「お前等、あんま調子乗んなよ?」
「公式戦で勝ったのは俺達なんだぞ?」
「グラウンドを譲るのはそっちでしょ!」
こんにちは、赤袖茉莉です。
この度、少子化によって私達が所属する南雲原中と北陽学園が合併することになりました。
当然サッカー部も合併。私達は現在同じチームで切磋琢磨する仲間ということになります。
そんな私達なんですが。
「それはどうだろうか。個人では敗けてないように感じたのだが」
「そっちが勝てたのは雲明の指示ありきでしょ?」
「敗けたことにケチをつけるつもりは無い。あの試合がお前達の勝ちだということは素直に認めるが、俺達の方が弱いってのは心外だなァ」
桜咲君、柳生君、忍原さん。
品乃雅士、空宮征、陣内伍兵。
皆の意識は先日戦ったチーム同士でしかないようで、現在進行形でバチバチと火花を散らしている真っ最中なのでした。
発端はついさっき。南雲原のセカンドユニフォームを着た元北陽メンバーがグラウンドを譲れと言い出したのが原因だ。
だけどそれを聞いて素直に引き下がるような面子は南雲原にはいない。
そもそもこの部の始まりはグラウンドの奪還だ。奇しくも原点回帰の場になっている。
「はわわ……! 皆さん落ち着いてください……!」
一触即発の現場に、香澄崎先生が慌てて間に入った。
これには皆も一度怒気を鎮めざるを得ないようで、一旦落ち着いた。
「……まあでも、これも当然」
雷門にいた頃もこういったイザコザはあった。
例え同じ部員同士であっても、人数が増えれば限られた席を争い、勝ち取らなくてはならない。
レギュラー争いによる人間関係の不和はどのような場所であれ必ず起きるもの。
そういう意味では、おかしいのは南雲原の方であり。
不利なのも南雲原の方だった。
「強い選手がレギュラーを取るのは当然でしょ?」
「ああ? 俺達がお前等よりも弱いってのか?」
北陽、特に空宮征には余裕がある。
現状は彼の方が強いし、桜咲君も薄々それはわかっているはずだ。
だから彼の方には余裕が無い。
このままじゃいつまでたっても収まらない。
「そんなに納得ができないなら、『個人技選手権』をするのはどう?」
「『個人技選手権』だと……」
……やっぱりこうなるか。
仕方のないことではあるけれど……。
「さっきも言ったけど、レギュラーは個人で技量の高い選手が優先されるべきでしょ? 確かにアンタ達は雲明の指示を忠実に実行してきた。光るものはあるし、ある種の我慢強さも持っている。だけどそれは俺達だって同じことさ」
「何……?」
「同じ監督の指示を受けたとして、俺達の方がより良い結果を出せただろうってこと。チームとしてなら、こっちが上さ」
「……だから個人技選手権で、力の差をわからせてやろうってこと?」
「そういうこと」
私含め南雲原の面々が押し黙る。
空宮征の言っていることを完全に否定することはできないからだ。
特に私なんて、マッチアップで無様を晒したばかり。古道飼君のフォローが無ければ敗けていた身で、自分の方が個人として優れているなんて言えない。
「面白いんじゃないかな。北陽は特段個人技で勝負するタイプでもない。南雲原と大幅な差があるというわけではない」
「下鶴監督!」
香澄崎先生と一緒に成り行きを見守っていた下鶴さんがようやく口を出してきた。
彼から見てもレギュラー勝負の内容に異論は無いらしい。
