ポケットモンスター〜キセキ〜   作:龍崎悠司

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〜ルベリー博士とのバトル〜

 

 ルベリーからの突然のバトルの申し込み。

 全く予想だにしていない事態にロイナは目を白黒させる。

 

「私もトレーナーとして実力のある方ではないが、今の君相手ならどうにか形にはなるだろう」

 

 研究の方が性に合ってるがね、とは言いつつヘイガニを繰り出す。

 

「さぁ、1対1。やろうか」

「い、いや待ってください」

 

 まさか博士から言われるとは思わず、困惑から抜け出せないロイナがストップをかける。

 

「どうした?」

「いえそんな、いきなり言われましても……」

「コギノリくんたちともやったのだろう? それに興味があるんだ」

「興味、ですか?」

「そうとも、コギノリくんでもタンジくんでも、アマリくんでもない。君のバトルに興味がある」

「ん〜……」

 

 そんな風に言われてもロイナにはピンと来るものが全くない。

 何をそんな気になることがあるのかと。

 だが、ルベリーからすれば興味津々だ。

 あのロイナが一体バトルではどんな姿を見せてくれるのか。

 優しげなのに頑固で、色々なポケモンから慕われるが、引っ張って行くよりも寄り添うことが得意な少年のバトル姿。

 気にならないわけがない。

 

「分かりました」

「うむ、では!」

「はい、行け! タイレーツ!」

「「タイレー!」」

「始めよう!」

 

【ポケモン博士のルベリーが勝負をしかけてきた!】

 

(タイプ相性からフシギダネを出してくると思ったが、タイレーツを選んだか)

(タイレーツは仲間と合流したばかり、複雑な指示は出しにくい)

 

「ヘイガニ、『みずでっぽう』!」

「タイレーツ、『まもる』!」

 

 ヘイガニがハサミから勢いよく水を発射する。

 それをヘイチョーが盾を構えて守り、ヘイがその陰に入る。

 

「タイレーツ、『たいあたり』で返して!」

「タイレー!」

「タ、タイ!」

 

 即座に指示に従って踏み込むヘイチョーと、タイミングが少し遅れるヘイ。

 タイミングの違う突撃がヘイガニに迫る。

 

「まだ甘いよ、『かたくなる』で受けるんだ」

「ヘイッ!」

 

 対して身体を固めて防御体勢を取るヘイガニ。

 タイレーツが目の前に迫っても目を背けずに構える。

 ズガガン! と2連撃となった『たいあたり』を受けるも、きっちり耐えていく。

 

「反撃だ、『はたきおとす』」

「ヘイガッ!!」

 

 受けられて目の前で動きの止まったタイレーツに、悪タイプエネルギーを宿したヘイガニのハサミが叩き付けられる。

 必然的にヘイの前にいるヘイチョーが受けることになる。

 

「タ、タイ!?」

「タ!?」

 

 ヘイチョーが後ろへ飛ばされ、ヘイが最前線へ出る。

 しかし、リーダーたるヘイチョーが攻撃を受けてしまったことに動揺してしまっている。

 

(まずい!)

「ヘイ、後ろへ下がって!」

「よく見てる、が逃がさないよ! 『はたきおとす』」

「ヘイッ!」

「タ!? レーツ!!?」

 

 しかし、硬直したヘイが動く前にヘイガニの攻撃が当たって飛ばされる。

 飛ばされるヘイを、ヘイチョーが受け止める。

 

「タ!? タイレ!? タイレー!?」

「タイレ!」

 

 バトルに戸惑って混乱したヘイを『ずつき』で正気に戻す。

 

「タイレ!」

「タ、タイレ!」

 

 戸惑っているのは変わらないが、それでもヘイチョーに倣って体勢を整える。

 

「ヘイガニ、『バブルこうせん』!」

「タイレーツ! 『まもる』で受けて!」

 

 新たにヘイガニが繰り出す泡の連弾を、再び盾で受ける。

 

(さぁ、再び『たいあたり』かな? それとも『いわくだき』辺りで来るかい?)

 

 次の相手の行動を予測し、対応を頭に巡らせるルベリー。

 先ほどは息が整うのを待ったが、今度は容赦しない。

 再び守りを固めるか、攻勢を続けるか。

 そこへ新たにロイナから指示が飛ぶ。

 

「タイレーツ、『きあいだめ』で息を揃えて!」

「「タイレー!」」

 

 ロイナの選択は、補助技による一呼吸。

 はりきったタイレーツは気合い充分だ! 

 

「なるほどなるほど、いいね! ヘイガニ『はたきおとす』だ!」

「ヘイッ!」

「タイレーツ、落ち着いて、呼吸を合わせて」

「「タイ!」」

 

『はたきおとす』の指示を受けたヘイガニが、再び力いっぱいハサミを叩き込もうとタイレーツに迫る。

 

「ヘイヘイ!」

「落ち着いて、落ち着いて……」

「タイ!」

「タイ……」

「大丈夫だよ、ヘイ。僕とヘイチョーが付いてる」

「……タイレ!」

 

 ロイナは自身の言葉がヘイに届いたのを感じた。

 ヘイガニはもう目の前。

 

「ヘイガッ!」

「タイレーツ、『いわくだき』!」

「「タイレーツッ!!」」

 

 2匹合わせた格闘タイプエネルギーが、ヘイガニのハサミを弾き、攻撃を叩き込み返す。

 

「ヘイッ!?」

「やるね、『みずでっぽう』」

「ヘイガッ!」

 

 だが、怯まずに攻撃を更に返してくる。

 

「離れないで! 『ずつき』!」

「「タイレ!!」」

 

 ヘイガニが狙いを付ける前にヘイガニに張り付き、揃って『ずつき』を繰り出す。

 張り切ったタイレーツの攻撃が急所に当たった! 

