転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
本話はキャラクターの心理描写が中心となります。
原作とは異なる解釈が含まれますが、人物像を深める意図で描いています。
内容にご納得できない方もいらっしゃるかと思いますがお許しください。
では、お楽しみください。
第5話 母の想い
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「それでねえ、助けてくれたお礼をしたいんで家に来ないかい?」
「? いや別に礼なんて……」
「いや、それじゃ僕の気が済まないんだよ!
助けてくれたのにお礼もしないなんて、僕が納得できないんだよ」
「そ、そうか?」
事実そのままであれば、アズラエルを助けようとする者は皆無だっただろう。
相手はコーディネーター。
腕力では勝ち目がなく、成績も上位で、教授たちからの評価も高い。
公式に訴え出ても、なあなあで済まされる可能性が大きかった。
(まあ、アズラエル家と繋がりが持てるならメリットはあるか)
「よし、わかった。招待を受けよう」
「わあ、ありがとう!」
アズラエルの屈託のない笑顔を見ると、
タイガにはどうしても彼が将来コーディネーターを憎み狂笑を上げる人物になるとは思えなかった。
――
「でかいな」
アズラエルの邸宅を初めて見たタイガの感想である。
自分もオーブの首長の家柄なのでそれなりの家には住んでいたが、
アズラエルの邸宅はさらにスケールが違った。
アズラエルの家のある街に近づくとセキュリティチェックを受け、
街に入る時にまたセキュリティチェックを受け、
家に近づくとガードマンにセキュリティチェックを受け、
門のところで守衛にセキュリティチェック、
途中で巡回中のガードマンにセキュリティチェック、
入口の手前でさらにセキュリティチェック、
入り口から入るためにさらにセキュリティチェック。
邸内に入った時点で、タイガは既にうんざりしていた。
「ようこそ、タイガ。あれ? どうしたの?」
ぐったりしているタイガに、アズラエルは不思議そうに訊いた。
「いや、お前に直接迎えに来てもらえばよかったなあと思ってな」
「だからそう言ったのに、断ったのはタイガじゃないか?」
「そうなんだが……」
単に“でかい家だから外から見てみよう”という余計な好奇心を起こしたタイガの自業自得である。
「よし、まあ気を取り直していくか」
「そうそう、細かいことは気にしないで。僕の部屋はこっちだよ」
アズラエルは軽い足取りで先導していった。
――
それからタイガとアズラエルは他愛ない話で盛り上がった。
あの教授の講義は役に立たないだの、
あの教授の講義は参考になるだの、
売店でバイトしている女の子でどの子が可愛いかだの。
まさに普通の男子高校生らしい馬鹿話であった。
(ああ、そういえばこんな事今までなかったなあ)
タイガは今までの生活を思い返す。
オーブの焦土化を防ぐ。
その一心で、学校に通う時間は全て家庭教師にあてた。
体力がついてきたら師匠との修行に明け暮れた。
政治や軍事の専門家に話を聞いて議論した。
しかしそこには「友達」というものは存在しなかった。
(まあ、たまにはこういうのもいいかもな)
アズラエルの他愛ない話を笑い飛ばしながら、
タイガはゆっくりと今の時間をかみしめていた。
――
その時、部屋に軽くノックの音が響いた。
「? どうぞ」
アズラエルが返事をすると、
ビジネススーツを身に着けた上品な女性が静かに部屋へ入ってきた。
「お母さま?」
アズラエルが驚いた声を上げる。
「どうしたの? 今日は帰ってこないはずじゃなかったの?」
「あら? あなたが家に招待した初めてのお友達なのよ?
私もご挨拶しておかないといけないと思って、大急ぎで帰ってきたのよ」
「な、なにを言って……」
「あら? あなたに家に招待するほどのお友達がいなかったのは本当じゃないの?
それなのに昨日から家の掃除がどうとか、部屋の片づけがどうとか大騒ぎしているから、どんな人かと思って当然じゃないの?」
「ああ~~~、タイガ喉乾いていない? 今お茶を持ってくるね?」
一気に喚き散らすと、アズラエルは部屋を飛び出していった。
「メイドさんに頼めばよかったんじゃないのかなあ?」
タイガがつぶやくと、アズラエルの母はクスクスと笑いながら謝罪した。
「ごめんなさいね。あの子ったら初めてお友達を自分の家に招待して舞い上がっているの。
悪気はないから許してあげてね」
「それは別にかまいませんが、初めての招待って……アズラエルだったらそんな友達いくらでもいそうですけど」
「そうね。この間まであの子は、友達と遊ぶ暇もないほど頑張っていたの。
理由は知っているわよね」
「それは……」
タイガは言葉に詰まった。
ナチュラルがコーディネーターに追いつこうとする。
そんな事が出来るのは一部の天才だけだ。
アズラエルは優秀ではあっても天才ではない。
それでも結果を出そうとするなら、時間を使うしかない。
何の時間を?
