「ヨルダンさんが、こいつを?」
「それがお前の意思で、お前の望むことならな」
「..........」
リリーは脚の力を僅かに緩めてパックとヨルダンを交互に見る。
サングラスの奥の瞳が覚悟を決めた瞳だった、ヨルダンは本気でパックを殺すつもりだろう。
普段のリリーならば喜んで彼に従ったであろう。
しかし、彼女が即答することはなかった。
ヨルダンの提案にも不気味なほど静かにヨルダンのことを見据えていた。
尤もヨルダンとしてはリリーが人を殺すという十字架を背負わなければそれでいいという考えである。
ヨルダンにとってリリー・マーガレットは最優先に守るべき人物、という認識となっている。
彼自身も無意識だが、その優先度はランダリーファミリーよりも優先されている。
リリーが俯くとパックの頭を掴んでいた脚の力を静かに抜いた。
パックの体はドサリと地面に叩きつけられる。
「リリー?」
「.....僕は、ヨルダンさんにこれ以上罪を背負ってほしくない。あのときも僕を守るためにゴルドスさんを失ってハルクさんは傷ついた。だから、やっぱり僕の手で終わらせる」
カッ、とリリーはニヤリと笑みを浮かべた。
狂笑、その言葉が当てはまる笑みでリリーはグサリ、と折れた脚爪を脚で掴みパックの体を貫いた。
「がっ!」
「リリー!」
ヨルダンは即座にリリーを羽交い締めにしてパックから離した。
「ここまできたら、もう引き返せないんですよ。僕は、たとえヨルダンさんやランダリーファミリーを敵に回したとしても、こいつだけは絶対に殺.....す」
バチィ、とリリーの首筋で微かな火花が散った。
ヨルダンが魔力を微弱な雷に変換させてリリーの意識を無理矢理奪った。
ヨルダンはパックの体から脚爪をズポリ、と抜き取る。
「.....リリー、お前は何もわかってない。人を殺すってことはその場の勢いから生まれる衝動みたいなもんだ、絶対に後から後悔することになる。お前に後悔はしてほしくない」
ヨルダンはリリーを近くで寝転がらせてパックの応急処置を済ませる。
簡単な治療しかできないが、ライムが戻ってこれば二人とも纏めて治療してもらおう。
ヨルダンは携帯を取り出してハルクを呼び出した。
しかし、繋がる気配は一向になかった。
「.....誰か来るまでここを動くわけにはいかないか」
パックはクロフの仲間らしい、さきほどのリリーの話をまとめるとその可能性が考えられる。
元よりヨルダンはパックを殺すつもりはなかった。
何とかしてリリーを説得し納得させるか、気絶させている内に対策を考えればよいと思っていたからである。
ヨルダン自身も人を殺すという行為に関しては好き好んで行うわけではない。
そして、少し離れた位置で倒れているのがゴルドス一派の者だろう。
リリーが名前を言っていた気がするが長かったため覚えていない。
パックとリリーを同時に運ぶことはできない、ヨルダンは溜息を吐いてその場に座り込んだ。
※
その頃、無事イリアから逃げることに成功したライムはジンとイムの解毒と治療を行っていた。
イムの解毒は無事に終わったが、ジンの治療をするための魔力が足りなかった。
応急処置程度までならできるのだが、完治に至らせるにはどうしても魔力が足りない。
戦闘で消費した分も、まだ回復していない。
とりあえず一番重傷な脇腹の治療を済ませ、その場にペタリと座り込んだ。
(ミスティは大丈夫かな、ハルクもヨルダンもロブさんも。クロフ達も無事ならいいけど)
彼らのためにも魔力は温存しておかなければならない、とライムはフッと笑みを浮かべた。
※
その頃、激突したロブとゴルドスは常人が見ては追いかけることのできない速度で己の得物をぶつけ合っていた。
