転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
幼い頃から必死に努力していたアズラエル。
そんな彼を見守っていてくれたのは母だけではありませんでした。
周りの人たちの想いが彼に届きますように。
※修正追加
タイガとアズラエルの会話の中で彼らの「夢」を追加しました。
第6話 慕われるもの
しばらくしてようやく泣き止んだアズラエルは、照れくさそうにタイガに微笑んだ。
「ごめん。情けないところを見せちゃったね」
「いいさ。男でも泣きたい時はあるし、俺たちは友達だろう? 友達に遠慮なんかするな」
「うん! ありがとう」
アズラエルはこれまでの出来事を振り返りながら思った。
(そうだ。タイガは友人だ。こんな僕を友人と言ってくれた。なら僕もタイガの為に何かできれば)
「ねえ、タイガ、君って何を目指しているの?」
「ん~? どういう意味だ?」
「だってタイガはオーブの首長家の3男だろう? 政治家になったり軍人になったり、いろんな選択肢があるじゃないか? だから何を目指しているのかなあ? どんな夢があるのかなあって?」
「そうだなあ?」
言えるわけがない。
今から十数年後にオーブはこの大西洋連邦に攻め込まれて焦土と化すから、自分の目的はそれを防ぐ為だ、などと。
「今は兄上の役に立つ為に色々な事を学んでいきたいというところかなあ?」
結局、当たり障りのない事しか言えなかった。
「なんだよ~それ、つまらないなあ」
「つまらないってお前どんな答えを期待していたんだ?」
「そーだねえ、例えばオーブによる世界征服とか?」
「馬鹿抜かせ」
軽口を返していたが、タイガは内心ビビりまくっていた。
(それはもうサハク家がやろうとしているんだよ。こいつ本当は全て知っているんじゃないだろうな?)
もちろん唯の冗談でしかないが、余計な知識のあるタイガはその後もアズラエルの冗談に内心冷や汗をかきまくっていた。
「夢と言うなら俺は恒星間宇宙船で他の惑星へ行ってみたいな」
「え~、そんなの無理だよ~」
「そりゃそうだが、他の惑星はどんななのか?何があるのか?ワクワクしないか?」
「どうやってそんなもの作るのさ?それこそ世界征服でもしないと無理なんじゃない?」
「そうだよなあ?」
「もっと現実的な夢にしたらどうだい?僕なら「コーディネーターを超える事」だね」
「それって現実的なのか?」
「直接あいつらに勝とうってわけじゃないよ?でもナチュラルの僕に出来ても、あいつらには出来ないってものもある。それが出来れば十分だよ」
「両親の想い」を知ったアズラエルにとって「ナチュラルである事」は誇るべき事であった。
もはや「個人の力」に執着する事もなく、コーディネーターに対する劣等感は存在しなかった。
その中でナチュラルでも、コーディネーターでもなく、「
後年、アズラエルは人類の歴史に残る偉業を成し遂げる事になるが、
この時点ではそれを知る者は誰もいなかった。
「でもさあ、タイガってやっぱり凄い努力していたんだねえ」
「う~ん? なんだいきなり?」
「いや、だってコーディネーターに勝っちゃうんだよ?
僕、話を聞くまでもしかしてタイガはジョージグレンみたいに勉強もスポーツも完璧なスーパーマンなのかと思って、声をかけるまでドキドキしていたんだよ?」
「そおかあ? しかしあの師匠との修行を努力とは言いたくないなあ? あれは唯の拷問だ。子供がやるようなもんじゃない」
「そおだよねえ」
アズラエルも返事を聞いて苦笑していた。
あれを努力と言うなら、自分のやってきた事は努力でも何でもない唯のお遊びだ。
逆に言えば、タイガほどの男でもそこまでやらなければコーディネーターには勝てないのだ。
努力という言葉の範囲を超えている。
「ねえねえ、タイガは家のメイドさんのうち誰がいいと思う?」
それは男同士の馬鹿話の中の軽口のひとつでしかなかった。
「う~ん? そ~だな~、あのピシッとした黒髪のメイドさんなんかいいなあ」
「ええ~! アンナの事?」
「そんな驚く事か? 胸もでかいし、腰も細いし、スタイル抜群でいいじゃないか!」
「え~と、アンナは僕が子供のころからもう10年近くお世話になっているから、もうそろそろ20代もおわ…」
ガシャン!
