転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
※前書きです。
本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。
「あら?」
オーブ行政府の職員食堂のメニューを見てトモは疑問の声を上げた。
一見すると何の変哲もないメニューである。
バイキング方式のランチにデザートが付いたありふれたメニューである。
特に疑問を覚えるようなものではない。
トモはデザート欄を見たまま、僅かに眉をひそめた。
「……また?」
トモは小さく呟いた。
「・・・」
トモは無言でランチを済ませるとそのままカルアの元へ向かった。
――――
「タイガ様の情報が洩れてる可能性がある?」
「はい」
トモからその話を聞いたカルアは疑問の声を上げた。
「誰が?いったい何の目的で?」
「あくまでも『可能性』の問題であって、目的は分かりません。
ですが、『誰が?』というのは予想できます」
「???それは?」
「職員食堂の関係者です」
「?どういうこと?」
「職員食堂のランチメニューのデザートにオレンジが付いていました。この一週間連続です」
「それが何でタイガ様の情報とつながるの?」
「オレンジが多く出回り始めるのはちょうど今の初夏です。後は産地にもよりますが旬は春先です。しかし今では輸入は止まっています」
「・・・まあ、NJじゃ仕方が無いわよねえ」
この年、4月1日に地球に散布されたNJにより地球の生産、流通網は大混乱に陥っていた。
当然輸出も輸入も困難を極め、世界中では生存に必要な物資の輸出入が最優先され、生存に必須ではない嗜好品、コーヒー、お茶、タバコ、果物などは後回しにされていた。
「今ではオレンジは貴重品です。でもそれは今だけでその内流通も安定化します」
「それで?」
カルアはトモに続きを促す。
「わざわざ今だけ値段の高いオレンジを、職員食堂のデザート用に大量に購入する意味があるのでしょうか?
安く大量に手に入れるならバナナやマンゴーなど他にも選択肢はあるのに?」
「!?」
その通りだ。
赤道付近のオーブで調達できる果実は輸入が停まっているオレンジ以外にも様々なものがある。
しかもNJの混乱が収まればオレンジの輸入は再開される。
わざわざ値段が高騰しているオレンジを今大量に購入する必要は無い。
「職員食堂はタイガ様もお使いになります。オレンジはタイガ様もお好きですから、定期的に職員食堂を利用される事は考えられます」
そう、行政府ではタイガや氏族家の者たちには食事の為に専用の部屋が与えられていた。
テロや毒物の混入を考えれば当然ともいえる処置だ。
しかしタイガは滅多にその部屋は利用せず、一般職員の利用する職員食堂の利用を好んだ。
もっとも、座る席も一定せず、いきなり隣の席に雲の上の存在であるタイガが座って一緒に昼食を摂るなど、一般職員にとっては光栄だが迷惑な話である事は間違いない。
その為、護衛を兼ねてカルアやトモがタイガの周囲に座って食事をするのがオーブ行政府における職員食堂の日常風景だった。
「タイガ様が定期的に職員食堂に顔を出す周期が判明すれば、テロが可能になります。毒物を混入されたり、解毒を口実に薬物を投与される可能性も否定できません」
「でも、食堂は私たちが把握しているでしょう?毒物の混入は無理だと思うけど?」
「毒物の混入はあくまでも万一の場合です。氏族専用区画の使用周期が判明する事の方が問題です」
タイガの『郎党』はタイガの衣食住全てを把握していた。
特に毒物混入のある食事は気を遣い、『郎党』の何人かが食堂で調理員として食材への警戒は万全の態勢を敷いていた。
また、タイガが職員食堂を利用するのも理由があった。
「いつ」「どこに」いるのか特定できればテロは可能だ。
後先を考えなければ氏族専用の部屋を歩兵用のRPGによって狙撃する事や、爆発物の設置すら可能だろう。
与えられた専用の部屋では時間や位置の特定によるテロの可能性は否定できない。
その点職員食堂での食事であれば心配はない。
食堂の場所は外部から見通せる場所にはない。
さらにバイキング方式の数百人分の料理の中からタイガの食事にだけ毒物を混入させるなど不可能だ。
しかも万一の心配がないように『郎党』が食材をチェックしている。
タイガが職員食堂を利用する頻度も不明だから、狙撃や爆発物の設置も無意味だ。
不必要なテロを起こせば警戒が厳重になって捕まるだけだ。
しかし、タイガが特定のメニューがある時だけ定期的に職員食堂を訪れるとすれば?
その周期が判明すれば?
逆を言えば氏族専用区画を利用する日が分かる事になる。
その情報が外部に漏れたら?
