転生者 赤袖茉莉のヴィクトリーロード   作:中二階

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オリジナルの敵作るのってマージで大変ですね。
やってる人凄いわ、尊敬するわぁ……。


大波のリズム

『フットボールフロンティア九州予選! 南国を舞台とした長きに渡る戦いも遂に終幕を迎えようとしています!』

 

『ここから東京での決勝大会に進める学校は一校のみ。既に他地域では決勝に進むチームは決定しつつあります。残すところはこの九州ブロックを残すのみとなりましたね』

 

『そうですねー! 今大会では様々な波乱がありましたが、中でも東京・近畿・九州ブロックの波乱は大きいものでした!』

 

『近畿ブロックでは順当に京前嵐山が優勝しましたが、まさかの棄権による不戦勝になるとは思いませんでした。そして東京ではまさかの円堂ハルの負傷……』

 

『サッカーにおいて怪我というものはある種つきものとはいえ……選手達には気を付けて頂きたいところです。最も東京ブロックの件は事故のようなものですが』

 

『そうですね。……おっと、注意喚起はここまでにしましょう! 今予選を勝ち抜いてきた二つの強豪! 入場です』

 

 ――――わああああああああ!

 

 私達が顔を出したと同時に歓声が上がる。

 声、規模、密度。今回の動員数は今までとは比べ物にならない。

 今や一大エンターテインメントとして知られる中学サッカーの全国行きをかけた戦い。その注目の度合いは最早計り知れない。

 

「ふぅ――――」

 

 雷門にいた時を思い出す。あの時は毎試合がこんな感じだった。

 当時は感じなかった注目という名の圧。今はこんなにも重く感じる。

 

『まずは並みいる猛者を蹴散らし快進撃を続ける新鋭、南雲原中!』

 

『一回戦の西ノ宮中との試合では雷門の主要メンバーを押しのけ、勝利を手にしています。更にそこから北陽、東風異国館とスプリング杯にも出場した強豪を倒しここまでやってきた……。いやー、彼等からは在りし日の雷門を彷彿とさせる何かを感じますね……!』

 

『奇しくも南雲原には元雷門レギュラーの赤袖茉莉選手もいます。あの日の雷門にも木戸川清修にてエースを張っていた豪炎寺修也選手がいました。それも含め、南雲原には近しいものを感じてしまいますね!』

 

 期待が、期待が重い……。

 

「私と豪炎寺修也じゃあ全然違う……そんな顔だな」

 

「う……だってそれは……」

 

 前を歩く柳生君が声をかけてくる。

 少し茶化すような明るい声。そこには期待をかけるような重みは無く、純粋な発破だけが宿っている。

 

「んなこと俺達が一番わかってる。お前は南雲原の赤袖茉莉だ。な、桜咲」

 

「あたりめーだろ」

 

「……ありがと」

 

 少し気分が楽になった。そうだ、どうせもう逃げられないんだ。

 だったらもう立ち向かうしかない。

 

『相対するは沖縄の名プレイヤー集団、大海原中。独特なリズムで敵を翻弄するグルーヴサッカーが持ち味です!』

 

『監督は元イナズマジャパンの綱海条介監督。少々気まま過ぎるのが欠点ですが、その実力は侮れません』

 

「あれ? でしょんか俺達の紹介雑じゃでしょい?」

 

「ちょっと貶されたさ~」

 

 向かい合った大海原の選手達の反応は緩いものだ。

 おおよそ対戦相手を前にしているとは思えない。

 

「南雲原の皆さんもそう緊張せずに。楽しくやりましょう」

 

 そう言って話しかけてくる彼等から緊張感というものがまるで感じられず、今までの敵から感じたような圧のようなものも無い。

 声のトーンからして気が抜ける。

 

「なんだ? 随分と惚けた連中じゃねぇか」

 

「もしかして楽勝?」

 

 桜咲君と木曽路君の言い分もちょっとわかる。

 実際アニメでもこんな感じだったし、全体的に緩い学校なのだろう。

 だけど忘れちゃいけない。この戦いは決勝戦。そして相手は全国出場経験もある強豪校。

 暫定的にはこっちの方が格下に相当するのだから。

 

「皆舐め過ぎだよ」

 

「彼等は北陽に何度も辛酸を舐めさせてきたチーム。……弱いわけがない」

 

 対戦経験のある北陽メンバーに諫められ、二人の顔に緊張感が戻る。

 挨拶を済ませ、私達はベンチに集まる。

 

「さて、いよいよ決勝です。皆さん、準備はいいですか?」

 

「おうよ」

 

「任しとけって!」

 

 桜咲君と木曽路君は元気に答える。

 次に笹波君が向き合ったのは件の二人。

 

「忍原先輩、品乃先輩。準備はいいですか?」

 

「もっちろん!」

 

「ああ、問題無い。必ずこのチームを勝利まで導こう」

 

「あ、お二人共仲直りしたんですね」

 

「まあね~」

 

 忍原さんと品乃君は笑い合う。

 デート以降は練習をそこそこに、ずっと二人で打ち合わせをしていたみたいだ。

 だから私達はまだ二人の真価を知っているわけではない。

 だけど今なら大丈夫。そんな様子が見て取れた。

 