子供なら遊ぶであろう時間。
友達と過ごす時間だ。
「あの子は必死に頑張ってきた。それを見て私は無駄だと止める事は出来なかった」
それはそうだ。
子供が必死に頑張っている。
その努力を認める事は出来ても、否定できる親がいるはずがない。
「でも、それも限界だったわ。
先日あの子に聞かれたの。“なんで僕をコーディネーターにしなかったのか”って」
「それは……」
理解できた。
今までの努力が、費やした時間が、情熱が、
全て無駄だったと突き付けられたのだ。
それを言葉にできるはずがない。
「私は黙ってあの子を抱きしめる事しか出来なかったわ。
でも次の日、あの子は笑顔でこう言ってきたの」
「すごい人がいた!
ナチュラルなのにコーディネーターに勝った人がいたんだ!
ナチュラルでも努力すればコーディネーターを超えられるんだ!
僕のやってきたことは間違いじゃなかったんだ!」
「その日は何度も何度もあなたの話を繰り返して。
もしあのままだったら、あの子は潰れていたわ」
「あなたはあの子を救ってくれたの。
だから一言お礼を言いたくて。ありがとう」
そう言ってアズラエルの母は頭を下げた。
「よしてください。俺はそんな上等な理由があってあいつを助けたわけじゃありません。
ただむかついたやつがいたからぶん殴っただけです」
「それでもよ。どんな理由であっても、あなたによって救われた者がいる。
それだけを覚えていてくれればそれでいいわ」
アズラエルの母はそう言ってほほ笑んだ。
――
部屋のドアが開き、紅茶の盆を抱えたアズラエルが顔を出した。
「あ~、僕の変な事話してないだろうね!」
「あらあら、そんなことないわよ」
くすくすと笑いながら、アズラエルの母は腰を上げた。
「今日はお話できてよかったわ。ありがとう」
「いえ……」
「あー、もういいからさっさと出て行ってよ!」
「ハイハイ、またあとでね」
そう言ってアズラエルの母は部屋から出て行った。
「もう~何か変なこと言われただろう?
でも信じちゃだめだからね!」
「ああ……」
タイガは何も言葉にする事は出来なかった。
――
それからもアズラエルはいろいろな事を話し続けた。
母は過保護だ。
いつも大げさな事を言ってばかりだ。
滅多に会わないくせに、うっとうしく干渉してくる。
それは、この大きな屋敷に住む家族とは思えないほど、
極普通のどこにでもある家庭の話と何も変わらなかった。
「ほんとにもう、お母さまは……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、
アズラエルの表情からは柔らかな笑みが隠せなかった。
「いいお母さんだな」
タイガはふとつぶやいた。
「まあね」
照れたようにアズラエルは視線をそらした。
「それにお前の事を本当に大事に思っているな」
「そお?」
アズラエルは半信半疑だ。
「だって、お前ほどの家だったら、お前をコーディネーターにする事だってできたはずだ」
アズラエルはキョトンとした表情になった。
「え?」
「そうだろう?
お前ほどの家だったら大して苦労もせず、お前をコーディネーターにできたはずだ。
しかしお前の両親はそれを選ばなかった。
もしそうしていれば、お前はお前が嫌うあの連中みたいになっていたはずだ」
自分があの連中みたいになっていた?
あの他人を見下し、人の努力をあざ笑い、
自分の力で手に入れた訳でも無いのに優越感を隠そうともしないあの連中みたいに?
アズラエルは脳裏に、自分が最も嫌う連中と同じ事をしている光景を想像して顔を青ざめさせた。
「お前の両親はお前があいつらみたいにならないように、生まれる前から守ってくれていたんだよ」
その言葉はアズラエルの中に徐々に染み込んでいった。
「あ、あ、あ……」
それが自分の中に染み渡った時、
アズラエルの目から言葉にできない感情があふれ出した。
「あ、あ、あ、あああああああああ……!」
アズラエルはクッションに顔を埋めて、必死に嗚咽を押し殺そうとした。
「アズラエル……」
「ごめん、今は……ちょっと待って……う、う、う、う……」
「大丈夫だ。誰も邪魔はしない。今はゆっくり落ち着け」
「う、う、う、う……」
タイガは、初めて出来た友人の涙が止まり、落ち着くまで、
ゆっくりと見守り続けた。
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※あとがきです。
読了ありがとうございます。
今回はキャラの内面に焦点を当てた回でした。
今後の行動の背景として楽しんでいただければ嬉しいです。