メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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49.狂犬

ゴルドス・アム、イルバースの英雄として讃えられているゲルマックの弟子の一人。

戦闘をする際、放つ殺気と攻撃性のある気性の荒い性格から狂犬と呼ばれていた時代もある。

 

かつてランダリーファミリーの幹部として名を馳せていたが、八年前に破門になり新たな組織を作り上げる。

 

魔法や目立った特殊能力を使うことはできないが、驚異的な身体能力でヨルダンの雷迅にも引けを取らない速度で駆けることも鋼を素手で砕く腕力も持ち合わせている。

 

「カハハハ、ハハハ!」

 

ポタポタポタ、と左腕の付け根の部分から大量の血を流し、身体には大きな切り傷を付けたゴルドスがヨルダンとクロフの前に現れる。

 

予想しなかった人物の登場に二人は即座に身構える。

 

「クロフ・バーカイフ、全く使えねぇな。わざわざこの街に招いてやったのにランダリーファミリーの連中を誰一人として消すことができないなんてよォ!」

 

「どういう意味だ?俺たちはブロスさんからの依頼で」

 

「あの依頼はイリアに指示をして出したもんだ、テメェらが依頼を承諾したタイミングに合わせるように俺たちも準備を整えた。それが今日だ、俺がランダリーファミリーを潰してゲルさんの仇を取る!イルバースをゼロにする!!」

 

ゴルドスがヨロヨロとバランスを整えながら笑い狂う。

瞬間、先ほどまで沈黙と待機を保っていたヨルダンが全身に魔力を纏わせ、雷迅による速度上昇でゴルドスに急接近し、一発パンチを放つ。

しかし、ヨルダンが渾身の力を込めた拳はゴルドスにいとも簡単に上げられた右膝により防がれてしまう。

 

「ヨルダンか!」

 

「残念ですけど、俺には関係のない話ですわ。だが、あんたが本当に頭を潰したんなら戦う理由は十分だ、あんたはもう家族じゃねぇんだからなッ!!」

 

「へ、生意気言いやがって」

 

ズム、とヨルダンが更に追撃を仕掛けるように右脚による蹴りでゴルドスの脇腹に攻撃を加える。

しかし、ゴルドスは片腕がなくバランスを取りにくい態勢であるにも関わらず、地面に張った根のように足を大地にしっかりと踏みつけて微動だにしなかった。

 

「だ、ラァ!!」

 

「ガッ.....!!?」

 

その隙を突いてゴルドスはヨルダンの頭に頭突きを喰らわせる。

 

「おいおい、その程度かよ!現ランダリーファミリー最強の幹部様の実力ってのはよ、コグレとの戦闘で体力使い切っちまったか、あァ!!?」

 

膝を付いたヨルダンの頭を蹴り飛ばし、そのまま壁ごと粉砕するような蹴りを放って追い討ちを仕掛ける。

 

「ヨルダン!お、おォ!」

 

「クロフ、お前に関しては期待はずれだ。あそこを無事脱出できたみてぇだが、弱ェ!!」

 

「ご、ァ.....!」

 

槍の如く、鋭さと速度を兼ね備えたゴルドスの右ストレートはクロフの腹を貫き臓器にまで到達する。

骨が折れる、そんなレベルをも越えてクロフの腹部に強烈な激痛が走る。

 

「が、ぁ、ッぁ」

 

「籠手を使うまでもねェ」

 

ズポッ、とゴルドスは自身の腕を抜き取ると同時にクロフは意識を失い、白目を剥いて前に倒れる。

 

「ツマラねぇなァ、ランダリーファミリー」

 

ペロリと腕に付着した血を舐めながら、ゴルドスは立ち上がるヨルダンと既に倒れてしまったクロフを見ながら溜息を吐く。

 

