ゆっくり進んでいくリククラゲに連れられてロイナとミツタは森の中を進んで行く。
しばらく進んで行くと、かなり奥の方まで来ていることに気付く。
遺跡の痕跡がチラホラと目端に映るくらいには、遺跡そのものへ近付いている証拠がある。
この辺りにいるポケモンが襲って来た場合、ロイナたちにはなす術がないだろう。
それほどに奥地のポケモンの強さ、遺跡近くのポケモンの強さは相当なものなのである。
もちろん全てのポケモンが強靭な訳ではないが、それら子供のポケモンを守る親ともなれば、群れを引き連れているオヤブンでもおかしくないほどだ。
ロイナはフシギソウをボールから出し、ミツタはピッピ人形を構えている。
と、不意にリククラゲの進みが止まる。
触手を構えて明らかに戦闘体勢だ。
「ミツタさん、下がってください。タイレーツもよろしく」
「「タイ」」
一体何が? と覗いた奥。
そこからいきなり光る刃が飛んできた!
「タイレーツ、『まもる』!!」
「「タイ!!」」
リククラゲより前に出て盾を構えるヘイチョー。それを後ろから支えるヘイが光る刃を受け止める。
「「タイー!?」」
「タイレーツ!?」
しかし、受け止め切れずに後ろに飛ばされてしまった。
幸い光る刃は軌道がズレて遥か後方の上空へ放たれていった。
果たして、その奥から現れたのは。
「エルレイィイイイイイイ!!!」
明らかな敵意を向ける通常より一回り大きなエルレイドだった。
「ク〜ク〜」
「レイ! エルレイ!!」
リククラゲが落ち着けようとするも、聞く耳を持たない様子のエルレイド。
その視線は、ロイナに固定されている。
悪人見つけたり、とでも言わんばかりだ。
「ロ、ロイナくん、一体何をしちゃったんだい!?」
「いや、流石に知りませんよ!」
全くもって心当たりのないロイナ。
しかし、容赦なくエルレイドは襲いかかってくる!
「エルレッ!」
腕にエネルギーを溜めて振り回す。
そこから先ほども飛んできた光る刃──『サイコカッター』が再びロイナに向けて放たれる。
タイレーツを呼ぼうとするも、ロイナより後方だ。
フシギソウに『つるのムチ』を指示しようとするも、あまりにもその刃は速かった。
「ク〜」
「ひぅ……! うわぁっ!?」
もう目の前にあった刃に冷たいものを感じた瞬間、横から何かが『サイコカッター』へぶつけられ、弾けた。
ロイナはその爆風に煽られて尻餅をついてしまう。
「あ、ありがとうリククラゲ、『タネばくだん』で助けてくれたんだね」
「ク〜」
気にしなくていい、とでも言うようにゆっくり返事した後、ロイナを守る様に前に出るリククラゲ。
それを見てエルレイドが苛立たしげに声を荒げる。
「エルゥウウウイ!!」
「え、えい!」
ミツタが震えながらもピッピ人形を放り投げるも、一瞥くれただけで見向きもしなかった。
「え、えぇ!? ピッピ人形で気を引けないの!?」
「つまり、本気で僕を害そうとしてる、ってわけですか……」
ピッピ人形に反応しないとなると、逃げの算段が付けられない。
リククラゲもどこまで戦えるかは分からない。
(そこまで僕に執着する理由が、何かある……)
エルレイドは決して暴走して暴れているわけではないのだと、ロイナは推察する。
そう、ただ暴れているポケモンならば、ここまで理性的に人間を狙ったりしない。
訳もわからない状態なら、ピッピ人形に反応しないわけがない。
リククラゲがロイナを守ろうとする行動に対して苛つくわけがない。
最初からずっとロイナだけを狙った理由が、このエルレイドにはある。
(でも、エルレイドに何かした記憶はないけど……)
どれだけ思い返しても、何か粗相をした記憶はロイナにはない。
もしかして、とセーブ団のことを思い出すも、人間が憎いだけならミツタを無視する理由にならない。
スマホを取り出し、ポケモン図鑑を開いてエルレイドのことを調べる。
「ク〜ク〜!」
「ごめんリククラゲ、もう少し耐えて」
必死にエルレイドの攻撃からロイナを守るリククラゲに謝りながら、ポケモン図鑑の説明を読み込んでいく。
エルレイド。
守るために物理側に能力を伸ばし、エスパータイプ特有の先読みで、肘の刃を、格闘タイプの膂力でもって叩き付けるやいばポケモン。
オスのキルリアに『めざめいし』を使うことで進化する。
必然的にオスだけになるポケモンで、特性『せいぎのこころ』を持つなど、仲間を悪意から守る。
その在り方は善寄りになるのだろう。
まるで父親だ。
(ん? 父親?)
