【調和する街 人と自然が夢を見る街】
その様に言われるイェシードシティはセキミラ地方の真東、その中程から外側に跨る、東側では1番の大きな街である。
緑の間に人々の営みが並び立つ人も自然も豊かな街だ。
食べ歩きの出来る商店街通りも多く、住民と観光客がよく行き交う。
その街をロイナとコギノリを連れて歩くのはイェシードジムのジムリーダー、ネリアだ。
軽い足取りで進むその容姿は少し刺激的だ。
風に揺れる金髪は何本も細い三つ編みにして流している。その隙間から首に付けた黒地に白ラインが走るチョーカーが覗く。
時折振り返ると、稲妻柄のバンドゥトップに青と白の柄のシャツを羽織り、紺色のコーデュロイミニスカートでライトタンより薄めの小麦色の肌を惜しげもなく晒してる。
「おー、ネリアちゃん、今日は活きのいいのが入ったから寄ってきな」
「後でね、魚屋のおいちゃん」
「ネリア〜、新作のコスメ入荷したから見てく?」
「今デート中だから、また顔出すわね〜」
「ネリアちゃん、両手に花かい?」
「いいでしょー? あげないよ」
2人の前を歩きながら街の人たちとも軽口を交わしていく。
その様子は明らかに街の人気者。
「なんか、ジムリーダーってすげぇな」
「だねぇ」
ロイナとコギノリはその姿にたじたじだ。
マルクェットタウンはいい町だが、いかんせん田舎なのだ。
有名人が尋ねてくることもなければ、スターと共に歩く機会などは全くない。
なんとなく気後れしてしまう。
「ほら、そんな離れて歩いちゃデートにならないでしょ」
「わっ」
「おわっ!」
その内心から一歩離れて歩いていた2人をネリアは逃さない。
2人の腕を抱え込み、正しく両手に花で歩いていく。
「あ、このままスマホロトムで写真撮ろ、2人もポーズして、イェーイ」
「イェーイ」
「あ、あはは……」
と思ったらスマホロトムを呼び出して自撮りする。
なんとなくノリに慣れたコギノリはピースして、こういったやり取りに慣れないロイナは緊張しながら苦笑い。
同じ日にマルクェットから旅立ったアマリと触れ合うことはあったが、彼女はここまでスキンシップは激しくなかった。
メリハリあるスタイルの良いネリアの女性らしい柔らかさにドギマギしながら、どうにかカチコチの笑顔をスマホロトムに向ける。
「オッケー、もうすぐポケモンセンターだからちゃっちゃと行きましょ」
「おう!」
「はい……」
スルッと離れて先を行くネリアと、完全に慣れて意気揚々と並ぶコギノリ。
(陽気な性格って、なんかこうエネルギッシュ……)
なんとなく精神的疲労を感じながら、スイスイ進む2人に着いていく。
それから。
ポケモンセンターでの治療が終わって、3人はポケモンセンター近くのカフェに入っていた。
それぞれケーキセットを注文して話に花を咲かせる。
「へぇ、君たちマルクェット出身なんだ」
「コイツは数年前に引っ越して来たんすけどね」
「シンオウ地方のソノオタウンから越して来ました」
「ひゃー、そりゃまた遠くから」
各々届いた注文を食べつつ話題はもちろんコギノリとロイナについてだ。
ショートケーキと紅茶のセットをつつきながら興味津々に話を聞くネリア。
気を良くして話すコギノリは注文したベイクドチーズケーキを既にお腹に入れた後で、コーヒーのカップを時折傾けている。
「ねねね、ソノオタウンってどんなとこ?」
「良いところですよ、マルクェットほど広くない田舎ですが、花が町中に咲いてて綺麗で」
「へぇ! シンオウに旅行にでも行くことがあれば尋ねてみようかな」
「発電所近くには気を付けてくださいね、フワンテがたまに現れるので」
「もしかしてさっき気付いたのって」
ガトーショコラを口に運びながら、ネリアに頷くロイナ。
ミルクティーを飲んでからその質問に答える。
ソノオタウンではよく言われてる子供への注意だ。
1つ、紫の風船には絶対に近付かないこと。
2つ、意識のない子供がいたら上空を見上げること。
教えられた内容に、なるほどねぇと納得する。
「それで対応できたわけか、すごいね、君」
普通気付けないよー、と笑うネリア。
対してコギノリは新たな質問が湧いたのか手を挙げる。
「ネリアさん、フワンテってそんなにこの街にいるの? 危なくね?」
「あー、それねー」
悩ましげにため息を吐くネリア。
「なんかねー、最近遺跡の方が騒がしいのよねー」
「遺跡が?」
そうなのよー、と悩ましげに紅茶を飲む。
