イェシード遺跡。
イェシードシティの近くにある遺跡で、ラヌータウンからイェシードシティへ徒歩で真っ直ぐ向かう際には必ず通る場所だ。
とはいえレベルの高いポケモンも出現する建築物のある遺跡の奥地ならともかく、通り道として使うだけならば、すぐ側にある森を通ることも可能だ。
イェシード遺跡の森と呼ばれるそこであれば出現ポケモンのレベルもそう高くはない。
日が落ちて暗闇が広がる森の中を、ランタン片手に手持ちの2匹と共に、ロイナはタイレーツの仲間を探して歩き回る。
「おーい、タイレーツー! いたら返事して〜!」
「ダネダーネ〜!」
「タイ! タイレー!」
時に襲いかかって来る虫ポケモンや鳥ポケモンを撃退し、木々を分け入りながら歩いて行く。
「タイレーツー?」
「ダネー?」
「ピッ!? ブシャー!」
「わっ!? ごめん!」
茂みを掻き分け、キャタピーに糸を吐かれたり。
「おーい」
「コフっ!?」
「あだっ!? ごめんよー」
コフキムシの巣に当たってしまい、『たいあたり』をくらったり。
「タイレっ!?」
「!? クルー!? クルミー!?」
「あー、泣き止んで〜!? タイレーツも謝って!」
「タっ!? タイレタイレー!」
タイレーツがクルミルを誤って泣かせてしまったり。
あちこち隈なく探しているが、姿形が見当たらないどころか僅かな声も聞こえない。
(大きく移動してる可能性はあるけど、遺跡の奥地に逃げるのは自殺行為だし可能性は低いはず……)
居場所の推測を立ててどうにか見つからないかと木の上やらウロやら草の奥やらと探しても見つからない。
いざとなれば遺跡の方へ探しに行くことも覚悟の上だが、野生ポケモンの気を引けるピッピ人形の数は心許ない。
出来ることならば森で見つかるとよいのだが……。
息が切れるまで探すも、やはりどうしても見つからず、元々日が傾いていたこともあってすっかり夜も深くなってしまった。
「ふぅ……流石にこれ以上は厳しいね、続きは明日にして野営地を探そうか」
「タイレー……」
仲間が見つからず、落ち込むタイレーツをフシギダネと共に励ましながら、ちょうど良さそうな場所を探す。
一応タイレーツの仲間を探すのも並行しながら少し開けた岩場を見つける。
良い場所を見つけた、と荷を降ろそうとして少し離れた場所に何者かの影が見えた。
まさかタイレーツ!? とそちらを見るとそこにいたのは。
「行け! ヨーギラス、『いわおとし』! ケロマツは躱して『みずでっぽう』! ヨーギラスはそいつを更に躱せ!」
「ヨー、ヨー!」
「ケロッ!」
「あれ? タンジ!?」
「あ?」
そこにいたのは手持ちのポケモンたちと特訓をしていたタンジだった。
「ああ? ロイナかよ、今更こんなとこ来たのか?」
「タンジこそ、こんな遅くまで特訓?」
「関係ねぇだろ」
ロイナに対してツンケンする態度を貫くタンジ。
内心、変わらないなぁと思いつつも事情を説明する。
話を聞いたタンジは、うげぇ、と言いたげな顔をした。
「おめぇ、相変わらず面倒くせぇことやってんな」
「タンジは見なかった? タイレーツ」
「見てねぇよ」
「……本当?」
「俺にとっちゃどうでもいいけど、流石に見たことねぇポケモン見たら覚えてるっつの」
「そっか、ありがとう」
意気消沈するロイナの様子にチッ、と舌打ちするタンジが、おいロイナ、とボールを突き出しながら話す。
「ここで会う気はなかったけど会っちまったもんはしゃーねぇ。バトルしろ」
「え、今から?」
「いつ、なんざ関係あるかよ、やるぞ、2対2だ」
「待って待って待って!」
完全にやる気のタンジを必死に止めるロイナ。
丸一日歩き回ってロイナも手持ちのポケモンたちもへっとへとなのだ。
ここで無理すれば、怪我に繋がって後々に響いてもおかしくない。
あとお腹も空いた。
正直もう休みたいのだ。
「明日っ! 明日バトルするから、今日はご飯食べてキャンプして寝よう?」
「はぁ? 何ナマ言ってんだよ、いいからさっさと」
「それにほら! タンジたちも特訓したばっかりでしょう? ご飯食べて、寝てからの方が思いっきり戦えるんじゃないかな!?」
