転生者 赤袖茉莉のヴィクトリーロード   作:中二階

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空想エアサッカー

 渋谷スクランブル交差点。

 国内で最も多くの人間が行き交うその中心で、私達は立っている。

 疲れた顔のサラリーマン、気だるげに歩く学生、少し危ない雰囲気を纏うおじさま。

 それぞれに違う気があって、絶え間なく出ては消えを繰り返すそれらを正確に感じ取るだけでも一苦労。だけど秒単位で位置が変動する試合において化身を成立させるにはこれ以上無い特訓方法だと言える。

 

(私がここでやるべきなのは……)

 

 私は木曽路君を観察する。

 彼の周囲を取り巻く気。彼の内側にある気。いずれ化身となるそれを見て、自分の中の気を練り上げる。

 化身使いは他人の中の化身の予兆を感じ取れる。イナズマイレブンGOのストーリーでもそんな描写はあったし、例に漏れず私もそうだ。木曽路君からは確かな予兆を感じる。

 今はまだまだ薄いそれだけど、いずれは彼個人だけで化身を出せるようになるかもしれない、そんな未来を感じさせる。

 

(今木曽路君の中で起きていることを、私もやる……)

 

 だが今すべきは他人の評価よりも自分のことだ。

 私も自分の中に化身を形作る。そしてそれを解き放つようなイメージ……!

 

「……っ」

 

 駄目だ。出ない。気を練ることもできる。放出するイメージも記憶を辿ればいける。

 だけどどうしても具現化しない。もっと根本的な部分で躓いているのかもしれない。どうせ無理かもしれないと考えている自分とか。

 

(そのためのエアサッカー、なのかな)

 

 それに関してはまだわからないというのが正直なところだ。

 サッカーをして何が改善するというのか。だけど笹波君は言っていた。

 

 ――――エアサッカーをする時はできる限り実際の試合をイメージしてください。道端の障害物や通行人を相手選手に見立ててドリブルやパスといった連携で突破していく……。そんな感じでお願いします。

 

(そんなことしたら、妄想が肥大化して現実が見えなくなっちゃうんじゃ……)

 

 あるいはそれが狙い? いや、あの現実主義な一面が強い笹波君に限ってそんなことあるだろうか?

 そんなことを考えつつ、木曽路君の特訓を経過を観察し、指定された時間が訪れた。

 

「じゃ、これからはエアサッカーですね」

 

「そうだね。ここは危ないから、場所を移そうか。どこか行きたいところとかある? 今日一日は好きに使って良いって言われてるけど……」

 

 無論、サボるなとは言われているが。まあ多少の休憩くらいは許されるだろう。

 

「おお! じゃあ原宿で!」

 

「わかった」

 

 そういう訳で原宿にやってきた私達。

 しかしエアサッカーという慣れていないものを始める時には始め方そのものに戸惑うもので。

 

「エアサッカーって、どうやるんだろ?」

 

「え、そりゃあ、エアでサッカーを、こう……」

 

 木曽路君は手をこねくり回す。それがボールを示しているということは何となくわかるんだけど……。

 私達はどっちもエアサッカーのやり方なんてわからないからこそ、首を傾げつつもとりあえず始めてみようということになった。

 

「あれ? 先輩今どっちに蹴りました?」

 

「え? そっち……」

 

 目線が頻繁に移り変わるせいで互いが蹴った方向がよくわからなくなったり。

 

「え? え?」

 

「あ、今一回トラップしてから蹴ろうと思ったんで……」

 

「あ、そうなんだ……」

 

 そもそもどのモーションが蹴りに相当するのかわからなかったり。

 

「ちょ、ちょちょちょ……」

 

「あれ? 木曽路君どこ……?」

 

 そもそもお互いの姿が視認できなかったりと、とにかく大変だ。

 

 それでも続けていくにつれどうにか形にはなっていく。

 そもそもこれは化身共鳴を成立させるための特訓だ。互いにオーラを送り合い、共鳴のためのルートを設置する。

 そのことを念頭に置いておけば何となくのイメージは掴めてくる。

 

「ふっ!」

 

「よっと!」

 

 気を抽出することでボールを生み出して、それをパスで回していく。

 互いの気配を敏感に感じ取り、イメージを維持しながら人々の隙間を縫っていく。

 