「最も、チームが変動した以上は空宮達を贔屓するつもりはない。南雲原にも平等にチャンスを与え、しっかりとした公平性を持ってメンバーを選ばせて貰うが」
「それは勿論」
「……わかりました。やりましょう。ただし、条件があります」
キャプテンである笹波君が同意した。
これで勝負内容は決定だ。
「条件? 何かな?」
「同時に監督勝負もしませんか? 実質的なチームの指揮権を賭けて」
「良いだろう。私も君のことを知りたいと思っていた」
「決まりですね」
全部の条件の確認が済んだ。
勝負は明日早速行われる。
この中の何人が生き延びるのだろうか。
一つ救いがあるとすれば、北陽の人達もそこまで多いというわけではないということ。
フルメンバーに加えて少数の控え選手だけ。不謹慎かもしれないが、少子化に救われた部分かもしれない。
「頑張ろう……」
私にできることはアピールすることだけだ。
◆
「それでは私が率いるメンバーを発表する」
「――――え?」
勝負当日。グラウンドに集まった私達は下鶴監督の言葉に衝撃を受けた。
なんと彼は慣れ親しんだ旧北陽メンバーではなく、私達南雲原イレブンを選んだのだ。
監督勝負の内容は先に下鶴監督が先に選手を選び、余った面子を笹波君が率いる。
そういう内容だったはず。
だからこそ、二回戦の再演を行うことになると思っていたのだが。
実際は想定の真逆になった。
これには全員が驚きを隠せない。
「よろしく頼むぞ」
「は、はい」
私達南雲原メンバーは困ったように顔を合わせる。
だけど揉めてる時間は無い。下鶴監督が一流の監督であることはわかっているし、何か腹の立つ発言をされたわけでもない。
最低限そこは共有されているからこそ、私達は彼の意見には素直に耳を貸す。
「フォーメーションはこれだ。今までとほとんど違いはないだろうが……」
「……私が、フォワード?」
「そうだ。君には桜咲・忍原と共に攻めの中核を担ってもらう」
「わた、しが……」
フォワードをするのは本当に久しぶりだ。
KFCにいた頃に少しやっただけ。しかも色々な技を使えそうだからという理由ですぐにミッドフィールダーに転向した。
「他に質問は無いな? では健闘を祈る」
『はい!』
「………………」
下鶴監督のプランを聞き終え、私達はグラウンドに向かう。
同時に笹波君率いる元北陽メンバーも配置につく。
『チーム下鶴』
桜咲-赤袖-忍原
木曽路-柳生-小手打
古道飼-幕下-弁天-雨道
四川堂
『チーム雲明』
友部-空宮
騎士部-屯田-品乃-保平-新狩
矢倉-城壁-槍崎
陣内
「それでは行きます! 試合開始!」
百道さんが作成したドローンによる合図が響く。
キックオフ。桜咲君からのパスを受け、私はゴールに突き進む。
『今回、赤袖と木曽路は別段連携を考える必要は無い。積極的のゴールを狙って行ってくれ』
私と木曽路君に下された指示は何の意味があるのかよくわからないものだった。
だけど変に逆らってもアピールにはならない。
今は指示通り戦おう。
「”スプリントワープ”!」
「クソッ、やっぱコレヤバい!」
笹波君の指揮下に入っているからか連携にいつものキレが無い。
これなら突破は簡単だ。
一気にゴール前へと辿り着いた。
「”ドラゴンブラスター改”!」
「させません! ”ダイナマイトシュート”!」
下がってきた騎士部登和がシュート技で弾き返そうとする。
私のシュート地点を読んでいたのか。だけどその程度じゃあ止めらないはずだ。
「ああっ!」
やった!
