「くそ、くっそぉおおおおお!!!」
喜んでロイナの元へ駆け寄ろうとしたフシギダネが、びっくりして足を止めてしまうほどの声量で吐き出すタンジ。
ロイナは内心、こうなるだろうと予測はしていたので、フシギダネを抱き上げ、顔を洗ってくるね、と再び川の方へと移動した。
タンジに声が聞こえないであろう所まで来て、フシギダネが疑問をぶつける。
「ダネ?」
「ん? 離れた理由? 簡単だよ」
一瞬、タンジの方へ目をやって、戻す。
「多分、僕たちがいると本気で悔しがれないだろうからね……」
よく分からないフシギダネは首を傾げるだけだった。
その頃タンジは、ケロマツとヨーギラスにきずぐすりを使って応急処置をしながら、顎が砕ける程悔しさを噛み締める。
「くそっ、ちくしょうがぁ……!」
悔しい。
悔しい悔しい。
絶対に負けたくない奴に負けた。
タイプ相性とかそんな部分ではない。
お互い未熟でレベルが低いなど関係ない。
負けた。
それがタンジに重くのしかかる。
「くっそがぁあああああ!!!」
悔しさでどうにかなってしまいそうな精神を叫ぶことで発散するタンジ。
ケロマツとヨーギラスも、地面を叩いたり地団駄を踏んだりと各々悔しさを滲ませている。
「お前ら、次は勝つぞ……」
「ケロ!」
「ヨー!!」
「ああ、絶対、絶対だ!」
誓い合う1人と2匹。
「俺のセフィルードリーグ優勝に、アイツは邪魔だ。ぜってぇ負けねぇ」
リベンジへの闘志を燃やしていると、そこへガサガサと草を揺らして何かが出てきた。
「あ? こいつ、もしかして……」
そろそろかな? と戻る準備をするロイナのスマホが震える。
電話の主はタンジだ。
まさか掛かってくることはないだろうと思っていたので驚いたが、何かあったのだろうと戻りながら電話に出る。
「タンジ、どうしたの?」
『ああ、今オレらのキャンプに来たポケモンがいてよ、それがお前の持ってるあの、なんつったか? あいつに似てんだよ』
「! もしかしてタイレーツ!?」
『おぅ、そんな感じの奴だ』
「すぐ戻るよ!!」
電話を切ってタイレーツをボールから出し、走ってキャンプの所へ向かう。
走りながら、君の仲間が見たかったかもと伝えれば、ロイナよりも全力疾走でキャンプまで駆け抜けるタイレーツ。
到着するとそこにいたのは。
「タイレー!」
「タッ!? タイレ! タイレーツ!!」
少しボロボロになったタイレーツのうちのヘイが1匹。
疲れてるのかトボトボと歩き、全身擦り傷だらけの姿ではあるが、確かにヘイだ。
ヘイチョーとヘイは、バトルの疲れも直前まであった命の危機も忘れ抱き合って、お互いの存在を確かめ合う。
お互いに痛いくらい抱き合って確かめられる。
それが何より嬉しい。
再会した感無量の喜びを分かち合う姿がそこにあった。
「タンジ、他にはいなかった!?」
「いや、少なくともここに来たのはコイツだけだ」
「そっか……ありがとう」
「けっ、まぁ、別にオレとしちゃどうでもいいがな」
お礼を言って、タイレーツと喜びを分かち合う。
先は長いが、幸先は良い。
ともあれこれで、1匹、合流だ。
「ったく、何でオレがこんなこと……」
「いいから手伝って」
合流をひとしきり喜んだ後はヘイの治療と回復だ。
明らかに気に食わないという顔をしながら、タンジが『オレンの実』をすり潰す。
不満はあっても、助けることを決めたロイナの圧は、アマリの剣幕やルベリーの説教の比ではない。
結果、『きずぐすり』等で治療する脇でタンジが作業することになった。
「ほらよ、これでいいか?」
「……うん、大丈夫」
すり潰した『オレンの実』を受け取り、更にほんの少し漢方を混ぜ味見。具合を確かめてヘイに食べさせる。
「ほら食べて、ヘイ」
「タイレー……」
漢方の不味さに渋い顔をするが、それでも元気が湧くのかもそもそと食べるヘイ。
慎重に見守るヘイチョーに釣られて静かに見守る面々。
時間を掛けて一皿食べ切り、ようやく安心したのかうとうとするヘイ。
更に安心させる様にヘイチョーが声を掛けると今度こそ瞼を閉じて寝息を立て始めた。
「ありがとう、ヘイチョー」
