ちび竜、炎の龍王になる   作:華歳ムツキ

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空月の歌第7幕の話。


冬の夜ひとりの旅人が

光が爆ぜた。直後、強烈な熱気が空間に奔る。それが何なのか、どこから来たのか正確に理解する前に、旅人の脳裏には過去の光景──聖山の奥底で輝いていたツィツィミルのことが思い浮かんだ。その瞬間、反射的に叫ぶ。

 

 

「アルレッキーノ、こっちへ!」

 

 

弾かれたように赤黒い影が駆け抜けたのを追いかけるように、青白い輝きがこちらに迫る。しかし、まるで意図したかの如く、両者のわずかな隙間を縫うようにして光の壁が展開された。どこまでも純粋な光、触れるもの全てを焼き尽くす燃素の盾が揺らぐことなく立ち塞がっている。それをきちんと見届ける前に、旅人は皆と共に踵を返した。不思議と、最後まで確認せずともこの壁が自分達を守ってくれる確信があった。

 

とはいえ、そう思えるのはあの光に見覚えがある旅人だからだ。他の面々からすれば、あれもまた未知の脅威である可能性は捨て切れないだろう。特に警戒心の強いネフェルやアルレッキーノはどこか緊張を漂わせている。一緒に戦ってくれた彼らを緊張させたままにしてはおけないと、旅人は十分に研究所から距離を取れたと考えた辺りで口を開いた。

 

 

「さっきの光のことなら大丈夫」

「……そうだね。どういうわけかあたし達を守ってくれたみたいだ」

「しかし、あれは一体──」

「ウーレアさんからの餞別でしょうか」

「フリンズはお見通しなんだね」

「ほんの少しとはいえ、他の方々よりはウーレアさんと付き合いがありますから」

 

 

そういえば、フリンズはウーレアが巨龍の姿になったところを見ている。龍体のウーレアは燃素特有の熱と光を帯びているため、あの姿を見たことがあれば確かにある程度予想がつくだろう。

 

 

「ウーレアというと、以前見かけた子供……ナタで新たに生まれたという炎の龍王か」

「うん。儀式でそれどころじゃなかったから直接話してはいないだろうけど、アルレッキーノは……その、ウーレアの調子が悪かった時に傍にいたから知ってるよね」

 

 

ニコと会話し、暴走しかけたのはヒュペルボレイアの遺構を開くための儀式中だった。あの時、ネフェルは適性がないと分かった後すぐに祈月の夜の準備をするために立ち去ったが、儀式に参加していたアルレッキーノは背後で起きていたことに気付いていたはずだ。思えば、あの時に背中から焼け付くような気配を感じたことがあったからこそ、先程呼びかけた時にあれだけ早く反応したのかもしれない。本来、燃素は焼く相手など選ばない純粋なエネルギーだ。敏感な人間ならば本能的に脅威として記憶に刻まれていてもおかしくない。

 

 

「ああ、そうか。ヤフォダが気絶したっていう話だね? 暴走しかけたと聞いていたけど、少し見ない内に随分と器用なことができるようになったみたいじゃないか」

「ドゥリンと友達になって、色々心境の変化があったみたいで……」

「子供の成長というのは早いものですからね」

 

 

そもそも少し前までは無理に源火をコントロールしようと意識すらしていなかった。まずは人間社会に慣れる方が先だと考えていたからだ。それに、ナド・クライに来てからは何かと忙しくしていることが多く、ウーレアが力のコントロールを学びたくても旅人は付き添うのが難しかった。

しかし、力の扱い方を学びつつ同時に人間についての理解も深めているドゥリンを見て、何かしら心境の変化があったらしい。負けていられないと思ったのか、はたまたすでに実践している相手がいるなら自分にもできるはずだと思ったのか。ウーレアは胸中を細かに明かすことはなかったが、フリンズの言う通りその成長ぶりは目を瞠るほどだった。

 

 