「いつ」「どこに」いるのか特定されてしまえばテロなど容易い。
氏族専用区画の安全性を逆手に取られていた可能性に思い至ったカルアの額に冷や汗が浮かんだ。
「わざわざデザートにオレンジを選ぶという事は、食材を調達しているのはプラントから来たばかりのコーディネーターの可能性が大きいです。
プラントではオレンジは高級品の代名詞ですから。
高騰している今の値段でも、プラントにいた時から見れば破格の値段に見える筈です。
大量に購入した理由もそれなら納得出来ます。
それに加えてプラントでの“重要人物には高級品を出す”という感覚が抜けていないんです。
職員食堂の関係者の中で最近氏族の養子としてやってきたコーディネーター、もしくはその関係者である可能性は大きいかと」
「・・・結構大掛かりなものになりそうね」
「この際、その他の部署もチェックしましょう。あれだけとは思えません」
「何もなければそれで良いわ。でも万一予想通りだったら・・・」
「オーブ行政府に潜り込ませる事が可能なのですから、根は相当深いかと」
――――
こうしてオーブにおけるプラントの諜報網のひとつが摘発される事になった。
それに協力していた氏族も同時に摘発された。
彼らの潜伏は巧みで偽装は完璧だった。
しかしそれは『オレンジひとつの為に』発覚する事になった。
彼らは最後まで「なぜ見つかったのか?」理由が分からないまま軍に連行されていった。
――――
「いやー、トモ!お手柄だったな!」
「いえいえ。そんな大した事では・・・」
「そんな事ないわ!たったあれだけでスパイに気付くなんてすごいわ!」
タイガとカルアの称賛にトモは顔を赤くした。
「いえ、本当に大したことじゃなくて、ただ酸っぱいものが食べたかった時に、たまたまメニューが目についたものですから」
「ああ、そう言えばそうだったわね?」
カルアは大きくなり始めたトモのお腹を見ながら納得した。
「まあ、お手柄だったのは間違いない。今日はもう帰ってゆっくり休め。
無理はするな。……お前も、その子も大事だ」
「・・・はい」
タイガの言葉にトモは幸せそうな笑顔を浮かべて頷くのであった。
――――
『マタニティオレンジ』
本来であれば『マタニティブルーズ』とも呼ばれ、出産直後の妊婦が精神的に不安定になる症状を指す。
しかし、これ以降オーブ情報部では半ば自嘲気味に『どんな些細な事でも情報の糸口になる。糸口に出来る』という戒めと奮起の言葉となった。
オーブとプラントの戦端が開かれる前のある日の出来事だった。
幕間
「協力ご苦労だった」
「いえ、お役に立てたのであれば幸いです」
タイガはある氏族家の男と対面していた。
「よくこれだけの情報を集められたな?大したものだ」
言葉とは裏腹にタイガの声は氏族家が集めた情報への疑念を隠そうともしていなかった。
男の提供した情報は微に入り細に入り、各氏族家とプラントとの繋がりを余す事なく網羅していた。
まるで“数年前から用意していたかのように”。
男は苦笑しながら口を開いた。
「別に他意はありませんよ?養女とはいえ娘の安全を願うのは親として当然でしょう?」
「まあ、お前の思惑通りトモと俺の縁を結ぶ事が出来たんだ。
それなのに特に何の要求もしてこないのが腑に落ちなくてな。
いわばお前も俺の義父に当たるんだ。
この機会に腹の内を訊いておこうと思ってな」
男はトモが最初に養女になった氏族の者だった。
タイガの関心を得る為に散々屋敷を訪れ、その後トモはタイガの屋敷に出仕する際に派閥争いを避ける為に、男の配下の氏族の家に改めて養子に出され、そこからタイガの側に上がった。
トモがタイガの子を懐妊した事で男の目論見は成功し、タイガに対して様々な便宜を要求しても不思議ではないのに、男は今までそのような様子を一切見せなかった。
「あの娘がS2型インフルエンザで死の淵を彷徨った事はご存じでしょう?」
「ああ、一時期は見つからなくて、そのせいかと思ってあきらめかけていた」
「不思議とは思いませんか?S2型インフルエンザはコーディネーターには感染しないはずです。それなのにあの娘は感染した」
「どういう事だ?」
「あの時期にあの娘の食事に毒が混ぜられていたんです」
「毒だと!」
「正確には毒ではありません。身体の抵抗力を少し弱める程度のものです。しかもあの娘はコーディネーターとしても破格の能力を持っています。
普通であれば何も問題ない筈でした」
「そこに
「ええ、何年もかけてあの娘に薬を盛り、抵抗力を弱めてあわよくば・・・というつもりだったのでしょう」
「いったい誰が?」
「あの娘が邪魔な存在という事ですな」
「プラントか・・・」
「家の料理人が弱みを握られていましてね。養子に出したものの、『後から口を出されたら面倒だから処理してしまおう』という事らしいです」
「それが実の親のやる事か・・・」
プラントのあまりにも非道な行いにタイガは嫌悪感を露にした。
「ご安心を。連中が養子に出したとはいえ、既にあの娘はオーブの氏族の娘です。それを害そうなどと舐められて黙っているわけにはいきません。
既にそれなりの報いはくれてやっています」
「何?」
「連中はナチュラルには何もできないと思っていたのか、手間と時間はかかりましたが簡単でしたよ。
もうオーブに手を出そうなどとは考えないでしょうな」
「お前、まさか?」
「ご心配なく。殺してはいません。“生きているなら殺した事にはなりませんよ”」
それは紛れもなく再構築戦争の戦乱を生き抜いたオーブの氏族の姿だった。
「本来ならあの娘も助かる筈はありませんでしたが、タイガ様のおかげであの娘は助かりました。改めてお礼を申し上げます」
そう言って男は深々と礼をした。
「よせ、それは単なる結果だ。俺が意図したものじゃない」
「単なる結果でも、タイガ様のおかげであの娘が助かった事に違いはありません。ですから私の礼を受けてください」
男は微笑みながらそれだけを口にした。
「回復したあの娘はタイガ様の事ばかり口にしていましてね。
それを見て他家に嫁に出すのはあきらめました。
あの様子だと他家に嫁がせても上手くいかないのは目に見えていました。
そうなれば嫁がせた家との関係は悪化するだけです。
それならいっそ思う通りにしてやろうとタイガ様の屋敷へ送り出す事にしたんです」
「それだけじゃないだろう?」
タイガは確信を込めて言った。
「おや?わかりますか?