そこまで考えてようやくロイナは可能性に至る。
思い付いた可能性に、確かにそれならロイナだけを狙った理由にも合点がいく。
そこで、スマホを使って電話をかける。
ビデオ通話だ。
「ロイナくん!? こんな時になにを……」
驚くミツタだが、それ以上に真剣なロイナに口を紡ぐ。
1コール、2コール、3コール……。
繋がらない電話に焦る。
その間もリククラゲがエルレイドの攻撃を防いでくれている。
しかし、強く攻性に出ていないのもあり、リククラゲにもダメージが溜まってきている。
猶予はあまりない。
(早く、早く出て……!)
やがて。
『おー、ロイナ、テレビ電話なんて珍しいな』
コギノリが通話に出る。
呑気な様子だが、こちらにはその余裕がカケラもない。
「コギノリ! ラルトスいる!?」
『な、なんだなんだよ? そりゃいるぜ』
「ちょっと映して! 早く!!」
『え? あ、おう……なんなんだ?』
「早く!!」
ロイナの剣幕にドン引きするコギノリだが、ラルトスをボールから出した。
『はいはい、ラルトス』
『ラルッ!』
「! エルレイ!!」
ラルトスの声に気付いたエルレイドが呼びかけるように鳴く。
ロイナはやはり、と確信を持って画面をエルレイドに見せる。
「エルレイィイ!」
「大丈夫、安心してエルレイド。君の娘は僕の友達が大事にしてる」
『ラル?』
『え? どゆこと?』
事態を飲み込めないコギノリと、何がなんだか分からないミツタにも分かるように聞かせる。
『つまり、俺が捕まえたラルトスには親がいてずっと探してて……』
「その匂いだか何だかが触れ合ったことで付いていたロイナくんが攫った犯人だと思い込んで攻撃してた、と?」
2人の理解が得られたので肯定する。
コギノリのラルトスの親であるエルレイドが迷子の子供を何日も探し、ついにその手がかりを見つけた。
それが、ロイナを狙った理由なのだろう。
「エルッ!」
『ラル〜♪ ラルル』
叱る様なエルレイドに、ラルトスは反省の色はないようだった。
ラルトスが迷子だったことは事実だが、そんなものを帳消しにする出会いがあったのだ。
運命の出会いを前に、一回家に帰ってやり直す乙女がいるものか、と胸を張るラルトスを見て、嘆息するエルレイド。
とりあえず、無事以上に楽しそうなラルトスが見られたエルレイドは落ち着いた。
「エルエル……」
「いや、流石に仕方ないかと。迷子になった子供がそのまま家出したら気が気じゃないでしょう」
「エルレイ……」
恩人の友達に無礼を働いてしまったことを認識したのか、肩を落とすエルレイド。
しかし、事情が分かれば許すも許さないもない、と笑うロイナ。
親が子供を心配することの何が悪いのか。
ちなみに、あの剣幕で攻撃してきた相手をそんなすぐ許せるの? それはそれで怖……とミツタとリククラゲはドン引きしている。
事情は理解できるけど、明らかに命を狙ってきた相手にそんな無防備に近付いてコミュニケーションを取れるロイナは割と理解出来ない、普通の感性の1人と1匹だった。
「エル?」
「お詫び? そうだな……ミツタさん」
「ん? は、はい」
「エルレイドに聞きましょうよ、きのみのこと」
「そ、そうかきのみ、うん」
ミツタは恐る恐る『ズリのみ』の画像をエルレイドに見せる。
エルレイドは少し思案した後、森の奥へ歩き出した。
「エルレーイ」
「これは……ついて来い、ということかな?」
「おそらくは」
こちらに向けて呼びかけるエルレイドにロイナ一行はついて行く。
それなりの時間、森の中を歩いた先。
雑多に整えられた木々をより分けて進み、開けた場所に出た。
そこに広がっていた光景。
「これ、は?」
「すごい……」
ミツタは困惑を、ロイナは感動していた。
そこには色々なポケモンがいた。
コラッタ。ジグザグマ。タマゲタケ。キノガッサ。ピジョンやケムッソなど、タイプや特徴もバラバラだ。
