俺のチートアカデミア(ただし、主人公はヒーロー科に入学できないものとする) 作:かりん2022
「なあなあ、個性が増えたら凄いよな、そう思わない? 心操」
嫌に馴れ馴れしく話しかけてきたのは、全く知らない顔だった。
「俺を知ってるのか? 誰だお前」
「大ファン! 俺の名前は輪廻! 読天(ヨミソラ) 輪廻! ぬいぐるみを動かす個性! 遠隔操作はできない!」
大ファン? なんだそれ。全く心当たりはない。
俺の個性をどこかで知った可能性はあるが、洗脳の個性の持ち主の大ファンになる輩とはお近づきになりたくないのだが。しかしクラスメイトだ。いつも通り、当たり障りなく接するしかない。
「はぁ? まあ、よろしく。さっきの話だけど、俺は望まないけどな」
「えっ なんで?」
「ただでさえヴィランっぽい個性って言われてんだ。ヴィランポイントをこれ以上稼ぎたくない」
「えー。心操のは俺はヴィランっぽいとか思わないけど」
「そんな事ないだろ。人を操れるんだぞ?」
あからさまな嘘か、媚を売っているのか。つい顔を上げてみる。だが、その表情に嘘はなかった。
「でも記憶操作とか出来る? それか気づかれず操るとか」
「できない。俺の能力上、気づかれないというのは無理だ」
記憶操作なんてできたらそれはもう別の個性だろう。問答というトリガーがある以上、気づかれないというのも無理。
「長期間の操作とかできる?」
「できない話しかけられた瞬間だけだ」
そんな長期で操作できたら怖いだろ。
「難しい命令下せる?」
「いや、無理だ」
あまり使った事もないが、思われるほど便利な個性ではない。
「そこ何とかならないと、悪用できないじゃん。洗脳はバレずにするのが肝なんだから。ちょっと体の自由奪っても直後に通報されて終わり!」
「それは……そうかもな」
周囲の、なんとはなしに聞いていたクラスメイトも、確かに、と頷く。
そう、一時的にいうこと聞かせられても、その後が続かない。
悪用しようとしても、いうほど便利に悪用できる個性ではないのだ。
「心操にできるのは、せいぜい犯人の抵抗を一時的に封じるくらいじゃね? 後は人質を離せーとか。運用するならヒーロー側の方が使い勝手良さそうなんだよな。何より、包丁で料理をするか人殺しをするかは持ち主次第。ヒーローは心根! お前の心はヒーローかヴィランか? って話だよ。あ、人質にされるヒロイン役もありな」
なんだヒロイン役って。でも、心がヒーローかヴィランか、か。
そんなの決まってる。こんな個性でも、憧れちまったんだ。
「俺は、ヒーローでいたい。ヒーローがいい。ヒーローであるようにしてる」
「完璧じゃん! 応援してる、頑張れ心操!」
「ああ、ありがとう」
その笑顔に嘘はなかった。
その瞬間、こいつとは友達になれるかもしれないと思った。
思ってしまったんだ。
それから、ヒーローになったらどういう活躍をするか、なんて話をした。
どんなふうに個性を役立たせてヒーロー活動をするか、なんて話題に乗り気になるものも多く、体育祭の為に頑張って鍛えよう、って話に落ち着いた。
何せ、ヒーロー科を落ちて普通科に行ったものも多いのだ。
輪廻の意見としては、ヒーローにはメディアに出ては行けないタイプがいて、俺はそれだという。まあ、問いかけに反応しなけりゃいいなんて知られたらそれまでだしな。後、俺の個性は頭が良くないとそもそも使えないとも言われた。人の心を理解して、上手く逆上させて問いかけに答えさせたりとか、上手く指示を出して人質を助けたりとか、頭を使わないと駄目な個性だと。インテリの俺にぴったりだって。後、単純に体術は覚えておかないと基礎の基礎だという話もした。
インテリな気はしないが……。俺のヒーローとしての資質を全く疑わない輪廻に戸惑う。嬉しい。
それから、あいつお洒落らしく、香水をつけていた。
なんか変わった匂いだなって思って、蝿が匂いに惹かれたのか寄ってきて、輪廻に止まった。輪廻に蝿のことを言おうとした瞬間、輪廻は倒れた。
「輪廻!?」
蝿が逃げていく。俺は慌てて輪廻の所に駆け寄った。
「保健室に連れて行ってもらえる? 持病らしいのよ。原因不明らしくて」
先生の言葉に頷いて、保健室に連れて行った。
授業を終えて、保健室にお見舞いに行く。
「お前、体が悪いのか?」
「ちょっとたまに意識がなくなるだけ。元気元気!」
それはちょっとって言わないし、元気って言わないだろ。
こんなに重い事情を抱えて、明るく振る舞うのはすごいって思った。
「そうか……。俺にできることがあったら言ってくれ」
「マジ!??? イケメン見習いヒーローの心操くんがなんでもしてくれる権!??? 病弱ひゃっふーーーーーー!!!!!」
「なかったことにしてほしい。なんか元気そうだし」
後、俺はヒーローではない。
赤くなった頬を誤魔化し、踵を返した。
午後は普通に授業に参加していた。
こうして、俺と輪廻は友達になった。
友達とテストの点を見せあったり、一緒に勉強したり。
輪廻は最初の印象通り、勉強ダメみたいだった。
いや、よく受かったなこの学校……?
