ポケットモンスター〜キセキ〜   作:龍崎悠司

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〜イェシードフェス〜

 

 イェシードフェス。

 本日はついにその開催日だ。

 セキミラ地方各地から年に一度のお祭りを楽しもうと沢山の人々がやって来て、それなりに広いイェシードシティと言えども、今日はどこもごった返し状態。

 ロイナは手持ちたちと共に街を歩きながら雰囲気を楽しむ。

 右手を見れば屋台が並び、懸命に客引きを行っている。

 その勢いに押されてロイナはすでにオクタン焼きやわたあめなどを買わされていた。

 もちろんすでに全員のお腹の中である。

 左手を見れば行き交う人々のその向こうにステージが見える。

 会場を沸かしている音楽と観客の声がここまで響いてくる。

 

「わぁ、すっごいね!」

「ソウソウ!」

「「レーツ!」」

 

 見たことのない規模の人の波、体験したことのないお祭りの空気に圧倒されながらもロイナたちはお祭りを楽しんでいた。

 ロイナたちの誰も都会を知らなければ、大きなイベントごとも知らないのだ。

 フシギソウは研究所の外を知らず、タイレーツも住処以外の場所はロイナと巡った所だけ。

 ロイナもまた、ソノオタウンやマルクェットタウン(田舎暮らし)しか知らない、割と生粋の田舎者なのだ。

 

「お兄さん、こっちでかちわり買って行かんか?」

「かちわり、ですか?」

 

 次はどこへ行こうかとキョロキョロしていると、またも屋台から声をかけられる。

 かちわりに馴染みがないロイナが屋台の主人にどういったものか聞いてみる。

 かちわりとは、ビニール袋に氷とシロップが入って、溶けたジュースを飲むお祭り特有のドリンクだ。

 持ち運びしやすく、ゴミも捨てやすい利点がある。

 

「オススメは『マゴのみ』や『パイルのみ』のシロップだよ!」

「んー、どれどれ……」

 

 置いてあるシロップを見るとかなり種類が豊富だ。

 オススメのものも含めて、甘いものや酸っぱいものを中心に揃えている様だ。

 様々な香りが漂ってきて、自然と頬が緩む。

 

「甘いものが好きなら『モモンのみ』、極端な甘党さんなら『カイスのみ』もあるぞ〜」

「んー、どうしよっか」

 

 ロイナは少し悩む。

 フシギソウはまじめな性格のため、味の好き嫌いはない。

 問題はタイレーツだ。

 さみしがりな性格のタイレーツは辛いもの好きかつ酸っぱいものが嫌いだ。

 かと言って、ロイナはジュースにしてまで飲みたいほどの辛党でもない。

 なんなら甘党寄りだ。

 でも、どうせ好みがあるなら合わせてあげたい。

 

「んじゃあこういうリクエストって出来ますか?」

「あいよ! 任せな!」

 

 基本甘い系で酸味はなし、ほんの少し辛さのある調整をお願いしてみる。

 合点承知! と店主がビニール袋に氷とシロップを入れていく。

 

「ほい、出来たぞ!」

「ありがとうございます、これは?」

「基本は『モモンのみ』と『ゴスのみ』だ。しっかりした甘味とそいつを引き立てるほんの少しの苦味だな、そこにちぃっとだけ『クラボのみ』のシロップを入れてある、ちょびっとピリ辛風さ」

「おぉ、ありがとうございます! ではお代を……」

「おぅ、まいど!」

 

 溶けた後、よく混ぜてなー、と言われ、その通りにやって飲んでみる。

 

「んー! 美味しい!」

 

 すごく美味! 

 強い甘味を苦味が程よく引き締め、はっきり引き立てながら、後味にほんの少しピリ辛感が抜ける。

 サイコソーダなどとはまた違ったジャンルの爽やかさ。

 これはハマってしまいそうだ。

 

(ミツタさんの屋台に行った時、きのみの味の組み合わせについてもレシピ本のリクエストに加えようかな)

 

 思わずそう考えてしまうほど美味しいジュースだった。

 フシギソウとタイレーツにも分ける。

 

「ソウ! ソウソウ!」

「レッ! タイレ!」

「レーツ! タイレッ!」

 

 ジュースはフシギソウとタイレーツにも大好評だった。

 これは後でまた屋台に行こうと決めつつ、あっという間に飲み切ってしまった。

 はしゃぐタイレーツと逸れない様につるを伸ばしてタイレーツに掴ませるフシギソウを連れながら、ステージの方へ向かう。

 

「ふふ、楽しいね」

「ソウ!」

「「レーツ!」」

「…………!」

「ん?」

 

 手持ちたちと笑い合うロイナの耳が、言い合う声が聞こえた気がした。

 歩いてるうちにステージの裏方の方へ来てしまったのか、人の声が少なくなったことで、たまたま聞こえたようだ。

 

「なんだろう? 何かあったのかな?」

「フシェー?」

「タイ」

「タイレ」

 

