ポケットモンスター〜キセキ〜   作:龍崎悠司

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〜初めてと次、バッジとルート〜

 

「やー、負けた負けた……ってこれ、昨日も言ったね」

「あ……ありがとう、ござい、ました」

 

 からからと笑いながら歩み寄るネリアに対して、ロイナは息も絶え絶えだ。

 バトルでの極度の緊張状態から一気に弛緩したからだろう。

 ネリアから差し出された手を弱々しく握る。

 

「んじゃ、これ。イェシードジムを突破した証、『スパーキーバッジ』」

 

 そう言って、ポンとバッジを渡される。

 落とさない様に気を付けながらスパーキーバッジを見る。

 弾ける電気を表した、青と黄色のトゲトゲしたバッジだ。

 力を入れるとちょっと痛い。

 

「一応説明があってね、よろ」

「はい、ロイナさん。まずはバッジ獲得おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 

 バッジに関する共通の説明だ。

 内容はICチップが埋め込まれているロイナ専用のバッジであることを始めとした基本情報と注意点。

 

「紛失した場合は再発行可能ですが、料金が掛かりますのでご注意ください」

「ちなみにおいくらくらい?」

「10万円ですね」

「じゅっ!!?」

「盗難以外での2回目以降は一回ごとに更に5万追加されます」

「更に5!!?」

「そもそもデザイン性の値段と、価値、それから紛失防止目的もあるのよー。盗難ならともかく、そう何度も紛失されるのも困るしねー」

 

 とんでもな金額で目が飛び出るロイナ。

 盗難対策でICチップを付けてるし、バッジを買い取るのはセキミラ地方では違反行為である。

 そして再発行は高額となれば、大事にする人が多くなるのも納得である。

 もっとも、大事にする一番の理由は自分とパートナーのポケモンたちとの努力の結晶とも言える想いの詰まった品だからだが。

 一通りの説明を受けて、渡された時より慎重にバッジをバッジホルダーへ付ける。

 

「はい、そんじゃ堅苦しい話はおしまーい!」

「お疲れ様でした」

「はいお疲れ様。ね、ね。色々と答え合わせしてもいい?」

「答え合わせですか?」

「手ぇ空いてる子たちもしゅーごー!」

 

 ネリアが周囲で観戦していたジムトレーナーを呼ぶ。

 ネリアとロイナの周りにわらわらと集まってきた。

 

「今回、どっからどこまでアドリブ? 結構用意した策がハマった?」

「そ、そうですね。用意してた策は大体見せたと思います」

「そうだよねー、割と狙ってた動き通された気がするわー」

 

 うんうんと頷くネリア。

 ジムトレーナーも興味深そうに頷く。

 1人のジムトレーナーがおずおずと手を挙げる。

 

「あの、『どくのこな』って用意してたんですか?」

「あ、はい。ニトロチャージで突っ込んで来るのは予想出来てたのでそれで──」

 

 1人に答えると他のジムトレーナーも次々に疑問をぶつける。

 

「あ、タイレーツがバラけたのって作戦でした?」

「そうですね、バラけるのも戦略に組み込みました」

「どうやって思い付いたんですか?」

「まだ息が揃ってないので、いっそのこと別々に行動するのも練習して形になった感じで──」

「じゃあアレは……」

「それは……」

 

 大方の質問に答えると皆納得した様に頷いた。

 

「ふんふん。大体アタシの所感とも一致する。よく一晩で考えられたもんだわ」

「ありがとうございます」

「でもまさか、フシギダネが進化するとは予測出来なかったよー」

「感謝しっぱなしです。恐らくそうでないと勝利できませんでしたから」

「あのジャンプは仕込んでたの?」

「いえ、『つるのムチ』の威力を見てフシギソウが少し浮きそうになったのが分かったので、それならジャンプも行けるかなって」

「へぇ、アドリブかと思ったけど、ちゃんと根拠あったのね」

「アドリブと勢いはコギノリにしか出来ないってよく分かりました……」

「そうかもね……ふふっ」

 

 ネリアも質問して疑問を解消していく。

 その中でふとネリアが笑ったので、ロイナは首を傾げる。

 

「1つ、訂正する。君はちゃんと脅威があって才能があったよ」

「そ、そんな、僕なんてまだまだで……」

 