カップがぶつかった大きな音が部屋に響き渡った。
音の方向に目をやると、ポットとカップを乗せたワゴンを押して黒髪のメイドが部屋の入口に立っていた。
「ア、アンナ…」
アズラエルが声をかけると、アンナは
「失礼しました坊ちゃま。無作法をしてしまい大変申し訳ありません」
と無表情に冷たい声で謝罪してきた。
「いや、それはいいんだけど…」
「ところで坊ちゃま? 先ほど何やら面白い話が聞こえてきましたが? 私の年齢がどうとか?」
「いやあ、それは何かの聞き間違いじゃないかなあ?」
アズラエルは往生際悪くごまかそうとする。
「そうですか?」
アンナは相変わらず冷たい声で続ける。
「それでは改めましてタイガ様。坊ちゃまのご友人になっていただいてありがとうございます。われら使用人一同大変感謝しております」
そこでアンナは深く一礼する。
「いや、そんな大したことは…」
アズラエルはアンナからそれほど大事に思われていたのかと微妙に感動していた。
「そこで! タイガ様には坊ちゃまの秘密を余すことなく知っていただこうと思います!」
うん?
「ちょ、ちょっとアンナ!」
アズラエルがアンナを止めようとするが、アンナは止まらない。
「まず、7年前! 坊ちゃまがその年になってもおねしょをして泣いていた時の事!」
「わ~~~~~! ちょっとちょっとアンナストップ!」
「それからメイドたちのお風呂をのぞこうとした時!」
「アンナ~~~~~~~~~~~!」
10年近くアズラエルの世話をしてきたメイドだ。
アズラエルの隠しておきたい秘密など知り尽くしているだろう。
それがタイガの前に悉くさらけ出されていた。
「それから~」
「もうやめてよ~~~」
結局アズラエルが解放されたのはそれから1時間以上たって
アズラエルの尊厳の公開処刑が終了してからだった。
合掌。
――
「それではタイガ様、失礼いたしました」
「全くだな」
ペコリと一礼して退出するアンナを見送って、タイガはため息をついた。
「ううう~~」
アズラエルは精も根も尽き果てたのか、ベッドに突っ伏している。
「いいメイドさんじゃないか~」
「どこがだよ~!」
主人を気遣い、元気づけようと主人の友人を歓迎する。
本気で主人を慕っていなければできない事だ。
まあ、やり方はアレだが。
「じゃあ、俺はそろそろ失礼するよ」
「ええ、泊って行けばいいじゃない。準備させるよ」
「そういうわけにはいかない。こっちにも予定があるんでな」
見送りに立とうとしたが、まだ先ほどのダメージが抜けていないのか、アズラエルは突っ伏したまま起き上がれないでいた。
「うう~、しょうがない。また今度ねえ」
手をひらひらと振りながら、タイガはアズラエルの部屋を後にした。
正面のホールの先を出ながら、タイガは大きく背伸びをした。
「う~~~ん、結構疲れたなあ」
無理もない。
タイガにとっても初めての友人宅訪問だったのだ。
しかもなかなか濃いメイドさん付きで。
精神的に充足感もあったが、疲労感もあった。
「タイガ様」
ふと声を掛けられてタイガは振り向いた。
そこには先ほどのメイド、アンナが微笑みながら立っていた。
「あ、どーも」
アズラエルと馬鹿話をしていて、その時のネタにした人物が目の前にいるのだ。
どうにも気まずい。
「坊ちゃまのご友人になっていただいてありがとうございます」
そんなタイガの内心とは無関係に、アンナは感謝の言葉を述べた。
「坊ちゃまは幼いころからずっと努力していました。同じぐらいの子供には必要ないほど、それこそ必死になって」
タイガにはその時の様子が簡単に目に浮かんだ。
「子供らしい遊びもせず、笑いもせず、いつもなにかに追い立てられるように、泣きながら努力していた坊ちゃまを私たちはずっと見ていました」
「私たちにはどうする事もできませんでしたが、あなたが坊ちゃまを救ってくれました。坊ちゃまに笑顔を取り戻してくれました。ありがとうございます」
「俺はそんな大したことをしたわけじゃ…」
「いえ、私どもが勝手にあなたに感謝しているだけです。ただそれをあなたに伝えたかっただけです。どうもありがとうございます」
3度礼を述べてアンナは頭を下げた。
「では、お気を付けて」
微笑むアンナに見送られ帰路に付きながらタイガは思った。
(やっぱりこれだけの人に慕われているお前は幸せ者だよアズラエル)
友人が休む部屋の窓を一瞥してタイガはゆっくりと歩き始めた。
帰り道でまた巡回中の警備員に止められたが。
※あとがきです。
読了ありがとうございます。
今回は種で大人気(?)のキャラの内面に焦点を当てた回でした。
彼にも幼少期はあったはずですし、大財閥の御曹司に傍にいる人がいないのはあり得ないのでは?
と思ったのがこの話の作成理由でした。
原作との乖離がこれからも大きくなっていきますが、拙い初心者のよくある駄作として笑っていただければ幸いです。
※タイガとアズラエルの「夢」ですが、これはエピローグでも語られる事になります。
これからも拙作をよろしくお願いします。