「いや〜、負けた負けた、完敗ね」
「やったぜ!」
喜ぶコギノリにロイナを含めたジム全体から拍手が送られた。
流石に疲れたワカシャモが座り込み、照れる様に頭を掻いている。
「はい、これがイェシードジムを突破した証『スパーキーバッジ』よ」
「うぉおおおお……見ろ、ワカシャモ! 俺たちの初めてのバッジだ!」
「シャモ〜」
ワカシャモとハイタッチしたコギノリが掲げたバッジ。
青と黄色の弾ける電気をイメージしたバッジこそ、『スパーキーバッジ』だ。
これを8つ以上集める事でポケモンリーグへの参加条件を獲得する。
「ICチップが埋め込んでありますので、これはコギノリさんだけのバッジになります」
「おぉ、俺だけのバッジかぁ」
「紛失した場合、再発行は可能ですが料金が掛かりますのでご注意ください」
バッジを受け取ったコギノリにジムトレーナーがバッジの使用を説明してくれる。
説明を一通り受け終えた頃にはロイナがラルトスと自身のポケモンを連れて合流していた。
「ラッルー♪」
「おーし、ラルトス〜、いい子にしてたかー?」
「ラルッ!」
「よしよし、次回からはお前にも頑張ってもらうからなー」
「ラル〜♪」
カッコよく勝ったコギノリに、メロメロなラルトスが抱き付く。
頭を撫でてやると、頭を擦り付けて来る。
コギノリにとってはいつものスキンシップだ。
大変なバトルを終えてすぐだというのに元気なコギノリへ、ロイナは声をかけていく。
「コギノリ」
「ロイナ、どうだ!」
「うん、すごいよ、技の数もキレも、本当にすごかった」
「へへへ、だろー?」
バッジを見せびらかしながらロイナに笑顔を向ける。
「ほんとよ、もー、どうやって短期間であんなに技数揃えて練度を上げたんだか」
「へへっ、セキミラじゃあ常識じゃないっすか」
「ま、ねー」
「別地方出身の僕からしたらいまだに慣れないよ。
そう、先ほどのバトルでも、コギノリとネリア、2人のポケモンは本来四つまでしか覚えさせない技をそれ以上覚えさせていた。
一説には、ポケモンがバトルで十全に効果を発揮できる技の数は四つまでとされている。
それ以上は覚えても満足な効果を得られないのだという。
それ故に、ポケモンは四つまで技を覚えさせ、やることを絞りつつレベルを上げて強くするというのがほぼ全世界での一般常識だ。
だが、このセキミラでは違う。
「昔のチャンピオンが、その定説をひっくり返したんだよね」
「そう! そうなんだよ」
「まぁ、今でもその人はイカれてる扱いされてはいるけどねー」
セキミラ地方でもかつては技は四つまでだった。
だが、技の数についての規約が無かったこともあって、1人の無名の参加者が多くの技を覚えさせ、なおかつ極めたことで頂点の座を掴んだ歴史がある。
それからセキミラではポケモンがいかに多くの技を覚え、それを極められるかということを重視している。
今では、限界を超えて極めた『たいあたり』は、覚えたての『ギガインパクト』に勝る、という考えが地方全体に当たり前に浸透しているほどだ。
むしろ、能力値の高いポケモンに強い技を使わせるだけのゲームの様な育て方は敬遠される傾向にある。
もちろん、あえて技を絞ることで練度を極めていくという選択肢もアリとされている。
「ま、それでもまだまだ極めてかないと、リーグ優勝はできねぇけどな!」
「そうだね、僕も負けてられないや」
「俺はもっと負けねー」
改めてのライバル宣言に軽く拳を合わせる2人。
今度はロイナの番だ。
「ごめん、ちょっと消耗しちゃったから明日でいい?」
「え?」
──となるはずだったのだが、先ほどのバトルが余程に激戦だった様で、本日のジム戦は終了する運びとなった。
深々と頭を下げるネリアが、同じだけのコンディションでジム戦やりたいから頼むと言われてしまえば、ロイナとしては断ることは出来ない。
「ほんっとーに、ごめん!」
「もういいですから、それに言ってもらえて助かりました」
「ほんと?」
「本当です、消耗したネリアさんに勝って手にしたバッジじゃあきっと──」
言葉を濁しつつ、コギノリに視線を向ける。
ハッキリとは言わなかったが、ネリアには何となく分かった。
──きっと、ライバルとして誇れないですから。
それを言えばコギノリが否定してくることを理解しているのだろう。
だからこそ飲み込んだことを察したのである。
「んじゃ、明日には今日以上に完璧にしとくね」
「はい、お願いします!」
そう言って握手を交わした後、ロイナとコギノリはイェシードジムを出た。
ポケモンセンターで一泊しに行くロイナと別れ、そのままコギノリは旅を続けると言う。
「今バッジゲットしたってテンションでこの街に留まってたら、熱が冷めちまう。だから、先行くぜ」
「コギノリらしいね……」
こうなったコギノリが止まらないことをとっくに理解しているロイナは、風邪を引かない様に注意して、街の外へ駆けていくコギノリを見送った。
「さぁ、僕たちはポケモンセンターに泊まりに行こうか」
「ダネ!」
「「レーツ」」
ロイナたち一行は反対方向のポケモンセンターへ向かう。
「そうだ、せっかく時間ができたからさ」
「ダネ?」
「「タイ?」」
「作戦、練ろうか」
少しいたずらっ子の様に笑みを浮かべながら、ロイナもまた、翌日のジム挑戦に向けてコンディションを含めた諸々を整えるのであった。