「では、勝ちましょう!」

 

『おう!』

 

 さあ、試合開始だ。

 

 

『南雲原』

 

 桜咲-空宮-忍原

 木曽路-柳生-品乃-騎士部

古道飼-赤袖-弁天

 陣内

 

『大海原』

 

 和亀-根舞-芽株

 雨谷-十応-裏波-鈴原

 賀夜-旗家-理世

 上威武

 

 選手達がピッチについた。

 笛を加えた審判が時計に目を向ける。

 数秒後、笛が鳴った。

 

『さあ始まりした南雲原中と大海原中の決勝戦! 先攻は南雲原! 果敢に進んでいきます!』

 

『一方の大海原中は……どうしたことでしょうか!?』

 

 実況の驚嘆の声が響く。観客も同様の反応をしている。

 しかしそれは無理からぬこと。

 何せ大海原中の面々は皆全くディフェンスをしようとしていないのだから。

 

「コイツ等、どういうつもりだ!?」

 

「俺達を舐めてるのか……!?」

 

 桜咲と空宮は声に怒りを滲ませる。

 一方で大海原中の反応は実に素直なものだった。

 

「おお~速いさ~」

 

「これは勝ち上がってきたのも納得納得~」

 

 どこまでも穏やかで、どこまでも緩い声。

 それが二人のストライカー魂に火をつける。

 

「上等じゃねぇか!」

 

 あっという間にゴール前に辿り着いた桜咲。

 少し前に空宮が走っていることを確認しながら、足を振り上げる。

 

「”剛の一閃”! 空宮!」

 

「はいよ! ”サンシャインブレード”!」

 

『おおっとこれは! 南雲原二大ストライカーのシュートチェイン!』

 

 強力な二種のシュートが重なり合い、強烈な圧を纏ってゴールに迫る。

 それに対するキーパー上威武(うえいぶ)の反応は、あくび。

 

「ふわあぁ~。んなもんか?」

 

「何!?」

 

「この程度で大波を相手にしてきた俺達に勝てるって思うわけ?」

 

 急速に迫るシュートに対し、上威武はあくまでもゆったりとした構えを取る。

 勿論防ぐに支障は無い速さではあるものの、随分と気が抜けているように見える。

 

 否、見えていた。

 

「”ウズマキ・ザ・ハンド”!」

 

「「!?」」

 

 直後に現れたのは、大渦。

 先程のモーションからはおよそ考えられないほどの圧力と荒々しさを伴った巨大な青い手はいとも容易くシュートを飲み込んでしまう。

 

「……そんな」

 

「マジかよ……」

 

「しょげるわ~。こんなションベンみたいなシュートで勝ち上がってきたんか?」

 

 上威武の発言はどこまでもこちらを侮ったものであり、しかし彼等は反論できない。

 完璧なシュートだったはずだ。にも関わらず止められた。あんな簡単に、鈍くさい動きで。

 即ち、自分達はその程度しか出さなくともいい選手だと見なされたということになる。

 

「ま、良いわ。おーい裏波(りなみ)ー! そろそろー!」

 

 上威武がボールを投げる。

 それは大きく弧を描き、ミッドフィールダーである裏波の足元に収まった。

 

「おっけー! そんじゃ始めっか! DJ RINAMIのグルーヴショータイム! 皆、俺っちについてきなぃ!」

 

『あ~いあ~いさ~!』

 

「ッシャァ、行くぞオラァ!」

 

「うお、急なキャラ変!?」

 

 緩んだ顔から一転、あくどい顔になった裏波が走り出す。

 速い。しかし捉えきれないほどではない。

 木曽路、そして古道飼はボールを奪うべく立ちはだかる。

 

「はっ、おいおいそれがディフェンスか?」

 

 しかし裏波は慌てない。それどころか鼻で笑い、胸に手を当てる。

 そして体を屈め――――。

 

「そんなもんじゃ小波さえ越えられねぇ! ”アグレッシブビート”!」

 

「どわぁ!?」「うあっ!」

 

 強行突破で二人を吹き飛ばした。

 

「へっへーぃ! どんなもんじゃーぃ!」

 

 茉莉が迫ってくると同時に再び穏やかな顔に戻った裏波は芽株(めかぶ)へとパスを出す。

 

「頼むぜぃ」

 

「ほ~い、お任せ~」

 

「遅い。行かせない」

 

「やは~、茉莉ちゃんだ~」

 

 俊足を活かして自身の元へとやってきた茉莉に対し、芽株の態度が崩れることはない。

 右にゆらゆら。左にゆらゆら。やる気があるかどうかも疑わしいその態度だが、茉莉にしてみればどちらから仕掛けてくるかを読みづらくする一因となっている。

 

(どっち……? 右か、左か、中央か……)

 

 じりじりとした攻防が続く。

 先に仕掛けた方が敗ける。それを察した茉莉は我慢強く、粘り強く待ち続ける選択を取った。

 しかしそれが致命傷。自身の足が固定されたこと知覚し、彼女はようやくそれに気づく。

 

