転生者 赤袖茉莉のヴィクトリーロード   作:中二階

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東風異国館戦はサクッと行きます。


不協和音

『新生南雲原』

 

 桜咲-空宮-忍原

 木曽路-柳生-品乃-騎士部

 古道飼-赤袖-雨道

 陣内

 

『東風異国館』

 

 スクワート-吉崎-ジョン

 ロベルト-山之内-チャウ-マリベル

 ジュディ-キキ-ジェニー

 マルティノ

 

 フットボールフロンティア九州予選準決勝。

 新生南雲原vs東風異国館。前半20分。現在スコアは互いに無得点。

 選手の大半が各国からの留学生で構成され、人種特有の圧倒的なパワーによって並の戦術程度ならば意に介さない東風異国館に対し、現在新生南雲原は大いに苦戦させられていた。

 

「ヘェイ!」

 

「うっぐ……!」

 

「ハハッ! 脆いねボーイ!」

 

 空宮に襲い掛かるカイ・吉崎の強烈なタックル。

 俊敏さを武器に多少の当たり程度ならば避けてしまえる彼だが、今回は相手が悪すぎた。

 動きこそ直線的で芸が無い。しかしそれ以上にパワーとスピードといった身体能力が高すぎる。

 余りにも脳筋、しかしそれだけでスプリング杯ベスト4にまで進出したその実力は伊達ではない。

 

「何やってんだ!」

 

「これ以上は行かせん!」

 

「次はユー達かい?」

 

 桜咲と柳生が立ちはだかる。

 二人は南雲原でも屈指の体格を持つ選手達。当たり敗けなどそうそうすることはないのだが。

 

「駄目だよカイ。こっち」

 

「Oh……東洋、君って奴はなんて無粋なんだ」

 

「一々当たりに行ってたら相手の身がもたないよ。そうなったらまーたウチが叩かれるんだからさ」

 

「まったく、今日も東洋はつまらないね」

 

 東風異国館の山之内東洋の多少なりともリスクのある勝負を避ける安定志向によって梯子を外され、勝負をさせて貰えない。

 

「何をやっている! 笹波雲明の指示を忘れたのか!」

 

「わかってんよ! 守りに徹しろ、だろ!」

 

「だったらもっと視野を広く持ってください!」

 

 余りにも容易く抜かれる桜咲と柳生に対し、品乃と騎士部から叱責が飛ぶ。

 この時点で中盤はガタガタになっていると言える。

 

「来るぞ!」

 

「コース切ります!」

 

「僕は吉崎さんを……!」

 

「お願い、私が司令塔を潰すから……!」

 

 一方でディフェンス陣は連携の質を保っていた。

 雲明による指示を迷いなく実行できるということも大きいだろうが、彼等が協調性の極めて高いメンバーであることも無視はできない。

 

「Wow! なんて速度のタートルなんだ!」

 

「やっぱり速いね赤袖茉莉……だけどそのくらいはもう知ってるのさ」

 

 山之内は茉莉が届く前にパスを出す。しかし少々逸り過ぎたことは否めず、雨道によってカットされてしまう。

 

「品乃さん!」

 

「よし!」

 

 雨道のパスを受け、品乃と騎士部が同時に駆ける。

 彼の視界には三つの供給地点が見えている。

 空宮、桜咲、忍原。

 

「空宮!」

 

 迷うことなく、品乃はパスを出す。

 しかし彼の傍には既にディフェンダーが控えており。

 

「貧弱!」

 

「うあっ!」

 

 空宮は吹き飛ばされ、ボールを奪われてしまう。

 そこに木曽路がスライディングで入りこみ、ボールは外に出た。

 

「ちょっと品乃! どうしてあそこで空宮なの!?」

 

「より確実なルートを選んだだけだ」

 

「私が完全にフリーだったでしょ!」

 

「君では奴等を突破できない。フリーなのは相手にもならないと思われていたからじゃないのか?」

 

「ハァ!?」

 

「ちょっとちょっと二人共……!」

 

 木曽路が間に入り仲裁する。

 ディフェンス陣とは対照的にフォワード陣の関係は最悪だと言えた。

 空宮と桜咲も決して良いとは言えない関係だ。しかし特に酷いのがこの二人。

 努力家ではあれあくまでも感覚派である忍原とどこまでも理論派で動く品乃。

 彼等の相性は最悪に近かった。

 

「何故君が試合に出ているのか……。笹波雲明が優れていることは認めるが、これだけは理解しかねる」

 

