話の意味がわからなかったらごめんね。
天宮市の一角にある廃ビル。
その屋上には狂三と、今し方過去改変に失敗した士道がいた。
「あら…?」
狂三が人の気配を感じ、後ろを振り向くと、全身をローブに身を包んだ人物が立っていた。
「あなたは…誰ですの?」
狂三がそう問いかけるとその人物はゆっくりとフードを捲り、その顔をあらわにした。
「あらあら…まさかあなたでしたとはね…士道さん」
「…!?」
狂三の言葉に士道が振り向くと、そこに立っていたのは士道だった。
「よう、3時間前の俺」
「…」
もう一人の士道が軽快に右手を挙げた。
「お前は数分前に零那の救出に失敗した…そうだな?」
「ああ…」
「俺は3時間後の未来から、【十二の弾】(ユッドベート)の力を使ってここにきた」
「つまり今わたくしたちの目の前にいる士道さんは、未来のわたくしが時間遡行させた士道ということですの?」
「そうだ」
士道は首を傾げた。3時間後の未来から来た自分の意図がわからなかった。
「俺は、3時間前の俺に助言しにきた」
未来の自分がそこで一旦言葉を区切り、続けた。
「よく思い出せ。お前がこの世界で見た零那の死体と、時間遡行して過去に行った時の死体を。この二つは全く同じだったか?」
「…!あ…」
言われてみればそうだ。救出に失敗したことで頭が一杯だったがその通りだ。
士道がこの世界で見た零那の死体は傷跡もなければ血痕もなかった。
ましてや公園のど真ん中ではなく奥地で倒れていた。対照的に過去の世界の零那の死体は、胸から血が出ており公園のど真ん中で死んだ。
明らかに矛盾している。
「…わかったな?考えろ。零那を救うことはできる、方法が間違っているだけだ」
「方法が…?」
「ああ。そもそもあの場に”五河士道”が二人存在したことによって世界のバランスが崩れた。お前は本来あの場に現れるべきじゃなかったんだ」
士道は未来の自分が言っていることに違和感を感じた。
あの場に自分がいないなら、どうやって零那を救うのか。
そんな士道の意図を察した様に未来の士道が言葉を次いだ。
「方法は二つある。一つは狂三に頼る」
「あらあら、でもその方法は現実的ではないですわね」
「…どういうことだ?」
「わたくしは本来その場所にいませんでしたわ。従って、確実に零那さんを救えるかわかりませんわよ」
「それじゃあどうやって!」
「二つ」
未来の士道が士道の言葉を遮った。
「こっちは現実的な方法だ。簡単なことだ、あの場所に誰も行かず、エレンを撃退すればいい」
「どういうことだ?」
「つまりは遠距離攻撃だ。エレンの随意領域(テリトリー)の範囲外から攻撃を仕掛け重症を負わし、退散させる」
「そんなことができるわけ…」
士道は自分の口で否定しながらも、頭の中に一つの可能性が浮かんだ。
「颶風騎士(ラファエル)か…」
「その通り。これでもう大丈夫だな。健闘を祈るよ、俺」
そこで一旦言葉を区切った。
「確定した過去を変えてはいけない。自分を騙せ。あの時の自分を…な」
そう言って未来の士道は手を振りながら消えていった。
恐らく【十二の弾】(ユッドベート)の効力限界を迎えたのだろう。
士道は狂三に改めて向き直った。
「狂三…頼む…」
「これが最後のチャンスでしてよ」
狂三がそう言うと、巨大な時計の『XⅡ』の文字から影が漏れ出て銃に収まった。
「頑張ってくださいまし…士道さん」
「ああ」
士道が力強く頷くと、狂三は二発目の【十二の弾】(ユッドベート)を撃った。
「…」
辺りを見回すと、先ほどと同じところに時間遡行したようだ。
まだ自分と零那は見受けられない。
『それで、士道さんはどうするつもりですの』
頭の中に狂三の声が響いた。
「とりあえず、高台公園の頂上を目指す。そこならエレンに探知されることもないはずだ」
士道は狂三にそう説明しながら、高台公園の頂上へと足を進めた。
ーーそれから数分後、時間短縮の為〈氷結傀儡〉(ザドキエル)で足場を作り、高台公園の頂上に来た士道は下を見下ろした。
そこには過去の士道と零那がいる。
どうやら間に合ったようだ。
「…やっぱり頂上は高いな。少し怖い」
『ふふ…そんなことありませんわよ?わたくしはそういう場所の方が落ち着きますわ』
士道の言葉に狂三が返事を返してくる。だが、今はそんな話をしている暇はなかった。