「ママー、あの人達変なことしてるー!」

 

「しっ、見ちゃいけません! 指もささない! ほら、行くわよ!」

 

「うわ、何あれウケる」

 

「エアサッカー? 何かキモー……」

 

 ……時折聞こえてくる笑い声には何度も動きを鈍らされる。

 ようやく板についてきたというところで邪魔される。だけどそっちに耳を傾けてしまえば特訓の意味が無い。

 熱くなる顔をどうにか落ち着かせながら、私達は特訓を続ける。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……! ちょっと、休憩しましょ」

 

「う、うん……。それは良いけど、早くは離れようよ……」

 

 動きを止めれば一気に羞恥心がやってくる。私達は急いでその場を去り、近くのカフェに入る。

 そこは雷門に居たころ、時々ナオと一緒に行っていたカフェだった。

 

「この特訓、本当に意味あるのかな……?」

 

 アイスコーヒーで一息ついた途端に私の口から弱音が漏れ出す。

 雲明君の特訓は今までもきつかったけど、正直今回のは比にならないくらいキツい。主に精神面の方で。

 

「今まで雲明の特訓に意味無かったことないですし。偶に言葉足らずですけど……アイツが奇抜な方法を取るのなんて今に始まったことじゃないでしょ?」

 

「それは、そうなんだけど……」

 

 これは本当に恥ずかしい。下手をすればSNSなんかに挙げられちゃうかもしれない。そうなるとまた世間から嘲笑されることになってしまう。

 

「頑張りましょ、先輩! 今が殻を破るチャンスじゃないですか!」

 

「うん……」

 

 確かに木曽路君の言う通りだと思う。これを乗り越えられれば、私はようやく一歩を進めるかもしれない。

 だけどその一歩がとてつもなく重い。

 

「ほら、この特訓を完成させれば化身だけじゃなくて新技とか連携技もできちゃったりして!」

 

「連携技……」

 

「そうですよ! ”春雷”とか”稲陽”みたいなカッコイイ必殺技! 欲しくありません?」

 

「それは、確かに」

 

「でしょ? 俺達で作っちゃいましょうよ! そんで雲明たちを驚かせるんです! そうすれば、少しは恥のかきがいもあるってもんでしょ!」

 

 はっきり言って気休めだとは思うが確かにそれは良いアイデアかもしれない。

 私もこんな特訓を課してきた笹波君を一泡吹かせたい気持ちはある。

 

「それにもうここは妄想ですから! 幾らでも凄い選手になれますよ!」

 

「……そっか。そうだね。なっちゃおうか、ファンタジスタに」

 

「はい! なりましょう、ファンタジスタに!」

 

 ◆

 

「……それで、二人はファンタジスタになれたんですか?」

 

「いやぁ……?」

 

「どうだろ……」

 

 夕方。特訓を終えて戻ってきた後の報告を聞いて、笹波君は訝しげな視線を向けてくる。

 原宿からお台場までの約14kmをエアサッカーで帰ってきた私達はどこかハイになっていた。

 最初こそ奇異の視線で見られて恥ずかしかったが、最後の方には一周回ってそういうのが気にならなくなってきた。

 頭の中にある理想を描くようなプレイを空想し、疲労困憊ながらもここまでやってきた私達の火照りを彼は一瞬で冷ましてくる。

 

「でもほら雲明、先輩との連携はそれなりの形になったっていうか……」

 

「連携技のイメージとかは何となく掴めてきたような気がしなくもないっていうか……」

 

「化身は?」

 

「「………………まあ、そこそこ?」」

 

「なんで疑問形なんですか」

 

 そうは言われても正直な話、実感は無い。

 まだまだ互いに魔人を形成するには遠い。だけど木曽路君には確かな予兆があった。

 そのことは伝えておく。

 

「成程。よくわかりました。二人共、今日はもう休んで良いですよ」

 

「本当か? 怒ってないのか?」

 

「別に最初から怒るつもりなんて無いよ。そもそもイメージの共有をしてほしいって言ったのは僕なんだし」

 

「そっか、良かった~」

 

 私もホッとする。正直笹波君は普段の表情の変化が乏しいから感情が分かりづらい。

 

