ゴージャスビックマウス対談 作:おこげ
「……対談、企画?」
昼下がり。
たらん、と白髪を揺らした篠澤広は小首を傾げる。
「はい。相手側からのご指名だそうです」
「変な人もいるんだね」
「ええ──本当に」
陽光がプロデューサー室に差し込む。
まあ、掛けてください。とプロデューサーが指すがままに広は椅子に座った。
「珍しい、ね。プロデューサーが私の意見を聞き出そうにするなんて」
「……顔に出ていましたか?」
「うん」
「そうですか」
と、篠澤広の手に渡されたのは1枚のプリント。俗に言う、企画書。
手でも切るんじゃないかと不安そうな見つてくる不躾を彼女は無言のうちに許し、手元に目を落とした。
【企画名:ゴージャスビックマウス対談】
「……」
「珍しいですね。貴女の減らず口が閉まっているのは」
「開いた口が塞がらないだけ……全く、プロデューサー。ままならないんだから」
「ああ、耳と頭を塞がないで下さい。こんなふざけた名前の企画ですが、貴女にとって利益になる事には間違いないんです」
「本気で言ってる、の?」
「大マジ、大真面目です。よく読んでみてください。ほら」
座る彼女の後ろに回り込んだプロデューサーは、その顔を彼女の顔に近付け、膝に置かれたプリントの一部に触れた。
その無遠慮な動作に彼女は無言の抗議をしてみようかと考え、あまり面白くなりそうでもないな、と思い直し、右手でプロデューサーの指を握り、退かす。
現れた文字、ただ一言。ある固有名詞。三人称。人名。
この企画の立案者にしてプレイヤー。
そして、篠澤広にオファーを投げかけた、その人。
『双葉 杏』
の名前だった。
「──勿論、愚かしくもアイドルを目指す貴女なら当然ご存知でしょうけれど、彼女は346プロダクション、シンデレラプロジェクトの一員である双葉杏その人です」
双葉杏。
言わずとしれた大企業。この企業なくしては芸能界はないとは世間の常識であり、芸人界の吉本興業ならぬ、芸能界の346プロダクションである。数十年間、人目に触れ、人を魅了することの専門家として魑魅魍魎の跋扈する煌びやかな業界の中で、その世界を作り上げ続ける異能集団のトップ・オブ・トップ。
そして、その中のトップ・オブ・トップ、それが双葉杏というアイドルであった。
当然、現在の篠澤広が会えるランクの人ではない。筈だった。
「双葉さん、と呼称させていただきますが、彼女は奇しくも貴女と同じく天才の称号を戴くアイドルです」
「杏ちゃん……かわいい、よね」
「はい、『かわいい』です。そして彼女は怠惰で、守銭奴で、適当。努力が嫌いで、人を煽るような発言が上手で、掴み所がありません。ただ、圧倒的に、才能がある。──そう思わせることが上手です。かわいい才能も、ダンスも、歌も。カリスマ性と言い換えるのは余りにも短絡的ですが、そうですね。『あの子はやればできる子なの』と思わせる能力の最上位と言えば分かりやすいでしょうか?」
正確にはやればできる子、というよりも、やらなくてもできると分かる。天才である素振りを見せつけることなく天才だと思わせるその特異な魅力は、神聖さ、などという客による主観を売りにする篠澤広と少なからずオーバーラップしていた。
「確かに……そうかも?」
「つまる所の、貴女の上位変換です」
「上位、変換? 互換じゃなくて?」
「互換というのは、貴女の魅力のベクトルとは違いますので。ただ、系統として完成形の一つではあるという話です」
その発言にはプロデューサーとして、決してうちのアイドルは負けていないという意地がありありと見えた。
広はほころんだ。
プロデューサーは軽く咳をし、それをいなした。
……本当に、厄介な話ですが。と前置く。
「彼女の狙いは分かりませんが、この企画は恐らくそう悪いものではないというのがプロデューサーとしての私の結論です」
「信じる、よ。プロデューサーのこと。私は何をすれば良い?」
「この企画、ゴージャスビックマウス対談は、双葉杏の双葉杏による双葉杏のためのフックアップ企画です。デビュー3年以内の、彼女のお眼鏡に適った人物を集めて一対一の企画を連続して行う実験的バラエティとなっています」
「実験的バラエティ?」
コンプライアンスを逆手に取った炎上商法的なネーミングセンスに篠澤広はハテナを浮かべた。
大抵、そんなレベリングとコピーライティングを行うなんてのは、そう──、
「はい。世界配信です。双葉杏による冠番組のとある1話まるまる使ったメインゲストに貴女は選ばれたんです」
どこか他人事のような口ぶりでトンデモない事実を突きつけられた、篠澤広は、その無茶振りに思わず膝を緩め、ぱさり、とプリントが木の床と擦れる。
そのプロデューサーはそれを拾い上げ篠澤広へと向かい合う。
そこに居たのは、先に待つ苦難を想像し思わず表情を崩し、心底楽し見といった表情で微笑む、小さな女神だった。
✾✾✾✾
【双葉杏】ゴージャスビックマウス対談とかいう番組【NET FRIX】
《id:#》1:ななしのアイドルヲタク ID:1kVfP8408
実際どうなん?
