転生者 赤袖茉莉のヴィクトリーロード   作:中二階

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転生者 赤袖茉莉のヴィクトリーロード
茉莉の特訓


 笹波雲明はヤバい。

 サッカー部に所属して僅か一日の間で、私が思ったことだ。

 

 まず初日。

 顧問の先生がいないがために、まだサッカー部の正式な部活申請ができない問題を私達は解決しなければいけなかった。

 そのために笹波君が出した案は部活のリストラだった。私の心は重傷を負った。

 

 しかもそのために取った行動がヤバいのなんの。

 星空観賞クラブと宇宙研究会を合併させるため、彼等に対して向けられるえげつない勢いのパンチラインをぶちかまし、なんかいい具合に両クラブは合併に同意させた。因みにこの時点で互いクラブ顧問は合併のこと知らない状態だ。

 更にそこから旧星空観賞クラブの顧問であり、一年生の担任でもある香澄崎(かすみざき)栄子(えいこ)先生を強引に自分達の顧問にしてしまった。

 自分が担当していたクラブは消滅したことを知った彼女の驚天動地具合はとんでもないもので、流石に同情しそうになった。

 

 しかも四川堂(しせんどう)君や木曽路(きそじ)君によれば、他にも心臓が弱いのにも関わらず忍原さんにダンス勝負を挑んだりだとか、サッカー部の問題を解決するため半グレ集団に自分達だけで喧嘩を売りに行ったりだとか、聞けば聞くほどとんでもないエピソードがポンポン出てくる。

 やっぱり何かを立ち上げるような人間はこのくらいの行動力が無ければ駄目なのか、と感心すらしてしまった。

 

 木曽路君は彼をレスバモンスターと称していたが、全く以て正しい認識だと思う。

 

 だが戦々恐々としていた私、及びサッカー部の下にトラブルが舞い込んできた。

 それは生徒会長の千乃(せんの)妃花(ひめか)さんによって齎されたものだった。

 

 副会長である四川堂君曰く。

 彼女は世間の評判には流されず、自分自身の考えでのみ動く人であるらしい。

 そして彼女に認められなければ、例え顧問の先生がいようとも、サッカー部が正式な部活となることはできないらしい。

 そんなことたかが生徒会が決めて良いものじゃないと思うが、どうやらそれにも理由があるのだとか。

 

「あー……」

 

「ん? どうした赤袖」

 

「……その手の話聞いたことあるなって思って……」

 

「それって、雷門で、ですか?」

 

「……うん。多分千乃さんって、この学校の理事長でもあったりしない?」

 

「あら、知っていたのね。どこから情報が漏れたのかしら。ねえ、四川堂君に百道(ももち)さん?」

 

 丁度その時、千乃会長が部室(という名の体育倉庫)に入ってきた。

 彼女は私を一瞥し、その後四川堂君と百道さんを睨みつける。

 

「い、いえ! 僕は別に……!」

 

「わ、私もです!」

 

「あらそうなの?」

 

「……私が前にいた学校の理事長も、似たようなことしてたって話を聞いたことがあったから……」

 

「ふーん、そう」

 

 怪しそうにこっちを見てくるが、実際これは雷門でも有名な話だ。

 何にせよ、千乃さんに認められなければならない理由が周囲に共有された。

 笹波君はサッカー部の問題が解決したことを引き合いに出すが、桜咲君の問題行動や他ならぬ笹波君自身のハラスメント発言が問題視されていたことを理由に反論された。

 因果応報、というやつだ。私も人の事は言えないけど。

 

「どうすればサッカー部を認めてもらえるんですか?」

 

「フットボールフロンティアを知っていますね? サッカー日本一を決める大型大会。そこに出場登録を済ませておきました。この大会で、必ず初戦を勝ち抜くこと。それがサッカー部を正式に認める条件です」

 

 初戦の相手は西ノ宮中。

 南雲原とは学業と部活動の両面において、古くからライバル関係にあるのだとか。

 よくわからないが、この戦いには南雲原の威信(プライド)が関わってくるらしい。

 そこで勝利を収めることができれば、文武両道を掲げる南雲原中の部活として相応しいと認められるのだとか。

 

