ポケットモンスター〜キセキ〜   作:龍崎悠司

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一章〜歩き出す〜
〜最初の選択〜


 

 

「じゃあロイナくん。これ、さっき作った『オボンの実』のすりおろし。タイレーツに食べさせてあげて」

「はい」

 

 ナンシーの誘導で、タイレーツの口元に持っていく。

 最初は警戒していた様子だったが、スマホロトムが通訳してくれたのか少しずつ食べ始めた。

 

「これで、しばらく休めば大丈夫だろう」

「ありがとうございます、博士」

「なぁに、その優しさは美徳なんだ、大事にしたまえ」

「はい!」

 

 今度こそ、一段落。

 タイレーツは『オボンの実』を食べ終えてお腹が膨れたのか、再び寝息を立て始めた。

 様子見をナンシーに任せて、今は部屋を移動中。

 

「では閑話休題だ。今日この研究所に来た目的は忘れてないだろう?」

「もっちろん! 楽しみだったんだ」

「僕もです。まだ、どの子にするかは決めてないですけど」

「ちなみに俺はもう決まってるぜ!」

「だろうね」

 

 対照的な2人に苦笑しつつ、玄関に到着。

 そこでタイミングよく、声が聞こえてきた。

 

「博士ぇー、ポケモンもらいに来ましたよー」

「博士! ポケモンくれよ! 旅に出てぇ!」

「タンジ、あんたもう少し礼儀ってものを覚えたらどうかしら?」

「ああ? オレに無礼なてめぇに言われたくねぇよ、アマリ」

「そりゃあんたには敬意なんてカケラもないしね」

「んだとぉ?」

 

 声の主は分かりやすい。

 ロイナとコギノリと共に研究所の手伝いをずっとしていた近所の同年代(幼馴染み)だ。

 アマリと、そしてタンジ。

 この2人も今日共にこのマルクェットタウンを旅立つ。

 

「ようこそアマリくん、タンジくん。待ってたよ」

「おぅ、博士、ポケモンもらいに来たぜ」

「やーん、ロイナ〜、早かったのね、せっかく家に行ったのにコギノリと一緒に先に行っちゃうんだもの、アタシの家にも寄ってよ〜」

「ごめんね、ちょっと緊急事態でさ」

「ふぅん……まっ、色々あったみたいね」

「おい、人に礼儀どうの言ってた奴が博士の挨拶後回しにしてんな」

「はぁ? いいでしょ、アタシにとっての優先順位的に間違ってないの」

「おいおい、お前ら少しは落ち着けよ」

「それはあんたには言われたくないわ」

「それはお前には言われたくねぇよ」

「くくく、相変わらずだね君ら」

 

 集まって秒で(本人たちはその気は全くないだろうが)漫才を始める4人の様子に笑いながらルベリーが声を掛ける。

 いつも彼らの様子は変わらない。

 ロイナとコギノリが仲良くして、アマリとタンジが喧嘩して。

 ロイナをタンジがいじめて、それをアマリが嗜めて。

 アマリがロイナに寄っていき、コギノリとタンジが競争している。

 それがここ数年の日常だった。

 その4人が今日この日、ここから旅立つことに思う所がありながらも4人を改めて庭に連れていく。

 

「さぁ、出てくるんだみんな!」

 

 その掛け声と共に27のモンスターボールを放って、全ての初心者用ポケモンが出てくる。

 元気よく4人に近付くゼニガメやヒバニーにポッチャマ、博士の後ろに隠れるニャビーやミズゴロウ。

 周りから敢えて離れてるケロマツや、落ち着く様に宥めてるフシギダネなど、その様子は個性様々、十人ならぬ十匹十色。

 

「では、この中から1匹、君らのパートナーを選びたまえ」

「俺は決まってるぜ! アチャモ!」

「チャモ!」

 

 1番最初に名乗り出たコギノリ。

 それに即応するアチャモ。

 その選択には全員納得していた。

 このコンビはいつもそう。

 とにかく遊びやら何やら色んなことを駆け出して始めていくコギノリに、全力でついて行くアチャモ、という構図はもうロイナやルベリーだけでなく、研究所のポケモンたちにとっても日常風景なのだ。

 だからこのコンビが共に旅に出るのは皆の予想通り。

 

「次はオレだ、ケロマツ! それと、ヨーギラス!」

「ケロ……」

「ヨー」

 

