「ッ、てて」
「ロブ!大丈夫か!?」
「グ、ラハムか。ゴルドスと、ゲルさんは?」
「ゴルドスは気絶してる、ゲルさんはあいつと戦ってる!」
「そ、そうか」
ガラガラ、と瓦礫に埋もれた体を起こす。
ロブは血が流れる額の傷口を抑えながらゆっくりと立ち上がった。
フラフラと体はよろめいている。
「む、無茶するな!」
グラハムは背にゴルドスを背負ったままロブの支えになろうと肩を貸した。
ロブは何とかグラハムの肩を支えて立ち続ける。
「ち、くしょう、また新しいの調達してこないとな」
ロブは根元がポッキリと折れ、所々にヒビが入り、次に力を込めれば崩れてしまいそうな愛用していた鉄パイプを静かに手放す。
長い間共に戦ってきた相棒と別れるのは少し名残惜しかったが、今はゲルマックの下に向かって助太刀するのが優先である。
「行こう、ゲルさんのところに」
「ロブはゴルドスのこと頼む、あいつは俺とゲルさんで倒す!」
「待て、ふざけんな!」
「どっちにしろ、そのダメージじゃ足手まといになる!立つのもやっとの奴に一体何ができるんだ!?」
「.....」
ロブはグラハムの言葉に黙らされてしまった。
グラハムの言うことは正しく、間違ったことなど一つもない。
もし、ロブがグラハムの立場であった場合同じことを言うだろう。
何より兄弟子であり年上の自分が何もできず、弟弟子に任せなければならない状況が悔しくて仕方なかった。
グラハムは背中に背負ったゴルドスをドサッと地面に下ろす。
「大丈夫、俺はハーディを置いて死ぬことは絶対にない。あいつのためにも、俺は生きて帰る!」
「グラハム!」
ダッ、とグラハムはロブの制止の声も聞かずに駆け出していた。
追いかけようにも体へのダメージが大きすぎるため歩くことすら難しい状態だ。
「ち、くしょう」
「ロブ!」
ロブが頭を抑えてフラフラとその場を回り、壁を支えに立っていると、どこかで聞いた声が彼の耳に入ってきた。
そう、いつも付きまとって鬱陶しいと感じるくらいの男の声が。
「ロブ、無事だったんだな!」
「ザ、ルド?お前、いや、今はここにいちゃいけねぇ、ここから」
ロブが言葉を続けようとした瞬間、離れた場所で爆発が発生し、爆心地からは赤黒い触手のようなモノがウネウネと蠢いていた。
「.....だよ、あれ!?」
「ロブ、早くここから、いや、南から逃げろ!せめて南の外に、壁は簡単に崩れる!」
「どういうことだ、お前、何か知ってんのか?」
「.....うちの部下に、ダルダスっていう南イルバース排斥派の過激な奴が世界的にも有名な暗部組織に南イルバースの壊滅を依頼したんだ」
「な.....!?」
「このことは父さんも知らない、俺は偶然ダルダスと酒を飲んでて酔っ払った時に根掘り葉掘り聞き出したんだ、あいつは昔から碌でもないことを考える奴だからな」
7年前、ゲルマックによりデジオンが倒され当時ゲレネ教徒であったダルダスは当然のように非難された。
しかし、彼はゲレネ教の教えに背いて反教徒となり敵を減らすことに成功した。
元々デジオンをイルバースに招いたのも彼である。
デジオンに賄賂を送り、ゲレネ教を広めイルバースの一族までもを抹殺しようと考えたほどである。
しかし、その計画と賄賂に送った金までもを無駄にしてしまう。
だからこそ、ダルダスは七日後にやってくる国王には南イルバースを見せないために早めに潰し、ついでにゲルマックに復讐するという算段なのだ。
北イルバースでもゲレネ教反対派は確かに多いが、隠れ教徒も数多く存在している。
「.....だからって、俺にどうしろってんだよ!?それを知らされても俺にできることなんて何もねぇ!」
「いや、違う!」
ロブの弱気な一言にザルドが一喝する。
彼がロブに対してこのような態度を見せるのは初めてである。
「あんたはそんな人じゃねぇ、俺と違って力もあって行動力だってある!俺の出来ないことのほとんどはあんたはできるんだ!あの日、俺はそんな男に命を救われたんだ、何も救えないことなんてない!」
「ザルド」
「だから、俺と一緒に北に来てくれ!それでダルダスの不正を皆に知らしめてやるんだ!」
ザルドは頭を下げた、土下座だった。
額から血を流し、フラフラでまともに歩けるかもわからないロブに土下座をしたのだ。
「.....ゴルドスはどうする?」