25:ななしのアイドルヲタク ID:Mjj0eYxSf
双葉杏のフックアップ企画らしい。オモロイかどうかは知らん
26:ななしのアイドルヲタク ID:40J2e4Xhw
1話90分で1ゲストは余りにも強気すぎる。
29:ななしのアイドルヲタク ID:3j33Cr/ZX
往年のまっちゃんのお笑い企画似た修羅を感じるわ
43:ななしのアイドルヲタク ID:JN+/5RcAd
杏ちゃんだけの修羅道ならいいんすけどね……
62:ななしのアイドルヲタク ID:Zis0SfVyu
4話目のサモエドとヤギで草
明らかに異質すぎやろ。人やないやんけ
84:ななしのアイドルヲタク ID:gKzyvgJan
双葉杏にとって人かどうかは重要じゃないから
100:ななしのアイドルヲタク ID:srAblhj1u
なんて博愛主義なんだあ(白目)
105:ななしのアイドルヲタク ID:IyIxlaKW7
単純に可愛がるための能しかない奴らという皮肉だと思うんですけど(名推理)
122:ななしのアイドルヲタク ID:PHbLg7jl1
双葉杏ちゃんサイコパス説はNG
132:ななしのアイドルヲタク ID:ih9+g+jLX
彼女はただ単に天才なだけなんだ。人の気持ちにちょっと疎いだけなんだ
161:ななしのアイドルヲタク ID:EGuXquqal
全6話、1話90分の一対一企画番組。
こちらが先日発表された相手の方々の肩書です。
1話 先日初舞台の新人女優
2話 サイエンティスト
3話 346所属予定のストリーマー
4話 犬と山羊
5話 雑誌未掲載の建築家
6話 初星学園在学中のアイドル
179:ななしのアイドルヲタク ID:NBReA+uvz
デビュー(生後)3ヶ月
一対一(一人対2匹)
4話が色んな意味で楽しみ過ぎる
188:ななしのアイドルヲタク ID:hHalMDFry
こんな情報で分かるわけないんだよなぁ。
212:ななしのアイドルヲタク ID:g7xGb06rt
誰が出てきてもどっから見つけてきたんだよってなる奴
240:ななしのアイドルヲタク ID:JCHieMzGY
346所属がいるってのが逆に意外だったわ
依怙贔屓とか言われないといいけど
244:ななしのアイドルヲタク ID:iKIfmulOk
双葉杏に目をつけられてかわいそーって意見もあると思います!
252:ななしのアイドルヲタク ID:y5NuWuP/F
ここまで在学中にも関わらず目をつけられたとか言う、チュートリアルで魔王戦を強いられた娘の話はなし
263:ななしのアイドルヲタク ID:3SPd4OPr3
あまりにも無情
274:ななしのアイドルヲタク ID:y1EXE5gRe
初星学園在学中なんて、それだけで将来安泰なんだし余裕余裕
296:ななしのアイドルヲタク ID:JU/jCUXY6
フックアップ企画ってほんとぉ?(無邪気)
300:ななしのアイドルヲタク ID:8jKCezBUC
どうか、ワイの推しであらんことを願わんと奉り候
312:ななしのアイドルヲタク ID:9bqTfhjOO
まあ、予告来た来月には配信だし、そんな力入ってる番組じゃないっしょ
340:ななしのアイドルヲタク ID:z5sOfa5+F
杏ちゃんのPVみたいなふわふわのセットで対談する企画だといいなぁ
349:ななしのアイドルヲタク ID:z4PVSpJSM
選んだの全員双葉杏らしいし、普通に選考基準とか話すだけで面白そうだけどね
369:ななしのアイドルヲタク ID:U425kHo7M
当の本人は呑気にTwitteryでネタツイRTしてる模様
371:ななしのアイドルヲタク ID:c+gZ4lofz
来週には予告上がるだろうし、予想を楽しめるのはそこまでだろうな
372:ななしのアイドルヲタク ID:ooyLRgzQY
なんだかんだ346絡みだろ
386:ななしのアイドルヲタク ID:tdbGDnJKl
それを言っちゃぁ、おしまいよ
409:ななしのアイドルヲタク ID:LdRTGS3vk
天才は孤独だからね。杏ちゃんが楽しんでたらそれが全てよ
2話→書き上げ済み。様子を見て投稿予定