その後、『きしかいせい』の轟音で異変に気付いた発電所の職員が様子を見に来て、ロイナは保護された。
大人に保護されてようやく声が出せる様になったロイナは亡くなったルカリオをずっと抱きしめて泣きじゃくっていた。
ロイナは後で知ったが、『きしかいせい』という技は残りの体力が少なければ少ないほど威力の上がる技なのだ。
文字通り命を燃やして守ってくれたのだろう。
ルカリオは丁寧に埋葬され、ロストタワーにあるおばあちゃんと同じ墓に入った。
その間、ロイナはずっと泣き続けた。
泣き続けて泣き続けて、泣き果てて泣き疲れた。
一生分泣いたのでは無いかと思われるほど、涙を流した。
それからロイナは、外の世界を怖がった。
ずっと引きこもる様になってしまったのである。
最初は何も受け付けなかった喉も、少しずつ食事が通る様にはなった。
だが、ロイナから笑顔は消えた。
食事や排泄、入浴と睡眠以外はずっとベッドで膝を抱えていた。
何をする気にもなれず、両親も仕事の量を減らしながらも根気強くロイナに付き合ったが、笑顔は戻らなかった。
ソノオタウン自慢の花の香りや彩りも、ロイナを癒す薬にはならなかったのである。
それだけルカリオは大きな存在だったのだ。
ロイナの両親も大きな悲しみに包まれたが、それよりも息子の回復に懸命だった。
歯を食いしばって日々を過ごしていたロイナのパパに転勤の話が舞い込んできた。
その話を持って来られたパパは、ソノオタウンにいる限りロイナに笑顔は戻らないのではないかと考え、前向きに検討していた。
その後、家族と相談しつつも転勤を決定。
転勤先はセキミラ地方のマルクェットタウン。
それからロイナの家族は、両親が主導となり引越しの準備を始めた。
最初は動こうとしなかったロイナも、家のものが整理されていく中で引越しする実感が湧いたのか、自分の荷物を整理し始めた。
無気力だったロイナが初めて行動してくれたのを喜んで両親も準備を進めていく。
そしていよいよ、引越しのための港への移動の前日となった。
荷物は先に新居に送られているため、あとは移動するだけの状態だ。
その日の朝、パパは中々シンオウ地方に戻ってくる事は出来ないため、ルカリオとおばあちゃんの墓に手を合わせに行こう、と誘った。
ロイナは小さく頷いて、家族とロストタワーへ向かう。
「ロイナ、ルカリオにうんといっぱい、ありがとうって伝えるんだぞ」
パパはそう言って手を合わせた。
ロイナもそれに習って手を合わせた。
(ありがとう、ルカリオ。ずっとずっと守ってくれて)
ルカリオと過ごした日々を思い出しながら、うんといっぱい伝えた。
いじめっ子たちから守ってくれたこと、迷子になった時に手を握ってくれたこと、あの嵐の日に暴力から命を賭けて戦ってくれたこと。
うんといっぱい伝えた。
その間、両親は声を掛けずに見守ってくれた。
やがてロイナが顔を上げる。
「ルカリオに伝えたか?」
「うん……」
反応があったことにパパは更に喜び、帰り道にある話を聞かせた。
「ソノオタウンはな、昔は荒れ果てた丘だったんだ」
パパ曰く、ソノオタウンは何もない荒れ果てた丘だったが、それを寂しく思い花を植えた。
しかし、中々花が育たなかった。
ある時お花にありがとうを伝えた所、花が咲いて今のソノオタウンになっていった。
それを聞いたロイナは家に帰った後、まだ陽が高く昇る中、置き手紙を置いて、花畑へと出掛けた。
ママは大層心配したが、ルカリオに伝えたついでに花畑にお別れを言おうとしたのだろうとパパの意見により家で待つことにした。
花畑に来たロイナは、ルカリオの墓の前でそうした様に手を合わせて感謝を念じていた。
特に理由はなく、何となくそうした方がいい気がしたのだ。
ルカリオにここでよくいじめっ子から守ってもらってその度に感謝をしていたからかもしれない。
そうして手を合わせた後しばらく感謝を伝え、顔を上げたロイナの目の前にポケモンがいた。
「うわぁ!?」
「シェミ?」
驚いて尻餅を付いてしまったが、目の前の身体に花を咲かせた小さなポケモンは不思議そうに首を傾げるだけだった。
「けほ……なんだろう、この子、迷子かな?」
「シェミ! シェイミ!」
よく分からないまま、何故だか懐かれた様子。
顔を擦り付けて甘えて来ている。
ロイナには何が何だか理解が及ばない。
ロイナは知らなかったが、そのポケモンはシェイミ。
ありがとうの念を感じることで身体の花が咲くと言われるかんしゃポケモンだ。
実はずっと花畑にいたシェイミはロイナといじめっ子たち、そしてルカリオのことも見ていたのだ。
この花畑でロイナがルカリオに感謝する様子を。
それを見ていたシェイミからするといつも感謝してる心優しい少年のロイナに懐かない道理はないのである。
もちろんその辺の事情は一切ロイナに伝わってはいないのだが。
