ポケットモンスター〜キセキ〜   作:龍崎悠司

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〜コギノリの初ジム挑戦(後編)〜

 

「ラルッ! ラルルッ!」

「お、落ち着いて、ラルトス」

 

 ピジョンが倒されたことに悔しそうに地団駄を踏むラルトスを慌てて落ち着けるロイナ。

 コギノリのカッコいいところが見れると思ったのに、この結果に納得いかないと騒ぐ。

 ラルトスとて、ここで騒いで迷惑をかけるのは良くないというのは理解しているが、理性と感情は別なのだ。

 だが、ロイナが言いたいのはそういうことではないらしい。

 

「みんな、特にヘイも、ここから先は要注意だよ」

「レー?」

「多分、瞬きしてる余裕もないから」

「ラル?」

 

 ラルトスはロイナの方を見るが、あまりにも真剣な眼差しと気迫に、少したじろいだ。

 傍にいるフシギダネとタイレーツのヘイチョーも、真剣度合いを一段引き上げている。

 ラルトスには理解出来てはいなかったが、ロイナたちは大真面目だ。

 なんせ、今までのピジョンとの戦略とコンビネーションも良かったが、それとは比較にならない相棒が登場してくる。

 彼らとはいずれ必ず戦うことになるのだ。

 拾える情報は、何が何でも拾いきるつもりでバトルコートを見る。

 

「いい! いいな! やっぱ強ぇし、カッケェのな! ジムリーダー!」

「ふふっ、ありがとね」

 

 ピジョンが倒されて2対1。

 押されているコギノリだが、そのテンションは上がりっぱなしだ。

 それもそのはず。

 目の前に、こんなに登り甲斐のある壁が聳え立っている。

 こんなに楽しいことはない。

 このハードルを全力で駆け上がっていく。

 これを続けていけば、その先にはセキミラ地方最強の座。

 チャンピオンの頂きへ達するのだ。

 こんなに嬉しいことはない。

 

「楽しい! 楽しいなぁ! 相棒(ワカシャモ)!!」

「シャモッシャ!」

 

 さぁ、第二ラウンドの始まりだ! 

 

「ピカチュウ、『でんこうせっか』!」

「ピカッ!」

 

 先ほどのピジョンより、なお速い速度でワカシャモの側面に回り込みながらぶつかりに行くピカチュウ。

 

(さぁ、君はどう対応する?)

 

 単純な攻撃だが、速度が乗ったそれなら戦術として充分成立するのだ。

 単品ではなく次に繋がる戦略として。

 防御姿勢を取れば、更なる攻撃を。

 回避するなら追撃かリセットを。

 まさかの攻撃してくるなら相打ちからの組み立てを。

 そうしてチャレンジャーの次の動きを冷静に見極めようとするネリア。

 

「ワカシャモ、『にどげり』!」

「シャモ!」

「ビッ!!?」

 

 だが、コギノリとワカシャモの回答はピカチュウの速度など関係ないと言わんばかりにカウンターで攻撃を通して来る、だった。

 驚愕のせいで思考に空白が生まれそうだったが、反射的に次の指示を飛ばす。

 

「『アイアンテール』振り回して!」

「ビ、ピカァ!」

「かち上げろ!」

「シャッモ!」

 

 ダメージを抑えつつ、最低限の迎撃を行うために『アイアンテール』を指示。

 指示に従って、鋼タイプエネルギーを尻尾に集中させたピカチュウが回転する様に振り回して防御する。

 しかし、それも構わず、『にどげり』の2撃目を下から当てて上空にピカチュウを蹴飛ばす。

 

「跳んで『ひっかく』!」

「! 『スパーク』で全身防御!」

「ピッカチュウ!」

「なら『ひのこ』で剥がしてやれ!」

「なっ!?」

 

 もうほとんど跳ぶ直前の姿勢から跳び上がる瞬間だったワカシャモへの指示を途中で変更したコギノリ。

 普通、そんなことをすればポケモンは混乱して動きが迷ってしまうものだ。

 だがワカシャモは跳び上がりながら『ひのこ』でピカチュウが身体にまとった電撃を相殺していく。

 

「今度こそ『ひっかく』」

「くっ、ピカチュウ!」

 

