雷門中学。少年サッカー日本一を決める大会、フットボールフロンティアにて十年もの間無敗を誇るまさしく王者。
そんな学校のサッカー部に所属することを願う者は多い。
しかし進学してから入学を希望する者達の多くは二軍で打ち止めとなる。
一軍まで行くような選手は国内でもごく一部。全国からかき集められたエリート選手ばかりだ。
そしてその中に私もいる。
まあ当然のことだ。私は生まれて一度も敗けたことがない。
どんな必殺技だって少し見れば習得できる。流石に雷門中の一軍ともなれば簡単には倒せないけれど、それでも私がレギュラーでも頂点に立つ才能の持ち主であるということはすぐにわかった。
「止める!」
現在私とマッチアップしているのは三年生のレギュラーディフェンダー。
中でも司令塔としてディフェンス陣を纏め上げている彼は、私と向かい合っている姿を見るだけでも相当に優れた選手だとわかる。
対応のための一歩を即座に踏み出せるような体勢を作る重心の置き方。私一人ではなく、フォローに来るであろう選手にまで目を光らせるような目線の動き。
全てが高次元。だがしかし、私はその程度では止められない。
「無理です。”そよかぜステップ”」
私は先輩が対応するよりも早く、一気に加速する。
そしてそのまま風を生み出し回転。先輩を抜き去った。
「なっ!?」
周囲から驚きの声があがる。
どれもが新人選手の練習を見学に来たギャラリー達。
こういう声は本当に心地いい。
「行かせるか!」
「中々やるねぇ新入りちゃん。けど、流石にこのままじゃ終われないんでね」
抜き去ったその瞬間に二人が割り込んでくる。
私と距離の近い人がそのままスライディングに、そして後方の人は既に必殺技の体勢に入っている。これを抜き去るのは流石に無理だ。
だったら――――。
「このままぶち抜く」
「やってみな!」
スライディングを飛んで躱し、そのままシュートに移行する。
しかし相手が技を出すタイミングの方が早かった。
「”シューティングスター”!」
浮いた状態を狩る気満々のディフェンス。
どこぞの仮面をつけたライダーが必殺技を放つ時のような姿勢で急接近してくる。早い。
このままでは奪われる。普通の選手なら。
「ほっ」
「はぁ!?」
キーパーから驚嘆の声があがった。
別に複雑なことはしていない。ただ”シューティングスター”を避けるために浮いた状態でボールを浮かせて、また空中でトラップしただけ。
ホッピングトリックというある程度の実力がある選手ならば誰でもやっていることだ。
「君、滞空時間どうなってんの……?」
「別に普通……! ”ドラゴンブラスター”!」
白い竜と共に放つ必殺シュート。
それは勢いそのまま、一直線にゴールへと飛んでいく。
「させるか! ”バーニングキャッチ”! ……うわぁぁぁあああああ!!!!!!」
キーパーは炎を纏った右手で応戦する。多少なりとも持ちこたえられたりはしたものの、奮闘虚しくボールはネットに突き刺さった。
「よし」
「茉莉ちゃんナイスシュート!」
後ろから来るナオの声援に応えると同時、周囲からも感嘆の声があがった。
ここにいる人達はそう易々と褒めたりはしない。勿論行き過ぎた否定はせず、きちんと次に繋がる批評をしてくれる人達ばかりではあるが、それでもかなり目は肥えている。
そんな人達でさえ、私のプレーには驚きを隠せないらしい。ついうっかり漏らしてしまったとでも言いたげな様子を見ていると、かなりの満足感に包まれる。
雷門は良い学校だ。
設備も一流、私をスカウトした夜須さんと始めとしたスタッフも一流。
最新テクノロジーでイメージとのズレも即座に修正できる。
これ以上の環境は絶対に無い、王者が存分に刃を砥ぐための宮殿だ。
(そろそろ化身を出したい……)
自陣に戻りながら、私は次のステップのことを考える。