なんでも、遺跡の方でポケモンが暴れてるのか、縄張りを荒らしてるものがいるのか、遺跡の近くや森の奥にいるはずのポケモンが生息地から出てくる頻度が明らかに増えたという。
フワンテが街に来るのも、多くて年に一回あるかどうか、という頻度だったはずが、今月に入ってもう数件とのこと。
「そうだよなぁ、俺も森で逸れてたコイツを捕まえてよー」
そう言ってボールから出て来たのは、白い身体に緑の頭、赤いツノが特徴のきもちポケモンのラルトスだった。
ラルトスとその進化系であるキルリア、そして最終進化であるサーナイト、キルリアからの分岐進化であるエルレイドは、本来遺跡の外れに縄張りを持っているポケモンだ。
子供であるラルトスは縄張りの奥で大事に育てられている。
稀に迷子になって縄張りの外の森まで出るラルトスがいるが、それは相当に珍しい。
その場所も、遺跡近くの森からそこまで離れていないはずだ。
だがコギノリ曰く、森の出口付近で迷子になって泣いていたという。
「流石に放っておけなくてな、懐いてくれたのもあって手持ちに加えたんだ」
「確かに、すごく懐いてるね」
ラルトスはコギノリの足に引っ付いて頭を擦り付けている。
その様子は、明らかにコギノリにラブだ。
ロイナは今の位置からは見えないはずのラルトスの目にハートが浮かんでいるのが見えた気がした。
可愛いやつめー、と頭を撫でるコギノリは気付いてなさそうだ。
指摘するのも野暮だろうと、ロイナは会話を続ける。
「あの、それについて、もしかしたらって原因があります」
「え、マジ!?」
コギノリとネリアが話に食い付く。
それからイェシード遺跡の森で起こった一部始終を2人話した。
タイレーツを見かけた情報で森中を探したこと。
同郷のタンジと再会してバトルしたこと。
その後、セーブ団と名乗る者たちが虫ポケモンを害してきのみを集めていたこと。
追い返した後、ポケモンレンジャーが来て虫ポケモンを治療して行ったこと。
「そのセーブ団って奴らが遺跡とか森の奥を荒らしたから、逃げて来たポケモンが森の入り口とか街に出て来たってことか?」
「でも、僕らが相手したくらいのトレーナーが侵入したのなら、遺跡や森の奥に行くのは流石に自殺行為だと思うよ」
「まっ。話聞いてる限り? わざわざ自生してるきのみを取りに来るくらい人数は多いみたいだし、層は厚いのかもね」
ネリアは最後のイチゴを口に放り込み、よし、と立ち上がる。
「リーグ関係者にはアタシから注意を促しとくわ、そのうち調査隊を派遣しましょ」
「いいんですか?」
「当たり前じゃない、セキミラを守るのもジムリーダーの務めよ」
そう言ってスマホロトムにロイナから聞いた情報を書き込んでいく。
きっとポケモンリーグ運営委員会に情報を伝えるためだろう。
ポケモンリーグ運営委員会。
セキミラ地方におけるポケモンリーグの開催からそれに付随する様々なイベント管理を始めとする多くのインフラを担っている。
他にも各所のジムやポケモンセンターの運営。
それらに必要な食料や器具などの発注管理から、治安維持の対応、密猟者への取り締まりなどなど。
正しくセキミラ地方全体を支える屋台骨となる中心組織だ。
今回の件を伝えることで、警戒を拡げられるだろう。
「んで? 君らはジムチャレすんの?」
報告の終わったネリアが、2人に向き直る。
コギノリとロイナから、2人がジム挑戦しようとしてることは聞いた。
となればネリアはジムリーダーとしての務めを済ませるだけだ。
「もちろん! やるぜ!」
「あの、僕は他にもお願いしたいことがありまして──」
「分かってるよん。タイレーツのことでしょ?」
それも報告したよ、と言われるとロイナは深く頭を下げた。
ネリアとも連絡先を交換し、これで逸れたタイレーツが見つかった場合にネリア経由でロイナに連絡が来るだろう。
話が付いたところで話題が戻る。
ジム挑戦についてだ。
そもそもセキミラ地方のジムリーダーはタイプごとに1人ずつ、18人いて、その誰にでも挑戦は可能だ。
そして期間内に8つ以上集めることでポケモンリーグの予選への参加条件を満たすのである。
期間はその年のポケモンリーグ開催が終了した後の新年度から、次回開催までの約3年半から4年近く、そして最新のジムバッジ獲得が申し込み期限の半年以内となっている。
「んじゃ、君らはクリフォルドリーグの挑戦だね」
「あ、いや俺たち──」
「僕たちが挑もうとしてるのはセフィルードリーグです」
「え?」
自己紹介の時とは逆に、今度はネリアが固まった。