「シェミ!」
「なんだか、すごい久しぶりに声を出したかも……けほ」
半年近くもずっと悲しみに暮れていた少年にとって、いきなり知らないポケモンとの邂逅は余程強い刺激だったのだろう。
声帯と表情筋が久しぶりに仕事をした。
「シェミ、シェミ!」
「あ、待ってよ」
追いかけて来い、とでも言うように少し先を行くシェイミをロイナは追いかける。
シェイミもどこかへ連れた行きたいわけではなく、ロイナと追いかけっこがしたかっただけのようだ。
付かず離れずの距離で楽しそうに追いかけっこ。
昨日まで引きこもっていた少年には大変な運動で、すぐにバテてしまったが、シェイミは楽しそうで。
釣られてロイナが微笑んだ時。
「あれー? ロイナお前引っ越すんじゃねぇの」
「いつまでもこっちいんじゃねぇよ」
いじめっ子たちが登場した。
当然
「おい、なんだそいつ?」
「……知らない、けど友達」
「はぁ? 寄越せ」
自分たちも持ってないポケモンと仲良くしてるのが気に入らないいじめっ子たちがシェイミへ手を伸ばす。
「やめて!」
その手をロイナが払いのける。
初めての抵抗に目を白黒させるも数秒。
「生意気!」
今度は暴力でもってポケモンを奪おうとする。
だがロイナも
両手を広げ、シェイミを背に。
相手を睨み付けて一歩も引かない。
だがルカリオならまだしも、いじめられっ子のロイナの『にらみつける』なんて怖くも何ともない。
そして
何を遠慮することがあるのかと言うことを聞かないロイナへ手を出していく。
しかし、ロイナも引かない。
ルカリオから守り方は散々教わった。
背中があると安心するのだ。
それを身を持って知っている。
だから、ここは引けない。
どれだけ叩かれようと目を背けないロイナを少し不気味に思いながらも、いい加減に焦れたいじめっ子がグーを握った。
だが、その拳が振り下ろされる前に。
「シェミィイイイ!!」
いきなりロイナの前に出たシェイミが吠えた。
大人しそうなポケモンが自分たちに牙を剥いたことに驚いて後ずさるいじめっ子たち。
そこへわざと近くに向けて、しかし明確に外しながら、シェイミは緑のエネルギーボールを飛ばす。
ドガァンという音と共に放たれた──見る人が見れば『エナジーボール』だと分かるだろう──地面を数センチ抉るほどの攻撃によって土がロイナやいじめっ子たちに少しかかり、さしものいじめっ子たちも泣いて逃げ出した。
「あ、ありがとう……」
「シェイミ!」
若干ドン引きしながらも礼を伝えると、ドヤ顔で応えるシェイミ。
やっぱりポケモンは怖いのでは、と一瞬思うも、首を横に振って思い直す。
このポケモンは、自分のことを守ろうとしてくれたのだ。
守りたいものを守る時、いざという時は戦わなくてはいけない。
それは
だから今、自分はこうして生きているのだから。
「ありがとう」
「シェミ?」
改めて感謝を伝える。当のシェイミは首を傾げているが。
まだ遊んでいたいが、西陽が強くなって来た。
そろそろ家に帰らなくてはならない時間だ。
名残惜しいが、明日には遠くへ引っ越すロイナは二度と目の前のポケモンに会うことはないのだろう。
それを少し寂しく思ったロイナはポケットを探る。
目の前のポケモンに、大切なことを教えてくれた友達に何かあげたくなったのだ。
右手が何かに触れたので取り出す。
それは、いつだかノモセシティへ家族で遊びに行った時に買ってもらった『青いバンダナ』。
ロイナはそれを、目の前のポケモンの首に巻いてあげた。
緑と白の身体に『青いバンダナ』はよく映えて見えた。
「もうさよならしなきゃだけど、今日、僕と友達になってくれたこと、守ってくれたことのお礼だよ」
「シェミ……シェイミ!」
お別れを告げられたことを理解したのだろう。
寂しそうに一声鳴くも、バンダナのお礼を受け取ってロイナから離れていった。
「ありがとー!」
ロイナも手を振って別れを告げ、家に帰った。
シェイミの攻撃の余波で少し服に泥が付いていたが、転んだと言って誤魔化した。
それから今日の出来事をいじめっ子たちのくだりは言わずに話をした。
ロイナから話をするなんて半年ぶりで両親は大層驚いたが、それ以上に喜んだ。
「パパ、ママ……僕、引っ越した先で、頑張ってみる」
今日1日で別人になったのかと思うほど成長した息子に目を白黒させた後、破顔した両親。
その様子からマルクェットタウンでの生活の不安がだいぶ和らいだ様だ。
そして引越した先、近所にある家に挨拶周りをし、その最後に研究所にも顔を出した。
近所の子供たちが集まって研究所の手伝いをしてる中、10人前後ほどの年下から同年代から大人たちの前に。
ロイナは緊張で動悸が止まらなかったが、それでもルカリオやシェイミのことを思い出し、声を張って言った。
「今日引っ越して来た、ロイナです。よろしくお願いします!」