「そもそもシュートすら撃ててない人に言われたくないんですけど! タクティクスの練習だってしたのに、アンタが空宮に拘るせいで碌に使えてないじゃない!」

 

「だからそれは守りに徹しろと言われたからだ!」

 

「攻め時を逃せって意味じゃないでしょ! アンタ司令塔の癖にそんなこともわからないの!?」

 

「何だと……?」

 

「ちょっとちょっとちょっと!」

 

「お前等、試合中だぞ!」

 

 木曽路に加えて柳生も止めに入る。

 現在の南雲原に連携は欠片も無かった。

 

「……大丈夫か、空宮」

 

「うん、何とか。意外だね、桜咲さんが来てくれるなんて」

 

「……まあ思うところがないわけじゃないが、流石にもう俺等まで揉めてらんねぇだろ」

 

「…………そうだね。とりあえず互いに空きがあったらパスを出し合おう」

 

「だな。とにかくキーパーを削らねえと作戦もクソもねぇ」

 

 品乃と忍原。二人は共にチームの精神的な柱となる存在。

 その二人が余りにも揉めたおかげか、逆に桜咲と空宮のわだかまりは溶けつつあった。

 

「忍原、いい加減にしろ」

 

「品乃先輩もです」

 

「「………………!」」

 

 東風異国館のスローインから試合が再開する。

 競り合いでは南雲原の敗北は必至。奪うには相手がボールを持った直後以外に無い。

 

「プレスかけるぞ! 騎士部、獲るのは任せる!」

 

「了解です、”ザ・マトリックス”!」

 

「オオンッ!?」

 

 奇しくも他のメンバーの連携が向上しつつある。

 しかし司令塔が機能していない損失は大きい。

 それでもチームとしてボールを繋げているのは、一重に彼の存在が大きかった。

 

「『繋ぎの』ソジ、行っきまーす!」

 

 木曽路兵太。

 サッカー経験者がほとんどいなかった南雲原のおいて唯一茉莉と同じく『異名』を持つ選手。

 彼の軽やかなボールテクニックはフィールド全体の風通しを向上させる。

 

「Stop!」

 

「ノーノー! ”分身フェイント”!」

 

「Unbelievable! NINJASUKILL!?」

 

「それは忍原先輩です!」

 

 木曽路は空いている人間に確実にパスを出していく。

 忍原にボールが渡った。

 

「チェインだ忍原! 行け、空宮!」

 

「了解!」

 

 桜咲がディフェンスを引きつけ、空宮がフリーになる。

 今までの彼等からすれば信じられない連携。

 しかし残念なことに、忍原には見えていなかった。

 

「見てなよ品乃! ”ぐるぐるシュート”!」

 

「ちょ、忍原さん!?」

 

 忍原のシュートは空宮には届かない。

 強烈なカーブを描いてキーパーマルティノの真正面へ。

 

「”アウターワールド”!」

 

 当然止められる。

 元々マルティノには空宮や桜咲でさえ、そして”春雷”さえも止められると断言されていた。

 そんな相手に威力よりも軌道を取った”ぐるぐるシュート”が真正面から通じるわけもない。

 

「ああもうっ!」

 

 嘲笑うかのようなマルティノの表情の苛立ちを募らせる忍原。

 その後も何度かフォワードがシュートを撃つこともあったが、点を決められずに終わってしまった。

 

「二人共、いい加減にしてください」

 

「だって品乃が!」

 

「君には悪いが、はっきり言おう。忍原来夏はチームのノイズだ」

 

 雲明は大きく溜め息を吐く。

 チームの精神的柱が機能不全。これでは勝てるものも勝てない。

 

(このままじゃマズいな……)

 

 雲明の作戦では後半残り十五分までは守備を固め、そこから茉莉を前線に上げて一気に点を取る作戦だった。

 しかし今のままでは品乃のフォローにディフェンス陣が動かなければならない。

 無駄な動きを重ねれば得点源の茉莉が時間まで持たないかもしれない。

 折角下鶴監督が彼女に単独突破を行うきっかけを与えてくれたのに、これでは意味が無い。

 

(かくなる上は……)

「選手交代です。品乃さんに代わって小手打さん、忍原先輩に代わって友部さん」

 

『な!?』

 

 予想外の発言に固まる二人。しかし雲明の目は力強い。

 リスクはある。得点源の”春雷”が使えなくなるのは痛い。

 それでも、そのリスクを押してでも、ここで二人には痛い目を見て貰わなければならなかった。

 

