転生者 赤袖茉莉のヴィクトリーロード   作:中二階

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多人数を扱うのってムズイな……


九州の強豪北陽学園

「行くよ?」

 

「ああ、来てくれ!」

 

 四川堂君の声を受け、私はシュートを撃つ。

 全力ではなくある程度の加減を加えたシュート。しかしコースに加減は無い。

 強烈なスピンがかかったボールは大きな弧を描いてゴールへと吸い込まれていく。

 

「……はぁっ!」

 

 四川堂君がボールの軌道上に手を入れる。

 その動作はまるで畳の上の札を弾くかのように鋭く、早い。

 しかしそれだけでは私のシュートは止められない。

 

「くっ!」

 

 自身の手を弾いてネットを揺らすボールを見て、四川堂君は悔しそうに項垂れる。

 

「また駄目だったか……」

 

 現在、四川堂君はキーパー技の習得のための特訓をしている最中だ。

 先の試合では南雲原の皆が次々と必殺技を放ったり活躍したりしている中、一人だけ何もできなかったことが気になっているらしい。

 私は最初、キーパーの出番が無いということはそれだけ試合が有利に進んでいるということでもあるから気にしなくて良い、と言おうと思った。

 だけど前半、円堂ハルによってボコボコにされたことを思い出てからは何も言えず。

 笹波君の勧めもあって、こうして特訓をしている。

 

 シュートを撃つのは私と柳生君と木曽路君。

 忍原さんと桜咲君は別途特訓中だ。あの二人は試合での成長が目覚ましかったので、その分調整に苦労しているみたいだった。

 

「あの、四川堂先輩はどんな技をイメージしてるんですか?」

 

 木曽路君が疑問を投げかける。

 大事なことだ。四川堂君はまだまだ経験が浅いので、既存の技を習得することは難しい。

 そのため既に備わっている技術を最大限活用したオリジナル技を作ろうという話になっているのだが……。

 

 これがまた、中々に難航している。

 その最たる要因が技のイメージの不足だ。

 

「……僕はまだ、相手のシュートを受け止められるような筋力が無い。だからこう、薙ぎ払うような、弾き飛ばすような技にしたいと思ってるんだが……」

 

「……それって、どういう風に?」

 

「え? どういう風とは……?」

 

 成程、そこからか。

 

「ただ手を使うとか、そういうのじゃ駄目……。勿論そういう技もあるけど、今の四川堂君じゃあ竜巻とか炎とかドラゴンとか、そういうのを倒せるようなイメージが出来てないんじゃないかな……?」

 

 四川堂君はきっと円堂ハルの『普通のシュート』と西ノ宮中の”エイムショット”くらいしか仮想敵にできてないのだろう。

 前者は威力は技並みだけどあくまでも実力者が撃つというだけのただのシュート、後者は必殺技ではあるけど、何か圧のあるオーラを纏っているというわけではなかった。

 

 だけど忘れちゃいけない。ここは超次元サッカーの世界。

 ファイアトルネード、皇帝ペンギン、デスソード……。普通に受けたら死ぬんじゃないか、と思ってしまうような技がてんこ盛りな世界だ。

 それに対抗するためには、自分も相応のもので対抗する必要がある。

 

「私は、自分が魔法使いになったイメージで考えてた。呪文を唱えたら色んな属性の魔法が使えるゲームキャラみたいな感じで……」

 

 実際昔は研鑽も何もなく、ただ唱えるだけで魔法が使えるような全能感があった。

 今は無いけど。

 

「へえ、中々面白い考え方だな」

 

「柳生君はどんなイメージ……? あなたの”天空サンダー”はどこから……?」

 

「俺か? 俺は、そうだな……。何となく技名から考えて、そこから色々と構築していく感じか?」

 

「俺はとにかく楽しそうなことっすね! 忍者みたいに分身が使えたり、サーカスみたいにアクロバティックな感じ!」

 