 次に名乗り出たのはタンジ。

 タンジはいわゆるいじめっ子だ。よくポケモンにちょっかい出して、喧嘩してる姿もこれまた日常風景だ。

 力の弱いポケモンを虐めているならルベリーはお説教して辞めさせるのだが。

 どうにもタンジにとって、喧嘩もコミュニケーションになっているらしく、より強いポケモン、より自分に向かってくるポケモンだけを好んで絡みに行くので怒るに怒りづらい。

 特に、弱いポケモンや立ち向かう勇気のないポケモンに絡みに行くと大体ロイナが身体を張って守りに行くので、ルベリーが説教する機会は益々失われる事もまたいつものことである。

 ケロマツは特にタンジや他のポケモンにバトルを挑んでいたポケモンでタンジが選ぶのも必然なのだろう。

 ヨーギラスも、タマゴを孵化させたのはタンジだったので、彼の手持ちになるのは自然なことだ。

 

「ロイナはどうするの?」

「う〜ん、実はまだ……」

「じゃあアタシが先に選ぶね、モクロー!」

「……ホー」

 

 お次はアマリだ。

 アマリは理想を求める努力家。しかもその努力を楽しめる、言うならナチュラルボーン勇猛邁進ガール。

 気に入った相手(ロイナやポケモンたち)にはべったりで、やりたいことをとにかくやっていくタイプだ。

 最終的に何を成す気なのかは、ルベリーには分からないが、そのアマリの感性や、旅の中でやりたい理想のために合致した相手がモクローだったのだろう。

 旅に出ることを渋る、若干ナルシスト気質のあるモクローを口説き落とそうとするアマリの姿はよくある光景の1つとなっている。

 

「さて……」

 

 最後の1人、今もまだ決めきれずに難しい顔をしているロイナ。

 ルベリーから見たロイナの第一印象は優しそうだが内向的で、コミュニケーションは苦手そうだな、くらいのものだった。

 だが、蓋を開けてみればとんでもない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と疑問を浮かべてしまう程の行動力と意志。

 困ってる人もポケモンも見つけたら迷わず声を掛けに行き、何が出来るか自分で見つけて行動に移す。

 ぶっちゃけ他の研究員よりよく動いてくれるのでつい頼ってしまう程。

 それだけ信頼を得てるのはもちろん人もポケモンも関係なく、この研究所の全員だ。そんな言うなれば皆から(若干一名否定しそうだが(タンジを除き))認められているロイナの選択は、彼を見てきた1人の大人として純粋に興味がある。

 

「う〜ん……」

 

 周りが見守り、ポケモンたちが自分を選ぶのかとワクワクしながら寄っている中、まだロイナは迷っていた。

 

(仲の良いって考えるとキモリかメッソン……いや、ホゲータもよく一緒に居てくれたっけ)

 

 迷えば迷うほど、色んな思い出が湧き出てきて余計に悩んでしまう。

 

(ヒトカゲもよく遊んでくれたし、ナエトルとは日向ぼっこしながら昼寝したりしてたなぁ。あーダメダメ、みんな選びたくなっちゃうなぁ)

 

 色んな出来事を思い出しながら、ポケモンたちの様子を見て。

 

(ん?)

 

 ふと、目が合った。

 フシギダネ。

 彼女は真面目でロイナのこともよく手伝ってくれた子だ。

 他の子のまとめ役をしてくれたり、順番を譲ったりと若干大人な印象を受ける。

 いつも優しい顔で、手伝ってくれた礼を言えば嬉しそうに笑顔を向けてくれた。

 喧嘩の仲裁に入った自分に困った顔をしながらもついて来てくれることもあった。

 その彼女が今まで見たことないほど寂しそうな目をしていた。

 そんな彼女の様子がロイナの何かを捉えたのか。

 

「うん」

 

 その目を見た瞬間。

 

「フシギダネ!」

 

 あっさりとパートナーを決定した。

 

「……っ! ダネっ!」

 

 遅れて気付いたフシギダネが破顔してロイナの胸に飛び込む。

 

「ダネ! ダネっ!」

「分かった分かった、よろしくね、フシギダネ」

 

 タンジはどうでもよさそうに、コギノリとアマリは嬉しそうにその様子を見る。

 じゃれ合うコンビに優しい目を向け、ルベリーは他の残念そうなポケモンたちをボールに戻す。

 

