転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
※前書きです。
本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。
パトリック・ザラは困惑していた。
木星往還船「ツィオルコフスキー2」へ強制搭乗させられてから、およそ30年。
外界とほぼ隔離されていた彼には、現在のプラントが、かつてのプラントとはまるで異なる別の国に見えていた。
けばけばしいネオン。
船乗りに群がる女たち。
威勢のいい声で客引きをする男たち。
パトリックの目には、それらは下劣な歓楽街にしか映らなかった。
木星往還船の乗組員からは、「これで最後だろうから、自分の国がどうなったか見てこい」
と金銭と、いくつかの紙袋を渡され、プラント行きの船に放り込まれた。
パトリックは知らない事だが、木星往還船の乗組員は途中で新型の高速船とランデブーし、随時乗組員の交代を行っていた。
現代ではわずか数ヶ月の木星までの航路を、何年もかけて進む旧型の木星往還船は邪魔者扱いされ、一度乗り込めば次の交代まで
数ヶ月間拘束されるので乗組員達からは不評の的だった。
周囲の状況に理解が追いつかないまま、パトリックは木星往還中に書き記した理論や技術を申請するため、技術局へ向かった。
技術局は昔と同じ場所にあったが、その様子は見る影もなかった。
通路は埃まみれ。
受付は軒並み閉鎖。
壊れかけた申請用自動端末が一つ稼働しているだけ。
不審に思いながらも、パトリックは端末を操作し、自分の理論や技術を申請していった。
木星往還中、彼は研究に全てを費やしていた。
そこには彼の人生の全てが込められている。
コーディネーターの力があれば申請など容易に通る。
今さらだが、コーディネーターの優秀さを証明してやる――
そう思っていた。
だが、端末の返答は冷酷だった。
「申請受理件数ゼロ」
「申請された理論、及び技術は既に全て申請・登録されています」
「何だと? そんなバカな!」
あれは優れたコーディネーターでなければ理解できない理論だ。
ナチュラル如きに理解できるはずがない。
そう思いながら申請内容を確認していくと――
パトリックの理論や技術はすべて、彼が往還船で作成した数年後には別の者が発表していた。
あるいは、彼が作成する前にすでに発表されていた。
つまり、
「その技術の発展にパトリックは必要なかった」
という事実が突きつけられた。
それも当然だった。
議論し、批判し、視点をぶつけ合い、切磋琢磨して生まれる集合知と、孤独な独りよがりの研究では、どれほど能力が高くても勝負にならないのは当然だった。
自分の今までの30年の日々が、自分が信じていた“個人の能力”が、何の役にも立たなかった。
パトリックは茫然とした。
今まで費やした人生の全てを否定された事に茫然とし、数時間もの間身じろぎもしなかったパトリックは、虚無感を抱えふらふらと彷徨い歩き、いつの間にか再び歓楽街の入口に戻ってきていた。
「ミーア、そろそろ行くわよ?」
「え〜、ちょっと待ってよ〜」
派手な格好の、娼婦と一目で分かる女たちが通り過ぎようとした。
その中のひとりの二十歳ぐらいの女を見た瞬間、パトリックは叫んでいた。
「レノア!」
「! おじいちゃん?いったい誰?
ここではミーアって名前で通してるのに、なんで私の本名を知ってるの?」
「い、いや……君が知人に似ていたもので思わずな?」
「ふ〜ん?」
ミーアと名乗る女は、パトリックをじろじろと眺めた。
そして、パトリックの持つ紙袋に詰め込まれたオレンジを見つけると、目を輝かせた。
「おじいちゃん! これどうしたの!
これだけあればなんだってできるよ!」
「いや、ここには久しぶりに帰ってきたのでな。誰か事情が分かる者がいればと思ったのだが……」
「ふ〜ん?じゃあいいよ? 私が教えてあげる」
「え?」
ミーアは同行していた女たちに声をかけた。
「ごめーん!私、このおじいちゃんの相手するから先に行って!」
「え〜」「物好きねぇ〜」と笑いながら、連れの女たちは去っていった。
「じゃあ、おじいちゃん?どっか落ち着いた場所でお話ししようか?」
ミーアの顔は、やはりパトリックの知るレノアによく似ていた。
※あとがきです。
お読みいただきありがとうございます。
本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。
次回お楽しみください。