その全員に共通している点があった。
全員何かしらの怪我をしているのである。
足を引きずる者。
羽根が上手く動いてない者。
攻撃を受けた跡が見られる者。
その箇所も症状も様々だ。
それらのポケモンを世話しているポケモンたちがいる。
キルリア。サーナイト。テブリム。ブリムオン。
彼ら彼女らは怪我しているポケモンたちの元へ行くと、エネルギーを浴びせる。
しばらくするとみるみる元気になって回復していった。
回復したポケモンは感謝しながら森へ帰って行く。
その様子はさながら、ポケモンセンターだ。
「そっか、ここは……」
「森の診療所、とでも言うのだろうな」
ロイナとミツタは納得した。
ここには大小様々な怪我をしたポケモンがやって来て、治療を頼む。
キルリアやブリムオンが『いやしのはどう』を浴びせることで回復させるのだ。
そういった共生の場所がエルレイドたちの住処なのだろう。
「サッ? サーナ」
「レイ、エルレイ」
「キールー?」
「レイレイエレ」
「サナッ!?」
「リアッ!?」
エルレイドたちがロイナたちの所から離れて、サーナイトとキルリアの元で何やら話し込んでいる。
どうやら問題の家出娘について報告している様だ。
聞かされたサーナイトとキルリアは目を白黒させているのが、距離を空けたロイナからでもよく分かった。
「ブリームー?」
「エル、エルレイ」
そこへブリムオンが入って、こちらに視線をやりながらエルレイドに話しかける。
それに対してエルレイドはこちらを指しながら説明している様だ。
やがて、ブリムオンとサーナイトがリククラゲの所へやって来て『いやしのはどう』を浴びせる。
しばらく浴びたリククラゲは先ほどのダメージを完全に回復していた。
「ク〜ク〜」
「サーナイ」
「リムオー」
軽く礼を言って、サーナイトたちは次の患者へ。
元気になったリククラゲがロイナたちへ笑いかける。
「ク〜リ」
「おぉ、良かったなリククラゲ」
「エルレーイ」
回復したリククラゲを見たエルレイドが、再びロイナたちについて来る様に一言鳴いて森の奥へ歩き出した。
ロイナたちも慌ててついて行く。
再びそれなりの時間を歩いた先で今度は。
「おぉ、これは!」
「うわぁ、こっちもすごい」
陽の光が他の場所より入る広場に案内され、そこに広がっているのは、きのみの楽園だ。
『ズリのみ』や『ブリーのみ』が所狭しと生えている。
緑の中に、赤と青のコントラストが生み出されていてとても綺麗な光景だ。
「これ、もらっていいのかい?」
「エル」
「あ、ありがとう!」
「手伝います、フシギソウ、タイレーツ」
「ソウソウ」
「「タイ!」」
許可をもらったミツタが、『ズリのみ』と『ブリーのみ』をありがたく頂戴していく。
「『ブリーのみ』も取るんですか?」
「ああ! これがあればブリー酢やブリーソースが作れるからね」
「ブリー酢?」
「調味料だよ、渋味で引き立つ酸味が、料理をグッと引き締めてくれるのさ」
その味を想像してお腹の空く思いがするロイナだが、依頼ということであれば手伝う。
前回の時も使った大きな籠へ『ズリのみ』と『ブリーのみ』を入れて行く。
籠の中身が7〜8割ほどになった辺りで収穫はストップ。
この群生地にはまだまだ沢山のきのみが成っている。
もう少し取れるのでは? とロイナが提案するも、これだけあれば祭りでは充分として取りやめた。
「何でもかんでも、取れるからと限界まで取るのも良くない」
「そういうもの、ですか?」
「そうだとも、そうやって自然に感謝しながら恵みを分けてもらい、別の形で森へと返す」
人と自然はそうやって共生してきたのだよ、と言われればロイナは野暮なことを言ってしまったな、と内省する。
ロイナ一行はエルレイドに頭を下げて礼を言う。
「エルレイ?」