「…………けっ、ならそういうことにしといてやる」
大層不満げだが、飲み込んでくれた様でロイナとしては一安心だ。
タンジのことだから、強引にバトルを仕掛けて来る可能性も内心大いに考えていた。
今度こそ荷を降ろしてキャンプの準備をする。
一昔前なら時間の掛かったキャンプセットも、旅するトレーナー向けに技術進歩した結果、かなり簡単にキャンプ出来る様になった。
あとは必要なものを取り出し、火を付けて料理の準備完了。
そこからは慣れた手付きで食材を切って鍋に入れていく。
作ってるのはシチュー。温かく、栄養があって、元気が出る。落ち込んだ時はこういう料理に限るというものだ。
「お前……結構慣れてんのな」
「あはは、研究所でもポケモンたちのご飯作るの結構手伝ってたしね、その延長だよ」
タンジにしては極めて珍しくロイナの手際に感心し、鍋を覗き込む。
中々に美味しそうだった。
完全に料理見学しているタンジ一行。
完成が近付いて良い匂いが漂ってきたのか、彼らの腹の虫がなる。
「ほらタンジも、ケロマツとヨーギラスも一緒に食べよ」
「ああ? ざけんな、施しなんざ受けるかよ」
「そんなんじゃないよ、僕たちだけ食べるのもなんか嫌だしね」
研究所であまりロイナに懐いていなかった2匹も、プライドが受け取るのを悩ませている様だが差し出されたシチューの誘惑には抗えないのか、チラッとタンジの方を見る。
そこにはケロマツとヨーギラスの100倍難しい、ともすれば悔しそうな顔をしたタンジが。
それを見たケロマツとヨーギラスは流石に少し引いた。
「……………………ぐぐぐ。けっ! わぁったよクソが」
「うん、一緒に食べよう」
笑顔のロイナを含めた各方面からの圧力には勝てず、シチューを受け取る事にしたタンジ。
トゲトゲしたいのにしきれないおかしな空気の中、皆で手を合わせて
「うま……」
「そう? 良かった」
ホッとした様子のロイナに舌打ちで返しながら食べ進める。
食べ進める毎にタンジの眉間にどんどんシワが寄っていくが、食べる手は止まらない様で、ロイナとしては笑顔になる。
結局、全員あっという間におかわりして
「ちっ、食器貸せ。向こうに川があったから洗って来る」
「タンジ?」
「いいか! これは礼じゃねぇ! テメェに借り作るなんざ真っ平ごめんだからやるんだ! 分かったか!?」
「う、うん、ありがとう……」
「だからちげぇって言ってんだろ! ……行って来る、勝手に寝てろ」
「ありがとう」
「ちっ」
何ともタンジらしい理由で洗いに行ってしまった。
タンジのことだ。恐らく、戻ってきても起きて待ってたらまた色々言うだろう。
仕方がないのでそのままキャンプの中に入って、フシギダネとタイレーツと共に目を閉じた。
(本当、タンジは相変わらずだなぁ……)
お互いに気に食わない所はあれど、同じ研究所の手伝いを共にしてきた仲ではある。
いじめっ子で負けん気がとんでもなく強いが、責任感がない訳じゃない。
きっと、完璧に洗って、出したままの机にでも綺麗に置いてくれるだろう。
それを確信して、初めての寝袋に寝心地の悪さを感じながらもロイナは眠りに着いた。
その頃、タンジは先に寝てしまったヨーギラスを置いて、ケロマツと共に洗い物をしていた。
難しい顔をしたままだが、その手はきちんと動かしている。
「気に食わねぇ……」
「ケロ……」
だが、気分は最悪だ。
とても美味しかったのが余計に腹立たしい。
「あの野郎、本気で何も気にせず施してきやがって……」
「ケロォ……」
ロイナが単純に優しいからそう行動したことなど百も承知だ。
けれど、だからこそ気に食わない。
向こうもこちらが気に食わないだろうに、自身と喧嘩でぶつかるのではなく、優しくする所が昔から特に。
──よろしく、タンジくん。
──それ以上踏み込むつもりなら、僕は君を敵と見なす。
──ヨーギラスのタマゴ孵したの!? すごいね、タンジ。
だが、だからこそ明日はいよいよ、なのだ。
あの野郎と真正面から
「明日、ぜってぇ負けねぇ」
「ケロッ!」
1人と1匹の目にはメラメラと闘志が燃えていた。