少しだけ時を遡り、数分前。
「ライム!」
ミスティ達とは別行動をしている、ライム達の元にミスティと共に出発したはずのレッドがやって来た。
ライム達は現在、昨日火災のあった場所に何か襲われるようなモノがないかの物品的証拠を探してきていたのだが、もう既にそういったモノは上に回収されていて手詰まりしていたところだった。
「どうしたんだ、ていうかお前だけか?」
「まぁな、ミスティの状況を伝えに来た」
レッドはゆっくりと低空飛行を始め、ライムの右腕に止まる。
ハルクとイムも気がついたようでレッドの話を聞こうと集まる。
レッドの話を纏めると、ミスティはランダリーファミリーのヨルダンと成り行きで戦うことになり、現在も戦闘が行われているらしい。
「ヨルダン兄が!?」
「いくらミスティちゃんでも分が悪いんじゃないのか?」
イムとハルクの反応から察するにヨルダンという者は正規のランダリーファミリーのメンバーのようだ。
「分が悪いって?」
ライムは疑問に思ったことを口に出して尋ねた。
彼女の実力はライム自身がよく知っており、相当の実力者だとライムも認めている。
しかし、彼らの反応からするにヨルダンという者はそれ以上の手練の可能性がある。
「あぁ、たしかにあの人の魔力も強いよ。でも、ヨルダン兄は多分もっと強い」
イムは誇らしげに応えた。
「何たってあいつは雷迅のヨルダンって二つ名のある、おやっさんを除いた現ランダリーファミリー最強の男だからな!認めたくないけど!」
対して、ハルクは煙草を吸いながら忌々しげに呟いた。
ハルクはそのまま続ける。
「どちらにしても、二人がぶつかってるのは好ましくない。急いで案内してくれ」
「わかった、付いて来い!」
レッドはライムの腕から勢いよく飛び立った。
ライム達はレッドに続くように走り始めた。
※
しばらく街を走っていると、目の前からミスティが走ってきた。
「あ、ライム君!」
「ミスティ!?ヨルダンって奴と戦ってるんじゃなかったのかよ!?」
「いやぁ、それがナンパ男が乱入してきて、そのまま私を蚊帳の外にして戦い始めたから撒いてきたのよ、ランダリーファミリーのあの人と潰し合うわけにもいかなかったし」
「すごい、ミスティが現状をしっかり理解している!」
「あぁ、すばらしいな!」
「僕、ちょっと見直したよ」
「ナイス、ミスティちゃん!この勢いでヨルダンの所まで行こうぜ!」
「揃いも揃って酷くない!?」
ミスティは今まで彼らが彼女に対してどのような認識だったのかを改めて思い知らされた瞬間だった。
「ていうか私また戻るの!?」
「仕方ねぇじゃねぇか、ヨルダンに話さないといけないし」
「そうだけど」
ミスティはガクガクと震える足を抑えながら、荒い息を整えなおしていた。
よく見れば汗もびっしょりとかいており、顔も真っ赤だった。
「ミスティ、また発作か?」
「.....ごめんね、やっぱり私体力ないみたい」
「しょうがないな、屈んで」
「うん」
ミスティはその場で屈んで片膝をついた。
ライムはそのまま彼女の額に手を触れて、ポワッと淡い光を出す。
「どうしたんだ、ミスティちゃん?」
「俺も詳しくは知らないが、あいつはどうも魔力を過剰に使うと体調を崩してしまうようなんだ。普段は節約しているが、今回は放出もしてしまったからな」
レッドがハルクの疑問に応える。
ヨルダンと会う前に感情を高ぶらせてしまった時の魔力放出のことを言っているのだろう。
「よし、大丈夫か?」
「いつもごめんね、ライム君」
「いいよ、それより急ごう」
ライムの言葉に全員が頷き、レッドとミスティを先頭に一行は再び走り始めた。
※
そして、現場に着いてライム達が見たのは全身ボロボロで大の字になって倒れている金髪男と血を流しながら倒れている茶髪のスーツ男だった。
「ヨルダン兄!」
「え、どっちがどっちだ?」
イムは叫ぶが、ヨルダンのことを知らないライムは戸惑ってしまう。
「ヨルダンはあの茶髪だ、治してやってくれ」
「わかった」
ハルクに指示された方に走り、すぐさま治療魔法を使い回復を始める。
一方、もう一人の男の方にはミスティとハルクが向かった。
「ハルク君、これって誰か知ってる?」
「いや、見たことも会ったこともないな。だが、ヨルダンの奴がここまでぶちのめしたんだから敵であることに間違いはないかもな」
「じゃあ、ちょっと拘束しとくわね」
ミスティが金髪の男、ジンの両手を後ろに回して魔力を集中させる。
すると、ジンの両手がガッチリと手錠によって拘束されてしまった。
