イェシードフェスが終わり。
あの後は特にトラブルもなく、ご飯もたらふく食べて、かちわりもおかわりしに行き、ロイナたちは大満足になる程お祭りを楽しんだ。
ポケモンセンターで準備での仕事疲れをしっかり癒やしてぐっすり眠り、目覚めた朝は最高だった。
隣では、まだフシギソウとタイレーツが寝ている。
みんなの寝顔も満足そうだ。
(楽しかった、本当に楽しめて良かった)
急がない旅では決してないロイナだが、それでも自信を持って断言できる。
自分たちは、イェシードフェスに関わって本当に良かったと。
「……ソ?」
「フシギソウ、おはよう」
「ソウソウ」
目覚めたフシギソウに挨拶して、準備開始。
今日は、ロイナ一行がイェシードシティを発つ日だ。
それから。
タイレーツを起こし、荷物をまとめて朝食を食べたロイナたちは、ホドゥライタウンを目指し、イェシードシティから3番道路に向かうための場所にいた。
イェシードシティは外壁などで街を覆っているわけではないため、そのまま歩き出せば街の外へ出られる。
その街と道路の境付近にあるベンチで、ロイナたちは人を待っていた。
「お? ロイナっち、もう出るの?」
「ネリアさん……はい」
たまたま通りかかった、と言うネリアが挨拶してくる。
たまたまと言うには、この辺にはお店などはないため、おそらくロイナの見送りに来てくれたのだろう。
「何してんの?」
「人を待ってまして……」
「人?」
「お金じゃないポケジョブの報酬を渡してもらうんです」
待ち人──ミツタのことを軽く話して、レシピ本が届けられるのを待っていると説明する。
「へぇ、良いじゃん。旅は道連れ世は情け〜、とはちょっと違うけど、少しでも良い旅にする気満々じゃん」
「はい、まだまだ始まったばかりの旅ですけど、色んな人に色んなことを教わりました」
ネリアさんもありがとうございます、と礼を言うロイナに嬉しそうににっこり笑うネリア。
「うんうん、こっちも良いもの見せてもらったかんね、おあいこ」
「おあいこ?」
「ジム戦とパフォーマンス、本当に良かったんだから」
「それこそ、僕だけの力じゃないですから」
謙遜するロイナだが、大事なことは分かってるということが分かってネリアも満足だ。
そう、トレーナーだけでは、人間だけでは出来ることに限界がある。
いつだってポケモンに支えられて前に進む。
それがポケモントレーナーなのだと。
「あ、コーディネーター関係の伝手が欲しくなったら言うんだよ?」
「……そうですね、その時はお願いします」
「おろ? 心境の変化?」
昨日言った時はすげなく断ったのに、と意外そうにするネリア。
ロイナはミツタに言われた色々やってみるといい、という助言を受け入れた。
頑張るなら、やれるだけやった方がいいに決まってる。
それを話したネリアはまた笑顔になる。
「ふふ、いいね。今からビッグになった時のためにサインもらっておこうかな〜」
「か、からかわないでください」
「ん〜? ふふふ、どうでしょう〜♪」
冗談めかして言うネリアだが、内心割と本気だった。
かと言って色紙を持ち歩いてるわけでなし、サインをもらうことはなかったが。
そんなこんなで話をしていると、ようやく待ち人が来たようだ。
「ロイナくん!」
「ミツタさん」
「やぁ、待たせてしまったね、申し訳ない」
いえいえ、と気にしない様子のロイナにホッとするミツタ。
横のネリアにももちろん挨拶する。
「やー、これはこれはジムリーダー」
「んー? あ! 屋台で激ウマ焼きそば売ってた人!」
「おぉ、嬉しい覚え方をしてくれてますなぁ」
朗らかに笑うミツタだが、ネリアとしてはびっくりするくらい美味しかったあの焼きそばを忘れられるか、と言いたいほどだ。
具沢山の山菜ともっちもちの焼きそば、それらをまとめる辛味と渋味。
今思い出しても味の余韻が残っているかのようだった。
「ミツタさん」
「おぉ、すまないロイナくん。これが、ポケジョブの報酬だ」
「ありがとうございます」
ロイナが受け取ろうとすると、ミツタが2冊の本を取り出す。
「こっちの赤い本が調理技術の解説書、こっちの青い本がレシピ本だ」
「え!? 2冊も用意してくださったんですか?」
驚いてパラパラめくると、明らかに手書きだった。
少々個性的だが綺麗な字で、厚めの手帳くらいの本にびっしり描かれている。
しかも分かりやすく図解付きだ。
どの言葉がどんな技術を指して、それはどんなものか、一目で分かる。
レシピ本も、文章だけじゃなく、完成品の絵や、調理の絵が描かれていてとんでもない完成度だ。
これは、そのまま印刷して売り出せるレベルである。
「こんな、すごいの……もらっちゃっていいんですか?」
「おいおい、あの依頼の報酬ということならこれでも足りないくらいさ」
「いやいやいや……」
ロイナからしたら恐縮ものだ。
出来ることを頑張っただけで、簡単な教本でも譲ってもらうくらいだったのが、とんでも豪華な報酬になっていた。
「それから、これを渡したくてね、手入れをしていたらギリギリになってしまったよ」
「これは?」
「私が料理人時代に使っていた調理器具さ」
手渡された中くらいの桐箱の中には、三本の包丁を始めとした最低限の、だが色々な調理器具が入っていた。
ミツタが中に入ってるものを簡単に説明する。
万能の三徳包丁。
細かい作業向きのペティナイフ。
魚を捌いたりするための出刃包丁。
そして木製のまな板に鱗取り、肉叩き、ピーラー。
さらに手入れ用の砥石まで入ったお得なセットだ。
明らかに高級品で、ロイナからしたらとても受け取れない。
「ミ、ミツタさん、これは流石に」
「ふむ? ではこれが新品で買えるほどの報酬金を渡すしかないなぁ」
「ゔっ……」
お祭りの準備で十二分に稼がせてもらったロイナが、この明らかにその辺の調理器具とはグレードが3つは違うものを買える金額を受け取るとなると、もうちょっとした小金持ちである。
少し小市民気味な金銭感覚のロイナが受け取るには気後れしてしまう。
ありがたく、調理器具を受け取った。
「手入れの仕方も技術本に書いてあるからね」
「ありがとうございます」
「良かったじゃんロイナっち」
「ははは……まぁ、料理も頑張ってみようと思います」
その意気だ、と楽しそうに頷くネリアとミツタ。
なんとなく受け取ったものの重量以上に重くなった気のする荷物を背負い直し、今度こそロイナは旅立つ。
「色々とありがとうございましたー!」
「こちらこそだ、ロイナくん、また食べに来たまえー!」
「ロイナっちー! こっから先頑張んなよー! 応援してるからねー!」
お互いに手を振って
そうしてロイナは、次の道を歩き出した。
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