転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
本話はキャラクターの心理描写が中心となります。
原作とは異なる解釈が含まれますが、人物像を深める意図で描いていますのでご容赦ください。
では、お楽しみください。
第4話 出会い
「ふう〜」
タイガは教室の隅の机に座ると、軽くため息をついた。
この基礎講座の教室に来るのは久しぶりだ。
タイガは基礎講座の受講は最小限にして、
政治、経済、軍事、人類学、医学その他多数の講義を選択していた。
他から見れば一貫性がなく、
何を目的に学びに来ているのか皆目見当がつかなかった。
順当にいけば、アスハ家の末弟であるタイガは
政治関係で兄の補佐になるか、軍事関係で貢献する道を選ぶのが妥当なはずだった。
しかしタイガの目的は終始一貫している。
「どうやってオーブの焦土化を防ぐか?」
目的はこれ以外になかった。
(やっぱり当時地球に残った唯一のマスドライバーという点がネックだよなあ)
大西洋連邦からすれば、中立国とはいえ、
むしろ中立国だからこそオーブは“人道”を名目に
武装を放棄したザフト兵を宇宙に帰還させかねないという懸念があった。
せっかくザフトの戦力を地上で消耗させたのに、
肝心の兵士がプラントに帰還したのでは意味がない。
それどころか、中立国という建前でザフトに協力する可能性すらある。
そんな存在を放置できるはずがなかった。
外部からはオーブの内情など分からない。
オーブはともかく、オーブ国内のコーディネーターが協力する可能性は否定できず、
その可否を外部から判断する事は不可能に近い。
(そんな事はあり得ないと断言できるけど、それは自分が身内だからだよなあ)
(オーブが攻められたのはマスドライバーという戦略的価値の為。
マスドライバーが破壊されればオーブの戦略的価値は消失する。
少なくとも破壊を判断した兄上の判断は間違っていない)
しかし、どうせ破壊するならば、さっさと降伏していれば良かったのだ。
そうすればオーブが焦土になる事もなかったし、貴重な人命が失われる事もなかった。
(そうすれば種死も始まらなかったかもしれない)
結局「中立」というオーブの理念が邪魔をする。
(中立は構わない。しかし国を焼いてまで守るべきものではない)
タイガの思考はそこに集約される。
(中立の破棄だな。そもそも中立なのに攻撃してくる連中相手に中立なんか意味ないだろ)
タイガはウズミと別の選択をする事を決断する。
(よし、中立をできるだけ不自然にならないように、
国民が納得できる形で破棄するのが最善。
中立破棄の為の準備だな)
タイガがその後の方針を決定したところで、後ろから声がかけられた。
「あの! 隣いいかな?」
「ん?」
そこには、先日コーディネーターの少年に絡まれていた金髪の少年の姿があった。
「ああ、いいぞ」
「ありがとう」
そう言うと、少年はタイガの隣の席に腰を下ろした。
「えっと……」
「ああ、名前がまだだったね。僕はアズラエル。ムルタ・アズラエルだよ」
ガン!
まるで頭を実際に物理的にぶつけられたような衝撃が襲い、
タイガは無意識のうちに立ち上がっていた。
「アズラエル? お前があの?」
「? “あの”というのが何かわからないけど、僕がムルタ・アズラエルだよ?」
タイガは、不思議そうにこちらを見上げるアズラエルをまじまじと見つめた。
まだ少年でしかないあどけない儚げな雰囲気。
さらさらと流れる細い豊かな金髪。
ほっそりと整った顔立ち。
後年、凶笑を上げて狂乱する人物と同一人物とは到底思えず、
タイガは言葉を失った。
「??? どうしたの?」
「いや、時の流れは残酷だと思ってな」
「???」
要領を得ないタイガの言葉に、アズラエルは首をひねるだけだった。
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タイガは腰を下ろして改めて口を開こうとする。
「ああ、俺は……」
「知っているよ。オーブのアスハ家の末弟、タイガ・ウラ・アスハだろ?」
「よく知っているな?」
「君は自分が有名人だという自覚がないのかい?
オーブの神童が来るって教授たちの間で結構な騒ぎになったんだけど?」
「そうは言ってもなあ?」
タイガの目的はオーブの焦土化を防ぐ事であり、
学者として名声を得る事など眼中になかった。
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「それで俺に何の用だ?」
タイガにとって重要なのは焦土化阻止であり、
それ以外の事に時間をかけるつもりはなかった。
「うん。あのね、この間助けてくれたお礼を言いたくて……
助けてくれてありがとう……」
うつむいて顔を赤らめながら小声で礼を言うアズラエル。
その姿は、その手の趣味の人間には強烈な破壊力を持っていただろう。
「そうか、別に大したことじゃない。気にするな」
しかしタイガには何の影響もなかった。
「大したことじゃないなんて、そんなことないよ!」
今度はアズラエルが立ち上がった。
「お、おい」
「相手はコーディネーターだよ?
僕たちナチュラルよりずっと強くて、ずっと早くて、ずっと器用で、
ずっと頭も良くて、何をやっても勝てないのに……
そんな相手に勝つなんて、すごいことなんだよ!」
アズラエルの脳裏には、今までの屈辱が浮かんでは消えていった。
コーディネーターには運動では何をやっても勝てなかった。
何度も何度も挑戦しても、一度も勝つことはできなかった。
それどころか相手から憐れむようにハンデをつけられた。
それでも勝つどころか本気を出した相手にさらに差をつけられて負けた。
その時アズラエルは理解した。
(相手は今まで本気を出していなかった。
自分を憐れんでわざと手を抜いていたんだ!
