その後は無言のまま続けた片付けを両者共に終え。
「はっ、次は負けねぇからな」
「ま、待ってよタンジ、せめて森を抜けるまでは」
「いらねぇよ!」
一度手持ちが全員戦闘不能になったタンジを心配して、共に行くことを提案するロイナだが、タンジはそれを断る。
予想通りの反応ではあるが、ロイナとしては心配だし、タンジとしては余計なお世話な上に屈辱だ。
「大体、オレはてめぇに守られる程弱くねぇ!」
「いや、タンジの強さは分かってるよ。それでもまだ万全じゃあ」
「こんな森なんざ、さっさと抜けられるっつの」
「出口付近は遺跡に近くなるし、ポケモンのレベルも少し上がるから危ないって」
「ケロマツとヨーギラスなら問題ねぇよ」
「でもタンジ」
「うるっせぇな!! そうやって、てめぇはいつもいつも!」
ヒートアップして、2回戦が始まりそうな2人の諍いを止めたのは、細く聞こえた悲鳴の様な声だった。
「! 今のは」
「おいこら! 待てよ、ロイナ!」
悲鳴が聞こえた途端、そちらの方へ走り出すロイナ。
言い合いの途中で急にいなくなったロイナを、まだまだ言い足りないタンジが追い掛ける。
薄暗い森の中を草をかき分け、木の根につまずき、段差を飛び越え駆けて向かった先。
「こ、これは……?」
ロイナの目に映ったのは様々な虫ポケモンたちが傷付き、倒れてる姿。
キャタピーが。
ケムッソが。
コロボーシが。クルマユが。
石ころの様に転がり、ボロボロで気絶していた。
「おいロイナ! って、ひっでぇな、こいつは……」
追い付いて来たタンジも同じ光景を目にして、表情を歪めていた。
いじめっ子のタンジではあるが、人やポケモンが傷付く姿に喜んだりする様な人間性は備えていない。
「っ! と、とにかく手当てを!」
「馬鹿、待てロイナ」
「うるさい! タンジも手伝っ──」
「落ち着けってんだ!」
カバンから『きずぐすり』を取り出そうとするロイナを一喝するタンジ。
タンジとて、放っておくのは後味の悪い光景だが、周囲を見渡せば自分とロイナのカバンに入るだけの道具では、とても追い付かない被害なのだ。
そんな中、お互いのカバンの全てをかき集めても足りない現実を見て、目の前のこの優しいだなんだと周りから言われる無鉄砲の権化みたいな少年が何をするのか。
想像に難くない。
街と往復して所持金全て使って治療に当たって、治るのを見届ける。
そんな様子をいくらでも見てきた。
きっと、そんな事をこれから何度も繰り返して、致命的なほど旅が遅くなる。
タンジとしてはそんなもの、心の底からどうでもいいの極みだが、仮にも自分に勝ちやがったクソ野郎が、自分の後ろをうろうろうろうろしてるのは非常に癪に触る。
もちろん目の前をちらちらちらちらしてるのも非常に癪に触るのは変わらない。
「とにかく、この手のことはポケモンレンジャーだ。連絡しとけ」
「わ、分かった……」
一喝で多少頭は冷えたのか、地図アプリを見ながらたどたどしく連絡するロイナ。
「はい、恐らく誰かが執拗に攻撃を……ええ、規模が大きく助けが……場所はイェシード遺跡の森の……はい、森の方です……」
どうにか必要な情報を伝えている様を見て、とりあえず一息つくタンジ。
ポケモンレンジャー。
主に環境の保全や野生ポケモンの保護、密猟者の取締りなどを行う団体である。
救護活動なども行なっているため、災害などが起きた時に連絡する場所でもある。
マルクェットタウンの様な余程の田舎町でもなければ、大体の街には支部があるので、しばらくすれば来てくれるだろう。