「先程の状況から推察するに、あなたの身に危険が迫れば自動的に展開される護符のようなものだったのでしょうか?」

「そうみたい。俺も出かける直前に受け取ったから、詳しくは聞けなかったんだけど……」

 

 

そう言いながら、旅人は懐にしまっていた龍の鱗を取り出した。秘聞の館へ出向く前、またしばらく帰れないかもしれないと伝えようとした時、ウーレアから受け取ったものだ。

 

『力の使い方を練習してる時に作ったんだ。燃素が無差別に攻撃しないようにするにはすごく集中しないといけなくて、この一枚しか作れなかったけど……何かの役に立つかもしれないから渡しておくね』

 

燃素を込めたという言葉通り、受け取った時には光が流れる特殊な文様が刻まれていた。しかし、今はもうほとんど光っていない。あれだけ強固で巨大な壁を作るため、一気にエネルギーを放出してしまったのだろう。

微かな光の残滓に改めてウーレアからの気遣いを感じ、旅人は小さく息を吐いた。ドットーレを止めるために集中していたから誤魔化されていたが、あの研究所に入ってから思いの外緊張していたらしい。今まで敵対していた相手とはいえ、逃げ場のないガラスの向こう側で人が襲われるのを見るというのはあまり良い経験ではない。それに、ドットーレの力が想定以上に強くなっているという新たな心配事もある。緊張するのも当然だろう。

 

 

「では、無事に戻ってウーレアさんにお礼を言わなければなりませんね」

「うん」

「そうだね……あの壁がしばらく足止めをしてくれているのか、少なくともすぐに追撃してくる様子はない。今の内にナシャタウンに戻るとしよう」

「ええ。決して楽観視できる状況ではありませんが、それでも立ち止まるわけにはいきません」

「あ、そういえばサンドローネは──」

「彼女なら大丈夫だ。月の狩人に襲撃された際に多くの防衛設備を失ったが、それでも彼女は備えを怠らない人物だ。おそらくは無事にナシャタウンで合流できるだろう」

 


 

さすがは同僚──いや、普段から付き合いのある親しい同僚だからこそか、アルレッキーノの考えは間違っていなかった。サンドローネはナシャタウンできちんと合流したのだ。

曰く、ドットーレが動き始めたことでナド・クライに未知のエネルギー領域が出現し、その一つがクーヴァキ実験設計局が呑み込まれてしまったらしい。そのため、サンドローネは必要最低限のものしか持ち出せなかったと憤慨していた。サンドローネがドットーレのせいで研究成果を台無しにされるのはこれで二度目だ。

 

 

「腹立たしいけど、今は先にすべきことがあるわね。旅人、手を見せなさい」

「何か分かったのか?」

「プロンニア、スキャンして」

 

 

プロンニアが静かな駆動音を立てる中、サンドローネは険しい表情を浮かべていた。その険しさは検査が一人ずつ進んでいくほどに酷くなり、研究所に突入した全員を調べ終わる頃には遂に舌打ちが飛び出した。

 

 

「ドットーレのやつ……ワタシたちに細工したみたい! 研究所に行った全員……いいえ、旅人以外に呪いのようなものが植え付けられているわ」

「……俺以外?」

「私達が撤退しようとした時、ドットーレは明らかに旅人を狙っていた。本来は捕まえるつもりだったから旅人には仕掛けなかったのか……あるいは例の“お守り”が旅人を守ったのか」

 

 

アルレッキーノはそう呟いてから思案するように黙り込んだ。

 

 

「……旅人、ウーレア君は今どこにいる?」

「え? 危ないからナシャタウンにいてとしか伝えてないけど……」

「途中までオイラと一緒にいたぞ! でも、オイラが秘聞の館に行く前に別れたんだ。一緒に来ないか聞いたけど……もしニコが来たらまた邪魔しちゃうかもしれないからって来なかったんだ。ドゥリンの方に行ってみるって言ってたけど……」

