転生者 赤袖茉莉のヴィクトリーロード   作:中二階

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前話でスタメンが12人いました。
しょうもないミスしてごめんなさい


奪い合えリズム!

「…………んぃ?」

 

「どしたの~?」

 

 背中に違和感を感じ、裏波は振り返る。

 ゴールを決めたばかりで、波は間違いなくこちらに来ているはず。

 普通の選手ならそう考える。

 

 しかし長年波と向かい合ってきた彼にはわかる。たった今から、流れが変わる。

 

「……ハッ! 面白ぇじゃねぇの!」

 

「お~、荒波モードォ~」

 

「ああ。こっからは荒れるぜ……」

 

 笛が鳴る。

 南雲原側の攻撃が始まる。

 今回ボールを持ったのは、今まで一切動きを見せなかった品乃だ。

 

 しかし彼は上がってこない。だがもう一人、動きを見せていなかった選手が裏波の前へとやってくる。

 

「おっとぉ?」

 

「悪いけど、貰うよ、その(リズム)

 

「面白れぇ。やってみな!」

 

 サッカーにおいて、ボールを持たない者同士のマッチアップは決して珍しいものではない。

 だがそれらが注目を集めるということはありえない。試合においても最も存在感を放つのはボール、及びそれを持っている選手だ。

 だからきっとサッカーにおいては異例の事態だろう。

 

 ボールを持たない選手同士の一対一が、ここまで注目を集めるということは。

 

『南雲原攻め上がりますが……スローペースですね』

 

『はい。これは恐らく忍原選手と裏波選手の対決の結果にかかっているということでしょう』

 

 誰しもが注目する対決。ボールを持っている選手でさえも目を向けざるを得ないほどの奪い合い。

 

「――――貰った!」

 

「んなにぃ!?」

 

 長いようで短い対決に決着がついたようだ。

 同時に南雲原が一気に動き出す。

 

「行くよ品乃! 皆に指示よろしく!」

 

「任せろ! 必殺タクティクス”シノライフォーム”!」

 

 それは一見従来の”シナノフォーム”に見える。

 品乃がボールを持ち、複数名の選手による一気呵成。

 しかし今回におけるそれは明確に忍原が中心となっている。

 彼女の動きを分析し、チーム全体に指示を送る。今まで南雲原においては雲明が行っていた役割をこの間のみ品乃が一手に引き受ける。

 

「いっかせーん!」

 

「こっちだな!」

 

「あり!?」

 

 柳生を止めるべく裏波に指示を受けた選手があっさりと裏を取られる。

 今まで個性的ながら纏まりのある動きをしていた大海原だったが、今は音程が外れた演奏のようにガタガタだ。

 

「やっべ、チューニング乱れた……」

 

 裏波が悔しげな表情で言葉を漏らす。自身の指示が完全に裏目に出ている。たった一手で彼は自身のリズムが狂わせられたことを悟った。

 

「大海原中の纏まりが消えた……?」

 

「なんで? さっきまであんなに凄かったのに……」

 

「これがあなたの狙っていたこと? 笹波君」

 

 南雲原のベンチに座っていた香澄崎達が満足気な笑みを浮かべている雲明へと視線を向ける。

 質問を受け、彼は頷く。

 

「はい。”シノライフォーム”は忍原先輩が直感で分析したリズムを品乃先輩が理論化し、相手の統率を打ち崩すタクティクス……。敵のリズムを一瞬で看破し、乗りこなす大海原中への対抗策は幾つか考えましたが……やっぱり波を操作してしまうのが一番効きますね」

 

「成程ね。どんな小さな波であっても思い通りに動かなければ乗りこなすことは不可能……」

 

「はい。でも、実際には思い通りに動く波は存在しない。大海原中もすぐに対抗してくるはずです。ですからこれは互いのリズムを奪い合う戦いです!」

 

 それに相手のキーパー上威武を突破できなければ意味がない。

 彼は大海原で唯一波に左右されない不動の男。その実力は雷門の正ゴールキーパー、暖冬夜(だんとうや)にも匹敵する国内屈指のキーパーだ。

 彼を突破することは容易ではない。

 

