ポケットモンスター〜キセキ〜   作:龍崎悠司

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序章〜旅立つ〜
〜旅立ちの前日〜


 

 その日、セキミラ地方を激しい嵐が襲っていた。

 

 これほどの暴風雨は、一体何年振りだろうか。

 外へ出る者はおらず、野生のポケモンでさえ巣穴に身を潜めている。

 そんなことをすればどうなるかなど、この地に生きる者なら誰もが知っている。

 だが、そんな最悪の天候の中。

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 奇妙な表現に思えるかもしれない。

 しかし、これは何も間違っていない。

 そのポケモンの名は、タイレーツ。

 赤く長いツノを持つリーダー『ヘイチョー』と、それに従う5匹の『ヘイ』。

 6匹で1匹として扱われる、少し変わったポケモンだ。

 そんなタイレーツが、よりにもよってこの嵐の中を進んでいた。

 タイレーツの体長は3メートル、体重は62キロ。

 もっとも、それは6匹が隊列を組んだ時の話であり、1匹ごとの身体は決して大きくも重くもない。

 ならば、その小さな身体が暴風に呑まれればどうなるか。

 答えは、あまりにも単純だった。

 

『タイレー!!?』

 

 タイレーツたちは、風に攫われた。

 高く、高く。

 空へ放り投げられた6匹の身体が、容赦なく引き裂かれていく。

 元より互いの身体は繋がっていない。

 強風に煽られれば、それぞれが別々の方向へ流されてしまう。

 ヘイたちは焦る。

 タイレーツにとって、一丸となれないことがどれほど致命的かを誰より知っているからだ。

 そんな中、ヘイチョーは必死に頭を巡らせる。

 少しでも仲間が生き残れる可能性を残すために。

 咄嗟に近くのヘイへ『たいあたり』を放った。

 格闘タイプらしい力任せの一撃で、どうにか2匹を押し寄せる。

 しかし、それが限界だった。

 6匹をまとめるには到底足りない。

 強風は容赦なく隊列を引き裂き、ヘイたちは一匹、また一匹と遠ざかっていく。

 ヘイチョーには、それを見ていることしかできなかった。

 

「タイレーッ!!!」

 

 必死に叫んだ声も暴風に掻き消される。

 そしてヘイチョー自身もまた、嵐の中へと呑まれていった。

 

 

 

 そして台風が過ぎ去った夜。

 巨大なマングローブの大樹を中心に円形に土地が広がるセキミラ地方。

 その東北東よりもやや東寄り、中ほどに位置する田舎町、マルクェットタウン。

 町外れの岬では、海と満月を眺めながら二人の少年が佇んでいた。

 

「ロイナ、いよいよ明日だな」

「うん、コギノリ。待ちきれないよ」

 

 ロイナとコギノリ。

 そう呼び合う二人の瞳には、少しの緊張と、それ以上の期待が映っていた。

 それは初対面の人でも、一目で分かるほどだ。

 それもそのはず。

 明日は彼ら──いや、彼らだけではない。

 セキミラ地方各地で、ポケモントレーナーとして旅立つ少年少女たちが、初めてのパートナーポケモンを受け取り、旅へと踏み出す日なのだから。

 ロイナとコギノリも、その一人なのである。

 

「楽しみだなぁ! 俺、マルクェットタウンもマルクェット研究所も好きだけどさ、やっぱセキミラ地方全部回りてぇ!」

「僕も。旅が楽しみ」

「んでもってアレな! セフィルードリーグ! ぜってぇ出ような!」

「うん……頑張ってみるよ」

 

 セキミラ地方最高峰の大会、セフィルードリーグ。

 その大きな目標を前にしても、コギノリは当然のように挑戦する未来を信じて疑わない。

 対するロイナは、少しだけ自信がなさそうに笑った。

 

「おいおい、心配すんなって。俺が認めたライバルのロイナが、セフィルードリーグに来れない訳ないだろ」

「あ、ありがとう……」

 

 コギノリに背中を叩かれ、ロイナは照れくさそうに笑う。

 

「んじゃ、今日は帰ろうぜ。また明日な」

「うん! また明日」





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