転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
※前書きです。
本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物、設定が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。
「それは本当か?」
「はい。襲撃の際に空調システムの一部に不備が出ています。
緊急性は低いですが、早急な対応が必要です」
「具体的には?」
「修理自体は部品交換だけなので簡単なのですが……
その部品が先ほどの襲撃で全て失われました。
代替品の到着には三ヶ月ほどかかります。
民間人を安全区画に移しても、二百人ほどが入り切りません」
「危険はあるのか?」
「否定はできません。
眠っている間に空調が停止し、窒息する可能性があります。
そんな場所に民間人を置いておくわけにはいきません」
「軍属や軍関係者の家族は何人だ?」
「全部で二百人ほどですが……まさか?」
「そのまさかだ。軍関係者の家族には一旦ヘリオポリスを退去してもらう」
「危険です! それに二百人を収容できる輸送船がありません!
護衛も必要ですし、戦力分散の危険が――」
「輸送船ならあるさ。目の前にな」
指揮官は片目をつぶいた。
「我が国の国民を拉致同然で徴用したのだから、連中にはそれくらい働いてもらわねばな」
「……そうですね」
副官は深く頷いた。
その少し前。
「わ〜、すげ〜!」
「これって連合のMS?」
「本物だよな!?」
鹵獲を免れたストライクの前で、トールたちキラの級友たちが興奮して騒いでいた。
その頭上に、マリューの放った銃声が響く。
パンッ!
「あなたたち! そこから離れて、こっちに来なさい!」
「な、なんだよ急に! 俺たちはただ――」
トールの言い訳を、再び銃声が遮った。
パンッ!
「早くしなさい!」
渋々と並ぶトールたち。
「あなたたちが目撃したのは地球連合のMS。最高軍事機密よ。
それを見たあなたたちを、そのまま帰すわけにはいかないわ」
その言葉に、トールたちは顔色を変えた。
「お、俺たちはオーブの国民だぞ! オーブは中立なんだ!
戦争はあんたたちが勝手にやってくれよ! 俺たちは関係ないだろ!」
マリューは顔を歪めながら答える。
「あなたたちがどこの国民だろうと関係ないわ。
軍事機密を見た以上、無罪放免なんてあり得ないなんて当たり前でしょう?」
トールたちは黙り込んだ。
軍事機密に触れることが重罪なのは常識。
まして他国の、しかも交戦中の国の最高機密だ。
本来なら、その場で射殺されても文句は言えない。
「だから、これにサインしなさい」
マリューが端末を差し出す。
そこには「現地志願兵徴用証明書」が表示されていた。
「これにサインすれば、あなたたちは“現地で徴用された志願兵”。
つまり地球連合軍の一員。軍事機密に触れても問題ないわ」
――詭弁である。
志願兵にも機密レベルはあるし、触れてはいけない情報は存在する。
マリューもそれを理解していた。
しかし現状で打てる他の方法をマリューは思いつかなかった。
「し、志願兵!? 冗談じゃない! 俺たちは――」
パンッ!
三度目の銃声が響く。
「早くしなさい!」
「……」
トールたちは震えながらサインした。
キラもため息をつき、端末にサインする。
「キラ?」
「ごめん……君たちを巻き込んで。
僕が知らん顔するわけにはいかないから……ごめん。」
「キラ。違うぞ」
「え?」
「俺たちが志願したのは、お前の手助けになればと思ったからだ。
だから今言うべき言葉は“ごめん”じゃないだろ?」
「あ……」
キラの目に、優しく微笑む友人たちの姿が映る。
こみ上げる涙を必死にこらえ、キラは何とか言葉を紡ぎ出した。
「ありがとう……みんな、本当にありがとう……!」
嗚咽混じりの声が、静かにその場に漂った。
「どういうことかな、これは?」
その場に現れたのは、部下と共に被害現場を視察に来たヘリオポリスの司令官だった。
「我が国の国民を志願兵として徴用したと?
これは拉致にも等しいぞ!」
怒声が響く。
「しかも全員未成年ではないか!
子供を兵士にするなど、恥を知れ!」
「しかし軍事機密に触れた以上、放置はできません!
これは我が軍の問題です。他国に指図される筋合いはありません!」
マリューも必死だった。
キラたちを守るために。
「それに、彼らは既に志願兵に同意しています!」
証明書を突きつける。
司令官は目を通し、沈黙した。
日付が当日ではあるが形式上は文句のつけようがなかった。
やがて司令官は重く口を開く。
「……やむを得ない。彼らの志願は認めよう。
だが、彼らがオーブ国民であることは忘れないでもらおう」
「はい。もちろんです」
マリューは安堵の息を漏らした。
「お、おい……結局俺たちどうなるんだよ!」
「オーブに戻れるんじゃなかったのか!?」
「あー、君たちは地球連合への志願兵という扱いになった。
サインがある以上、こちらではどうにもできない。諦めてくれ」
「そ、そんな……!」
「なんてこった……!」
トールやカズイが膝をつく。
希望が生まれた直後に打ち砕かれたのだ。
落胆は大きかった。
「トール! お前がサインなんかしなければ!」
「な、なんだよ! みんな同意したじゃないか!
俺だけのせいじゃないだろ!」
「まあまあ……」
「何を言ってる! 原因はキラ! お前だろ!」
「え?」
「お前がMSなんか触るから!
普段はぼーっとしてるくせに、なんでこんな時だけ!」
「え? 僕ってそんなにぼんやりしてる?
そんなことないと思うんだけど?」
「してるな」
「してるわね」
「してるな」
「なんでみんな揃って……ひどい……」
ワイワイと騒ぐ若者たちを横目に、司令官はマリューに言った。
「彼らはオーブの未来だ。地球に着くまで、よろしく頼む」
「よろしいのですか?」
司令官なら志願を取り消すこともできたはずだ。
それでも任せる理由は――
「若者が“サインの重さ”を知る良い機会だ。
サインひとつで命が左右されることがあると知るのは、無駄ではないだろう」
安全が保障されていれば、なおさらな。
最後はマリューに聞こえぬよう小さく呟き、司令官は若者たちの喧騒を背にその場を去った。
CE70年 1月25日の出来事だった。
※あとがきです。
お読みいただきありがとうございます。
本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。
次回お楽しみください。