輪廻は本当によく気を失う。
その直前に香水を使っている事が多い。
それにその香水、なんか虫が寄ってくるんだよな……。
「輪廻お前、その香水体質にあってないんじゃないか?」
「あー。いいんだよ。俺のお気に入りなんだ」
「でも体質にあってないから倒れるんじゃないか? 使用を控えてみろよ」
「大丈夫だって」
なんか妙だって思った。でも言語化できなかった。
輪廻って本当独特の価値観を持っていて、不思議な男だった。
その日も輪廻は倒れた。
USJが襲撃されたって話を聞いて、リカバリーガールも出たって聞いて。
あいつ、保健室で一人だ。ヴィランが学校に来てるっていうのに。
心配した俺が、保健室に向かうと、輪廻は起きて言った。
「USJサイコー!!!!」
「……なんでお前は寝込んでたのに元気なんだよ」
ため息をつく。
いつも通りを演技しながら、顔が青ざめてないか、気づかれていないか怖かった。
腑に落ちてしまった。入試に受かったとは思えない頭。香水。寄ってくる虫。倒れる輪廻。USJ襲撃。
だって、ヒーロー科がUSJ訓練施設で襲撃されたって聞いたのは輪廻が倒れたずっと後。電流のように今までの事が思い出される。
『でも記憶操作とか出来る? それか気づかれず操るとか』
(俺は気付かれずに操れるけどな)
『長期間の操作とかできる?』
(俺は操れるけどな)
『難しい命令下せる?』
(俺は出来るけどな)
『(お前如き下位互換にヴィランなんて無理なんだよ)』
頭の中で、輪廻が見下した目で言ってくる。
疑うな、そんな馬鹿な、疑わないなんて無理だろ。
『応援してる』
輪廻の笑顔。頭が混乱する。
「あっ 心操!? なんでここに!?」
「何って、具合悪くて寝てるっていうから心配して見舞いに来てやったんだろ」
「ありがとう心操!! さすがイケメンは違うわー!」
「……そうかよ」
ポーカーフェイスを磨いていてよかった。本当に良かった。
俺は、何事もなく背を向けて、帰った。
輪廻が輪廻じゃなかったら、USJのこと聞かれたって消されてもおかしくなかった。心臓がバクバクする。
俺は、輪廻の事を調べて、レポートに纏めた。
もちろん、気をつけてバレないようにしながら。
一度、目の前で輪廻の宿ったらしい蝿が蛙に食い殺された事があって、心配したが普通にその瞬間目覚めていた。やはり輪廻の本当の個性は憑依だ。
体育祭について聞いた。
輪廻は体育祭を楽しみにしているらしい。
A組について色々と教えてくれた。知りすぎてる。
俺についてもかなり期待してくれているらしいが、何を望んでいるのかがわからない。
体育祭前日、レポートを担任の先生に渡した。
ここで時間切れだ。決断の時だ。
何故なら、体育祭で事件を起こされたら、俺は俺を一生許せない。
「心操くん、体育祭、病欠するって本当? ヒーロー科に興味があったんでしょう? 今からでも……」
担任の先生に、レポートを渡す。
「これは何?」
「輪廻の……俺が輪廻がヴィランだと思う理由のレポートです」
「え? 輪廻くんって心操くんと一番仲良かったよね!?」
「そうです。だから、頑張ってヴィランじゃないって証明する為に調べました」
ボロボロと涙が溢れる。
「俺の事、応援してくれるって……初めてなんです。俺を信じてくれた奴。でも俺、俺はあいつのこと全然信じられない……! 個性偽ってるし、多分裏口だし、USJ襲撃事件と関わりあるみたいだし、俺の事も、この個性を狙って近づいたんじゃないかって疑っちゃって……そんな自分がすごい嫌で……! でも体育祭が壊されたら、俺が言ってれば防げたのにって事になったら、それはそれで自分が許せなくなりそうで……! 輪廻、体育祭異常に楽しみにしてるから、俺、せめて側で見張ろうと……!」