それでも僕は勝てないんだ!)
勉強でも同じだった。
必死で勉強して良い点を取っても、
コーディネーターは飛び級で上位の問題を解いていた。
努力ではどうにもならない差が存在する――
それを認めざるを得なかった。
しかしアズラエルは努力をやめなかった。
(少しでも、ほんの少しでもあいつらに近づいてやる! そしていつか……)
アズラエルは知らないが、
その執念はコーディネーター達に恐怖を抱かせていた。
(こいつはどれだけ叩き潰しても起き上がってくる!
なら二度と立ち上がれないように徹底的に叩き潰してやる!)
こうしてアズラエルへの暴力はエスカレートしていった。
タイガが介入したのは、
その行為が最低限守るべき一線を超えようとする寸前だった。
(こいつも相当鬱憤をため込んでいたんだなあ)
そんな事情を知る事もないタイガは、のんきにそう思うだけだった。
(コーディネーター優勢主義……世界中に蔓延してるこれも、何とかしないとなあ)
数年後、自分がその“何とかする側”になるとは知らずに。
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「コーディネーターに勝てないねえ?
俺の師匠にそんなこと言ったら冗談抜きで殺されるぞ?」
「え? 君の師匠もコーディネーターなの?」
「いや、ナチュラルだぞ?」
「へっ? いやいや、いくらなんでもナチュラルが
そう簡単にコーディネーターに勝てるはずが……」
「俺は勝ったぞ?」
「それはそうだけど……」
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タイガの師匠は、日本で古武術を教えていた武術家だった。
タイガが成長すると、護身術を教えるために日本から呼び寄せられた。
当時のタイガは焦土化阻止で頭がいっぱいで、
護身術など時間の無駄としか思っていなかった。
しかし師匠に出会って修行を始めた瞬間、
そんな考えは吹っ飛んだ。
正確には――考える余裕がなくなった。
「よし、まずこのグラウンドを100周だ」
師匠は一周400mのグラウンドを指して言った。
「おい、ちょっと待て。
それが小学校を卒業したかどうかという子供にやらせる事か?」
「ああ、そうだったな。
お子様のお前には到底無理な事だったな。
わかったわかった、一周でいいぞ。無理はするなお坊ちゃん」
「(カッチーン)やったろうじゃねーかー!」
「(フッ、単純だなあ)」
まんまと乗せられたタイガは、意地だけで走り抜いた。
「ゼエ、ゼエ、ゼエ」
「ほー、よく完走したなあ。途中で諦めると思ったが」
「ゼエ、ゼエ、ざまあみろ、ゼエ、ゼエ、やってやったぞ、ゼエ、ゼエ」
「よし、じゃあ次だ」
「ヴェ?」
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「それから師匠に、日が暮れてぶっ倒れるまで走らされたなあ」
「ええ?」
アズラエルはドン引きしていた。
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その後、タイガは師匠から延々と技を叩き込まれた。
師匠の教えはこうだ。
「技を掛けられても、その技がどんなものか知っていれば解ける」
・掛けられて逃げられないなら、掛けられないようにする
・掛けられる前に別の技を掛ける
・打撃は体重移動を察知すれば受けない
これらを延々と繰り返させられた。
タイガが技を掛けられる形で。
技を解けなければ一日中そのまま。
骨折寸前まで追い込まれた事もある。
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稽古ができなくなった師匠は暇を持て余し、
オーブ軍の格闘教官の所へ顔を出した。
訓練生は年寄りの師匠を見下したが、全員全敗。
コーディネーターの教官すら瞬殺された。
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修行前は「今日こそ辞めてやる!」と思うのに、
修行中は命を守る事に必死で他の事を考える余裕がない。
修行後に落ち着いてから
「はっ、俺は今日辞めるはずだったよな!」
と気付く。
これを延々と繰り返した。
何度も辞めようとしたが、その度に師匠の
「ふ〜ん? この程度も出来ずに辞めちまうんだ?
せっかく才能があるからちょっとは見込みがあると思っていたんだがなあ。
所詮お坊ちゃんには最初から無理な話だったな。
とっとと辞めちまえ」
「(カッチーン)やったろうじゃねーかー!」
という煽りに乗せられ、結局最後までやり切った。
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「いや〜、あれは絶対師匠楽しんでたな」
まともな後継者が育つはずのない教えだったが、
タイガは全てやり遂げた。
そしてついに、師匠に技を決める事ができた。
「よし、これでお前に教えるべき事は全て教えた。皆伝だ」
「師匠……」
「あとはお前の好きにしろ。
この技を伝えるのも、昇華させるのも、絶やすのもお前の自由だ」
「……師匠、俺にはやる事があります」
「分かっている。
お前に伝えた技がお前の身を守る事に役に立てば、それでいい」
「師匠……」
翌日、師匠は姿を消していた。
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「……いいお師匠様だったんだねえ」
「まあな……」
「? まだ何かあるの?」
師匠が姿を消した後、タイガの下に様々な店から請求書が届いた。
「あのジジイ、俺の師匠だと吹聴して
あちこちの店で散々飲み食いしてやがったんだ。
しかも全部俺のツケで」
「あははは……」
アズラエルもこれには何も言えなかった。
「全く最後まで迷惑なジジイだったよ」
そう言うタイガの顔は、どこか嬉しそうだった。
※あとがきです。
読了ありがとうございます。
今回はキャラの内面に焦点を当てた回でした。
今後の行動の背景として楽しんでいただければ嬉しいです。