士道はポケットから召喚器を取り出し、頭に向けた。
「〈颶風騎士〉(ラファエル)ー【天を駆ける者】(エル・カナフ)!」
士道は引き金を引きながら、一度も使ったことのない『天使』の名を叫んだ。
【天を駆ける者】(エル・カナフ)。
【穿つ者】(エルレエム)と【縛める者】(エルナハシュ)を組み合わせて初めてできる弓の形をした『天使』。
前に一度だけ耶倶矢に見せてもらったことがある(もちろん琴里には内緒で)。
だが実際扱うのは初めてだった。
しかも想像以上に重い。
これはエレン目掛けて弓を放つ以前に、真っ直ぐ飛ばせるかが問題だった。だが、今はやるしかない。
「耶倶矢…夕弦…俺に力を貸してくれ…」
士道はそう呟きながら、静かに目を閉じた。
数分後、予想通り空間震警報が鳴り響き、エレンが現れた。
そして過去の自分はなす術もなくその場に倒れ伏した。
ーー今だ。
士道は全神経を研ぎ澄ませ、矢を放った。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!」
だが矢はエレンの頬をかすめ、重症どころか軽傷しか負わせれなかった。
「ちっ…」
『士道さん、焦ってはいけませんわ』
「わかってる!」
いくら焦ってはいけないと言っても時間はない。この場所がいくらエレンの随意領域(テリトリー)の範囲外とは言え、時間をかければ見つかる可能性だってある。
ーー正直矢を当てる自信などない。
だが今はやるしかない、やらなければ零那が死ぬのだ。
「よし…」
士道は二発目の矢を装填して再びエレンへと構えた。幸いにもまだ見つかっていないが二発目を放てば見つかるかもしれない。
時間ももうない、これがラストチャンスだ。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!」
士道は喉が潰れんばかりに声を張り上げ、自分の持てる力全てを矢に注いだ。放たれた矢は真っ直ぐ飛んで行きエレンの横腹へと命中した。
いくら零那を殺した相手とはいえ人間である、士道は何の抵抗もないといえば嘘になる、が、今はそんな綺麗事言ってられない。
ーー意識の外からの攻撃。
いくらCR-ユニットを纏っていても随意領域(テリトリー)無しでもろにくらった『天使』の一撃。エレンなら死にはしないだろうがしばらくまともには動けまい。
その考えはエレンも同じだったのか、数秒後にはその場から離脱していた。もっとも、その姿を捉えることは出来なかったが。
「上手くいった…」
士道はそれを認識した途端に力が抜け、その場に座り込んでしまった。
零那を殺させず、自分があの場にいることなくエレンを撃退する。この無理難題を見事クリアした。
『安心しているところ悪いのですけれど、あの魔術師(ウィザード)を撃退しても零那はどうするのです?士道の記憶ですと公園の奥に倒れていたのですわよね』
「確かに…どうするか…」
士道は顎に手をやり、数秒考えたのちこう言った。
「…少々荒いが零那を公園の奥まで呼び出して気絶させるか」
『果たしてそんなに上手くいきますかねェ。まぁ零那さんが生きているのであれば今あの場に士道さんが長時間待機しない限り未来が変わるとは考えにくいですけれど』
狂三がやれやれといった口調で言ってくる。彼女も疲れてしまったのかもしれない。
とりあえず士道は倒れている自分を放置し、零那の所へと向かった。
零那は初めビックリした顔をしていたが、状況を察したのか何も言わずついてきた。
「…士道さん、これはいったい…」
「零那…ごめんな、ちょっと我慢してくれ」
「えーー」
士道は〈颶風騎士〉(ラファエル)で零那の頭を小突いた。
仮にも『天使』による一撃なので気絶くらいはさせられる。
…後でコブが出来るかもしれないが。
士道は零那をその場にそっと寝かせ、その場を去ろうとした。
去る間際にチラと零那の方に目をやる。
「…これなら俺が見た物と同じだ…これなら…」
独り言を呟きながら元いた場所へと戻った。
『それにしても士道さんは予想外の方法で零那さんを気絶させましたはね』
頭の中に狂三のクスクスという笑い声が響く。
「仕方ないだろ…手刀とかどうやればいいかわからないし…」
【十二の弾】(ユッドベート)の効力限界まではまだ時間があるのか、士道は少し狂三と話をしていた。