「それならオイラが」
「うぉ、ハーディ!?」
ひょこ、とどこからともなくグラハムの弟であるハーディが現れた。
「兄ちゃんの声が聞こえた気がした、でもいない」
普段は人見知りで無口なハーディだが、状況が緊迫していると判断したのか、やけに饒舌だった。
「じゃあ、ゴルドスのこと任せてもらっていいか?俺は、これからこんな茶番劇終わらせてくる!」
合点!とハーディは敬礼するようにして返答する。
ハーディはゴルドスを背負おうとするが、身長差があったためゴルドスの足を引きずるように移動していった。
ロブはザルドの肩を借りて移動を始めた。
「それに、してもよぉ、ザルド」
「ん?」
「お前、マジでお偉いさんの息子だったんだな」
「.....まさか、今まで信じてなかったのか?」
「あぁ」
ザルドは心外そうな、微妙な表情を浮かべた。
※
「.........!」
「っと、と」
バキィ、とゲルマックは黒ローブの両肩から湧き出る触手のような物体を握りつぶす。
左手で受け止め、右手で掴み握力だけでバキバキに砕く。
「なるほどな、液状タイプじゃねーなら勝機はあるな」
「.....あんた、魔族とやったことがあるのか?」
「まぁね、ちょいと腕試しに何度か、ね!」
砕けた触手からいくつもの赤黒い触手が伸び、刃となりゲルマックに迫るが、左腕によるエルボーで全て砕かれる。
黒ローブはその間にもう片方の肩から出てる触手をボコボコと噴出させ背後からゲルマックを狙う。
しかし、ゲルマックはそれを瞬時に読み取り、回し蹴りで迎撃する。
二人の戦闘の余波は最近やっと街らしい形になってきた南イルバースの街並みを壊すには十分すぎるくらい凄まじかった。
黒ローブは触手を両方ゲルマックから退かせて、ビキビキビキ、と先ほどよりも鋭く鋭利に、美しくより多くの刃に変化させ腰を低くする。
「ゲルマック・ビードラー、たしかに貴方は超天十人衆、序列5位に相応しいお方だ。俺では勝つことはできないだろう」
ビキビキビキ、と黒ローブの両肩から噴き出てる触手は確実に、ゆっくりと大きくなっていっている。
まるで黒ローブ自身を覆うように、今は黒ローブの肩は完全に覆われてしまっている。
「だが、俺の目的は貴方を倒すことではない。俺に貴方を倒せる力も勝機もないが、目的だけは遂行させてもらう」
ブクゥ、と両肩の触手の根元が泡のように広がった。
同時に黒ローブの魔力泡の部分に集まっているのを感知することができた、ゲルマックは黒ローブの次の行動に予想がつき、ハッとなり一気に距離を縮める。
だが、あと一歩、あと一歩で黒ローブにゲルマックの拳が届くというところで。
「ざまぁみろ、世界」
ブワッ!と泡が弾けたと思うと黒ローブの両肩の触手が一気に広がった。
刃のように鋭く、鋼鉄のように硬く、芸術作品のように美しい凶器は確実に街を破壊し始めた。
「ガッ!?」
ゲルマックは刃が弾けた瞬間に発生した衝撃波によって吹き飛ばされてしまう。
触手は今も黒ローブの両肩から離れることはなく、黒ローブの意思により凶器は上に左に右に下に縦横無尽に動き回り、建物を破壊し、多くの人の命を奪っていく。
ぐるん、と回転するように黒ローブが動くと凶器と化した触手も街を薙ぎ払うように回転する。
「っ、危ね!?」
ビキビキビキ、と今もなお大きく膨張し鱗のように吐いた触手から生み出される刃は鋭さを増していく。
ギラリ、と赤黒く輝く刃はまるで引き裂いた人々の血の色を表しているかのようだった。
「や、めろ!」
人々の悲鳴、街の悲鳴、建物の崩壊、黒ローブはその中心に立ち触手のサイズを拡大させていく。
既に周囲の建物は瓦礫に成り果てており、人だった肉塊や上半身と下半身がわからなくなった人々、泣き喚きながら必死になって逃げる人々がゲルマックの目や耳に映る。
ゲルマックは態勢を低くしてなるべく触手の範囲外の場所を選び、一気に黒ローブとの距離を詰める。
先ほど砕いた時とは比にもならないほど硬くなっており、既にゲルマックの力だけではどうにもならない硬さにまで成長してしまっていた。
全身に浅い切り傷を作りながらもゲルマックは決して怯むことも止まることもなく黒ローブに向かって走り続ける。
(ロブ、ゴルドス、グラハム、無事なのか!?ジネット、お前はこの事態に気が付いているのか!?)
