数分後、ライムの魔法により傷を回復させたクロフは今も意識を失っているジンを背負い、イリアのことを聞き(しかし、彼は何故かイリアが敵に殺されたと解釈している)次にパックを探すと言いながら先に外へ向かってしまった。
「.....気が早すぎだろ、ていうかさっきから破壊音が聞こえるのは壁を壊して進んでんのか?」
「見た目通りだな、クロフさん」
ライムとハルクがクロフが向かった先を見つめながら呟いていた。
ハルクは既に三本目になる煙草を吸いながら天井を見上げる。
(レッドが戻ってきて、何もなきゃミスティちゃんが穴開けてくれるって言ってたけど、あいつの魔法って結構物理的だよな)
「ハルクさん、俺らはどうすれば」
実力者揃いのこの場所で完全にアウェーになってしまっているゾブとケイジは居心地がとても悪そうだ。
イムはミスティの協力により、自由になった両手を動かしながら、歓喜の表情で今にも大声で叫びそうな様子だった。
「そうだな、とりあえず俺らと一緒の方が安全じゃね?こっから上に行けるかもしれないし、下手に動かない方がいい」
「で、ですよね」
「ヨルダンさんもリリーさんもサイガの奴も無事だといいですけど」
「あいつらが簡単にやられるかよ、心配すんな」
ハルクがニッと口角を僅かに吊り上げる。
その表情と背中にはどこか頼り甲斐のある雰囲気が溢れ出ているようにも思えた。
「.....こいつは」
「どうしたの、ライムさん?」
「いや、少し気になることがあってな」
(ハルクとクロフさんの話によれば、ミスティが破壊した甲冑達がゲルマックって奴で、そいつはもうとっくに死んでて。でも、血痕どころか肉体がないのはどういうことだ?)
本来、死者を蘇らすということは禁忌であり、触れてはいけない領域なので前科が少なく参考にはならないが、死体を使うことが一般的である。
肉体から離れた魂を元の肉体に戻して再起動させることで死者の蘇生が成立する。
しかし、その秘術を記した書物は二年前の惨劇時に灰になってしまったはずである。
(既に持ち出されていたのか?それとも、俺の知らない何らかの方法で?)
「ライム!」
「レッド、どうだった?」
バサバサ、とレッドが上から下にゆっくりと降下して、ライムの肩にちょこんと乗っかる。
「魔法による細工があったのは外からでこっちからは何の問題はなかった。それに、さっき壁を壊したみたいに力押しなら簡単に潰れる」
「だってさ、ミスティ」
「任せな、さい!」
ヒュン、とミスティが軽く杖を天井に向けて振るうと床の鉄がぐにゃり、と巨大な鋼鉄のオブジェに姿を変えゴォォォ、と天井に向かって突き上がっていった。
天井は呆気なく吹っ飛ばされ、屋根までを突き破りオレンジ色の空色がライム達の元を差した。
ミスティは更に杖をオブジェに向けて、ぐにゃりと鋼鉄の形を階段へ変形させた。
「じゃあ、行きましょうか」
「便利すぎるだろ、その魔法」
「代償は大きいけどね」
ミスティを先頭にしてライム達は階段を駆け上がる。
地下から破壊音が聞こえなくなったことからクロフはもう既に脱出してしまったのだろう。
「ハルク、さっきの甲冑の奴らがゲルマックって奴なのか?」
「あぁ、そうだ。まさか複数とは思わなかったけどな」
ハルクが新しい煙草を取り出しながらライムの問いに応える。
「それがどうかしたのか?」
「いや、あれは本当に死人が生き返って動いていたのか疑問に思ってな」
「蘇生の魔法は存在するんだろ?」
「なら、誰が使ったんだ?」
ライムの受け答えにハルクはハッとした。
そう、仮にゲルマックが生き返ったとするならばゴルドス率いるランダリーファミリーに治療魔術師、もしくは治療魔法に関する知識を持つ人物が存在することとなる。
(もし、そうだとしたら、ゴルドスって奴に詳しく話を聞くことになる!)
ならば、そうでない場合は?ライムは外に続く鋼鉄の階段を駆け上がりながら考えた。
死人を蘇生させる、治療魔法ですら秘術や禁術の類に位置する力と同等の効果を得ることが可能なのか?
