…つか八舞姉妹の下書き書いた翌日に暴風警報出るってなに…
暗いビルの中。
空間震発生直後だから人などいる筈もない。
五河士道は一人の少女の元へ向かっていた。
「司令。よろしかったのでしょうか」
フラクシナスの艦橋。副司令官、神無月恭平の声が響き渡る。
「ん?何のことかしら?」
「士道君を実戦投入したことです。また円卓会議(ラウンズ)からなにか言われるのではないでしょうか…」
神無月が心配そうな顔をする。おそらく本気で琴里のことを心配しているのだろう。そんな神無月に琴里は苦笑いしながら答える。
「大丈夫よ神無月。あの馬鹿共(ラウンズ)から許可は下りたわ。それにー」
琴里がちらと零那の方へ目をやる。
その意図を察してか零那が頷いた。
「最悪の場合、”零那”がいるでしょ」
士道は長い階段を上り終え、呼吸を整える。正直なところ運動はしていないので階段(3階)を上っただけで息切れしていた。最初はエレベーターを使おうと思ったが、よく考えれば空間震が発生したことによりエレベーターが動いてるはずがない。そのため階段で上がってきたのだ。
『…全く情けない。階段くらいで息切れしてるんじゃないわよ』
インカムから琴里が呆れる様に話しかけてくる。…正直答えるよりも呼吸を整えたかったが、琴里の話を無視すると後々怖いので答えた。
「…うるせぇ…」
たった一言なのに、力の半分以上使った気がした。
『…そんなことより。〈ハーミット〉は〈おもちゃ売り場〉にいるわ。すぐに向かって頂戴』
「…おう」
暗い部屋を進んでいく。電気がついてないとはいえ、ある程度は足元が見えた。…別に怖くわないが不気味だった。
ーそして士道は『目的の少女』を見つけた。
「四糸乃!」
士道が叫ぶと四糸乃がビクッと身体を震わせ、恐る恐るこちらを向く。
しかし士道の顔をみた瞬間ぱあっと表情が明るくなった。
「士道…さん!」
四糸乃が駆け寄ってきて士道に抱きつく。突然のことに驚いた士道だったがすぐに四糸乃を優しく抱きとめてやる。
『あら士道。まんざらでもない顔ね。もしかしてロリコン?』
「そ、そんなわけねぇだろ!」
四糸乃に聞こえない声でインカムに文句を言う。インカムから琴里のクスクスと笑う声が聞こえた。
『好感度や精神状態はこちらで観測してるわ。今の所好感度も精神状態もいい感じよ。』
そう。〈フラクシナス〉には顕現装置(リアライザ)が搭載されており、それを用いて精神の状態を観察している。
…早い話ギャルゲーの画面だ。
「士道さんに…借りた傘を……返そうと……思って」
四糸乃が士道に身を預けたまま言う。そういえば昨日傘を貸したのだった。
「傘なんていつでもよかったのに。…でもありがとな」
「…はいっ!」
そんな二人のやりとりを見ていたよしのんがニヤニヤしながらこっちを見ている。
…正直居心地が悪い。
「よ、四糸乃はどうしてこんなところにいるんだ?」
話題を変えようと士道から話を振る。いやまぁよしのんの視線が気にならずにスルーできればよかったのだが。
「その…怖い人達が私を攻撃してきて…それで…」
「…っ!!」
怖い人達。つまりはASTの事だろう。
現界するだけで空間震を起こす少女。そんなものをASTが許すはずもない。
…でも…なんだってこんな小さな子を…。
『あの人達よしのん達の話は全く聞いてくれないんだよねー。困ったもんだよー』
今まで無言でニヤニヤしていたよしのんが急に口を開く。
…おそらく四糸乃は恐怖感から話すことが出来ないのだろう。
「怖くて…怖くて…必死に目の前にあった建物に…逃げ込んだんです……」
話すのも辛そうに四糸乃が説明する。その姿は見ているだけで弱々しく、痛々しかった。
士道は血が出んばかりに拳を握り締める。この少女を最悪の運命から救ってやらなければ。必ず助けなければいけない。だが士道一人の力でそんなことが出来るのだろうか。