「待って、先生も色々受け止めきれない。とりあえず、レポートは預かったわ。先生に任せて」
俺は深々と頭を下げて、学校から帰った。
翌朝早朝、俺の家までホークスが来た。
「やあ。君が通報してくれた件について、俺が担当する事になったから。いくつか話を聞いていいかな」
「通報!? どういう事ですか?」
「人使!? どういう事なの?」
両親が慌てる。
「息子さんがヴィランを通報してくれたんです。これから調査するので、その事について質問を。まだ確定では無いので、しばらく内緒にしていてください」
「わ、わかりました」
それから、ホークスは俺から話を聞いた。
「君の想いは、俺が引き受けた。レポートに体育祭での行動調査計画があったけど、少し修正させてもらった。当人に個性を使って詰問する案は全却下だ。君はあくまでも何も気付かないていでいてくれ。今日は俺が隠れて様子見してるけど、無茶はしないように。って、調査を続行させて言える義理じゃないけどね。それとレポート、良かったよ。しっかり書けていた。君は個性も有用だね。体育祭は残念だけど、ヒーロー資格の取得の手伝いは出来ると思う。今回の件が済んだら、改めて話をしよう」
「でも」
「でも?」
「輪廻が俺の事友達だと思ってくれるなら、思いとどまってくれるかもしれない。俺、ちゃんと話をして輪廻を止めたいです」
「そうだね。でも、正体を知っているとバレると君に危害が及ぶかもしれない。話し合いのタイミングはいずれ用意するから、それまでは普段通りを装って欲しい」
「はい」
ヒーローになれる足がかりを得た。友達を売って。
いや、こんな第一歩絶対に嫌だ。
友達を捕まえて第一歩とするんじゃない。
友達を悪の道から救って第一歩とするんだ。
俺は体育祭、輪廻にいっぱい話しかけた。
「輪廻。一緒に試合見学しよう」
「輪廻。屋台でなんか食べようぜ」
「輪廻。……聞いてくれよ」
輪廻は俺に目もくれず、憑依を乱用した。
家に帰ると、ホークスが労ってくれた。
「少なくとも個性の詐称を確認した。君はしばらく黙っていて、危険な真似はしないように。それと、これ、教科書。自習しておいて」
ヒーロー科の使う教科書をもらう。
説明も受けた。
公安ヒーローになるなら、色々優遇するということ。
ただし、今回みたいな難しい依頼が多いということ。
キラキラして見えていたヒーローという憧れが、圧倒的なリアルを持って俺に現実を突きつけてくる。
あんなにも欲しかった教科書を部屋に入るなりぶちまけ、俺は机に突っ伏した。
それでも……それでも俺はヒーローに憧れている。
あいつは、アホだから。
発信機を買ってキーホルダーに仕込んで誰かに渡して、追跡アプリを入れてるの見え見えだったから。
俺もアプリを入れた。
ごめんなさい、ホークス。
俺、やっぱり輪廻と直接話して、ぶつかって、お願いしたい。
戻ってこいって。ヴィランになるなって。
あいつは俺のこと友達だって思ってなくても。
俺はあいつを友達だって思ってるから。
それに俺、ヒーローだから。輪廻が困ってるなら救いたいんだ。
マシュマロ
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