やがて、効力限界が訪れたのか、【十二の弾】(ユッドベート)を撃たれた時と同じ感覚に包まれた。
『士道さんによって未来は変えられた様ですわ…どう変わったのか楽しみですわね…きひ、ひひひひひ』
その言葉を最後に、士道の意識は落ちていった。
「ん…」
ふと気づけば士道は真っ白な空間にいた。確か前にも来たことがあった。
「ああ、私が呼んだの。ごめんごめん」
後ろから聞き覚えのある声がする。
園神凛袮だ。考えるに彼女はこの世界の主か何かだろう。何か不思議な力を感じた。
「士道はすごいなぁ…まさか時間遡行の弾を使ってまで”過去”を変えるとはね…」
「いや、あれは思いつきというかなんというか…」
「そんなに彼女が大事?」
「それは…そうだな」
なんだか言葉にしてみると予想以上に恥ずかしい。士道は照れ隠しに頬をかいた。
その様子を見て凛袮がクスクスと笑う。
「私があげた召喚器は上手く使いこなせてるみたいだね。まさかあんなに上手く使うとは思ってなかったよ」
士道は自分のポケットに入っている召喚器を一瞥する。
仮にも召喚器は自分の頭に向けて撃つ。弾は出ないと思っていてもついつい躊躇ってしまうこともある。
「撃つ時に何も感じないということはないさ。もしも弾が出たらどうしよう…なんて考えたらな」
士道がそう言うと凛袮が肩をすくめた。
「あれ?私ってそんなに信用ない?悲しいなあ」
なんだかすごくわざとらしい。
その様子がなぜか可愛く見えた。
「…それで、俺がこの場所に呼ばれた理由は?」
「ああ、そうだったね。話が逸れちゃったよ」
凛袮がいたずらっぽく片目を瞑る。
ん?これはバカにされてるのか?
「士道は〈刻々帝〉(ザフキエル)の力、【十二の弾】(ユッドベート)によってあの最悪な過去を変えた…」
「ああ、そうだ」
「でもね、過去改変にリスクが伴わないかといえば嘘になる。…どうやら問題はここからみたいだよ」
「どういうことだ?」
「ごめん…詳しくは言えないんだ。その辺の細かいことは琴里ちゃんに聞いて貰えるかな」
「お、おう…」
過去を変えた。その事実は確かみたいだ。
「今度はこの部屋以外の場所で会ってデートしようね、士道」
凛袮がそう言いながら穏やかに微笑んだ。
「え…ちょ…」
士道が反論する前に、この部屋に来る前と同じ感覚に包まれ、意識が落ちていった。
「…あれ」
目がさめると士道は五河家の自室で寝ていた。時計を見て日付を確認する。5月24日。零那とデートしたのは23日だ。あの日から1日経ったらしい。
「朝ご飯作るか…」
士道は眠い目を擦りながら下に降りていく。一階のリビングに入るとそこには黒のリボンを身につけた琴里がいた。
「あら、やっと起きたのね。あれから眠りっぱなしだったからしばらく起きないのかと思ったわ」
琴里はそう言いながらかたをすくめる。
「あれから…っていつからだ?」
「士道、あなた何言ってるの?零那とのデートが終わってからよ」
「…」
士道の記憶にあるのは零那とデートし、空間震警報の誤報が鳴り、その後…
思い出しただけでも吐き気がする。
「士道…あなた本当に変よ?」
「悪い…昨日の記憶が無くって…一から教えてくれないか?」
「仕方ないわね…」
琴里はそう言いながら椅子に腰掛けた。士道もその向かい側に座る。
「あなたは昨日零那とデートしたの。最後の高台公園で零那の好感度は十分確保していたのにキスをしなかったの。何でかはわからないけどね」
「…空間震警報って鳴ったか?」
「何言ってるの、鳴ってるわけないじゃない。新たな精霊が現れたわけでもないし」
「そうか…」
士道は安堵の息を吐いた。どうやら零那は生きているらしい。それが何よりの朗報だった。
「ただね、零那がいなくなったわ」
「…は?」
「正確には暴走したの方が正しいわね。4時間前、零那が【フラクシナス】を抜け出したの。理由はわからないけど、とりあえず誰の話にも耳を貸さなかったわ…」
「そうか…」
話をまとめると、零那は生きている。が、なんらかの理由によって暴走、意識の疎通も難しいみたいだ。
「前途多難だな…」
士道の言葉に琴里も賛同する。
琴里も強がってはいるもののだいぶ疲れが顔に見える。
「それじゃあーー」
士道が言いかけたその時、耳に不快な警報音が鳴り響いた。