不安になった士道がインカムを小突く。
『どうしたの士道。…もしかしてその娘に欲情したの?明日の朝刊に載ってもいいのなら好きにしたらいいんじゃないかしら』
何も言ってないのに琴里が凄まじい暴言を放ってくる。…
それにしても少し酷すぎやしないか。
「琴里。この後…どうすればいいんだ?」
『…そうね。好感度も上昇してるし大丈夫かしら。少しデート気分で歩いてみなさい。』
「おう、わかった」
『会話を忘れずにね』
琴里がそう言い残して通信を切る。
正直何をしていいのかわからなかった士道にとってはかなりありがたかった。
「四糸乃…」
「ふぇ…?」
四糸乃が状況を理解できていないような声を発する。そんな四糸乃の事は知らず、士道は四糸乃の頭に手を置き、優しく撫でた。
…相変わらずよしのんがニヤニヤしている。
「その怖い人達は今はいない。もしなにかあったときは…俺が四糸乃を守ってやる。」
「…!」
四糸乃が信じられない様に目を開く。 今まで四糸乃は殺意しか向けられたことがなかった。
それは四糸乃が初めてかけてもらった優しい言葉だった。
それが嬉しくて。 ありがたくて。
四糸乃は考えるよりも早くその言葉を発していた。
「あり…がとう、ございます…」
「おう」
士道がにっこりと微笑む。
今しがた琴里に言われたことを実行するのは今しかないと悟った士道は、一歩踏み込んだ。
「四糸乃…少し…歩かないか?」
士道がそう言って手を差し伸べる。
四糸乃がなにやらよしのんと少し相談した後に、
「ーはいっ!」
柔らかくてひんやりした小さな手。
その手を取り、士道は四糸乃と歩いていった。
フラクシナスの艦橋では、上手い具合にデート(仮)に誘った士道をクルー達でモニタリングしていた。
「ま、最初にしては上出来ね。好感度も悪くないわ」
棒付きの飴を片手に、琴里はモニターに映った画面を見る。
「司令。ASTですが…本当にこのまま外で待機を続けると思いますか?」
零那がビルの外を見て心配そうに言う。外にはすでにASTが20人ほど待機していた。未だに動きはない。
「そうね。ASTが今までの方針ならそんな心配は無用でしょう」
しかしそれを言った後、険しい顔つきになり、さらに言葉を続けた。
「…今まで通りなら…ね」
ビルのなかでデート(のようなもの)をした士道は休憩の為にベンチに腰掛けた。
四糸乃は〈ぬいぐるみ〉が好きらしく、〈おもちゃ売り場〉でも特に〈ぬいぐるみ〉をよく見ていた。
四糸乃の方は恐怖が和らいだのか、さっきから満面の笑みを浮かべて士道に付いてくる。
何があっても手を離さないで士道に付いてくる四糸乃が…とても可愛らしかった。
そんな士道に気づいたのか、隣に座っていた四糸乃が頬を染め、士道から目を反らす。
「なぁ…四糸乃はー」
その士道の言葉は最後まで発せられなかった。
「なっ!?」
ビルが斬り裂かれ、凄まじい崩壊音を立てて天井が崩れ落ちる。
そして、今しがたビルを斬ったであろう少女達が空中に浮いていた。
「AS…T」
士道は恐怖と戸惑いの混じった声でその言葉を発する。
おそらくビルを倒壊させてでも四糸乃を殺したいのだろう。
「っ…そうだ!四糸乃!」
四糸乃の声を叫ぶ。
士道が無事だったからと言って、四糸乃が無事という保証はないからだ。
四糸乃が座っていたところには切断跡が残っており、どう見ても誰かがいたようには見えなかった。
「…士道…さん」
後ろから弱々しい声が聞こえる。
どうやら無事だったみたいだ。
…しかし、先程の衝撃のせいだろうか。左手に付けていたパペット、”よしのん”がいなくなっていた。
「あ…ああ…あああ」
四糸乃が混乱したようにその場にしゃがみこむ。
心のよりどころを失い、殺意と敵意を向けられ、正気な者などいないだろう。
ガクガクと四糸乃が震え始め、やがて立つことも困難になる。
『士道!ASTが!!』
琴里の大きな声が轟く。