「ふーん、まあまあやるわ。けどそんだけで勝てるとか思っとるん?」

 

「どうかな? 今にわかるよ! 桜咲!」

 

「おうよ! 見せてやるぜ、俺達の連携シュート!」

 

 空宮と桜咲が同時にボールを蹴り上げる。

 そして二人が飛び上がり、落ちる勢いそのままに力強い蹴りを入れる。

 それはまるで太陽から放たれる雷鳴の如し。

 

「「”稲陽(イナビカリ)”!!!!」」

 

「!? 眩しっ――――」

 

 まるで騎士部が行った”オーバーグロウ”の応用パス。

 しかし光の密度は比にならず、また角度と威力のあるそれに対し、勘だけで対処することは難しい。

 結果上威武は技を出すことすらできず、腕を弾かれゴールを割られる。

 

『ゴーーーール!!!! 南雲原が同点に追いついたァ! そしてここで前半終了です!』

 

 1-1の同点で前半は幕を閉じる。

 互いに譲らぬ熱い展開に会場のボルテージは高まっていく。

 

「陣内、大丈夫か?」

 

「ああ、問題無い」

 

「もう撃たせないから、安心してね!」

 

 

「やっべぇ、南雲原やっべぇ~~~~」

 

「こっちのリズムが前半だけで崩されるなんて、びっくらこいた~」

 

「お前等ビビんなぃ! どんな荒波も越えてきた俺達なら絶対に勝てる! だろぃ?」

 

 

 興奮冷めやらぬまま後半が始まる。

 即座に仕掛ける忍原に対し、裏波もまた応じる。

 ここで逃げるわけにはいかない。波を乗りこなすことが彼等のプライドであるが故に。

 

「今度は俺が貰うぜ!」

 

「あ!」

 

 忍原の逆をつき、裏波が動く。

 そのまま和亀にパスを出し、根舞と芽株の三人の連携でゴールへと迫る。

 

「甘い!」

 

 しかしそこで割り込んできたのが品乃だった。

 他の選手が翻弄されるリズムの波を越え、彼がボールを奪う。

 

「うっそ!?」

 

「マジだ。悪いな、今の俺は君達の直感的なリズムに惑わされることはない! それすらも計算に入れた新必殺技を見せてやろう! ”マトリックスコード”!」

 

 浮かび上がる数式はリズムに乗った相手の動きを乱すための計算されたルートを示す。

 それに沿って動けば、彼等のリズム等簡単に打ち崩せる。

 

「うおおお! 品乃先輩すげぇ!」

 

「木曽路!」

 

「あいよこっちもハイテンポで行きましょー!」

 

 ”ダッシュアクセル”によって隙間を掻い潜り、オフェンス二人にパスを出す。

 稲陽の体勢に入る彼等だが二発目は撃たせまいとディフェンダーによるプレスが迫る。

 

「さっせねぇー! ”ボンバクココナッツ”!」

 

 出現したココヤシの木から落ちてくるココナッツが爆発する。

 その爆風によって連携を阻害された彼等はボールを奪われてしまう。

 

「裏波ー!」

 

「うっしゃ! 任しとけィ! この荒波を乗りこなすぜ即興(セッション)!」

 

『あ~いあ~いさ~!』

 

「即興戦術! ”バナナボート”!」

 

 裏波の後ろに選手が四人。彼等が裏波の指示により、極めて不規則な動きでゴールに迫る。

 

「行かせません! ”ダンシングタートル”!」

 

「おっとこっちだ!」

 

「あれ!?」

 

古道飼が避けられた。続いて迫るのは弁天。

 

「守備の主役は貰った! ”ムラクモトラップ”!」

 

「役者不足だぜィ!」

 

「ごようだごようだ~」

 

 ユラリユラリと荒波に見立てた選手達を次々に交わしていく裏波たち。

 その前に立ちふさがるのは忍原と品乃だ。

 