 とりあえず声のする方へ向かうロイナ一向。

 

「……どうする、もう……」

「かと言って……の負担が」

「他に選択肢は……」

「あの、どうかしましたか?」

 

 ただならぬ雰囲気だが、躊躇なく声をかけるロイナ。

 声をかけられた2人の男女はびっくりしてロイナの方へ向く。

 

「!? 君は!?」

「あれ、ロイナさん?」

「あ、ジムトレーナーの?」

 

 男性の方は分からないが、女性の方はイェシードジムで審判をしてくれた女性だった。

 

「お困りでしたら手伝いますよ?」

「おお、手伝ってくれるか?」

「はい、できる限りは」

 

 男性はここに光を見たり、とロイナを見るが、ジムトレーナーの方は訝しげだ。

 

「なにか?」

「いや、ロイナさんができるか未知数で……」

「未知数、ですか?」

 

 その様子に男性からの質問を受け、出てきた未知数という言葉に今度はロイナの首が傾く。

 

「ちなみに、何を手伝えばいいんですか?」

「ああ、言ってなかったかな?」

 

 これはしまった、と額に手を当ててロイナの疑問に答える男性。

 

「パフォーマンスで場を持たせて欲しいのだよ」

「え?」

 

 予想だにしていなかった依頼の内容にロイナが固まった。

 ジムトレーナーは、ほらやっぱり……、といった様子でため息を吐く。

 

「パ、パフォーマンス、ですか?」

「そう、交通のトラブルでそろそろ出番のパフォーマー、というよりコーディネーターだな。その人が間に合わなくてその出番を埋めて欲しいのだよ」

 

 なんでも、イェシードフェスで開かれるポケモンコンテストに参加予定だったコーディネーターの乗るアーマーガータクシーが、アーマーガーを狙うデカヌチャンに襲われた影響で到着が遅れてしまっているのだという。

 他の参加者にはそれぞれ道具の貸し出し時間などの都合があって、早めるのが難しいらしく、間を待たせられる人員を急遽募集していた、というわけだ。

 

「一応、ジムリーダーに頼むという最終手段はありますが……」

「しかし、彼女には元々最後にパフォーマンスをする予定があるのだよ」

「それは……色んな意味で悪影響ですね……」

 

 そうなのだ、と頷く男性。

 イェシードジムのジムリーダー、ネリア。

 そのパフォーマーないしコーディネーターとしての実力をロイナは知らない。

 だが、バトルの時に見せた電気ポケモンへの深い理解を見るに、決してステージを盛り下げることはないだろう、というのは想像に難くない。

 それに、『快活スパーキーガール』とまで呼ばれる陽気さとテンション。

 ステージパフォーマンスが苦手だと思う方が難しい。

 そんな人がシメではなく途中で出てしまえば、後続の人たちは非常にやりにくい。

 しかも、もう一回パフォーマンスが入るとなると、なんとなくステージのテンションも下がりそうだ。

 これは確かに代理の人員による穴埋めを探したくなる。

 

「幸い、道具の貸し出し業者には遅れる事情を話して最後にずらすのは可能だと言われている」

「多少の前後を含めて、間のパフォーマーに道具の貸し出しもOKと聞いてるわ」

「お二人は出られないのですか?」

 

 ロイナの質問に、2人とも眉をひそめてしまう。

 2人もステージの裏方としてあちこち動かなければならず、表に出る余裕まではないとのこと。

 あまり時間ないようで他と連絡を取り合うも、適任は見つかっていないらしい。

 

(他に探す? 心当たりもないし……かと言って準備を手伝ったお祭りが一部とはいえ失敗するのを見過ごすのも後味が悪い……)

 

 ロイナもぐるぐると悩む。

 心臓をバクバク言わせながら俯いてこちらも眉をひそめ、冷や汗が額を湿らせて。

 やがて真剣な目をしたロイナが、顔を上げて宣言した。

 

「…………分かりました、やります!」

「いいのかね?」

「私たちも助かるけど、大丈夫なんですか?」

 

 聞かれたロイナは固くなりながらも首肯する。

 とても大丈夫そうには見えないが、それでも目の前にある手を取る以外に切り抜ける方法がないことが分かっているため、裏方の2人も頭を下げる。

 

「「よろしくお願いします」」

「は、はい!」

「あ、代わりの人、見っかったー?」

 

 そこへネリアがやってくる。

 

「ネリアさん!?」

「お、ロイナっちじゃん、ジム戦ぶり〜」

 

 小さく手を振るネリアに会釈で返すロイナ。

 

「てか、ロイナっちが出てくれんの?」

「はい、そういうことになりまして……」

「そっか、ありがとね」

「穴埋めができるほどの力はありませんが、時間だけは持たせます」

「ん〜?」

 

 後ろ向きな宣言に、裏方の2人はそれでもありがたい、と頭を下げるが、ネリアは納得していない様子。

 

「ネリアさん?」

「ロイナっち、そんな意気込みじゃ、失敗するよ」

「ゔっ……」

 