これまでは必殺技の習得に時間を費やしてきたけど、いい加減飽きてきた。
勿論まだまだ習得できていない技はある。だけど新環境にも慣れてきたことだし、やってみるのも良いだろう。
「ねえコーチ」
「ん? どうした?」
「私、化身を出したいんですけど」
「化身を?」
「はい。特訓して良いですよね?」
断られるはずがない。だって化身は通常の必殺技よりも遥かな威力が出せるのだから。
雷門には現在一人も化身使いがいない。戦力強化としては十分なはずだ。
「…………いや、まだ早いんじゃないか? 化身は負担も大きいし、もっとしっかり体を作ってからだな」
「体ならもうできてます。少しやれば習得できます」
「そうは言っても君、一度の消耗が半端じゃないんだぞ? 試合中に怪我でもされたら……」
「良いじゃないですか、やらせてみれば」
中々首を縦に振ってくれないコーチを見かねたのか、もう一人が私に味方してくれた。
私をスカウトした嗚昇さんはコーチの前に立ち、私の肩に手を置く。
「この子は天才です。それも過去に一切の例が無いレベルのね。きっと簡単にできてしまうでしょう」
「それについては同意しますよ。ですが赤袖にはまだまだ課題も多い。ここで化身を出して調子に乗ってしまえば本人のためになりません。まずはしっかりと体作り。そして練習試合等を通して、メンタルを鍛えていくべきです」
「全部備わっていますよ。三年生相手に欠片も緊張していないじゃありませんか」
「それはそうですが、それだけでは完全とは……この子は、少し傲慢すぎますよ」
「私は国内一部リーグでプレイした実績があるんですよ? その私が言うのですからきっと大丈夫です!」
……なんか言い争いみたいな雰囲気になってきた。
先輩や同級生達が見てる。こういうので注目を浴びるのも……まあ悪くはないか。
だけど化身の練習はしたい。地味な基礎トレはもう嫌だ。泥まみれになって体力づくりとか、正直ダサい。
イナズマイレブンという超次元な世界にやってきたのだから、超次元レベルなことをさせてほしい。
「それじゃあ私は行きますね」
「ああ! 俺が見てやろう」
「ちょっ、嗚昇さん困ります! そんな一人を贔屓するような…………!」
コーチは騒いでるけど、もう良いや。
私は嗚昇さんと一緒に別棟へと向かう。
そしてその日のうちに、私は化身を出した。
◆
「ああもう! ……すまない。皆はとにかく練習を続けてくれ! キャプテン、頼んだぞ!」
コーチが頭を抱えている。しかしすぐに持ち直し、選手達に指示を飛ばす。
キャプテンである三年生が指揮を執り、即座に練習は再開された。
(凄い奴が入ってきたな……)
一年生の
赤袖茉莉。彼女は正に天才だ。どんなに凄い技術も即座に吸収する。女子でありながらフィジカルも強い。特にスピードとバネはもう既に一線級だ。もしやすると世界にも通じるかもしれない。
蓮とて才能があると言われてスカウトされたし、実際自分にはそう言われるだけの実力があると自負している。いつかキャプテンマークをつけるのだという強い意志を持ち、胸を張ってそう言えるだけの鍛錬を積んできた。
しかし、茉莉はそんな蓮を遥かに超えていると言わざるを得なかった。既に幾つの技が使えるのだろうか。
大人達が夢中になるもの、正直納得だ。
納得、なのだが。
「チッ……」
どこからか舌打ちが聞こえてきた。
見れば皆、どこか不満そうな顔をしている。
雷門は実力主義だ。同時に、そんな場所にやってくる選手達のプライドも相当なもの。
みっともないため口に出しはしないが、それでも鬱憤は溜まっているのだろう。
ましてや目の前で堂々と依怙贔屓をされては良い気持ちになるはずがない。
(大丈夫、なのか……?)
頭に過る不穏な感覚。
しかし今は雑念でしかないそれを振り払い、蓮は練習に励むのだった。