その時はまだプラントへの報復の結果が不明でして。
家にそのまま置いておけばまた狙われる可能性がありましたので、配下の家に養子に出す事にしたんです。
最悪、私の家がプラントにやられてもあの娘がいれば家は再興出来ますから」
それは家を残す為に戦乱を生き抜いた氏族の二重三重の備えだった。
「あの情報は長年我が家で集めたものと、他の氏族の情報を集めた結果です。
私の氏族にもプラントの手はかなり奥深くまで食い込んでいましてね。
下手に我が家が発展するとプラントに手を貸す事になりかねなかったのですよ。
我らオーブの氏族に舐めた真似をした連中に手を貸すなど論外です。
それにプラントの手は他の氏族にも入り込んでいました。
まとめて一気に処理する機会が得られたのは幸運でした」
「それがあの情報か・・・」
「ええ。我が氏族だけで処理しても根っこが残るだけです。
タイガ様でしたらまとめて処理していただけます。
助かりました」
「・・・まあいい。摘発のきっかけはトモだ。
お前の家が貢献したとも言える。
引き続き他の氏族に目を光らせておけ。
お前に任す」
「よろしいのですか?」
「ここまで詳細な情報を得られる氏族を無駄に遊ばせておく理由はない。
他の氏族から何か言われたら俺の名前を出せ」
「仰せのままに」
最初にトモを養女にした時の目論見よりも、遥かに大きな成果を得た男は内心を隠して笑顔を浮かべた。
「ああ、トモの子供が生まれたら顔を見にこい。孫の顔ぐらいは見せてやる」
「それは楽しみですね」
今度の男の笑顔は内心と同じく、心から浮かべたものだった。
※あとがきです。
裏設定
ウズミ・ナラ・アスハ
「国にとって、子供を守る事以上に大事な事があるのか?」
オーブ代表。
後に名実共に実質的な『オーブ王』となる。
タイガのオーブ改革の一環として、オーブの象徴として君臨するも、代表としての権限をほぼ無くす事になる。
基本的には議会からの提案にサインする事だけが仕事。
ただ事前に根回しして、自分の提案と判らないように議会から提案させる等、政治的手腕は健在。
しかし重要な実務は事前にホムラやタイガが全て処理してしまう為、その機会はほとんど無い。
その為、タイガの最大の目的のひとつである原作での『マスドライバーの自爆阻止』は達成された。
ウズミの言葉がオーブという国の本質を的確に表している。
オーブと対照的に、“子供という未来”を簡単に捨て去るプラントが滅びるのは必然であり、当然でしかない。
ディアッカ・エルスマン
「やれやれ、やっぱり俺早まったかなあ?」
プラントの赤服のエリートからオーブ軍の捕虜、それからオーブに移住し、傭兵部隊大天使所属とバルトフェルド並にかなり運命が変転した人。
自分たちがヘリオポリスを襲撃しオーブ参戦のきっかけを作った事を悩み、その罪悪感をタイガに利用されキラの護衛としてプラントに赴く事になる。
“プラントの未来”を知らされた後は、情報を必死に集めたものの、プラントが公開している情報以外でも同じ結論にしかならず、ミリアリアに殺されかけた事もあり、自分たちコーディネーターの優秀性に疑問を持つようになる。
オーブで捕虜になっている間“白い流星”の模擬戦を何度も目の当たりにした事が決定打になり、早々に“ニュータイプ”への抵抗を諦めた。
キラの護衛から解放された後は、傭兵部隊“大天使”に所属し、様々な『表沙汰に出来ない戦場』を渡り歩く事になる。
コンパス設立後は、キラの手足となって、提案された過激な方法を実行する為に駆け回る事になる。
本人は生命の危険がある“大天使”にいる事を全力で望んだが、キラの裏事情を知り、それを実行できる能力を持つ彼が逃げられないのは当然でしかなかった。
ある意味彼とキラの関係はタイガとバルトフェルドの関係に似ている。
本人の意思と希望と実態が乖離しているところも含めて(笑)
お読みいただきありがとうございます。
本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。
これにて『コンパス・平和の強制編』終了になります。
次からは新章『
次回お楽しみください。