転生者 赤袖茉莉のヴィクトリーロード   作:中二階

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今回と次回と次々回の話はかなり長いです


余裕というのは嵐の前に

 フットボールフロンティアを勝ち抜くのは実に簡単だった。

 東京都はAとBで二つのブロックに別れている。

 中でも私達雷門イレブンが出場するブロックはかなりの競争率を誇るブロックだ。

 

 雷門と長年のライバル関係を築き上げている帝国学園。

 催眠術を扱い、こちらの動きを大きく乱してくる尾刈斗(おかると)中。

 高いフィジカルを有し、三次元的な動きが特徴的な野生(のせ)中。

 

 他にも多様な強豪校が振るって出場してくる。

 だが私達はその全てを蹴散らして決勝大会にまで駒を進めた。

 彼等は確かに強かった。だけど『強い』程度で雷門を、この私を止められるはずがない。

 様々な技に化身までもを習得した私は正に向かうところ敵無し。

 決勝大会でも私に歯が立つような相手はおらず。

 

『長きに渡る少年たちの熱き戦いも終幕が迫っております! 九年無敗の王者、雷門中! 相対するは化身を従え、敵を蹴散らしてきた古豪、京前嵐山中!』

 

『どちらも強豪として君臨してきた学校です。今回もいい試合が見られそうですね』

 

『しかし雷門にも化身使いがいますからねぇ。【天空に愛された絶対神】赤袖茉莉。彼女は初出場の一年生ながら、今大会で既にすさまじい成績を残しています!』

 

『確かに。何にせよ、目が離せない戦いとなるでしょう』

 

 全国大会決勝戦。私は既に勝った後の取材でどう答えるか、そればかりを考えていた。

 

「皆、いよいよ決勝戦だ。相手は京前嵐山……。化身を軸に攻めてくる厄介な相手だが、私は皆なら勝てると信じているよ」

 

 試合前、ベンチに集合した私達に乙女監督はそう告げる。

 私はこの人が少し苦手だ。レギュラーということもあって、それなりに話す機会はあった。

 だがこの人はいつも薄い笑みを崩さない。他の大人達と違って、私を強く褒めるでもなく、出る杭は打たれるとばかりに突っかかってくるわけでもない。

 ただただ、笑みを浮かべて会話するだけ。

 試合中も何か指示をするでもなく、全てキャプテンに一任している。最もレギュラー全員の練習メニューを総括しているのは監督らしいので、普通に有能な人なのだろう。

 私はやりたいことを優先していたから余りやってないけど。そんなことしなくても勝てるし。

 

「それでは満作君、頑張ってね」

 

「はい! 京前嵐山は強敵だ。絶対に油断はできない。だが俺達は王者雷門だ! 今大会も絶対に優勝するぞ! 皆、力を貸してくれ!」

 

『おう!』

 

「……おーう」

 

 暑苦しいなぁ……。

 こういう掛け声みたいなの苦手だ。いちいち気合なんていれなくても勝てるのに。

 

「茉莉ちゃん、頑張ってね!」

 

「唯一の一年生のスタメンだ。頼んだぞ」

 

「大丈夫。私がいるし、どうせ勝つよ」

 

 ベンチに座っているナオや月影蓮君に手を振り、私はフィールドへと向かう。

 決勝戦だけあって観客は多い。ここで活躍すればきっと盛り上がるだろう。

 今日は何点決められるかな。最後はやっぱり化身で。

 

 そんなことを考えながら、笛を鳴るのを待つ。

 

 『雷門』

 

 野神-嵐-伊那森

 満作-赤袖-樋浦

 緋選-八鳥-遠野-巌兎

 宇美原

 

 『京前嵐山』

 

 拝崎-市保志

 西柿-亀田-水上谷-阿諭

 景昌-凪-屋城-亥佐木

 臥画

 

『それでは、フットボールフロンティア決勝戦! 試合開始です!』

 

 笛が鳴った。伊那森先輩にボールが渡り、試合は始まる。

 雷門のスタイルは連携を行いつつも、個の力で点を取るチーム。それは化身戦術を扱う京前嵐山も似たようなものなのだが……。

 