「残念、”ねばねばロック”…………」

 

「ぁ……」

 

 その名の通り、粘ついた粘液が足元に流れている。

 それはまるで接着剤のように茉莉を固定し、動かさない。

 

「シュ~トぉ~!」

 

 緩い声。しかし打撃音が重い。

 円堂ハルには届かないものの、決して弱くないそれは陣内の腕に痺れを残す。

 

「ぐ……! カウンターだ、行け!」

 

 陣内によって蹴り上げられたボールは騎士部へと。

 パスコースを確認しながらドリブルする彼女だが、その美貌に皺が寄る。

 

(パスコースが無い……)

 

 今攻め上がっているのは茉莉、木曽路、柳生、そしてフォワードの桜咲と空宮。

 そのどれもが大海原の選手達のマークによってボールを渡せない状況にあった。

 

(だったら、私が突破してこじ開ける!)

「”オーバーグロウ”!」

 

 柳生が動いたことを確認し、距離を詰めてくる選手の隙間を狙ったパスを出す。

 本来はただ相手を突破するためだけの技を転用し、妨害を許さないパスへと昇華させた独自のそれは相手にとっては初見の技。通らないはずがない。

 そう思っていたのだが。

 

「貰った!」

 

「な!?」

 

 根舞(こんぶ)によってあっさりと奪い取られてしまった。

 

「少々面食らったことは認めよう。しかし! 対策は! 変わらない! 眩しいのなら! 目を閉じてしまえば良い! 簡単なことだ!」

 

「そんな馬鹿な!?」

 

 宣言通り、根舞は目を閉じている。

 それでも完璧に騎士部のパスをカットしてみせた。

 

「既に! お前達のリズムは! 看破している! 裏波を! 中心とした! グルーヴには! 誰も! ついてはこれない!」

 

(うるさい……)

 

 暑苦しい上に一々言葉が切れる根舞だが、しかしそのプレイは流麗の一言。

 視界を閉じ、リズム感にのみ頼ったプレイにも関わらず姿勢は美しく動きは淀みない。

 

「行け! 和亀!」

 

「はいさー!」

 

 追い縋る騎士部を抜き去り、根舞はフリーの位置へと走り込んでいる和亀(わかめ)へとパスを出す。

 

「喰らうさ~! 僕等の必殺”ツナミブースト”!」

 

 決め顔で撃つのは綱海条介の代名詞であり、今では大海原中の代名詞とも言える必殺シュート。

 

「いやどっちに撃ってんの!?」

 

 思わず木曽路がツッコミをいれる。

 何せその先にあるのはゴールではなく、裏波だ。

 ゴールではなく選手。前ではなく後ろ。

 南雲原の面々にしてみれば訳の分からないやり方だった。

 

「和亀お前――――」

 

 裏波の顔があくどいものへと変わる。怒りをぶつけるのかと、そう思われたが、彼が出した答えはそれとは真逆。

 

「そのノリ! さいっこうだな!」

 

「皆でゴール決めるさ~!」

 

「うっしゃらぁ! ノッたぜその大波! 俺も行くぜ!」

 

 裏波もまた”ツナミブースト”を放つ。向かう先はこれまたゴールではなく、根舞の方向。

 

「良いだろう! 俺も乗ろう! ”ツナミブースト”!!」

 

 根舞が撃った先にいるのは芽株だ。

 彼女もまた体勢に入る。

 

「このシュートは~、化身も飲み込める~。名付けて必殺~、必殺~?」

 

「む! そう言えば! 名前をつけていなかったな!」

 

「即興だからさ~」

 

「そうだなァ……名付けるなら――――そう! ”津波大連鎖”!」

 

「そうそう、それそれ~」

 

 四人分の”ツナミブースト”が融合し、ゴールへと向かうのは大津波。

 陣内は”グラビティデザート”の体勢に入るも、拮抗することさえ敵わず。

 

『決まったァーーー! 先制点は大海原中ーーーー!』

 

『出ましたね、大海原中名物の即興戦術(セッション)……。普通なら安定性に欠けるはずなのですが、彼等は一発で成功させてきますからね』

 

 地面を深く抉り、ゴールネットさえも突き破るシュート。

 しかもパス回しのスピードも異常に早く、誰も触れることさえできなかった。

 

「うっそだろ……」

 

「あれが、即興……!?」

 

 その場その場の気分で戦術を変えるチームとは聞いていた。

 事前の作戦を投げ棄て、未知の手法を扱うチームだとは知っていた。

 油断をしていたつもりはない。

 それでも、彼等が作り出す勢いとノリにはついていけない。

 眼で追うことさえも、できなかった。

 

「トゥントゥクトゥントゥクトゥントゥクトゥントゥクトゥントゥクトゥントゥク――――――」

 

 唯一人、忍原来夏を除いては。

 

「――――――オッケー。品乃、準備してる?」

 

「ああ、問題無い」

 

「よっし、それじゃあいっちゃいますか。私達のニュー”フォーム”!」

 

「ああ、”シノライフォーム”のお披露目だ」

 

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