「ドゥリンならアルベドに呼ばれてエネルギー領域の調査に行くと言っていたぞ。旅人に言われて街中にいるつもりだったなら、そっちにはついていかなかったんじゃないか?」

「つまり、彼は今ひとりということか?」

「そうなるけど……アルレッキーノ、まさか──」

「ドットーレにとってこの世のほとんどは退屈なものだったが、それでも興味を惹かれるものはあると語ったことがあった。それこそが降臨者や神であり、君が狙われた原因でもある……ウーレア君は神ではないが、大権を取り戻した龍は神をも超える力を持つ。力に固執するあの男が興味を持つ可能性は否定できない」

 

 

今まで旅人がウーレアをひとりにしていてもあまり気にしていなかったのは、いくら幼いとはいえ大権を持つ龍王を害せる存在など滅多にいないからだ。周囲への被害を度外視するなら、それこそ魔神相手だろうと問題にならない。

しかし、今のドットーレは魔神より強くなってしまった。果たして月の権能が龍王の大権より強いのかは分からないが、そもそもそんなことを試さなければいけないような状況になってほしくない。蒼褪めて館から飛び出そうとした旅人だったが、それを制止したのはファルカだった。

 

 

「待て。あいつは旅人のことも狙っているんだろう? 今お前達だけで連れ立って歩くのは得策とは言えない。俺が迎えに行くから──」

「みんなー!」

 

 

突如飛び込んできた人物に全員の視線が集まった。声をあげたのはドゥリン、そしてその後ろには──

 

 

「ウーレア!」

「……ニコはいない?」

「いない、大丈夫だよ」

 

 

ドゥリンに手を引かれて現れたのはウーレアだった。ニコがいないか警戒していた様子だが、どうやらいないらしいと知ってほっと息を吐く。

 

 

「実は街で他の人に声をかけられて困ってたみたいだから連れてきたんだ」

「えっ? なんで住民がウーレアに……?」

「ナド・クライのあちこちに出現したエネルギー領域だけど、いくつかはナシャタウンからも見えるでしょ? それで皆不安がっててどうしたらいいか分からないから、何か知ってそうな相手を探してる人が多いみたいで……」

 

 

ここのところナド・クライでは騒ぎが起きてばかりだが、これまでその収拾に尽力してきた有力人物は全員が今此処に集まっている。そのせいで誰を頼っていいか分からず、その有力人物たちと関わりのあるウーレアに人々の関心が集中してしまったらしい。これまでなら街の外へ逃げれば済んだだろうが、今回は街の中にいると約束しただけに躱し切るのも難しく、困っていたところをドゥリンが見かけて連れ出したわけだ。

 

 

「ごめん、ウーレア。そこまで気が回らなくて……」

「しかし、こうなると住民の避難を急がなければなりませんね」

「そうだね。人質に使われるリスクもあるけれど、以前レリルが復活した時のように住民が扇動されることで使われる可能性もある。安全のためにも、あたし達のためにも、早いとこナド・クライから連れ出すべきだ」

「とはいえ、ナド・クライ全域となると少なくない人が住んでいる。ヒーシ島の住民をナシャタウンに避難させるのとは訳が違う。移動距離なども考慮すると、受け入れ先はいくつか必要になるな……」

「スネージナヤの方は私が何とかしよう。しかし、距離的にはピラミダの住人もスネージナヤに避難させるべきだが、ファデュイとの関係を考えると……」

「ピラミダには僕から連絡しておきましょう」

「北側の住民はスネージナヤに避難させるとして、南側は距離を考えるとナタに頼むべきだが……」

 

 

ナド・クライは色々と複雑な歴史を抱えているとはいえ、国際的にはスネージナヤの一部だ。自治領というのは決して独立した国家ではない。ナド・クライの人間をスネージナヤが受け入れるのは、単純に自国民の保護に当たる。

しかし、海を挟んだ隣国であるナタは完全な他国である。南北で分割するとはいえ、少なくない数の避難民を受け入れるのは国にとって負担になり得るだろう。スネージナヤのような、日頃から他国とトラブルを起こしてばかりの国との間で起こる出来事なら尚更。人道的観点から断らないとは思われるが、頼む側としては些か気の重い話だ。