「プライド、誇り、誰かに敗けたくないという気持ち。それらがあるから人は人として在ることができる……。あなた方が野球部に挑戦した時のような姿勢を、私に見せて頂戴」

 

「……わかりました。フットボールフロンティア一回戦、必ず勝ち抜いてみせます」

 

 そんな感じで、サッカー部の進退を賭けた戦いが決まった。

 敗ければ廃部。何と言うか、イナズマイレブンらしくなってきたと思った。

 

 

 

 

 というわけで、そもそもの人数が足りないサッカー部の入部テストを行うことになった。

 現在メンバーは笹波君を抜いて七人。控え選手をいれて、最低でも残り九人は必要だと思っていたのだが、どうやら笹波君は十一人以上のメンバーを加入させるつもりはないらしい。

 少ない日数で戦術を練るためには人数は最小限にしなければならないのだとか。

 

 なので加入メンバーには強い意志とそれなり以上の実力が必要になる。

 そのための面接、そして実技テストを行うとのことだったのだが。

 

「私は一人造船所跡で特訓、か……」

 

 笹波君曰く、早急にブランクを取り戻して貰わないと困る、とのこと。

 勿論、私だって偉そうに選考ができる立場じゃないことは理解している。

 西ノ宮中はそこまで強い学校ではないようだが、それでも必殺技を扱える程度には実力がある。

 半年以上サッカーをしていなかった私の通常シュートじゃ破れない。

 まずは基礎トレと並行してある程度勘を取り戻し、もう一度必殺技を扱えるようにならなければ。

 

「笹波君が送ってくれた動画ファイルは……西ノ宮中と、雷門にいたころの私……?」

 

 試合までに私が思い出すべき技の映像が添付され、それらに優先度がつけられている。

 今回優先度が高いのはディフェンス技やドリブルといった後ろ~中盤で活用するものが中心だった。

 きっと西ノ宮の技に対抗できるものなのだろう。

 

「それで、基礎特訓メニューは…………うへぇ……」

 

 キツい。これは、かなりキツい。

 内容は実にシンプル。故に誤魔化しがきかない奴だ。

 

「……でも、やらなきゃ……!」

 

 頬を叩いて気合を入れる。

 こんな私を求めてくれた笹波君を、失望させるわけにはいかない。

 

 ここには無造作に放り出されているタイヤや百道さん特性のドローンにロボットが設置されている。

 これら全てが私の特訓のための道具。フルに活用して、少しでも皆の役に立てるようにならないといけない。

 

「……よしっ!」

 

 特訓が始まった。

 まずはリフティング。とにもかくにも嫌われたボールと慣れ親しまないことには始まらない。

 一度につき百回、それを最初のみ三セット。落としたら当然やり直し。これは特訓の合間にも行う。

 

 続いてタイヤ引き。今の私に一番足りないものは体力だ。

 ロボットと競い合うような形でタイヤを引いて、スタミナの向上とペース配分を知らなければならない。

 これを往復三回三セット。終わったら休憩。

 

 リフティングを行い、続いてジグザグドリブル。

 雷門にいた頃にやっていたものとさして変わらないが、障害物はコーンではなくふよふよと浮いているドローンなので少々難易度が高い。

 とにかくボールに触れて触れて触れまくる。

 

 リフティングの後、パス特訓。

 吊るされたタイヤの向こうにいるロボットに向かってパスを出す。

 なお、この時に必ずタイヤの穴を通さなければならない。蹴る位置は常に変動する。

 受け手の位置も常に変わるので、ボールの軌道だけでなく威力にもこだわらないといけない。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……!」

 

 わかってはいたけどやっぱりキツい。

 基礎トレってこんなに大変だったっけ……?

 

(鎌瀬はこれを毎日、あんなにやってたんだ……)

 

 だけど大分勘は戻ってきた気がする。

 昨日は散々だったコントロールも、今日は随分マシに思える。

 このままやっていこう。

 

(キツいけど、楽しい……!)