「なァ、ヨルダン!!ロブといい、お前らは一体いつからこんなに腑抜けちまったんだ!?俺の知るランダリーファミリーはこんなんじゃねぇ、ハルキとジョルノがいた頃は街の連中からも畏れられて、最強の存在だったはずだぞ!」

 

ゴルドスは鋼をも砕く右拳を握りしめて、態勢を整えるヨルダンの頬を殴りつける。

 

「.....ッ、ァ!」

 

「八年前、俺がランダリーファミリーを抜けるキッカケを作ったのはお前だ、ヨルダン!お前がリリーなんて亜人を拾ってきさえしなけりゃ、俺はまだそっちにいられたんだ、あんな暮らしをせずに済んだんだ!!」

 

ミシミシミシ、ボキィ、とゴルドスの蹴りがヨルダンの上半身にめり込み、骨が軋んだような音が鳴り出す。

ゴルドスの追撃は止まることを知らなかった。

 

次の瞬間、ヨルダンはゴルドスの脚を掴んで投げ飛ばした。

 

「あんたの、考えも、行動も、言っていることも、真っ向から否定できるわけじゃない。たしかに、俺があの日リリーと出会わなかったら、あんたはまだこっちにいたかもしれない」

 

だけどな、とヨルダンは青い痣の出来た左肩を抑えながら言い放つ。

 

「起こっちまったことは仕方ねぇんだ、もう過ぎちまった過去を、過ちを、失敗を修正できるほど世の中甘くできてるわけじゃない!だから、俺たちは今を必死に生きてんだろ!」

 

「.....くだらねぇ」

 

ヨルダンの言葉を無視して、ゴルドスはヨルダンに急接近し、下段からのアッパーカットを放つ。

 

「くだらねぇくだらねぇくだらねぇくだらねぇくだらねぇくだらねぇんだよ!ガキの戯言か、あァん!?そんなこと言って説得が成功する世界だと思ったか!!勝負に会話は不要だ、力こそが全て!!」

 

ゴルドスは更にヨルダンの頬を殴りつけて吹き飛ばす。

 

「違う意見は力でねじ伏せる!!今を必死に生きるだと?何を当たり前のこと言ってやがる小僧ォ!!」

 

ゴォッ、と凶器にも近いゴルドスの蹴りがヨルダンの顔面に迫る。

しかし、蹴りはヨルダンに直撃することなく何者かの乱入により防がれる。

 

「ハルク!」

 

「よぉ、ゴルドスさん。さっきぶりだな!」

 

双剣を持ったハルクがゴルドスの蹴りを防ぎ、弾き飛ばす。

ハルクは咥えていた煙草を咥え直してヨルダンの方に向き直る。

 

「無事か、ヨルダン」

 

「かは、ケホケホ、ゴホッ!」

 

「だろうな、だが若は救出した。後はゆっくり休んでな」

 

チャキ、とハルクは武器を大剣に持ち直してゴルドスに刃を向ける。

ゴルドスはぺっと血反吐を吐いてゆっくりと立ち上がる。

 

「カハハ、ヨルダンの次はお前か、ハルク。お前との喧嘩は八年ぶりだな」

 

「懐かしいッスね、けど勘違いしないでもらいたい」

 

「あン?」

 

ハルクはニヤリと小さく笑みを浮かべて、ドヤ顔で告げる。

 

「あんたの相手は俺一人じゃないってことですよ、片腕ないみたいですけどハンデとかナシでお願いします」

 

ぐにゃり、とゴルドスの足元が僅かに歪んだのはその直後だった。

 

「ッ!!」

 

ゴルドスはバックステップで後方へと移動する。

先ほどまでゴルドスの立っていた場所には紫髪の女性が立っていた。

 

「残念、気づかれちゃったわね」

 

「ま、今ので決着が着くなんて甘いことは考えない方がいいだろ」

 

ミスティ・オーランド、鋼の杖を持った魔術師が凛として立っていた。

 

「若、ヨルダンを頼みます!」

 

「う、うん!」

 