 

 

「俺が行くよ。保証はできないけど、少しならナタでも顔が利くから」

「英雄の名を利用するようで気が引けるが……そうしてもらえると助かる」

 

 

旅人は然程気負わずナタとの交渉に同行すると決めた。というのも、今回に限って言えばナタにはスネージナヤ国民を受け入れてもいい大義名分がある──カピターノの件だ。

何かと悪評の絶えないファデュイだが、カピターノ率いる部隊だけは違った。彼らはあの過酷な戦場を退くことなく戦い抜き、ナタ人と生死を共にしたのだ。その後の後遺症を抑えるための薬を提供してもらった件といい、ナタがカピターノから受けた恩は決して小さいものではない。その恩義に報いるという形であれば、仮に今回の避難民受け入れが国にとって負担になったとしても、公然と文句を言う者はほとんどいないだろう。

 

 

「それと、こんなことはあまり考えたくないが……もしドットーレをナド・クライで止め切れなければ被害はテイワット全土に及ぶだろう。他国にも状況を共有し、警戒を呼び掛けておく必要がある」

「スメールに関してはあとでドリーに連絡を頼んでおこう。避難ついでにスメールへ戻るだろうし、あちらですべきことをしてくれるだろうさ」

「なら、モンドへの連絡はドゥリンに頼むとしよう。なんたって『走るより飛ぶほうが速い』からな。もし十分な速さをアピールできれば、飛行免許の試験を免除できるかもしれない。任せたぞ、ドゥリン!」

「本当? じゃあ、頑張らないと!」

「おや、ドゥリンが連絡要員になったのかい?」

 

 

先程飛び込んできたドゥリンとウーレアに続き、今度はアルベドが秘聞の館にやってきた。確かエネルギー領域の調査に行っていたはずだが、戻ってきたということは何か進展があったのだろうか。

 

 

「何か分かったか?」

「まだ仮説段階だね。確実なのはあれが光界の力で出来ているということだけど、より重要なのはあれが何のために存在し、中で何が行われているか知ることだ。そのためにはどうやればあの壁を超えられるのか知る必要がある」

「何か手伝えることはある?」

「そのことなんだけどね、できればウーレアを連れていきたいんだ」

「えっ? ウーレアを?」

「龍はかつて光界の中で生まれた最も原始的な元素生物だ。たとえ自身の力についての理解が不完全な状態であっても、彼にしか気付けない手掛かりがあるかもしれない」

「そう、だよね……」

 

 

伝説によれば、天理は七王を下した後にテイワットを作り変えたといわれている。外付けの器官がなければ元素を扱えない人類にとって、元素よりも純度の高いエネルギーが満ちる光界は生存に適していなかったのだ。天理はテイワットを人間の住める世界に変えるため、光界を人界に作り変えた。そのため、人類どころか天の使いにとっても光界は未知の存在といっていい。

本来なら光界については一切手掛かりがない中、手探りで原初の存在である月の力について探らなければいけないはずだった。しかし、そこへ同じく原初の存在である龍が現れたのだから、何かの参考になるかもしれないと考えることも、連れていきたがるのも分からなくはない。

 

 

「なら、俺とウーレアでアルベドについていくか」

「ファルカも来るのかい? これからする話は上級元素論に載っている内容よりも難しくなると思うけれど……」

「そりゃあ、俺にはその辺の学術的な話はさっぱりだが、ウーレアの話し相手にはなれるだろう? お前が考え込んでいる間、手持無沙汰にならずに済む。それに、ナタへの避難は旅人に任せておけば大丈夫だろうからな」

「ああ、確かに。ドゥリンは文句を言わずに付き合ってくれるけど、まだ付き合いの浅いウーレアにも同じように我慢しろとは言えないからね。まあ、ウーレアが君との会話を楽しめるかどうかは分からないという問題はあるけれど」