 指示が追い付かない。

 次々飛ばされる指示に合わせすぎれば、こちらのペースが狂って動きのキレを落としかねない。

 

「シャモッ!」

「ピカァ!!」

 

『ひっかく』がまともに入る。

 だが、ピカチュウもやられてばかりではない。今の一瞬で体勢を立て直した。

 それを見たネリアが新たに指示を飛ばす。

 

「『アイアンテール』で弾いて距離を取って!」

「させねぇ! ワカシャモ! 『にどげり』! 最速で叩き込め!」

「ピッ!」

「シャモ!」

 

 再び鋼エネルギーを溜めた尻尾を振りかぶる前にワカシャモの脚技が届く。

 空中にいながら、思いっきり蹴り込まれて、流星の如く地面に叩き付けられるピカチュウ。

 誰の目にも、その様子は明らかだった。

 

「ピカチュウ! 戦闘不能!」

「よっしゃ!」

「シャモシャッ!」

 

 ガッツポーズするコギノリに対してネリアは冷や汗をかいた。

 

(何今の? アタシが全然自由に戦えなかった……!)

 

 明らかに自身よりも戦闘のテンポが2段階は速かった。

 こんな展開、出来たチャレンジャーは思い当たらない。

 

(いや、戦闘スタイルは違うけど……)

 

 破天荒な己の戦闘哲学で道理を蹴っ飛ばして我が道を行くハイスピードマイペース。

 ネリアの頭には同じタイプのトレーナーが過ぎる。

 セキミラ地方の頂き、その人。

 

「コンビネーションばっちりみたいね、君たち」

「俺、コイツとならチャンピオンになれるって確信してるんで!」

「シャモッ!」

 

 あながち否定出来ない、と思いながらも2匹目のボールを投げる。

 ネリアが最終ラウンドに託すのは。

 

「パルスワン! ゴー!」

「パルワンッ!!」

 

 電気の力で脚力を強化して走るいぬポケモン。パルスワンだ。

 

「ワカシャモ、先手必勝! 『にどげり』!」

「シャモッシャッ!」

「パルスワン、『じゅうでん』!」

「ルルルルル……!」

 

 ワカシャモが先手を狙って駆け寄るが、それより先に指示を受けたパルスワンが身体に電気を溜め込んでいく。

 特殊攻撃に対する防御力が上がり、次に使う電気タイプの技の威力を上げる効果があるが、ネリアの狙いはそこではない。

 

「パルルゥ!」

「充電完了! パルスワン『こうそくいどう』」

「ワンッ!」

 

 パルスワンは溜めた電気を四肢に送ることで、素早く技を繰り出そうとするワカシャモよりも高速で移動する。

 明らかに先の先を得意とするコギノリよりも更に一歩先を取った。

 素早く力強い相手に対して更なる二手を捩じ込む。

 無理矢理な行動を今の『じゅうでん』でアシストしたのだ。

 その使い方を見たロイナは、なんてことだ、と驚愕の戦略を記憶していく。

 

(あれはもう、技とか特性じゃない、ポケモン本来の生態利用!)

 

 ポケモンには元々バトルへ使用するしないに関わらず、独特の生態を持っている。

 それは自身が生きていくために環境への適応や効率の上昇などを目的として備えた機能。

 その中には本来バトルへ転用するには適さない能力もあるはずだ。

 そのポケモンそれぞれがここに持つ、あらゆる能力を戦闘に応用出来るというのは、余程そのポケモンの生態に精通していなければ不可能だ。

 

(ジムリーダーは特定のタイプのエキスパート……)

 

 ロイナは、ジムリーダーの実力の一端を見た気がした。

 

「ワカシャモ! 『ひのこ』で近付けるな!」

「それはさすがに甘々〜。『スピードスター』ばら撒いて」

「シャモモモモ!」

「パルラララララ!!」

 

 小さい炎と星型のエネルギーがぶつかっていく。

 技の撃ち合いも、素早さにここまで差が開いてしまえば最早、1対1と言って良いのか疑問に感じてしまう。

 それほどに両者の弾幕には違いが出ている。

『ひのこ』では相殺が追い付かない量の『スピードスター』がワカシャモへ連続ヒット。

 体力が削られていく。

 撃ち合いでは勝ち目がないと見たコギノリが次の指示を飛ばす。

 