「今日培った感覚は忘れないでくださいね。明日は尾刈斗中と練習試合がありますから」

 

「尾刈斗中?」

 

 懐かしい名前が出てきた。

 去年戦った学校で呪術や儀式の授業があるという特殊な学校。在籍する生徒もホラーな雰囲気を纏っている者が多く、本当に学校なのかどうかも疑わしい部分も散見されるが、中身は真っ当な学校らしい。

 

「尾刈斗中は予選で敗退こそしていますが、決して弱いチームじゃない。油断は無しでお願いしますよ」

 

「うん、わかった」

 

「それから次回の試合では絶対にどちらかが化身を出してください」

 

「え? 明日すぐに!?」

 

「そうでもしないと間に合わないし、特訓の意味も無いよ。それに木曽路なら大丈夫。きっと出せる」

 

「そうかなぁ……」

 

 項垂れる木曽路君。今日のところはちゃんとご飯を食べて、ゆっくり寝た。

 そして翌日。

 

「ケヒヒヒ! 南雲原、南雲原だなァ!」

 

「へぇ、コイツ等が俺等を差し置いて全国出てるぽっと出? そんなに強いの?」

 

「いけませんよ芯陣(しんじん)。人を見た目で判断しては」

 

 南雲原に用意された練習グラウンドへやってきたのは個性豊かな面々だ。

 眼が四つ存在しているかのようなフェイスペイントをした男子や何故か顔にツギハギのある男子、眼が細く植物を体に巻き付けているガタイの良い女子等相変わらずな選手が揃っている。

 

「言ってくれるじゃねーか」

 

「ここは全国出場のチームのレベルって奴を教えてあげないとだね」

 

 『南雲原』

 

 桜咲-空宮-忍原

 木曽路-柳生-品乃-赤袖

 古道飼-騎士部-幕下

 陣内

 

『尾刈斗』

 

 空那-芯陣

 情吾-惰言-気凍-英実

 硬街-剣寂-浦楳-蝶葬

 指揺

 

「それでは、試合開始!」

 

 千乃さんの掛け声と共に試合が始まる。

 同時に早速尾刈斗が仕掛けてくる。

 

「ウチとやるってことはコレがお望みなんでしょ?」

 

「いきますよ、”ゴーストバインド”!」

 

「……来た!」

 

 唐突に足が動かなくなる。円堂守世代から存在している必殺タクティクス”ゴーストロック”。

 それから二十五年の時を経て、大きく進化を遂げたのが”ゴーストバインド”だ。

 これは催眠術で選手を動きを固定する旧式とは違い、もう一つ種がある。

 

「足が動かない……?」

 

「ちょ、どうなってんのこれ!」

 

(実体化したオーラによる強制拘束!)

 

 足元で揺蕩う薄暗いオーラ。まるで化身を構成する一部を抽出したかのようなそれはまるで私達を祟るかのように鈍重さを付与してくる。

 しかしこれには対処法がある。オーラによる攻撃には気を強く持つことが大前提だ。

 

(この練習試合は化身を生み出すだけじゃなくて、京前嵐山の戦法に抵抗するための特訓……!)

 

 笹波君からはある程度の情報を渡されている。

 皆が自身の気持ちを強く持つ。そうすれば必然的に皆の中にある『気』も色濃くなっていくわけで。

 

「木曽路、先輩! 今です!」

 

「「ハァ――――…………!」」

 

 大丈夫。()()()()()()()()は勝てる相手だ。一度勝っている相手だ。

 それなら恐れることは何も無い。はずだ。

 

「……あ!」

 

 私の背中からオーラが溢れ出る。横目では木曽路君にも同じようにオーラが出ていた。

 まだまだ未完成。化身ではなくオーラの塊、あるいは奔流としか言えない。

 それでも確かに一歩進んでいると実感できる。

 

「あれが、化身……」

 

「いいえ、あれはまだプロトタイプ……。実際に実戦で扱って、尚且つ共鳴させるには足りない」

 

「だけど大きい一歩ですよ!」

 

「はい。今日はこのままガンガン行きましょう!」

 

 私と木曽路君は化身を意識し、他のメンバーは基礎能力向上に努める。

 練習試合は2-0で南雲原の勝ち。

 

 そして遂に、私達は本番を迎える。

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