「成程。そうなると元演劇部の弁天君辺りに聞いてみるのもあるかもしれないな……」

 

「今はとにかく必殺技を沢山見て、イメージを養った方が良いかもしれないぜ」

 

 柳生君の言葉に私も頷く。

 とにもかくにも技を知ることから始めるべきだ。

 ……でもそう考えると雨道さんって謎だな。

 何だろう、”セカンドライフフープ”って。よく似た技があるし、ただ真似しただけとも取れるけど、やっぱり謎だ。

 

「……ま、そうは言っても次の相手の対策もしなきゃならないんだけどね」

 

 木曽路君は少々汗を浮かべながら呟く。

 それを聞いて、空気が少しだけ重くなった。

 

「相手はあの北陽学園……。スプリング杯で雷門に敗けたとはいえ、それでも強豪だ」

 

「そもそもスプリング杯自体、優秀な成績を収めた学校した出場が許されないんだったか」

 

 九州の強豪、北陽学園。

 かつて御影専農でフォワードを務めていた下鶴(しもづる)(あらた)監督が率いるこのチームは極めて合理的なサッカーを得意としている。

 ただ戦術が優れているだけじゃない。個々の実力とサッカーIQが高く、その上で優れた戦術を駆使してくるチームだ。

 

 別名『パーフェクトサッカーの北陽』。

 ただ雷門に敗れただけのチームじゃないということは、過去の映像を見れば簡単にわかる。

 ……いや、昔の私ならわからなかったろうけど。

 

「…………ん?」

 

 皆で悩んでいると、柳生君が何かに気が付いたかような声を出す。

 一斉に視線を向けると、そこには見慣れない、しかし見知った二人の顔が並んでいた。

 

「……アイツ等は」

 

「北陽学園?」

 

 太陽のようなオレンジと雲のような白。

 間違いない。あれは北陽学園のジャージだ。

 

「……まさかアイツ等、ウチを視察に来たのか?」

 

「えっ!? スパイ行為ってことすか!?」

 

「まさか……まだウチはそこまで注目度は高くないと思うが……」

 

 四川堂君の言葉に私も同意する。

 確かに可能性を感じるチームだけど、対外的に見れば、私達はまだ一回戦を勝ち抜いたチームでしかない。

 しかも新設。雷門の二人と戦ったとはいえ、中の下か偶然勝ち上がった弱小。

 そんな評価が妥当ではないだろうか。

 

「いや、あり得なくもないですよ~? だってウチには元雷門中! 『天空に愛された唯一神』、赤袖茉莉先輩がいますからね!」

 

「ごっふぅ!?」

 

「赤袖さん!?」

 

 木曽路君から放たれた、私の心臓を的確に撃ち抜くスーパーショット。

 私は思わず膝をつき、過呼吸になる。

 

「ハァハァハァ……!」

 

「ちょ、大丈夫です!?」

 

「大丈夫じゃない……! 木曽路君、その恥ずかしい異名はもう二度と口にしないで……!」

 

「え? あ、はい~……」

 

 元雷門はまだいい。事実だから。

 だけど唯一神とかいう厨二感満載の、やたらと持ち上げるようなその異名だけはやめてほしい……!

 

 そんな感じでわやわやしていると、柳生君がいつの間にかいなくなっていた。

 そして忍原さんと北陽の人達を連れてこっちに来る。

 

「ありゃ? 何なんですかね?」

 

「さあ? ただ、少し剣呑だね」

 

 …………?

 あれ? 北陽が五人いる?

 

「さあ、四川堂君! 木曽路君! 茉莉ちゃん! 配置について!」

 

「へ?」

 

「サッカーバトルだ。コイツ等に俺達の技が通じないのかどうか、確かめてやる!」

 

「そーいうこと!」

 

 な……!?