「”イナビカリダッシュ”!」

 

「ぐわぁ!」

 

 私達とは質が違う。

 彼等も決して悪くは無いのだろうが、それだけだ。

 

「させるか!」

 

「おっと、嵐、頼んだぞ!」

 

「うっす!」

 

 複数人に囲まれた伊那森先輩が嵐先輩にパスを出す。

 威力もコントロールも申し分ないそれはカットされることなく嵐先輩の脚に収まった。

 

「行くぜ! ”バハムートクラァッシュ”!」

 

 黒い竜が咆哮し、砲雷と共にシュートが放たれる。

 

「”明鏡止水”……うわあぁあ!」

 

 入った。早速先制、1-0だ。

 

『決まったーーーー! 開始早々、雷門の嵐大祐が先制点を挙げたーーーーー!』

 

『あっという間でしたね……!』

 

 

「くそっ……!」

 

「これが王者雷門か……っ」

 

 京前嵐山の選手達は先輩達の力に唖然としている。

 だけどこんなので驚いているようじゃ先が思いやられる。

 まだまだ雷門は本気を出していない。

 

「取り返すぞ!」

 

 京前嵐山のボールからリスタート。

 向こうはなりふり構っていられないと判断したらしい。

 前半開始早々にそれは現れた。

 

「うおおおお! ”黒き翼レイブン”!」

 

『出たぁぁああ! 京前嵐山キャプテン拝崎(はいざき)の化身です!』

 

『早いですね……京前嵐山にはあれがあるとはいえ、体力が心配になります』

 

 灰色の髪の人が出したのはワタリガラスを彷彿とさせる巨大な超人。

 ゲームだと帝国学園のシードが使ってきた化身だが、この時代ではこっちが使ってくるのか。

 

「テメェ等、さっきはやってくれたなぁ! この俺が倍返しにしてやるぜェ!」

 

「来るぞ! 守りを固めろ!」

 

「無駄だ烏合共ォ!」

 

「ぐっ……!」

 

 拝崎という名の選手は凄まじい勢いでゴールへと進撃していく。

 流石に真正面と化身で当たるのは厳しいか。

 なら私の出番だ。

 

「来たか、雷門の化身使い!」

 

「うん、来たよ」

 

 私は目を閉じ、体内のオーラを外部へと解き放つ。

 背中から出てくる青黒のオーラは形を成し、巨大な女神の姿へと変わる。

 

「”大空の神ムスビ”!」

 

『出ました! 赤袖茉莉の化身、”大空の神ムスビ”!』

 

『今大会中、毎試合に顕現した化身です。対策は済んでいるのでしょうか?』

 

『しかしまだ一度も化身技を見せていません。底の見えない神に拝崎はどう立ち向かうのか!?』

 

「はっ、んな白っちい化身で、俺のレイブンが倒せるか! 真正面から潰すに決まってんだろ!」

 

 拝崎さんは飛び上がり、化身が爪を振り下ろすと共にシュートを放つ。

 

「吹き飛びやがれ! ”レイジングクロォォォォォォオッ”!」

 

 黒いオーラを纏ったシュートが眼前に迫る。

 だが慌てない。慌てる様子なんて微塵も無い。

 

「よっ!」

 

「なぁッ!?」

 

 こんなもの、撃ち返せば良いだけだ。

 

「っっと!」

 

『な、なんとぉおおおお! 赤袖茉莉、化身技を使わずに相手の化身シュートを打ち返し、そのままゴールを決めたァアアアア!』

 

「え、嘘。決まっちゃった?」

 

 あちゃ。ただ返すだけのつもりだったんだけど、まあ良いか。

 これで2-0だ。

 

「はっ……冗談だろ?」

 

 残念ながら冗談じゃない。

 まだわかっていないようなら、もっと教えてあげよう。

 もう一人の化身使いも、私が倒す。

 

 

『ここで前半終了! スコアは4-0! 大会頂点を決める大会でまさかの雷門圧倒的優勢です!』

 

『驚きましたね……。まさかここまでとは。しかも雷門側にはまだまだ余裕がありそうです』

 