 

 笹波君によって掘り起こされた、いつからか忘れてしまっていたこの感覚。

 その流れに、身を任せ、私はドリブルを開始した。

 

「”そよかぜステップ”!」

 

 …………できた。いや、思い出した。

 穏やかな風に乗って華麗に敵を抜き去るドリブル技、”そよかぜステップ”。

 この技は松風天馬選手が楽しいサッカーを取り戻すために、初めて編み出した必殺技だ。

 

 楽しい。その気持ちが何よりも大事な技。

 それを取り戻せたことが、私はとても嬉しかった。

 

「よっし……!」

 

 まだ笹波君からの連絡は来ていない。

 来るまで特訓しろとのお達しだし、まだまだやっていこう。

 

「ふっ!」

 

 まだまだ!

 

「……ふぅ!」

 

 まだまだ。

 

「……ふぅ、ふぅ…………」

 

 まだまだ…………。

 

「……ゼェ、ゼェ……」

 

 まだ、まだ…………。

 

「……………………まだ?」

 

 一向に連絡がこない。

 適宜休憩を挟みつつとはいえ、夕日が見えている。

 随分と時間が経っていて、流石に体力も限界を迎えつつあった。

 

「これ以上は体を壊しますね」

 

「……!? さ、笹波君……? いつから……?」

 

「試験が終わったのが三時半くらいなので、一時間くらい前ですかね」

 

「そんなに前から……!?」

 

 もしかしてずっと見てたの……?

 

「技、思い出せたみたいですね」

 

「……あ、うん。一応……」

 

「正直、もう少し時間がかかると思ってました。流石です」

 

「……ううん。まだまだ、これからだから」

 

 だけど、少しは見えてきたかもしれない。

 私の、ヴィクトリーロードが。

 

「あ、もう合格者は決まったので。先輩には明日紹介しますね」

 

「あ、はい」

 

 私のいないところで色々進んでいるみたいで、疎外感を感じる私なのだった。

 

 翌日、新たに加入した幕下(まくした)君、弁天(べんてん)君、雨道(うどう)さん、小手打(こてうち)さんと挨拶を終えた。

 その後は各々の特訓を行いつつ、柳生君のおかげで整備されたグラウンドにてチーム練習を行う日々が過ぎていく。

 

 そして今日、遂にユニフォームが届いた。

 白と青を基調にした綺麗なユニフォーム。袖を通すと、今は南雲原の選手なんだということをより深く実感する。

 私の背番号は奇しくも前と同じ5番だ。

 

(いよいよ初戦か……)

 

 去年は緊張なんてまるでしなかったのに、今年は前日にもなっていない段階から緊張している。

 大丈夫。技も思い出したし、笹波君の指示もある。

 きっと大丈夫。

 

 その日のうちにキャプテンを決めて、以降も練習試合などで調整を行いながら迎えた初戦当日。

 私は、まさかの事態に遭遇した。

 

「あれって円堂ハル……?」

 

「あっちはキャプテンの月影蓮……!?」

 

「なんで雷門の選手がここに!?」

 

「ええ!? まさか赤袖先輩を奪い返しに……?」

 

 一体全体どういうことだろうか。

 どうして西ノ宮中に月影君がいるのか。

 そもそも円堂ハルって誰? まさかあの円堂守の息子? マズい、サッカーのこと全然調べてなかったからわからない……!

 いや、そもそも、それ以前に…………!

 

「あばっ、あばばばばばばばばばば……」

 

「ちょ、茉莉ちゃん!?」

 

「こいつ、白目向いてるぞ!」

 

「泡まで吹き始めた!」

 

 終わった。終わった。終わった……!

 まさかいきなり、雷門に見つかるだなんて……!

 サッカーをしてるところを見られたら、何て言われるか……!

 

「……赤袖先輩」

 

「な、ななななななな、なに……?」

 

「……逃げないでくださいね?」

 

「…………はいぃ」

 

 いきなり波乱到来。

 サッカー部の廃部を賭けた初戦が、まもなく始まる。

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