「ああ、これで充分だ、ありがとう」
「エールー!」
礼を言われたエルレイドが、先ほどの診療所へ向けて声を発する。
そこから現れたのは、エルレイドがラルトスの話をしていたサーナイトだ。
「サーナ?」
「エル、エルレイ」
「サーナイ」
何やらお願いをするとロイナたちを呼ぶ。
なんだなんだとロイナ一行がサーナイトのすぐ近くに集まる。
「サナ!」
「わわっ!?」
「こ、ここは!?」
サーナイトが手をかざしたと思ったら、次の瞬間森の入り口へと移動していた。
『テレポート』である。
「サーナー!」
「あ、ありがとう!」
「ありがとうなー」
「フシェー!」
「「レーツ!」」
手を振って再び森の奥へ帰って行くサーナイトに礼を言って、今度こそさようなら。
ミツタさんが再びアーマーガータクシーを呼んで、イェシードシティへと帰還する。
「いやぁ、今日は本当に助かったよ、お礼に試作のメニューにはなるがご馳走しようじゃないか」
「やった! ありがとうございます!」
ポケモンセンターの厨房を借りてミツタが料理を始める。
先日以上に美味しそうな匂いにトレーナーが群がってくるが、本日は屋台の宣伝をしてお断りした。
本日も山菜フルコース、特に今日収穫した『ズリのみ』や『ブリーのみ』を使っている。
刺激的で、重厚な香りが食欲をダイレクトに誘う。
出来上がったらみんなで
「ん〜! 今日のご飯も美味しいです!」
「ははは、そうだろうそうだろう」
「ソウソウ!」
「「レーツ! レーツ!」」
ゆっくり食べるなんてこともできず、出された料理をアレもこれもとかき込む。
おかわりの手も止まらないで、勢いそのまま
「前にも増していい食べっぷりだったね」
「こんなのいくらでも食べられちゃいますよ」
「ははは、それは嬉しい限りだね。そうだ、ポケジョブの報酬がまだだったね」
そう言ってスマホロトムを取り出したミツタを手で制する。
「報酬は受け取ります、けどお金より別の形で欲しくて……」
「別の形?」
「はい、実は…… ──」
それからロイナが料理がどうしても上手くいかないので、レシピという形で報酬を受け取りたいと切り出した。
料理自体は苦手というわけではないし、食べれるものを作るだけなら充分に作れる自負はあるロイナ。
しかし、本格的に料理を学んだわけではないため、どうしてもレシピは偏るし、この前のノノクラゲのヒレの様な扱ったことのない食材を上手く活かす技術はない。
だが、それでは旅を続けて行く上で厳しいかもしれない。
いつでもポケモンセンターに寝泊まりできるわけではないし、ものによってはさっさと使い切らねばならない時もある。
それでも本格的に料理を学んでいる時間的猶予はない。
それらをまとめて加味してのお願いが、調理技術の解説を含めたレシピ本というわけだ。
それを聞いたミツタは考える。
「あ、いや、無理にとは言わないので……」
「ロイナくん、祭りが終わるまではイェシードシティにいるんだね?」
「え? はい、せっかくですから」
「そうか」
不躾なお願いだったかと遠慮しようとするロイナを逆に手で制し、ミツタは確認する。
「それならアレやコレを書くとして数日……」
「ミ、ミツタさん?」
「よし、ではイェシードシティを出る日には間に合わせよう」
「え? 間に合わせる?」
ロイナとしては今は読んでない料理本を譲ってもらう程度のつもりだったのだが、なんだかミツタに火を付けたらしい。
「では、早速準備に取り掛かる。祭りの日には屋台に遊びに来ておくれ」
「は、はい、その時はよろしくお願いします」
「うむ!」
力強く頷いたミツタは走って帰って行ってしまった。
「な、なんだったんだろうね?」
「ソウ?」
「「レーツ」」
首を傾げるロイナの足元。
同じ様に首を傾げるフシギソウと、美味しいご飯が食べれて大満足のタイレーツが寝転がっていた。