 

「ヘ、ヘイ〜……」

「これは、勝負あったね」

 

 ヘイガニ、戦闘不能。

 タイレーツの勝利だ! 

 

 

 

「それで、どうでしたか?」

「うむ! 充分だ!」

 

 バトルを終えてお互いのポケモンを回復させながらルベリーの好奇心が満たせたか質問する。

 対するルベリーは満足そうだ。

 

「やはりバトルでもロイナくんはロイナくんだった、ということが分かったよ」

「???」

 

 言いたいことが伝わらずに首を傾げるロイナ。

 そのまま説明を求める。

 とはいえ、ルベリーが説明することは多くない。

 バトルだろうとお世話だろうと、ロイナはロイナだった。

 やると決めたら迷わない。寄り添うことには譲らない。

 優しく頑固にまっすぐ。

 ただそれだけだったのが、分かっただけだ。

 

「はぁ、そうですか……」

「私としては、もう少し消極的にするのかと思ってたよ」

「タンジにも似た様なことを言われました。なんでですかね?」

「君が優しいから、バトルは得意じゃないのかと、ついね」

 

 すまないね、とウィンクで謝罪する。

 

「まぁ、コギノリやタンジに比べるとバトルが特別好きってわけではないですが……」

「ですが?」

「戦うこと、立ち向かうことって、必要で大切ですから」

「ほぅ」

 

 戦いが必要なこと、そう言い切ったロイナの目には何が映ってるのか。

 興味はあるが、そこまで踏み込むべきではない、と更なる質問は飲み込んだ。

 代わりに別のことを質問する。

 

「もう一つ気になったことを聞かせてくれるかな?」

「なんですか?」

「フシギダネのことだよ」

「フシギダネがどうしました?」

「いや、単純に何故フシギダネを選んだのかと思ってね」

 

 ロイナに懐いてるポケモンということならそれこそフシギダネ以上に見えたポケモンは沢山いたのだ。

 先ほども話したナエトルやチコリータ。他にもメッソンやホゲータなど。

 ロイナに選ばれずに本当に落ち込んでいたのだ。

 ちなみに、慰めるのは結構大変だった。

 フシギダネももちろんロイナには懐いていた。

 真面目で責任感のあるフシギダネと懸命に行動するロイナは相性が良く、共に手伝いする姿はそれなりに見て来た。

 だがそれはビジネスパートナー的な関係にも見えたのだ。

 だからこそ、他のポケモンたちではなくフシギダネを選んだ理由が気になったのである。

 

「それは……目、ですかね」

「ほぅ、目?」

「寂しそうな目をしてました」

 

 その目をロイナは知っていた。

 当たり前の日常が失われることの悲しさを知っている目。

 その目をしている者の景色がどんなものか、どれだけ世界が灰色に見えるか。

 ロイナはよく知っていた。

 

「そうか……あのフシギダネはね、研究所にいて長いんだよ」

「長い?」

「選ばれない期間が長かったんだ」

 

 セキミラ地方では27種類のポケモンから選択できる。

 マルクェット研究所では、誰がどの子を選ぶのかに備えて、全ての初心者向けポケモンを取り揃えている。

 その中でフシギダネは選ばれることのない期間が特に長かったのだ。

 それはフシギダネに諦観を与えるには充分なほど。

 

「だからきっと、フシギダネは嬉しかったと思うよ」

「それなら、良かったです」

「ありがとう、ロイナくん。フシギダネを選んでくれて」

「こちらこそ、フシギダネにはいつも助けられてます」

 

 ルベリーは頭を下げる。

 その感謝をロイナは受け取る。ロイナとフシギダネの関係は今、きっとなんら変わらないだろう。

 だが、きっともっといい関係になっていく。

 ロイナの様子を見てルベリーはそれを確信した。

 

「では、そろそろ研究所に戻るよ」

「研究所の皆さんによろしく言っておいてください」

「ああ、伝えておくよ」

 

 ちょうど空から羽音が聞こえて来た。

 セキミラ地方の東側の地区でよく見られるアーマーガーのそらをとぶタクシーだ。

 

「何かあれば連絡するといい、ではなロイナくん」

「はい、ルベリー博士も無茶は程々になさってくださいね」

「はっはっは、これは手痛い」

 

 笑いながらタクシーに乗り、ルベリーはマルクェットへ帰って行った。

 

「さぁ、僕らも行こうか、フシギダネ、タイレーツ」

「ダネ!」

「「タイレ!」」

 

 ロイナたちは歩き出す。

 さぁ、初めてのジムがあるイェシードシティは目の前だ。

 





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