強者と強者の戦い、勝負は長くは続かない、先に動いた者が負ける、などよく言われる。
事実、強者は相手の隙を一瞬で突き一気に叩き込む。
そんな勝負が長く続くはずもなかった。
ロブは二刀流を華麗に操りゴルドスの拳を受け流したり、的確に急所を狙ったりと頭よりも体が先に動く感じで戦闘経験の豊富さが見てわかる。
ゴルドスは手から肘までを覆う籠手からエネルギーを纏わせた剣や拳で固形物では決してできない軟体的かつトリッキーな攻めに元々持ち合わせている気性の荒さを全開にして、ひたすらに攻め続ける。
攻撃が最大の防御と言わんばかりに攻めて攻めて攻める。
ガキィン、ガキィンと刃とエネルギーがジリジリとぶつかり合い短い時間の接触だが、鍔競り合いの余波で周囲にピキピキと亀裂が入るほどだ。
互いに言葉を発することはなかった。
代わりに剣撃、斬撃、攻撃、拳撃、暴撃、乱撃が飛び交った。
短き攻防戦、時間にして二十秒に至るかもわからない短時間の内に繰り広げられた激しい激突の後、二人は一旦距離を取り合った。
互いの額にじんわりと汗が滲んでいるのがわかった。
ビッ、とロブは右頬に、ゴルドスは左頬に切り傷を付けて僅かに血を流した。
「衰えてないな、さすが俺の兄弟子だ」
ぐい、とゴルドスは左頬についた血を拭いながら笑みを浮かべる。
「.....お前、何故ランダリーファミリーを名乗り俺たちの目の前に現れたんだ?」
「あン?」
「お前がゲルさんに執着し、あの人の死を認めたくないのはわかった。だが、何故ランダリーファミリーを名乗り仲間を集めたんだ?お前は一体何がしたいんだ?」
ロブはゴルドスをしっかりと見据えて刀を握る拳に力を込める。
「簡単なことさ、まず一つとしてアムファミリーじゃ語呂が悪いのと知名度を広めるためだ」
「何だと?」
「南イルバースで悪事を働き、ランダリーファミリーの悪名を広げることで間接的にお前たちを潰せる。まずは北イルバースにイリアを送り込んで情報収集と情報操作であらぬ事実を広めた」
ゴルドスは語り続ける。
まるで種明かしをするように、もう隠しても意味はないと言った様子で。
「だが、当時のイルバース最高権力者、ザルド・イルバースがお前と旧知の仲だったことを思い出した。そこで俺は奴を殺し、息子であるブロスを利用した。バーカイフの連中をこの街に呼ぶようにブロスに勧めたのもイリアだ」
「随分イリアって奴に信頼を置いてるんだな」
「信頼?何を馬鹿な、あいつはハム野郎の女だぞ。都合よく利用したまでだ、弱みを握ってるって言っただけで簡単に協力してくれたよ!」
ニィィ、と口が裂けんとばかりにニヤリと表情を歪ませてゴルドスは続ける。
「全てはこの街をぶっ潰し、俺を追放したお前らに対する復讐だ、ランダリーファミリー!!そしてイルバース、全てはゲルさんの仇を討つためだァァァァァァ!!!」
ゴルドスは籠手からエネルギーを漏洩させ、巨大なエネルギーの塊を出現させる。
ロブは静かに刀を構え直す。
「決着付けようぜ、ロブ・ランダリィィィィィィィィィィ!!!十五年前の決着をよォォォォォ!!」
『テメー!この対決はノーコンだからな!次は絶対に、俺が勝つ!!』
『.....言ってろ、鬱陶しい』
『ンだと、コラ!?』
ロブは静かに目を閉じて二本の刀を鞘に収めた。
ゴォッ!とロブから凄まじい殺気が漏れ出し、ゴルドスを迎え撃つ。
十五年前、かつて対峙した時と比べて歳を取ったということ以外は寸分も変わらぬ状況だった。
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