両足も同じようにガッチリと拘束する。
ついでに手錠にも足枷にも魔法を使えない封魔の印を刻んである。
「お前の魔法も中々面白いな」
「そう?まぁ、でも応用性があることに間違いないわね」
「見た所、鉄の魔法って所か?」
ハルクの指摘にミスティは眉をピクリと動かして苦笑いを浮かべる。
「バレちゃったわね、でもいい機会だから教えてあげる」
ミスティは掌を出して、そこから四角い鉄の塊を出現させた。
「私の魔法は、鉄の処女(メタリック・レディ)と呼ばれる鉄魔法の中でも上位層に位置する魔法」
「鉄の処女、か。名前の通りお前も処女だったり?」
ハルクがニヤニヤしながら尋ねると、ミスティは顔を真っ赤にして俯かせてしまった。
ハルクは彼女の様子におどおどし始める。
「.....えっと、結構ガチ?」
「そうよ、この魔法は強力だけど誓約として処女でなければならないのよ!だから処女でなくなった瞬間私は普通の女の子になるの、おわかり!?」
「わかった、悪かったからとりあえずその手を離してくれ!」
ハルクの首を締め付けながら顔を真っ赤にしながら、ヤケクソ気味に叫ぶ。
強力な魔法には強力な副作用がある、鉄の処女は鉄の生成と操作という二つを兼ね備えており、応用性もあるのだが、その分副作用が強力なのだ。
ミスティは静かに手を離してハルクから顔を逸らす。
「.....悪かったな」
「.....こちらこそ」
※
しばらくして、ヨルダンが目を覚ました。
「あ、目覚ました」
「.....お前、若を誘拐しようとしやがったクソガキじゃねぇか」
まだ誤解が解けてなかったのか、とライムは心の中で溜息を吐いた。
ヨルダンの腹の傷はすっかり塞がり、出血も止まっていた。
「ヨルダン兄!大丈夫!?」
「若!?なんでここに...」
「起きて混乱してるところ悪いけど、ちょいと頼みがある」
「ハルク!お前今までどこにいやがったんだ、コラァ!?」
ヨルダンが勢いよく立ち上がり、ハルクの胸ぐらを掴み出す。
ハルクは煙草を吸いながら極めて冷静に対処する。
「とりあえず落ち着け、人通りが少ないとはいえ騒ぎは起こしたくない」
「チッ」
ヨルダンは忌々しく舌打ちをしてハルクから手を離す。
ヨルダンはミスティとレッドの存在にも気がつく。
そして、敵意を抱いていないことを感じ取り溜息を吐いた。
「若、ハルク、一体全体どういうことなんだ?そして何でこいつらと仲良くなってんだ?」
「それは」
「いいよ若、俺が説明する」
ハルクがイムを止めてヨルダンと向き合う。
気がつけばイムはライム達の元に移動していた。
ライム達は少し離れた位置で二人の様子を見守っていた。
「まず初めに、こいつらは敵じゃないし誘拐犯でもない。俺たちが勝手に勘違いしていただけだ」
「証拠はあるのか?」
「若の言葉が何よりの証拠だ、街の外でライム達と会って、若をここまで護衛してくれたそうだ」
「なるほどな」
「また協力者でもある」
「協力者?」
「あぁ、そうだ」
ハルクは一旦言葉を区切って咥えていた煙草を手に取って地面に落として足でぐりぐりと踏み潰す。
「ランダリーファミリーと名乗る何者かを、俺たちの敵をぶっ潰すための大切な協力者だ」
「おい、そいつはどういうことだ?第一敵ってどういうことだよ?」
「お前も見たことないか?ランダリーファミリーと名乗っているくせにウチで見たことないような奴を街で」
「どうだろうな、俺もファミリー内とはいえ全員の顔を覚えているわけじゃねぇ」
「じゃあ、覚えている前提で話を進めるぞ」
わかった、とヨルダンは頷いてハルクの話を聞いた。
「そいつらを潰すためにこいつらと協力する、俺たちの為にも巻き込んじまったこいつらの為にもな」
「.....信用はできるのか?」
「俺は少なくとも信頼してるつもりだぜ、お前の傷を治したのもライムだからな」
ハルクはライムの方向に目を向けた。
ヨルダンもすっかり塞がった腹を触りながらライムを見た。
「.....あのガキは何者なんだ?」
「メデルの生き残りらしいぜ、今じゃ少ない治療魔術師の一人だ」
「な、マジかよ。だったら、ルナのことも」
「とにかく、だ!」
ハルクはヨルダンの言葉を無理矢理遮った。
ヨルダンはそんなハルクの様子を見てバツの悪そうな表情を浮かべる。
「ライム達を、一度おやっさんに会わせようと思う」
ハルクは真面目な顔をしてヨルダンに提案した。
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