そしてようやく状況を理解する。
銀色のショートヘアという髪型に、人形の様な感情を示さない顔をしたASTの少女が、レイザーブレードを片手に、四糸乃目掛けて斬りかかろうとしていた。
ーこれ以上四糸乃を絶望させるわけにはいかない。
ー俺が四糸乃を守ってやると約束した。
そして士道は、考えるよりも早く身体が動いた。
泣きながら震える四糸乃の元へ行き、後ろからぎゅっと抱きしめる。
『士道、なにをやってー』
「士道…さん…」
驚いた琴里の声が耳から聞こえ、
それに合わせるかのように四糸乃が後ろを向く。
そこには信じられない光景が広がっていた。
士道が四糸乃を抱きしめたのは…ASTの一撃から庇うため。
四糸乃に攻撃が当たらないよう、士道が四糸乃の身代わりとなった為、おびただしい量の血が吹き出す。
「かはっ…」
口から大量に吐血した士道は、力の入らない声を発する。
「…四糸乃…無事…だったか…」
一言一言発する度に咳き込み、血を吹き出す。
しかし四糸乃を強く抱きしめたのまま、離れようとはしなかった。
四糸乃が目にいっぱいの涙を浮かべながら士道に問う。
「ぅぅ…なんで…私のこと…」
四糸乃が震える声で理由を聞くと士道はにっこりと笑い、答えた。
「…守るって…約束した…だ………ろ」
最後の力を振り絞り、笑顔を作ると共に四糸乃を抱きしめていた士道の力のが抜ける。
ーもう動かない。
ーもう話さない。
優しかった言葉を聞くことができない。
もうあの暖かい笑顔を見ることができない。
士道はーあの人は色のなかった私に色を付けてくれた。
笑うことを忘れかけていた私の笑顔を取り戻してくれた。
「うあ…ああ…うあああああああ!!」
”それ”は、四糸乃を絶望させるに足りた事実だった。
「嘘…そんな…!!」
ASTの隊員も同じように、目の前で起こった事が信じられなかった。
『ビルごと壊してもいいから〈ハーミット〉を殲滅せよ』
そんな命令が出たからビルごと切断し、〈ハーミット〉に斬りかかった。
…正気、失敗する要素はなかった。
成功させる自信しかなかった。
狙いは正確、誰よりも速いスピードで、〈ハーミット〉の不意を突いたと思った。
…あの少年さえ割り込んでこなければ。
まさか、あの少年と精霊が一緒にいるとは思わなかった。
来禅高校入学時から接触を試みていたが、結局接触する機会はなかった。
それが、まさかこんな形で接触することになる。
『…あなたの責任は後で問う。死ぬほど後悔してもいい。…だから、今は…目の前の精霊を片付けなさい。これが最高の好機なのよ…!』
ASTの隊長である、日下部燎子(くさかべりょうこ)の言葉が鼓膜を震わす。
「…了解」
一言でそう答え、鳶一折紙(とびいちおりがみ)はレーザーブレードの柄を握り直した 。
四糸乃はもう動くことのない士道を床に寝かせ、その身体を睨めるように見つめる。
未だに血は止まらず、辺りに真っ赤な水溜りができている。
”よしのん”に頼りたくても、先程のビルの倒壊で、どこかに行ってしまった。
ーもう誰もいない。
ー私はまた一人ぼっち。
心細くて、寂しくて、悲しくて。
…ASTが憎くて。
それは四糸乃が初めてASTに抱いた感情だった。
今まで我慢してきた。どんなに痛くても、どんなに怖くても、”よしのん”のおかげでどうにかなった。
しかし状況が違う。
今は誰もいない。否、皆奪われた。
その事実を理解した四糸乃の目の前のが真っ暗になる。
そして右手を天に掲げーー
「氷結傀儡【ザドキエル】ッ!!」
半ば無意識に災厄(てんし)の名を叫ぶ。
ー天使。『形を持った奇跡』
精霊の持つ唯一にして絶対の力を持つ武器。
その天使は大きな兎の形をした人形。
四糸乃は”それ”の背中に乗ると、両腕を背中の穴に差し込み、災厄が動き始めた。
なんかもう俺もうだめだww
次回で完結するかな(適当
では次にあいましょう。