「よし、これでみんなパートナーは決まったね。ではこの後は慣習だ」

 

 そう言って、全員のスマホに『ポケモン図鑑アプリ』をインストール。

 『モンスターボール』を10個ずつ渡した。

 

「ではこれから君たちには多くの試練と困難が待ち受ける事だろう。けれどもポケモンたちと、友達と共に解決し、君らの旅の目的を果たせる様に祈っているよ」

 

 さぁ、旅立ちたまえと送り出す。

 

「はっ、てめぇらには絶対負けねぇからな!」

 

 そう言って真っ先にタンジは次の街へ向けて走り出した。

 

「俺は他のポケモンたちに挨拶してから行こっかな」

 

 コギノリは研究所の庭へと進んで行った。

 普段ならここで、アマリとロイナも思い思いの方向は歩いて行くのだが、今回はちょっと特殊だ。

 

「ルベリー博士」

「ああ、もちろん分かっているとも」

「? さっき言ってた緊急事態のこと?」

 

 声を掛けて研究所に戻ろうとするロイナにアマリが疑問をぶつける。

 頷いて返し、再び研究所へ。

 そこには、休んで先ほどよりも元気になったタイレーツの姿があった。

 

「タイレー!」

「元気になったんだね、良かった」

 

 『オボンの実』を食べさせてくれたからか、助けてくれたことを何となく理解してるのか、ロイナに懐いた様子だ。

 

(タイレーツがヘイチョー1匹だけ?)

「ははぁん……なるほどね」

 

 知識も豊富で頭の回転も早いアマリがその様子から、ロイナとタイレーツの関係を見抜く。

 

(それにしてもほんと流石ロイナ、もう懐かれてる。きっと今回もいつも通り世話を焼いたんでしょうね)

「そういうことならアタシも気にかけるわ。見つけたら連絡するわね」

(この辺の理解力は流石アマリだね)

「うん、よろしく」

 

 こんな日(旅立ちの日)でもいつも通りの行動力を発揮しているロイナに関心しつつも、必要なことだけ伝えてアマリは旅立って行く。

 アマリが察したことを察したロイナもまた、アマリを見送った。

 その様子を見たルベリーは改めてロイナに問いかける。

 

「いいんだね、ロイナくん。その道は間違いなく荊だよ」

「それなら『いあいぎり』で進めばいいだけですね」

「ははは、本当にロイナくんはロイナくんだね……」

 

 感心しつつ、内心ため息を吐くルベリー。

 ロイナという少年はいつもこうなのだ。そこにある困難がどれほど分厚い壁だろうと、どうにか出来そうになるまで、決して立ち止まらないのだ。

 乗り越えようとして落ちても、進もうとして転んでも、泣いて諦めることを知らないのか、助け支えることをやめないのである。

 ロイナのとても誇るべき所であり、同時に異質な所でもある。

 今回、タイレーツの仲間を探すことはロイナにとっていつものことなのだろう。

 タイレーツが困ってるから、助けようとしてる。

 使命感に酔ってる訳でも、ヒーローになりたい訳でもない。

 ただ力になる。それを既に決めてるだけなのだ。

 そのロイナがタイレーツと向き合った。

 

「タイレーツ、約束するよ、この旅で僕は君の仲間を見つけるよ。だから……一緒に来るかい?」

「…………! タイレっ! タイレー! タイレーツ!」

 

 目を見て真剣に言うと伝わったのか、心から喜んで感謝を表現するタイレーツ。

 そして、『モンスターボール』を取り出す。

 

「なら、これからよろしくね。タイレーツ」

「タイレー!」

 

 カチッ。

 タイレーツがボールの中に入り、揺れることもなく止まる。

 

「うん、タイレーツ、ゲットだ」

「ふふふ、これから大変だろうが応援しているよ。私も情報はなるべく集めよう」

「はい、よろしくお願いします」

「では君も、いってきたまえ」

「いってきます!」

 

 ルベリーに手を振って研究所を出た、そのすぐ。

 

「よぅ! 待ってたぜ、ロイナ!」

「コギノリ?」

 

 コギノリが、待ち構えていた。





アマリとタンジの全身イメージです。
※AI生成画像を使用した参考イメージになります。

アマリ

【挿絵表示】


タンジ

【挿絵表示】

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