転生者 赤袖茉莉のヴィクトリーロード   作:中二階

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※品乃×来夏の恋愛はありません。少なくとも今作では書きません。


来夏と品乃の緊急デート!?

 南雲原中、野球部ミーティングルーム。

 結成してから僅か一ヶ月程度。円堂ハルの襲来や北陽との合併等、紆余曲折あった九州予選も次で最後の決戦。

 後一つで全国への切符が掴める。故に次の一戦は今までとは比較にならないほど重い。

 室内には緊張が走っている。

 

「決勝での対戦相手は大方の予想通り、大海原中になりました。綱海(つなみ)条介(じょうすけ)監督が率いる沖縄の強豪校です」

 

「元イナズマジャパンが率いてんのか……。強敵だな」

 

「あれ? でも大海原って、前の大会には出てなかったよね」

 

「彼等はその時の気分次第で出場するか否かを変えるみたいなの」

 

「変なチームだな……」

 

 桜咲が息を飲み、空宮が呈した疑問に千乃が答える。

 一見ふざけたチームにも思えるがその実確かな実力を有していることは決勝にまで駒を進めている時点で明らかだ。

 寧ろ毎年必ずデータが取れるわけではないということが厄介さを押し上げていると言える。

 

「さて、まずは大海原とはどのようなチームなのかというところからですが……彼等は一言で言えば、『自由』なチームです」

 

「……自由?」

 

 雲明の言葉を柳生が反芻する。

 

「はい。彼等には基本戦術というものが存在しません。これは東風異国館のようにフィジカルでゴリ押ししてくるという意味ではなく、その場その場で戦術を変えてくるという意味です」

 

「なっ……!?」

 

 驚嘆の声を漏らしたのは主に元北陽のメンバーだ。

 彼等は事前に作戦を取り決め、最適なタイミングでそれを実行する。一方の大海原は試合が始まると平気で事前の作戦を放棄し、即興を始めることが多々あるのだとか。

 極めて高い自由度、即ち『アドリブ力』を誇るチーム。これは北陽だけでなく、南雲原とも対照的と言える。

 

「そのため彼等にはこれといった対策が存在しない……。無駄とまでは言いませんが、事前の取り決めはほとんどそうなると考えていいでしょう。実際、今大会の全てにおいて大海原は異なる戦術を使用しています」

 

「軸になる戦術が無いなんて……そんなので勝てるの?」

 

「実際勝ってんだろ? ってことは……」

 

「個々人の力量が高いってのもあるだろうが……それ以上の何かがありそうだな」

 

「だな」

 

 柳生と桜咲の言葉に雲明は頷く。

 

「確かに空宮君の言う通り、軸となる戦術が無ければどんなアドリブを入れても連携は取りづらい……。だけど彼等には戦術以前の段階で共有されているものがあるんです」

 

「戦術以前の段階?」

 

 疑問を受けた雲明は映像を切り替える。

 それはサッカーではなく、お祭りの光景だった。

 

「……何これ?」

 

「大海原村名物、海祭りです」

 

 海祭り。

 その名前の通り、画面には水着に着替えた人々が海ではしゃいでいる様子が映し出されている。

 どう見ても地域の伝統行事以外の何物でもないもの。

 だがここまで雲明の作戦で勝ち進んできた彼等は理解している。

 雲明から提示された情報には大きな意味があることを。

 

「大海原中の生徒達は毎年この海祭りに参加しているそうです。これをすっぽかすのは人間を辞めるに等しいんだとか。そしてこのお祭りではサーフィンやフライボードなんかのウォータースポーツでひとしきり競った後、最後には派手な音楽祭で盛り上がるんだとか。彼等はサッカーの練習と並行して、このお祭りに向けたトレーニングも積んでいるそうです」

 

「うん…………で?」

 

 しかし意味があることを理解はしていても、その意味を読み解けるかは別の話。

 木曽路は困ったように首を傾げる。

 

「つまり彼等は仲間の刻むリズムを知り尽くしている。例え作戦が崩そうと崩されようと、全員が互いのリズムを理解しきっているために、事前の取り決めを必要としない」

 

「……なるほど」

 

「自分達が奏でる音楽のリズムを利用したグルーヴ戦術サッカー……。それに対抗するための手段は唯一つ、リズムの奪い合いです!」

 

「ってことは今回のキーマンは……」

 

「来夏さんですね!」

 

 忍原来夏。昨年の全国中学生ダンス大会で優勝を飾った超有名ダンスプレイヤー。

 雲明はサッカー部を作る過程において彼女とダンス勝負を行っており、彼女のリズム感が優れていることを身をもって知っている。

 しかも勝負にて彼女が出してきた振付は完全オリジナルのもの。大海原中のグルーヴ戦術に対抗できるとすれば彼女を除いて他にいない。

 そのことについて異論を唱える者はいなかった。

 しかし完全に疑問が晴れたわけではない。

 