ザッ、と黒ローブの目の前にまでやってきたゲルマックは拳を力強く握りしめる。
どうやら黒ローブは触手の操作と成長に集中しており、ゲルマックの接近に気が付いていないようだった。
(もらった!)
ゴォッ、と脆い地盤ならば砕くことができる強力な拳を黒ローブに向けて放つ。
全力全開、黒ローブの死角になる位置から放たれた拳は真っ直ぐと吸い込まれるように黒ローブの掌に向かってバシィィィ!という音を立てた。
「なっ.....!?」
「まさか、気が付いていないとでも?死角からの攻撃は恐ろしいが、俺には効きませんよ」
ギュッと力強く大きな手で握り締められたゲルマックの拳は簡単に解けそうにはなかった。
「.....ッ、お前、まさか!?」
瞬間、ボコォォォォォォ!と繋がった両肩の触手の間から三本目の触手が天に向かって射出された。
※
「な、なんだ、これは!?」
「素晴らしいですな。さすがは一流組織、いい人材を寄越してくれる」
「ダルダス!」
北イルバースのイルバース邸から南イルバースの様子を伺っていたジネットは目の前に広がる街が崩れていく光景に目を奪われてしまう。
北にまでは攻撃は届いていない、おそらく北と南を分断する壁が得体のしれない攻撃を防いでいるのだろう。
しかし、南イルバースは酷い有様だった。
街を囲う壁までもが破壊され、外から魔物が侵入し、多くの人々が血を流し、侵入してきた魔物までもが無惨な肉塊へと変わり果ててしまっている。
「貴様、ザルドが死んだらどうするつもりだ!?」
「さぁ、まさか坊ちゃんがあんな野蛮な場所に行かれるなど思いもしませんでしたので」
「.....ッ!」
「何なら、私めが次期当主となり、このイルバースを収めてもよろしいのですぞ、坊ちゃんや貴方の代わりにね」
「貴様、初めからそれが目的で!」
ジネットは血走った目でダルダスを睨みつけ、襟首を掴んで壁に叩きつける。
「ぐ、ふふふ、ジネット様。元々私は貴方の政策には反対なのですよ、何故南北の壁を今更撤去する必要がありますでしょうか?我々と彼らは決して馴れ合うことなどできるはずもない」
「そんなことはない、我々は同じ種族、人間だ。北も南も関係ない、元より昔はそんな壁はなかった。誰も彼もが同じ場所で生活し、食事をし、生活してきた。デジオン殿がやってくるまではな!」
「デジオン様が来なければイルバースはここまで発展を遂げることはなかった!この街が今の形があるのはデジオン様の慈悲とゲレネの教えがあったからだァ!!」
ボスッ、とダルダスの蹴りがジネットの横腹に直撃する。
ジネットは一瞬力を抜いてしまいたいほどの痛みに襲われるが、決して手の力は緩めなかった。
ダルダスはそれでも蹴り続けた、足を上げて締められた首を解放するために、自分自身が生き残るために。
(わ、私は、こんなところで終わるわけにはいかない!)
もし、ダルダスがこの場から逃げることに成功してもジネットがいる限り指名手配にでも何にでもされてしまい世界から逃げ場はなくなってしまう。
かといって、このまま首を絞め続けられては死んでしまう。
そうなってしまえば身の危険を冒してでも、このような事態に招いたことすらも水の泡となってしまう。
「ォ、おお!」
「が、ッ!」
ダルダスは危険だとわかっていて、ジネットの腕を両手で力強く握りしめた。
一瞬、首を絞める力が強くなったが、それと引き換えにジネットの手から力が抜けダルダスは脱出することに成功する。
そして、懐に仕舞っておいた拳銃を取り出してジネットに向けた。
「終わりだ、ジネット・イルバース!」
ジネットが何かを言う前に、ジネットが次の動作に移る前に、ダルダスの手に持つ拳銃の引き金は引かれた。
パァァン!という銃声が屋敷の中に響き渡った。
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