「どういう意味だ!? なあ、ウーレア!」

「えっ、あ、うん……うん!」

 

 

前から接点のあったフリンズや、最近親しくなったドゥリンとは違い、ファルカとはほとんど話したことがない。そのせいか急に水を向けられて困惑した様子だったが、ウーレアはファルカの勢いに呑まれた様子で勢いよく頷いた。まあ、多分大丈夫だろう。

 

 

「……ウーレアはそれでいいの?」

「うん。役に立てるかは分からないけど……何かしてみたいな」

「……分かった。じゃあ、アルベド、ファルカさん。ウーレアのことをよろしくね」

「ああ、任せろ」

 


 

目の前に黒々とした壁が立ち塞がっている。その先を見通すこともできなければ、無理に立ち入ることもできない。出現した位置を考えると間違いなく巻き込まれた者がいるはずだが、彼らがどうなったかも分からない。

 

 

「大きさもさることながら、とんでもない強度だな……びくともしない」

「物理的な手段で破壊を試みるのは現実的とは言えないだろうね。ウーレア、何か……いや、漠然とした問いかけだと答えにくいか。そうだな……まず、これはクーヴァキと同じ力でできているかい?」

「ううん。これはクーヴァキじゃないよ。ナド・クライに満ちる力とは全然違う」

 

 

同じ光界に属する存在とはいえ、龍が持つ力と月が持つ力は全く異なる。何なら七王が持つ大権もそれぞれ全く違った性質のため、同じ時代の生き物といえど龍が月について感知できる情報は多くない。本来なら源火は光を統べる大権のため、ウーレアが大権をもっと自在に扱えれば何か分かったかもしれないが──

 

 

「どういうことだ? クーヴァキっていうのは月神の力なんだろう? で、ドットーレが奪ったのも月神の力だ。なのに目の前のこれはクーヴァキでできてるわけじゃないのか?」

「龍王の大権みたいなものなんだと思う……僕らも龍王という括りでひとまとめにされるけど、実際にはそれぞれ全然違う権能を持っているから」

「確かに……龍と同じ理屈で考えるなら、三月の女神もそれぞれ違う力を持っていた可能性はある。三月の力は一つにまとまることで真価を発揮するようだけど、それは月の力が全て現存しているからこそ確かめられたことだ。今の僕らには確かめようがないだけで、七王にも同じような仕組みや力があった可能性はある」

 

 

七つの大権があるという事実と、七王が集まった時にだけ発動する力がないかどうかは別の問題だ。大権とは別に、七王全員の賛同がある時だけ使える力があったかもしれない。尤も、全ての七王が代替わりを果たし、大権を取り戻さなければ確かめられはしないだろう。

 

 

「つまり、クーヴァキは霜月だけが持つ力で、目の前のこれは別の月の力だからクーヴァキと同列には扱えないってことか」

「そうなるね。クーヴァキと同じならナド・クライにある制御装置の類が使えただろうけど、話はそう単純じゃないみたいだ。ただ……元素が七つあっても全てに共通する性質があるように、光界の力にも何かしら根本的な法則性はあるかもしれない」

 

 

例えば、元素は何らかの反応を起こすと消えてしまう。水元素と炎元素が蒸発反応を起こせば、そこにあった二つの元素はどちらも消滅する。新たに元素反応を起こすなら、再び元素を付着させなければならない。これは元素というエネルギーが持つ普遍的な法則であり、誰がどう使っても変わらない。

 

 

「少し気になったんだが、クーヴァキは燃素みたいに元素と混ぜて使うことはできないのか?」

「混ぜて使う?」

「ほら、ナタの戦士達が使ってる……夜魂トランスだったか? あれは見た感じ燃素と元素が混ざった状態だろ?」

「体が光るやつ……」

「そう、それだ! どういう原理なのかは知らんが……」

「あれは多分、元素を……なんていうか、糸みたいにして燃素を使ってるんだと思う……」

「糸みたいに?」

「人間は龍とは違う形で燃素を使ってて、体に光の刻印に代わるもの……えっと、燃素銘刻だったかな……そういう溝を刻んであって、そこに燃素が流れるように誘導する仕組みがあるんだ。本来人間は燃素を自由に使えるわけじゃないから、ちょっとだけならともかく、戦いに使えるぐらいたくさんの燃素を操りたいなら助けがいるんだよ」