「空間震警報!?」
「考えられるとしたら…零那ね」
琴里がさも落ち着いた様子で口にする。
「とりあえず【フラクシナス】に移動しましょう。そこから霊力を通じて零那の場所を探るわ」
「わかった」
数分後、外に出て【フラクシナス】に拾ってもらった士道と琴里は空間震の原因を解析していた。
「…琴里、カテゴリーE、これは…反転体だ」
【フラクシナス】の解析官、村雨令音が口を開いた。
「やっぱりか…でもそうなるとおかしいことがたくさん…」
「あの、令音さん、説明してもらってもいいですか?」
士道は状況がわからず令音に尋ねた。
「…時間が無いから手短に説明するよ。霊結晶(セフィラ)の事は知っているね?反転とは精霊がなんらかの状態に陥った時霊結晶(セフィラ)が反転すると言われている。反転体は元の力の倍ほどの力を有しているケースが多い。零那はその反転体なのさ」
「え…それっておかしくないですか」
そう、琴里から零那の過去を聞いた時、零那が反転したなどの話は一切出てこなかった。
「〈ファントム〉の事はまだわかってないわ。もしかしたら反転した霊結晶(セフィラ)も作り出すことが出来るとしたらどう?その霊結晶(セフィラ)を与えたとしたら零那が精霊になった時点で反転していることになるわよ」
「そうか…」
士道はモニターに映っている零那に目をやる。
高台公園で一人寂しく立っている零那、顔は見えないが明らかに雰囲気がいつもと違う。
「琴里…」
「そうね、無駄話はこれくらいでいいでしょう。…健闘を祈るわ」
「ああ、任せな」
士道は力強く頷き、【フラクシナス】を後にした。
高台公園では先日デートした時に立っていた場所に零那がいた。
「零那…」
「五河士道…思ったより早かったな」
「…!?」
零那の声はしているがそれ以前に、その声には憎しみと憎悪が込められていた。
「…お前誰だ」
「…何故そう思う?理由は?」
「零那はそんな人を試すような顔はしない」
「…もうばれたか。人間というのは意外と鋭いのだな」
零那ではない誰かが溜め息を吐く。
そして、ゆっくりと顔をこちらに向けた。
「私の名は【ニュクス】。全てに等しく死を与える者」
言ってから右手を空にかざす。
その手には鎌が握られた。
「人間、なぜ過去を変えてまでこの娘を助ける。所詮他人なのだから放っておけばいいだろう」
「そんなこと…零那が大事だからに決まってるだろ!」
士道が声を張り上げるとニュクスは更に言葉を続けた。
「元々この天使は私の力。この娘に力を貸し、代償に寿命を貰うという契約は尽きた。今宵より私は自由だ」
ニュクスが実に愉快そうにケタケタと笑う。士道はニュクスを睨みつけたまま口を開いた。
「…ニュクス、俺と取引しないか」
「…?なんだ人間」
「俺と勝負しろ。俺が勝ったらお前は俺に絶対服従する。俺が負ける…即ち俺が死んだときはお前の勝ちだ」
いかに無謀かということはわかっている。だがあの零那を取り戻すためには、これしかなかった。
「…いいだろう。所詮人間風情が私に勝てるわけなどないのだ」
「決まりだな…」
士道はポケットから召喚器を取り出し、頭に向けた。
ニュクスは空へ飛び上がり、戦闘態勢を取った。
「自らを由とせず、他者との相対でしか語れぬ者よ。
群れて吠えるだけの弱き羊よ。
不自由なだけの馴れ合いの果てに、掴み取れる物など有りはしない。
他者に縋り、己を背負わせ、怠惰を貪るその生に、果たして何の価値があるものか」
「ああ、お前の言う人間風情は他者との相対でしか語れないんだよ。…人間を舐めるなよ…」
「愚かな人間よ、目を閉じるな…
耳を塞ぐな…見たいものだけを見ようとするな、聞きたいものだけを聞こうとするな。現実を見ろ」
ニュクスは鎌を持つ手を空に掲げた。
「〈冥界覇者〉(ハーデス)ー【堕王剣】(エビルカリバー)」
ニュクスがそう言うと、手に持った鎌が変形し、禍々しい剣へと変貌した。
「〈颶風騎士〉(ラファエル)!」
ニュクスの【堕王剣】(エビルカリバー)を一瞥し、士道は召喚器の引き金を引いた。
「零那を…返してもらうぞ!」
ニュクスに反応し、士道も槍を構え戦闘態勢を取った。
なんかめっちゃ長くなってしまった。
申し訳ない。
ちなみに【堕王剣】(エビルカリバー)の元ネタはディバゲからです。