「行かせん!」

 

「そのリズムも貰っちゃう!」

 

「甘いねぃ……リズムを作るのは俺じゃない、お前等だよぃ」

 

 その言葉通り、裏波が狙っていたのは二人が作るリズムの方だ。

 現実のバナナボートが波に揺られながら進んでいくように迫りくる二人に揺られながら、裏波達は進んでいく。

 簡単に擦り抜けてしまった二人。しかしその表情に悔しさは無い。それどころか狙い通りだと言わんばかりに弧を浮かべた。

 

「確かに君達のノリこなしは素晴らしい。だがサーファーならわかるはずだ。……触れてはいけない大波だって、海には存在するということに」

 

「は――――――!?」

 

 品乃の声を受けた直後。

 裏波達は自分達の前に進撃してくる大嵐を見た。

 

「”スパイラルドローV2”!」

 

『どわああああああ!?』

 

 赤袖茉莉。荒波を引き起こし、海を触れてはならぬものへと書き換えてしまう突風。

 それを受け、”バナナボート”は壊滅する。

 

「行かせねぇ!」

 

 勢いよく突っ込んでくるディフェンダーを視界に捉えた茉莉は急ブレーキ。

 避けるように空中に飛び上がり、そして。

 

「”そよかぜステップV3”!!」

 

 空を蹴って華麗に抜き去った。

 そしてボールを蹴り上げる。

 彼女が撃ってこないならば問題無い。上威武はそう考え、悠然と構えを取る。

 

 しかし。

 

「撃て柳生!」

 

「は!?」

 

「ちょ、桜咲!?」

 

「うるせぇ! 俺等もやるぞ即興セッション! 海に触れてきたのはアイツ等だけじゃねえだろうが!」

 

「……オッケー、乗ったよ!」

 

「俺もだ、行くぜ! ”天空サンダー”!」

 

 放たれた天からの雷撃が降り注ぐ。その軌道上に桜咲と空宮が走り込む。

 当初は不穏な空気も漂った二人だが、現在では信頼のおける仲間だ。

 故に呼吸を合わせられる。

 

「これが俺達三人の超連携シュート!」

 

「喰らいやがれ!」

 

「「”天穹――――稲陽(イナビカリ)”!!!」」

 

 雷撃に更に陽と稲妻が注がれる。

 それは正しく雲を切り裂くドでかいイナズマ。

 

「舐めんな! ”マジン・ザ・ウェイブ”!!」

 

 水で形作られた女型の魔人と竜巻がぶつかり合う。

 このシュートに拮抗する上威武は実に優れたキーパーだ。

 しかしそれでも、勝負は見えていた。

 

「そ、んな……! ぐああああああ!?」

 

 お返しとばかりに、南雲原のシュートはゴールネットを突き破る。

 

「うっしゃあ!」

 

「ナイスシュート!」

 

 逆転弾が炸裂し、桜咲と空宮はガッシリと手を掴み合う。

 その後に走ってきた柳生ともハイタッチを交わした直後。

 試合終了の笛が鳴った。

 

「……勝ったな」

 

「うん、うまく嵌ったね”シノライフォーム”」

 

「お前のリズムのおかげだ」

 

「何言ってんの! あなたの指揮が無かったら無理だったって!」

 

 品乃と忍原は互いを讃え合う。

 その様子を見て、南雲原の面々は安堵の表情を浮かべていた。

 

「良かった、あの二人仲良くなれたみたいですね」

 

「ああ。これで一安心だな」

 

「でも品乃さん良いなぁ……。来夏さんにあんなに褒められて……」

 

「亀雄はまずストーキングを止めようか」

 

「でもこれで全国か……雷門へのリベンジも見えてきたな」

 

「あ、そうじゃん全国!」

 

 南雲原の面々は喜び合う。

 次なる舞台は東京、お台場サッカーガーデン。

 日本全国を勝ち上がってきた強豪を舞台に、より過酷な戦いが幕を上げる。

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