 

 

現代に残った光界の力というと燃素とクーヴァキだ。どちらも人間でも扱える力だが、その来歴は全く異なる。天理に寝返り、人類を守る理由があった月神の力はともかく、龍には自身の大権に属する力を人類に分け与える理由がない。実のところ、本来人間に燃素を扱う権利はないのだ。

それを捻じ曲げたのがククルカンである。彼は力に固執する同族を見限り、自身が思い描いた世界を実現するために人類を利用しようとした。その餌として差し出したのが燃素を疑似的に扱えるようにする刻印の技術であり、人類がこの技術を改良したものが燃素銘刻である。

 

 

「燃素銘刻には元々周囲の燃素を引っ張る力があるんだけど、元素を使えばそれをさらに強くできるみたい。神の目を持っていなくても燃素は使えるけど、強い戦士が大抵神の目を持っているのはそういう理由だと思う」

「そういや強い戦士は大抵カラフルな光を纏っていたが、あれは元素と燃素が混ざり合った状態だったってことか」

 

 

アルベドは考え込んだ。彼自身は実物を見たことがないので何とも言えないが、燃素に関しては全ての根源であるウーレアの感覚を信じていいだろう。問題はこれが燃素だけが持つ特性なのか、クーヴァキにも共通する光界の力全体の話なのかという点だが──これは案外後者なのかもしれない。

というのも、クーヴァキの濃度が極端に高い土地では雨が降りやすい。クーヴァキ自体は水元素とは異なるため、雨として降ってくることはできない。しかし、実際にグレートサンダーリーフ、空寂の回廊の丘陵地帯などのクーヴァキが濃い場所では雨がよく降る。こちらも時間がなかったために直接確認できてはいないが、クーヴァキという光界の力が水元素と結びつきやすいということなのかもしれない。

 

 

「……試してみる価値はあるかもしれない」

「なら、一旦秘聞の館に戻ってから出直すか。ドットーレに狙われている可能性がある以上、ウーレアがいる状態で下手に試さない方がいいだろう」

「そうだね。ついでに、そろそろ戻ってくるであろうドゥリンと合流しよう。ドゥリンが持つアビスの力でも検証してみたいからね」

「空とパイモンももう戻ってきてるかな……」

「きっと戻ってきてるさ。じゃ、さっさと帰って皆と合流するとしよう!」

 




多分7幕タイトルの元ネタな気がするイタロ・カルヴィーノの小説「冬の夜ひとりの旅人が」
この小説は簡単に説明すると、作中の登場人物も本を読もうとするが、途中まで読んだ辺りで違う本を読んでいたことに気付く。目当ての本はどこだろうかと別の本を手に取り、これも違う、あれも違う……という感じでいろんな本の冒頭が連なっていく小説。
コロンビーナが飛び飛びに過去を渡っていくのにかけているのかもしれないと思いましたが、あれは場面が飛んでいるだけでちゃんと一続きの話ではあるんですよね。少なくともいろんな物語の冒頭だけ延々と見せられるわけじゃない。
そう考えると「冬の夜ひとりの旅人が」のモチーフになっているのは、ドットーレが旅人にいろんな仮定の話をする部分なのかもしれません。どんな敵も瞬時に倒せる力を与えられたとして、その力で何をするのか?悪人だけが限界を超えられるとして、その先で何がしたいのか?片割れに会わせてやると言われて、会った後は?ドットーレの話はどれも理想的な導入に聞こえますが、最終的にどうなるだろうかという結末の部分は決して語らない……冒頭だけが連なった理想論なのかもしれません。
色々語っておいて、ドットーレの出番はオールカットなんですけども……。
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