 京前嵐山の空気は重い。

 前半が終了してのハーフタイム。

 普通ならば前半の反省点を踏まえ、作戦を修正等を行うはずなのだが、彼等にはそのような余裕は無かった。

 

「……拝崎、大丈夫か?」

 

「ハァ、ハァ、ハァ……! クソッ……!」

 

 エースストライカーである拝崎はまだ試合の半分が過ぎた段階であるというのに、体力の限界を迎えていた。

 元より化身は体力の消耗が激しい諸刃の剣だ。しかし京前嵐山とてそんなリスクは百も承知。

 それでも化身を戦術の軸にしている彼等は体力の配分には相当に気を使っている。対策も打ってある。

 今回も、決して無茶な勝負は仕掛けていないはずだ。

 

 にも関わらず拝崎ともう一人の化身使い、阿諭(あろん)はこぞって体力を消耗している。

 その理由はただ一つ。雷門が強すぎたためだ。

 

「赤袖の野郎……!」

 

 拝崎は忌々しげに涼しい顔をしている白髪の少女を睨む。

 プライドの高い彼にとって、一年坊主に敗けることは耐えがたい屈辱だ。

 拝崎だけではない。京前嵐山の誰もが強豪故の強い誇りを持っている。

 すぐにやりかえしてやりたい。だがそんな余裕はどこにもない。イメージも湧かない。雷門の力は圧倒的だ。

 

 そのような精神的な摩耗が、彼等の疲労の大きな原因だった。

 

「雷門は全員ヤバいってのはわかってたつもりだが……! 赤袖茉莉は別格だ……!」

 

「ああ……。俺の”獣王レオン”も、全く通用しなかった……! 情けないが、もう俺は試合に出られそうにない……」

 

「どうする? 化身が通じないんじゃ手の打ちようが……!」

 

 京前嵐山には早くも敗北のムードが漂っていた。

 こういう時、彼等が真っ先に頼るべきは監督だ。

 しかし監督、枯薄(かれすすき)月丸(つきまる)もまた、己が愛する化身がまるで通用しなかった現実に打ちのめされ、半ば勝負を投げている状態だ。

 

「終わりだ……。向こうも化身を使える選手がいるとは言え、まさかここまで何もできないなんて……」

 

「ちょっ、監督……!」

 

 最早監督は役に立たず、阿諭と交代するべき控え選手も戦意を失っている。

 実力でも、気持ちでも敗けている彼等に、雷門に対抗する術は無い。

 しかし、ただ一人。

 雷門の実力を前にして、闘志を失わない者がいた。

 

「…………誰も行かないなら、俺に行かせてくれませんか」

 

「……?」

 

 一人の控えに全員の視線が集まる。

 

「嗚昇……?」

 

「どいつもこいつも、もう試合を投げ出そうとしてる。……見てられないんですよ。まだ時間はあるっていうのに」

 

「いや、お前見てなかったのか? 雷門の実力は――――」

 

「見てましたよ。赤袖を筆頭に化け物だらけ……。けどだから何なんすか? このまま敗けを認めて蹂躙されるんですか? そんなの俺は御免だ」

 

 余りにも無謀で、余りにも身の程知らずな発言だった。

 嗚昇鎌瀬。この場にいる全員が彼のことを知っている。

 東京のサッカークラブでプレイした後、祖母に実家がある京都の京前嵐山に入学した一年生。

 誰よりも必死に練習するものの、才能は平凡な部類に入る選手だ。

 はっきり言って、雷門に敵うような選手じゃない。

 

 しかし、この場で誰よりも戦う意志を持っているのも、また彼だった。

 

「監督。俺を試合に出してください。絶対に勝ってみせますから」

 

「…………まあ、別に良いんじゃないか?」

 

「ちょっ、監督! んな投げやりな……!」

 

「ありがとうございます!」

 

 選手達はそれぞれ目を合わせあう。

 阿諭は不満な様子を見せなかったため、そのまま鎌瀬が交代で出場することとなった。

 

 そしてこの選択が。

 既に決まったかと思われたこの試合に、波乱を巻き起こすこととなる。

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