「甘い! ”グラビティデザート”!」
「っ!」
威力が減衰したためか、”グラビティデザート”によってあっさりと止められてしまう。
陣内伍兵がボールを投げ、攻守が逆転する。
「行くぞ! ”トライダイブ”!」
「来たぞ! ”ブロック・ザ・キーマン”!」
柳生君の指示のタイミングはバッチリだ。
流石元野球部主将。全国を準優勝しただけあって、サッカーでの対応も早い。
一方で元北陽メンバーは連携の遅さが目立つ。監督が変わっただけでここまで変わるものなのか。
「なら、品乃雅士は私が止めれば良い……」
こうなれば警戒するのは”シナノフォーム”。
色々と想定外のことはあったけど、やっぱり二回戦と同じやり方で良さそうだ。
「あの時と同じ手段は喰らわない……」
品乃雅士だって私の弱点は承知しているはず。
私は少し彼から距離を開ける。対応までに時間はかかるかもしれないが、私の速さなら補えるはずだ。
「……了解した。”ザ・クレイモア”!」
「!?」
何と相手が選択したのは変わらず”シナノフォーム”ではなかった。
”トライダイブ”よりも速度は無い。だが力強いドリブルで迫ってくる。
「”スピニング――――”!」
いや、駄目だ。少し開いているとはいえ、この距離じゃあモーションに入っている間に突破される。
だったら下がって連携を――――。
「”スピニングカット”が使えないと判断すれば下がって連携待ち……。笹波雲明の言った通りだな」
「!」
「君のスピードについて行ける人間はそっちの古道飼亀雄かこっちの空宮。うまくマッチアップをズラしたのは下鶴監督の采配か? 流石だな。だが空宮の言う通り、笹波雲明も敗けてはいないようだ」
バレてる……。
彼の言う通り、私は確かに古道飼君を待っていた。
「残念ながら彼は今空宮を封じることに手一杯のようだぞ」
……しまった、やられた。
”ブロック・ザ・キーマン”で古道飼君は動けない。
「まさか、さっきの”トライダイブ”は……!」
「囮さ。そして君が前に出てくるなら、”シナノフォーム”で攪乱するよりは勢いに任せて突っ切った方が良いと、笹波雲明は判断した」
最も、連携がぐだついたのは言い逃れのしようもないが。
品乃雅士はそう言って一気に距離を詰めてくる。
「忘れたのか? これは個人技試験だ。連携しかできないような受動的な選手は落とされるぞ」
――――――。
落ちる。堕ちる。オチル…………。
私が南雲原のサッカー部に入ると決めたのは、またサッカーをするためだ。
ベンチの先、ベッドの上、部屋の中。
布団を被って、あるいは包帯を巻いて。
熱気が渦巻く勝負がすぐ近くで展開されているのに、私はその中に入っていけない。
何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
そういう体験をしてきた。
そこに、戻る。戻ってしまう。
それは、それだけは。
「…………っ!!!!!!!」
「――――来るか!」
嫌だッ!
「”スパイラルドロー”!!!!!!」
「うおおおおおおおおお!?」
こんなに必死になったのは久しぶりだった。
本当に、本当に必死にプレイをした。
気づけば、スコアは4-3。
勝ったチームは笹波君の率いる元北陽メンバー。
だけど試合が終わった後は皆少し晴れやかな顔をしていた。
「やるな。流石は元雷門メンバーだ」
「……どうも」
試合後、品乃雅士がやってくる。
勝者の余裕か、一段と顔が澄んでいる。
まあ彼は間違いなく選ばれるだろう。
「三点も取られてしまった。……もう少しやれると思っていたのだがな」
「……桜咲君達は強いから」
今回点を決めたのは桜咲君と忍原さんによる”春雷”二回と柳生君の”天空サンダー”。
私と木曽路君は、下鶴監督からのオーダーを果たせなかった。
「それに、謝らないといけないのは私の方」
「……というと?」
「多分私は、まだ皆のことを舐めてたんだと思う。私が本気で技を使えば、怪我しちゃうから」
「……成程。確かに君の過去の試合結果ではそういうこともあったようだな」
稲妻KFCと雷門での試合。
前者は勢い任せのシュートで、後者は焦った私のミスで。
敵味方共に負傷させてしまった。そのせいで”スパイラルドロー”や”ホワイトハリケーン”といった技を封印してしまっていた。
下鶴監督が私にフォワードを担当させ、尚且つ連携を意識するなと言ったのはそういった背景を見抜いていたからだろう。
そしてそれは、笹波君も同じ。
「次の対戦相手、東風異国館は強靭なフィジカルを武器にしたチーム……。このままじゃ多分当たり敗けて終わるって、そう判断されたんだ……」
正直、まだ完全に克服したわけではない。
だけど確かな一歩を踏み出した感覚はある。
それでもまだ、このまま駄目だ。今回の試合で、それは十分身に染みた。
もっと思い出さないと。新しいチームで上へ行くために。
その後、チームの指揮権は正式に笹波君に移り。
私達は新生南雲原中サッカー部として、次の対戦へと向かうのだった。