「お二人がこのままじゃ困ります。次の試合には大海原中が勝ちあがってくる可能性が高い……。彼等に勝つためには二人の連携が必須なんです! これは先を見据えた一手です、大人しく下がってください!」

 

 珍しく声を荒げる雲明。二人は大いに不満そうな顔を見せるが、雲明によって強制的にベンチに座らせられる。

 

『新生南雲原』(品乃変更に伴い、司令塔は柳生と騎士部が分担して担当)

 

 桜咲-空宮-友部

 木曽路-柳生-騎士部-小手内

 古道飼-赤袖-雨道

 陣内

 

「お願いしますね小手内さん」

 

「はい騎士部さん! 踏み込み時は逃しません!」

 

「悪いな友部さん」

 

「いいや? 僕としては、試合に出れてラッキーさ」

 

 後半は東風異国館から始まった。

 相変わらずの苛烈な攻め。しかし剣道由来の間合いの管理が得意な小手内は決して無茶はしない。

 冷静にディフェンス陣が敵を把握するために時間を作る。

 

「随分とシャイなガールだね! ミーのパワーを見せてあげよう!」

 

「結構です! ”クイックドロウ”!」

 

「おっとォ!?」

 

 前のめりになった瞬間を狙った、正に一閃。吉崎は完全に連携してくると判断したために判断が遅れてしまう。

 開始早々ボールを奪った小手内が前線にパスを回す。

 

「ナイスです小手内さん! ”ダイナマイトシュート”! 柳生君!」

 

「おうさ、行くぜェ! ”天空サンダー”! 友部さん!」

 

「決める! ”シャインドライブ”!」

 

 三名によるシュートチェイン。これは流石に止められない。

 そう判断した彼等だが、東風ディフェンダーによる体を張ったシュートブロックが炸裂する。

 

「”アウターワールド”!!」

 

「クッソ!」

 

「でも良い調子です! 次々!」

 

 南雲原が順調に活気づいていく。

 しかしそれはベンチにさがった二人に否応なしに自覚させる。

 自分達が、明確にチームの足を引っ張っていたことを。

 

「…………!」

 

「……ちっくしょう」

 

 攻守反転。ここまでの試合で大量得点を挙げてきたにも関わらず、一向に点を取れない状況に苛立ちが募っていたのだろう。

 東風異国館は完全に力が入ってしまっている。

 

「鬱陶しい奴等だ! ここから決めてやる! ”チートブラスター”!」

 

「”スピニングカットV2”!」

 

「甘い!」

 

 進化したスピニングカットを貫く威力。それは確かに凄まじい。

 しかし、彼等の強みは連携だ。先程東風異国館が見せたブロックとは明確に質が異なっている。

 

「よくやったお前等! 後は任せろ”グラビティデザート”!」

 

「フアァァッキュー!!!」

 

 完全に荒れ始めた東風異国館。

 

 そして訪れる、後半残り十五分。

 

「行きます! ”ブースト15”!」

 

「来た…………!」

 

 茉莉が一気に前線に駆けあがる。

 既に慣れ切ったパスワークで前線に運び、受け取るのは茉莉だ。

 

「決める……! ”ホワイトハリケーン”!」

 

 未だトラウマの癒えない茉莉だが、今回はキーパーがキーパーだ。

 手心を加えていては勝てない。それが彼女に”ホワイトハリケーン”を撃たせる決め手となった。

 

「なっ、クソオオオオオ!」

 

「やった!」

 

「ナイスシュート!」

 

 スコアが遂に動き、1-0。

 均衡が崩れ、東風異国館の選手に疲労が押し寄せる。

 

 そこを突き、桜咲と空宮がそれぞれ得点。

 下鶴と雲明が『このままでは勝てない』と懸念していた試合ではあったが、結果は3-0。

 蓋を開けてみれば新生南雲原の圧勝という形で幕を閉じた。

 

「………………」

 

「………………」

 

 皆が喜び合う。これで決勝まで後一つ。

 しかしその輪の中に、品乃と忍原は入っていない。

 

 彼等はただただ、己の愚かさを噛み締める。

 それが次の試合の糧になると、笹波雲明は信じていた。




大海原中戦は、ありまぁす!
この先の伏線を張るためにも必要なのでね。あと来夏ちゃんマジで可愛いんでね。
動かしてみたくてね。ちょっとね。へへ……
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