「タイレ!」
ヘイと共に休ませるためにボールへ戻し、ひと段落だ。
それを見てやっと落ち着いたか、と息を吐く2人。
「……ったく、相変わらずだなてめぇは」
「それはタンジには言われたくないかも……」
お互いがお互いに呆れながらもキャンプを片付け始める。
何となく気まずくて無言で作業を進めるロイナ。
(う〜ん、さっきバトルに勝ったのもあって中々話しづらいな……けど、このまま黙って片付けてさよならってのはあまりにも……)
「…………なぁ、ロイナよ」
「っ! な、なに?」
「なに驚いてんだか……。つかお前、ちゃんと喧嘩出来たんだな」
「け、喧嘩?」
「バトルだよ、オレには喧嘩と一緒だ」
独特なタンジの理屈にちょっとだけ理解が追い付かず、そ、そうなんだ、と若干引くロイナ。
ロイナには理解出来ない理論なのだが、タンジにとって、喧嘩とはコミュニケーションなのだと言う。
なんでも、全力でぶつかり合った方が相手のことがよく分かるんだとか何とか。
昔の漫画で言うと河原で殴り合って友達になる奴という話も、その辺に疎いロイナにはてんでピンと来ない。ちなみにコギノリはこういった文化を理解をしてしていたりする。
最も、だからと言って弱いポケモンに絡みに行って怖がらせるのは許せないし、強いポケモンに体当たりでぶつかりに行く度胸は凄いとは思っているのだが。
「お前が、結構ガンガンに当たりに行くバトルすんの、意外だった……」
「それはまぁ、バトルだったし……」
そのまま自然と2人の会話は先ほどのバトルの話になる。
「『いわおとし』ん時の『いわくだき』とか、『やどりぎのタネ』ん時とか防御とか回避を選ぶと思ってた」
「『いわおとし』の時は『まもる』が間に合うか微妙だったのと攻撃した方が対応が間に合いそうだったから」
「『やどりぎのタネ』は?」
「あれは回避を続けるのも限界あったし、他の技だと多分ケロムースの泡の影響で動きが悪くなる可能性が高かったしね」
「ふぅん……」
「あと、やっぱり1番はタンジの意識に間を作る、というか、虚を突きたかったんだ」
「はぁ? んだそれ」
それまでの話はタンジにも理解しやすかったが、自身の意識云々の話はよく分からないので疑問符が浮かぶ。
「旅に出た日、コギノリとバトルしたんだ」
「そうかよ。で、結果は?」
「僕の負け」
「はっ、ざまぁ。……んで?」
別に嬉しくもなさそうな様子でロイナを皮肉気味に笑って続きを促す。
ロイナもタンジが本心で言ってる訳でもないと分かっているので、特に気にしない。
「うん、その時の最大の敗因がね、コギノリの意外な動きで完璧に対応された時、そこで思考が止まったことだったんだ」
「ほぉん。何されたんだ?」
「フシギダネの『つるのムチ』をアチャモの足捌きだけで対応されたんだ」
「はぁ……はぁ!?」
「意味分からないよね、僕もそうだった」
「アイツ、ほんと何なんだよ……」
話が落ち着いたところで再び無言で作業を続ける。
ロイナは内心気まずさが紛れてホッとしていたが、タンジの方は少し複雑だ。
(ちっ、コギノリの野郎、オレとはバトルしなかった癖にロイナとはやったのか)
思うのはロイナが来るまでは自分こそライバルだったコギノリのこと。
何だよそれ……、とタンジは内心悪態を吐く。
恐らく、コギノリにとって自分がライバルなのは変わってないだろうが、それでも1番コギノリの視界に映っているのは間違いなくロイナだ。
それまでコギノリとタンジは毎日毎日、走り回って、研究所の手伝いで、ポケモンの世話で、かけっこや腕相撲で、それこそ飽きるほどにずっと競争していた。
そこに突然現れた
弱々しい印象の優男。
人とポケモンとぶつからず、寄り添って関わり合う意味不明生物。
真正面から向き合わないで何が分かるというのか。
しかし、訳分からん付き合い方で誰より早く、誰よりも誰からも認められた奴。
自分のことが気に入らない癖に、
心底気に入らない。
しかし今、バトルで自分に勝ちやがった。
──嫌だから。
──いの、もう嫌だから。
ああ、だから。本当に心の底から。
(気に入らねぇ……)