 確実に来る未来にグサッと何かが刺さるロイナ。

 やるだけやってピエロにでもなれれば御の字だろうと考えていたロイナにネリアは首を横に振る。

 

「今回出てもらうパフォーマンスは、ポケモンコンテスト。何も5分10分の劇をやってほしいわけじゃないの」

「それは、まぁ、なんとなくは……」

 

 ポケモンコンテストのアピールについては、テレビ番組で見たことはあるが、ロイナ自身はよく知らない。

 そんな状態で何ができるか──

 

「違う違う、ロイナっち」

「え?」

「ただのステージパフォーマンスならそれなりに上手くやらなきゃいけない部分もあるけどね、ポケモンコンテストならそれだけじゃないの」

「それだけ、じゃ、ない?」

 

 ネリアは頷いて続ける。

 

「ポケモンコンテストはね、『手持ちのポケモンの魅力を目一杯見せるイベント』なの」

「ポケモンの魅力を?」

「そう、どんなポケモンにもある、トレーナーが見出した魅力を見せ合いっこして、審査員的にどうだったかを競うだけの場所だよ」

 

 だから、気負うことなど皆無だと言うネリア。

 裏方の2人は、いや、本質はそうだけど、理屈と感情が納得するか? とあわあわしている。

 だが、言われたロイナは、すとん、と理解した。

 なんだ、()()()()()()()のことなんだ、と。

 なら何も問題はない。

 魅力(そんなもの)、ありすぎて伝えられないくらいだ。

 

「分かりました。あとは、どうにかします」

「ん。OKだね」

 

 用意してほしいものはある? と聞くと少し悩んで。

 

「では──」

 

 

 

 

『さぁ、次のコーディネーターはこちら! 急遽飛び入りしてくれましたこの方! つい先日ジムリーダーネリアを降し、バッジをゲットした期待の新人! ロイナさんです!』

 

 わぁー!!! 

 歓声の響きが『じしん』の技になるんじゃないか、というステージで、ロイナがフシギソウと共に現れた。

 一礼してからフシギソウと向き合う。

 頷き合って演技開始! 

 

「さぁ、皆さん! 僕のフシギソウのご自慢はこちら! 『つるのムチ』!」

「ソウソウ♪」

 

 ノリノリで紹介されたフシギソウがつるを伸ばしてゆらゆら揺らす。

 観客は一体何が始まるのか、とステージを覗き込む。

 

「取り出しますはサッカーボール、こちらを〜、えい!」

 

 適当に放ったサッカーボールをすぐさま捕まえる。

 小さくおぉ、と感心の声が響く。

 

「お次は『モンスターボール』を……あわわ!」

 

 続けて取り出した2つの『モンスターボール』を落としそうになる。

 観客が一瞬ざわつくも、床に落ちる前に素早くフシギソウがつるを使ってキャッチ! 

 

「ありがとうフシギソウ!」

「フ〜シェ」

 

 得意げなフシギソウに拍手と礼を贈るロイナ。

 釣られて観客席からも拍手が飛ぶ。

 

「更に〜フシギソウ!」

「フシェッ!」

 

 持ったサッカーボールと2つの『モンスターボール』を器用につるでジャグリング。

 更に拍手が上がる。

 

「更に更に! 僕のパーティ! おいで、タイレーツ!」

「「タイッ! タイレー!」」

 

 息ぴったりの動きで登場し、会場を沸かせる。

 

「さぁ、タイレーツ、ゴー!」

「タイ!」

「タイッ!」

 

 ロイナが指示を出すとジャグリングしている中に飛び込んでいく。

 

「フシェッソウ!」

「タイー!」

「レーツ!」

 

 タイレーツたちもジャグリングの中に加えて大成功! 

 拍手と歓声が大きくなる。

 

「では最後に僕自身が!」

 

 そう言って丸まって飛び込むロイナに、一瞬悲鳴の様な声が混じる。

 

「フシェー!」

 

 しかし、ロイナだってなんのその。

 ジャグリングを難なく続けるフシギソウに、会場の盛り上がりは最高潮! 

 

「フシギソウ、フィニッシュ!」

「フ〜、シェッ! ソウッ!」

 

 掛け声と共にジャグリングしていた全てを高く放る。

 最初にフシギソウのすぐ後ろにロイナが着地。

 真っ直ぐ立って腕を伸ばしながら手の平を上に向ける。

 その手に『モンスターボール』がそれぞれ落ちてきてキャッチ。

 更にロイナの頭にヘイチョー、ヘイが着地。

 衝撃で首を折らない様にフシギソウがつるでキャッチしてから置く安心設計。

 最後に落ちてきたサッカーボールを。

 

「ヘイ、『じごくづき』」

「ターイ、レイッ!」

 

 ズブリッ!

 パァンッッ!!!

 フィニッシュ。

 会場は大盛り上がりだ!

 歓声と拍手の雨の中、一礼してロイナたちはステージを後にした。

 

 

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