「『今日を悔いのないように』か・・・。今更だけどまだ遅くはないよな?」
こうしてシンは踏み出そうとしていた未来への新たな一歩を、改めて自分の意思で踏み出した。
カーペンタリアとジブラルタルがオーブの保護下に入る事が発表されたのは、この数日後の事だった。
※あとがきです。
お読みいただきありがとうございます。
本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。
これにて『オーブ飛翔・前夜編』終了になります。
次からは新章『コンパス・平和の強制編』の始まりになります。
次回お楽しみください。