「えっと、自分の服装ですか?えー、自分は今2人組で動いてまして、自分は青のズボン、白いシャツと赤いジャケットです。リュックと青いリストバンド付けてます。もう1人はこちらも青いズボンと黒いジャケット、黄色と黒のTシャツに首からリングを下げてます」
レンジャーから格好を聞かれたロイナは、自分の服装とタンジの方をチラチラ見ながら、外見的特徴を伝えていく。
ロイナが連絡している間、タンジはヨーギラスを出しながら周りを警戒していた。
「この近くにやべぇのがいるかもしれねぇ、構えておけよヨーギラス」
「ヨー」
一鳴きして了解の意を伝えるヨーギラス。
何にしても、脅威が近くにあるのは変わらない。
目の前の
このセキミラ地方では毎年、数人から十数人の旅の者が死亡や重傷を負っている。
ポケモンは隣人で友達で家族だ。
しかし怖い生き物でもある。
だからこそ、その付き合い方は大事にしないとならないのだが、今目の前に広がる光景はその分を『アクアジェット』の勢いで超えている。
しかもよく見れば、幼虫や蛹の虫ポケモンばかりだ。
これは間違いなく親が怒る。
それだけでも十二分に危険なのだが、あまりにも森が騒がしくなると遺跡のポケモンが動く可能性がある。
それが最悪だ。
下手すれば旅が頓挫する程の危険に遭遇しかねない。
「ほんと、一体誰がこんな傍迷惑な……」
「おら! もっときのみのある場所に行けよ」
「ったく、こんな森の中で何時間も収集とかやってらんないわよ」
声が聞こえた方へ向かうとそこには、特徴的な格好の男女ペアがいた。
黒い装備の数々の上からグレーのミリタリージャケットを羽織った、大人の2人組。
その胸に世界を表したマークの上から大きく赤く「S」の文字が描かれてるのが特徴的だ。
イラついた様子で2人とも虫ポケモンを蹴り上げる。
「やめろ!!」
その光景を見た瞬間、ロイナの口は勝手に動き出していた。
それに対して突然現れた第三者に訝しんだ視線を向ける2人。
「ああ? んだよ、てめぇら」
「やめろと言ってるんだ!! 虫ポケモン達から離れろ!」
「はぁ? 知ったことじゃないんだけどぉ?」
ロイナの必死の訴えはめんどくさそうに流された。
「何の目的でこんな事しているんだ!?」
「きのみよ。き・の・み」
「きのみ?」
彼女の言った目的に、理解が追い付かない。
きのみなんて、
わざわざ虫ポケモンたちを虐めて、泣かせて、奪い取る必要性がどこにあるというのか。
「俺たちの組織は人が多くてな、消耗品も多い」
「ある程度自家栽培でもしないとって事で、最初の分を取りに来ただけよ」
「ここにはそれなりに珍しいきのみも奥地を探せばあるからな」
「けど、そんなに奥は遺跡に近くなるし危ないでしょ? だからその手前で巣食ってる虫たちが確保してるとこからもらった方が効率良いしね」
当たり前の常識を子供に説くように──実際にそうなのだろうが──説明する2人を前に、ロイナはもう限界を突破していた。
目の前の暴力振り撒く連中を前に、苦しむ虫ポケモンたちの姿を見て、既に堪忍袋の緒が切れるなんて表現など生温い激情を隠せないほど奥歯を噛み締めている。
睨み付けるを超えて睨み殺そうとする視線を2人に向けたロイナが、ボールに手を伸ばし──
「お前ら、何のためにそんな事してんだよ?」
その前にタンジの質問が遮った。
タンジには、
もしかして、と。
「ふっ、聞いて驚け」
「私たちはね、『世界平和』のために動いてるのよ」
明らかに怒髪天秒読みのロイナと妙に緊張した様子のタンジには意に介さずに。
聞かれた2人は自信満々に言い放つ。
「俺たちは──」
「私たちは──」
誇らしく高らかに名乗りを上げる彼らの属する組織。その名は──
「「セーブ団」」