 照れ混じりの謙遜に、ううん、と首を横に振って否定する。

 そして、手を差し出す。

 

「君は一流のポケモントレーナーになれる。このイェシードジムジムリーダー、ネリアが君の才能を保証する」

 

 柔らかい笑顔で差し出された手を、どうしてそんなに、と疑問が浮かぶ頭と震える手で握り返すロイナ。

 

「ありがとう、ございます」

 

 それでも握り合ったその手は、どちらも力強かった。

 それから。

 ジムトレーナーたちにも挨拶をする。

 イェシードシティを見て回るか、先へ進むのか、ともあれこのイェシードジムに別れを告げるロイナ。

 

「そうだ、ロイナっち」

「ろ、ロイナっち……」

 

 もう後はジムを後にするだけ、というタイミングでネリアが声をかける。

 ロイナとしては、ネリアのロイナっち呼びが気になって仕方ないが、ツッコミを入れるのも野暮なのだろうと無理矢理飲み込んだ。

 

「次のジムは決めてるの?」

「いえ、アツナッカは経由して行こうと思ってますけど」

 

 アツナッカシティはセキミラ地方の真南にあるイェシードシティよりも大きな街だ。

 そちらならばタイレーツの情報が集まるかもと期待してのこともある。

 その過程でアツナッカジムにも挑戦しようとロイナは考えていた。

 

「そのルートなら、途中のホドゥライに行くといいよ」

「ホドゥライ……ホドゥライタウンですか?」

 

 そうそう、とロイナの確認を肯定する。

 ホドゥライタウンは、自然と共にある町の多いセキミラ地方の中でも特に自然寄りの町だ。

 1番の特徴は、墓地があることだろう。

 祈りの広場と呼ばれるそこには、ゴーストタイプポケモンがとても多い。

 人が極端に整備した場所には比較的近付いて来ないが、それでも脇道に誘うものもいて、墓参りの際には護衛のポケモントレーナーを安く雇うビジネスも成り立っているほどだ。

 そして、寺院の役割を果たすジムがあるのも特徴の1つとなっている。

 

「ホドゥライのジムリーダーって、占い? か何かで色々見えるらしいよ」

「占い、ですか?」

 

 ネリアの提案にはロイナは疑問だ。

 自分が何を持って占いを必要としているのだろうか、と。

 

「タイレーツって、個々の繋がりがすごく強いポケモンじゃん? ワンチャン何か見えたりしないかなぁって」

「良いですね! 決まりです」

「え、いいの?」

 

 提案の理由を話されたロイナは即決した。

 タイレーツのことはポケモンリーグ挑戦と並んで最優先事項である。

 可能性があるなら、そこへ全ツッパだ。

 

「なら早速……!」

「ちょちょちょい!」

「なんですか?」

「今日そんな息を切らす様なバトルしといて慌てて進んだらゴーストポケモンの格好の的だよ!?」

「う……」

 

 即行動しようとしたロイナを引き止める。

 そうでもしないと本当にさっさと進んで野垂れ死ぬんじゃないかとジムトレーナーたちもヒヤヒヤした。

 

「それに、もうすぐイェシードでお祭りがあんの。是非楽しんで行ってほしいなって」

 

 急ぐって言っても急ぐだけの旅じゃないんでしょ? と言われれば、確かに何も思い出に残らない様な旅をするつもりは確かにロイナにはない。

 せっかくなら楽しみたい思いはあるのである。

 しかしそれでもタイレーツのことを心配するロイナに数日前の記憶が過ぎった。

 ── このイェシード遺跡の森も、ポケモンたちも、たかだかこんな程度でどうにかなるほど、弱くないよ。

 森で出会ったミツタの言葉だ。

 自然もポケモンも決して弱くない。

 ならば今どうしようもないことで焦るより、一歩一歩踏みしめた方がきっと良い旅になる。

 心配はなくならないが、無駄に焦るほどではない。

 少なくとも自分のタイレーツは力強い。

 他の仲間がそうでない道理はないのだから。

 

「分かりました。お祭り、楽しみにしてます」

 

 そう伝えて、ロイナはイェシードジムを後にしたのだった。

 

 

 

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