「くっそ! ワカシャモ! 『つばめがえし』!」

「シャモッ!」

「『ニトロチャージ』」

「パルワンッ!」

 

 ワカシャモが必中の技を構えるも、炎をまとって更に限界近くまで素早さを上げたパルスワンが、目にも止まらぬ速さでぶつかる。

 あまりの速さと勢いにワカシャモは『つばめがえし』を繰り出す暇も無かった。

 

「さぁ、そろそろトドメ。『スパーク』」

「パルルルル!」

 

 今度は電気エネルギーをまとい、正しく雷そのままかの様な速度でワカシャモを倒そうと踏み出した。

 

「今!!」

「シャッ!!」

 

 だが、ネリアが気付いた時にはパルスワンの顔面にワカシャモの蹴りが入っており、逆に吹き飛んでいた。

 

「え?」

「パ、パルゥ……」

 

 ネリアは今の一瞬で何が起こったのか分からなかった。

 ジムトレーナーたちも同じで静まり返る。

 そんな中、唯一かろうじて理解したのがロイナだ。

 

(今……最高速で攻撃して来たパルスワンにドンピシャで合わせて『にどげり』を入れた?)

 

 ロイナ自身にはパルスワンの『スパーク』の挙動は見えていなかったが、コギノリが発した声とワカシャモの体勢から予測したのだった。

 あの速度を見切った上で指示を出し、ワカシャモもそれにきっちり反応してみせた。

 才能、という言葉がロイナの頭を過ぎる。

 

「な、なら『こうそくいどう』で撹乱しながら『スパーク』!」

「パ、パルルルワンッ!!」

 

 ワカシャモの周りを残像が出るかと思うほどのスピードで駆けるパルスワン。

 いざ電気を溜めて突撃しようと移動しながら力を溜め──

 

「そこっ!」

「シャモッシャッ!」

「パル!!?」

「うっそ!!?」

 

 先ほどは1発だけのヒットだった『にどげり』を完璧に2発叩き込む。

 1発なら偶然かもしれない。

 だが、2発も狙ってヒットさせたならそれは必然だ。

 

(嘘でしょ!? 最高速のパルスワンをあのコンビ、完全に見切ってるってこと!?)

 

 ネリアにはにわかには信じがたい。

 長年連れ添った自分でさえ、まともに指示を出すのはギリギリなほどの速度。

 それをほぼ初見で反応はおろか対応までされた。

 冷や汗どころではない。

 半歩、無意識に足が下がった。

 

「パルスワン! これで決める! 『エレキボール』!」

「パルルルルワァオオン!!」

 

 パルスワンが鼻先に電撃を溜める。

 ボール状となったそれにパルスワンが速度を上げるのに回していた電気エネルギー全てを唸り声と共に注ぎ込む。

 

「パルルルルルル……」

 

 限界まで大きくなったそれを。

 

「ワォオン!!」

 

 吠え。

 放つ! 

 

「さぁ、どうする!?」

 

 パルスワン以上の速度で飛んでくる『エレキボール』を前に、コギノリの口角がニッ、と上がり。

 

「ワカシャモ! 『かえんほうしゃ』!」

「シャモッ! シャァアアアア!!」

 

『ひのこ』とは比べものにならない炎を吐き出して対抗する。

 しかし、その程度では限界まで威力を高めた『エレキボール』は止まらない。

 だが、コギノリの狙いはそこではない。

 

「そこだ!」

「シャモッ!」

 

 ほんのわずか。

『かえんほうしゃ』によってズレた軌道に出来た隙間。

 そこに身体を捩じ込む。

『エレキボール』がワカシャモを掠め。

 通り過ぎる。

 

「うそ!?」

「パルァ!?」

「『にどげり』!!」

「シャモッ!!」

 

 今度こそ驚愕で意識の空白が生まれたネリアとパルスワン。

 その隙に全力で蹴りをお見舞いする。

 外れた『エレキボール』が弾け。

 その後に残った光景はハッキリと示していた。

 

「パ、パルスワン戦闘不能! よって勝者、マルクェットタウンのコギノリ!」

「よっしゃああ!!!」

「シャモー!」

 

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