それ以前にゲルマックと呼ばれる存在が複数体いたことも気がかりである。
「そろそろ地上よ、敵は待ち構えてないでしょうけど一応警戒しといた方がいいわよ」
先頭を走るミスティが至って真面目に忠告する。
手に握る杖を力強く持ち直し、真剣な表情で一気に駆け上がる。
ライム達もミスティの普段との雰囲気のギャップを感じ取り、ゴクリと固唾を飲んだ。
しかし、上には特に何もなかった。
「ま、念のためってだけだったしね」
「俺らは先にリリーさんとサイガを探しに行ってきます、やっぱ心配ですわ」
「おう、頼んだ」
「ライム、魔力はまだ残ってるか?」
「あぁ、皆を回復させるだけの魔力は残ってるぜ、どうせ怪我してるんだろうからな」
ゾブとケイジは二人一組になり、倉庫の外へと走り始める。
ミスティは階段の鉄を操作して、床の穴を塞ぐ。
もし、仮にゲルマック達が再生して上がってくるのを防ぐためである。
「若はどうするよ?」
「父さんを探す、それで昼のことを謝りたいんだ」
「.....了解しました、ライム、ミスティちゃん、レッド、俺と若も先におやっさんを探しに行ってくるぜ」
「それなら、俺たちも」
「ライム君、私たちは負傷者の手当てをして回りましょう」
「あぁ、いくら治療魔法があっても傷が古くなれば治る効力が弱まっちまうからな」
そう、治療魔法の短所の一つとして挙げられるのが、古傷の治療が難しいことである。
例えば、何十年も前に目を外部から傷つけられ失明してしまった場合は治すことはできない。
本来再生する細胞が独自に再生を始めてしまっているので、外部から力を加えても効力はないのだ。
傷が新しければ効果は大きいが、古ければ古いほど効果は薄れてしまう。
「あまり考えたくないが、ヨルダン達が怪我をしていることも考慮して俺たちは皆を探して治療に回った方がいい」
「主に俺がな」
「ていうかライム君しかできないし」
「お前だけが頼りだ」
ミスティとレッドの後押しもあり、ライムは頷く。
「ハルク、イム、もしもの時はアジトを集合場所にしよう。そこなら落ち着いて治療も出来るし、もしもの時に備えられる」
「わかった」
ハルクは煙草を更にもう一本増やし、咥えて吸い始める。
「.....ハルク兄、禁煙とかは」
「絶対にするつもりはない」
「だよね」
ヘビースモーカー、ハルクとイムはゾブとケイジが向かった反対方向に走り始めた。
「俺たちも行こう、俺は空から探す」
「わかった」
「行きましょう」
ライム達も倉庫を後に走り始めた。
※
その頃、南イルバースの入り口付近。
「.....ここを訪れるのも久々だな」
全身に黒いローブを纏わせ、無精髭を生やした声の低い男が先日ランダリーファミリーによって焼かれた一軒の店を一瞥していた。
男はフッと笑みを浮かべて人の少なくなった道のど真ん中を堂々と闊歩していった。
※
その頃、ヨルダンが体を休めている場所にクロフが正に文字通り飛んでやって来ていた。
「.....どっから来るんだよ、ビビらせやがって」
ヨルダンは突然のクロフの登場に驚きながらも口元を僅かに引き上げる。
「パック!」
「あー、大丈夫だ、気ぃ失ってるだけだから」
「.....そうか、それにしても倒れてる者達が多いな」
「一人は敵だった奴だしな」
パック、サイガ、マグラターゼ、リリーとその隣にクロフの背負って来たジンが加わり全員が目を覚ます気配はなかった。
「俺はさっさと頭の所へ向かいたかったんだが、こいつらを置いて行くわけにも行かなかったからな、若の救出にも行かなきゃならねぇってのに」
「安心しろ、イム君ならもう既に俺たちと共に行動している」
「何!?」
「話せば長くなるがな」
クロフは旧大倉庫であった出来事を簡潔にまとめてヨルダンに説明した。
クロフ自身も話の大半はライムとミスティに聞いたものなので全てが全て正確な情報ではないが、ヨルダンは納得した。
「そうか、ということは今は頭の行方だけがわからないんだな?」
「あぁ、ゴルドスと一騎打ちのような形でどこかに行ってしまったからな」
「ま、頭なら負けそうにないけどな」
ヨルダンはドカッと近くの瓦礫に腰を下ろす。
「そいつは、どうか、な?」
「あン?」
ヨルダンとクロフの話に割って入ってきた声のする方向へとヨルダンは顔を向ける。
クロフも遅れながらヨルダンの視線を追いかける。
「.....!」
「よぉ、ヨルダン。久しぶりだなァ!ウチのコグレが世話になったようで」
「ゴル、ドスさ、ん?」
そこには左腕のないゴルドスが掠れた声で血を流しながら壁にもたれながらニヤリと笑みを浮かべていた。
「ロブの野郎なら、俺が潰した、ぜ!俺が、俺が勝ったんだ!」
ヒヒヒヒ、と不気味な笑い声を上げながらゴルドスは片腕で腹を抱えていた。
ゴルドスはヨルダン達の後ろで寝転ぶ面々に目を向ける。
「マグラターゼもやられちまったか、リリーもダウンでバーカイフはテメェ以外は全滅か、クロフ」
「.....ッ」
「カ、ハハハ、つまりあれだ、俺がお前ら二人を潰せばそっちで戦えんのはハルク一人ってことだよな、えぇ?」
ぐにゃり、とゴルドスは表情を歪ませて殺意を表に、狂犬の如く殺気を放った。
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