雷門中監督、
思い返すのは、稲妻KFCが稲妻EFCを蹂躙した今日の試合。
その中でも、特に鮮烈だったのは――やはり、あの白髪の少女だ。
(赤袖茉莉……紛れもない逸材か……)
いや、その一言では足りないかもしれない。
サッカー人気が高まり、どこの家庭でも子供にサッカーをやらせることが珍しくなくなった昨今、技術の高い子供は確実に増えている。
必殺技を扱える者も、もはや珍しくはない。
だが、それでも――彼女は群を突き抜けている。
一体、日本のどこを探せば、僅か十歳でプロと同水準の技を扱える者がいるというのか。
才能だけを見れば、世界にだって届く。
十年間無敗を誇る強豪、そのトップチームを率いる乙女の目から見ても、それは疑いようのない事実だった。
雷門は、何をしてでも赤袖茉莉の獲得に動くだろう。
恵まれた家庭環境に生まれ、図抜けた才能を持ち、これからも考え得る最高峰の環境でサッカーを続けていく。
才能があるとされる人間の、そのさらに上澄みにしか開かれない至高の環境。
彼女に用意されているのは、そんな未来だ。
だから。
だからこそ。
「………………チッ」
乙女仙次郎は、赤袖茉莉が気に入らない。
すべてを持っているが故に、勝利が約束されていることを疑いもしない、あの目が。
持たざる人間――あるいは、失ってしまった人間のことなど、最初から視界に入っていないであろう、あの目が。
自身の息子の命を奪った、憎き小僧を連想させる赤袖茉莉が、乙女仙次郎は気に食わなかった。
反吐が出るほどに、憎たらしい。
「チッ。――――いけないな、今日は。よく感情が漏れる日だ……」
らしくない自分の様子に、乙女は思わず言葉を零す。
今日は、どうにも心を揺さぶられることが多い。
そう自嘲しつつ、気持ちに整理をつけるため、もう一つの「気に食わないもの」を胸の奥に嚥下する。
それは、自身と共に試合を観戦していたスカウトマンの態度だ。
嗚昇夜須の息子である鎌瀬は、乙女の目から見てもよく戦っていた。
ホワイトハリケーンを目の当たりにして以降は明らかにパフォーマンスは落ちていたが、それでも最後まで足を止めなかった。
圧倒的な才能差を前に、心が折れてしまう者が多いことを、乙女は嫌というほど知っている。
その点において、最後まで戦い抜いた鎌瀬のメンタルは、確かに評価に値する。
だが、試合終了直後。
父親の表情を見た瞬間、鎌瀬は膝を折った。
おそらくは、絶望したのだろう。
父親を失望させてしまったという事実に。自分の実力の矮小さに。
その姿が、もうこの世にはいない自身の息子と、否応なく重なってしまい。
乙女の胸に、実に不愉快な感覚を齎していた。
ぬくぬくと英才教育を受けて育ったガキは気に入らない。
だが同時に、自分の子供を蔑ろにしてまで他所の子供に熱を上げる親も気に食わない。
それは強豪校の監督としてではなく、かつて父親であった者として、乙女に残されていた僅かな情だった。
(…………いや。私には、もう関係のないことか)
彼が雷門に来ることは、おそらくない。
来たとしても、レギュラーはおろか一軍にも届かない。よくて三軍。
それが雷門中の監督として、多くの才能を見てきた者としての冷静な見解だ。
(私のターゲットは、円堂ハルだけだ)
復讐計画を完遂するまで、あと二年。
息子を失った父親の悔恨は、一時の感情で薄まるほど、甘いものではなかった。