 私は思わず口をあんぐりと開けてしまう。

 

「ちょ、それはマズいよ……! みすみす敵に情報を渡すなんて……」

 

「ちょっとくらい大丈夫だろ。それにウチは出し惜しみできるような立場だと思うか? 少しでも向こうの情報を引き出すようにする方が優先だろ」

 

「む……」

 

 桜咲君の言うことは確かに一理ある。

 大半が技を使えるようになったとはいえ、まだまだ初心者の集まり。

 相手に対策されることよりも、対策することを考えるべきなのはその通りだ。

 

「こっちとしては問題無いよ。赤袖茉莉さん」

 

 北陽の選手が一歩前に出てくる。

 他よりは背の低い褐色の男子。しかし身に纏う雰囲気は自身気で、皆を纏めていくリーダーシップのようなものを感じる。

 北陽キャプテンにしてチームの中心、空宮(そらみや)(せい)

 

 彼は私のことを知っているらしい。当然か。スプリング杯の時にデータを漁ったりしただろうし。

 

「俺達も次に戦う相手のことは知っておきたいし、ね」

 

 空宮征の視線はまっすぐに私を射抜いている。

 一方で他の人達に対してそれを向ける様子は無い。

 それが癇に障ったのだろう。

 桜咲君と柳生君、そして忍原さんが前に出る。

 

「おい、まるで赤袖しか相手にならないみたいな態度だな」

 

「南雲原には私達もいるんだけど?」

 

「そんなことわかってるよ。ただ現実的に考えて、彼女が一番脅威になることは間違いないでしょ?」

 

「こちらとしては偵察のつもりは毛頭ないのだが、機会を頂けるならありがたい。今年の彼女はデータが少ないからな」

 

 北陽の参謀、品乃(しなの)雅士(まさし)もまた好戦的な様子を見せる。

 私のデータを取られるリスク。向こうのデータを貰えるメリット。

 取るなら、後者のような気はしないでもない。

 

「……でも、笹波君の判断を仰がないと……」

 

「いや、この勝負受けよう」

 

「え!?」

 

「意外な助太刀だな」

 

 何と、ここで四川堂君が賛成の意を示した。

 本当に意外だ。こういうの嫌いそうなのに。

 

「僕の技を完成させるためには、より多くの知見が必要……だろ?」

 

「……わかった」

 

 確かに四川堂君にとってはいい経験になるだろう。

 直に技を受けることでより一層イメージが固まるのは間違いない。

 

「決まりだね」

 

「ただし、条件がある。赤袖さんを出すわけにはいかない」

 

「えぇっ!?」

 

「彼女はチームの切り札だ。それに、他のメンバーに技術を教える役割も担っている。負傷でもされたら困るからね」

 

「……どうします、品乃さん」

 

 空宮征は困ったように品乃雅士を見る。

 彼にしてみれば一番のお目当てが見られないという状況、迷うのは仕方ない。

 

「わかりました。ですがもしこちらが勝てば、ウチのエースが彼女に通じるのか確かめさせて貰います」

 

「良いでしょう」

 

「良いんだ……」

 

 どうやら四川堂君は是が非でもこの機会を逃したくないらしい。

 笹波君がいない横で勝手に決めて大丈夫なのかな……?

 

「あれ? 喧嘩ですか?」

 

「ええぇ……? 怖いです……」

 

「おいおい、あれ北陽じゃねぇか! 道場破りかぁ!?」

 

「踏み込んでくるね……」

 

「ふっ、サプライズ北陽とはね。中々面白いじゃないか」

 

 私がアワアワしてると雨道さん達がやってきた。

 笹波君に渡されたメニューが終わったらしい。

 

「うん、サッカーバトル……」

 

「強豪校の選手のプレイ、気になります!」

 

「優れた役者の演技は自身の糧になる。ここで観戦させて貰おうじゃないか」

 

 基礎力がついてきた今なら、悪くない選択かもしれない。

 だけど今の南雲原の主力はあの五人だ。

 あの五人がもし敗けるようなことがあれば……。

 

 次の試合、敗けてしまうかもしれない。

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