 この場にはもう一人、いるべきにも関わらずいない人物がいる。

 

「ねえ雲明。忍原さんを軸にするのはわかったけどさ、なんで品乃先輩までいないの?」

 

 そう。

 この場には元北陽の司令塔である品乃雅士までもがいなかった。

 彼は高い実力を誇っており、合併後でもレギュラーに座ることは間違いない選手。

 当然この場に座っていなければならない人物のはずであり、いないことには空宮だけではなく、桜咲達でさえも疑問に感じていることだ。

 

「あの二人は暫くは来ませんよ」

 

「は?」

 

「二人にはキャプテンとして指令を出しました。次の試合で必ず勝つための指令を」

 

「……その、指令とは!?」

 

 少々大仰な言い回しをする木曽路だが、確かにそのくらい気になることなのは間違いない。

 目を開き、力強く瞳を輝かせる雲明の言葉を全員が息を飲んで待つ。

 

「次の試合で必ず勝つために、あの二人には――――――」

 

「二人には!?」

 

「――――――――デートをして貰っています!」

 

「おお、デート!」

 

 デート。でーと。de-to。

 全員の頭に同じ言葉が出ては消え、出ては消えを繰り返し。

 そして最後には。

 

『デートオオオオォォォォォォオォォォォォォ!?』

 

 絶叫が響き渡った。

 

 

 

「…………どういうこと?」

 

「……俺に聞くな。さっぱりわからん」

 

「……私も、意味不明」

 

 現在時刻十五時ジャスト。

 忍原来夏と品乃雅士は駅前のベンチで並んで座っていた。

 だが二人の顔には不満の色がありありと浮かんでいる。

 暫くジッとしていたが我慢できなかったのだろう。忍原は立ち上がり、大声をあげる。

 

「なんで! 決勝の相手の対策が! アンタとデートすることなのよ!」

 

「……だから俺に聞くなと言ってるだろう。後騒ぐな迷惑だ」

 

「ぐぬぬぬぬぬ……!」

 

 忍原は蹲って頭を抱える。

 彼女は今まで自分達を勝利に導いてきた雲明のことは信頼している。

 しかし北陽戦でのサプライズの件と言い、どうにも彼は言葉足らずな面があることようだった。

 今回もただ「今日と明日でデートをしてきてください」としか言われていない。

 流石にこれで察しろという方が無理な話である。

 

(どーいうことよ雲明君~…………! デートなんて、しかもよりにもよってコイツなんかと!)

 

 ハッキリ言って、忍原は品乃のことが好きではなかった。

 感性的な部分が合わないということもある。元々彼女は直感で動くタイプだ。頭が悪いというわけではないが、少なくとも考えすぎることは性に合わない。

 サッカーを始めた時も、ダンスを始めた時も。

 全ては自分を認めない祖父への反抗として始まったこと。彼女の源点が己の直感であるからこそ、この部分だけは決して譲れないものだった。

 

(どういうことだ笹波雲明……。彼女との逢引きがサッカーに必要とは思えない)

 

 それは品乃とて同じことだ。

 全てを理屈で考える彼も直感で動く忍原のことが気に食わないのだ。

 

 しかし、そんな二人とて共通していることはある。

 それは先の試合にて、自分達はまるで役に立っていなかったということ。

 チームスポーツにおいて、試合中に揉めるなんてことあってはならない。

 ましてやチームの柱でもある自分達がああでは他のメンバーに示しがつかないというもの。

 

 それだけはわかっているからこそ、無意味にも思えるデートへと繰り出すことに文句を言うことは無かった。

 

「……まあ良いか。とりあえず雲明君の言う通りにしないと。とりあえず適当に歩いて、よさげな場所を探してみよっか」

 

「何を言う。まずは調べものだ。そして評価が高い場所から順に巡っていくべきだ」

 

「他人の評価なんて当てにしてどうすんの。まずは自分の目で確かめてみないと!」

 

「一個人の主観など当てにはならない。それよりは多数の人間が見たものを軸に選んでいくべきだ」

 

「はぁ!? 自分がどう感じるかが全てでしょ!? 結局皆他人なんだから!」

 

「何を言う。俺達はまだ未熟な中学生。その場その場の感覚だけを指針にしていればいつか必ず後悔する!」

 

「しないわよ! 自分で選択したことなんだから、絶対しない!」

 

「それは偶々だ、運が良かっただけだ!」

 

 駅前で大声で揉める二人。周囲の人間はなんだなんだを視線を集める。

 それでも収まる気配を見せず、それどころかどんどんヒートアップしていく。

 

「……やっぱり、アンタとなんて絶対に無理!」

 

「こちらの台詞だ! 君のような個人主義のプレイヤーがチームにいることなど、俺は認めん!」

 

「何ですって!?」

 

 二人の間に火花が散る。

 暫く睨み合った後、互いに背を向けて歩き出した。

 

 結局この日はデートはおろか、顔を合わせることすら無かった。

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