イムはヨルダンを背負って移動を始めた。

 

「さて、俺らも行くか。ミスティちゃん」

 

「そうね、まさか共闘するなんて思いもしなかったわ」

 

「それはこっちのセリフだ、足引っぱんなよ!」

 

百の武器を操る男と鋼鉄の魔女がそれぞれの得物をゴルドスへと向けた。

 

「.....クハ」

 

一方、ゴルドスは額に青筋を浮かべて怪しげな笑みを浮かべていた。

 

 

 

数分前、レッドが上空から捜索を開始すると同時にミスティが立ち止まり、ハルク達の向かった方向に目を向けていた。

 

「ミスティ?」

 

「ライム君、あっちの方に凄い殺気感じない?」

 

「そういえば」

 

殺気、どこから放たれているかはわからないがとんでもなく凄まじい圧力がピリピリと空気を伝ってくる。

戦闘慣れしていないライムでもヤバイと直感で感じることのできるほどだった。

 

「ごめん、私ハルク君達が心配になってきたから追いかける。また後で合流しましょう!」

 

「ミ、ミスティ!」

 

ミスティがライムの返事を聞く前にハルク達を追いかけ始めた。

取り残されてしまったライムは突っ立っているわけにもいかないので反対方向に向かったゾブとケイジを追いかけた。

 

(さっきの殺気、多分敵将のゴルドスって奴だ。どこかロブさんと似た雰囲気も感じれた)

 

だが、ロブの殺気とは違い荊の棘のようにチクチクと突き刺さる感覚だった。

下手すれば殺気だけでも人を殺すことができそうな気迫であった。

 

ライムはレッドに合図を送り、ミスティが離れたことを伝える。

状況が飲み込めずにミスティの方に行ってしまってはライムが困ってしまうからである。

 

レッドは先行してゾブ達の後を空から追尾し、ライムの道標となり先へと進む。

太陽はゆっくり沈み、空は夕闇に染まり始めていた。

旧大倉庫周辺は元々立ち入り禁止区域に指定されているせいか、人が住んでいる住居も少ないため、灯りもほとんどない。

それでも星の光と僅かな灯りを頼りにライムはレッドを追いかけた。

 

「ゾブ!ケイジ!」

 

やっとのことで二人に追いついたライムは手を振りながら声をかける。

 

「ライムさん?」

 

「どうしてここに、ていうかハルクさん達は?」

 

「ハルク達とは別行動だ、でもミスティが一緒だから何の心配もない」

 

そして、三人で再び移動を始める。

 

「そういや、何か行くあてがあって進んでるのか?」

 

「いいえ、勘です」

 

「勘!?」

 

「ケイジの勘は実際頼りになりますよ。この前だってこいつに付いて行ったら10u拾ったり、探してた物見つけれたり、有名人と会話できたり、事故に巻き込まれずに済んだんですから!」

 

「お、おう」

 

怒涛の勢いで話すゾブに若干引き気味になりながら、二人の前で先行しているケイジを見つめる。

 

「ライムさん、そいつの言ってることは半分くらい、いや、九割が大袈裟なんで気にしないでください」

 

「持ち上げすぎだろ!」

 

当の本人であるゾブはこんな状況であるに関わらず、なはははは、と笑い始めていた。

少し進み、角を右折したところで上空からレッドがライムの目の前に急降下してきた。

 

「ライム!急げ、怪我人を見つけた!」

 

「.....それ敵じゃないよな?」

 

「そんな間違いするか!ロブが倒れてたんだよ!」

 

「え、ロブさんが!?」

 

「頭領が!?それどこだ!?」

 

「案内するから黙って付いて来い!」

 

ビュ、とレッドが先頭になり、ライム達でも姿を正確に捉えられる位置で低空飛行を始める。

 

「まさか、ロブさんが負けたのか?」

 

「そんなわけ、いや、でも」

 

「とにかく急ぎましょう、実際に見てみないと何とも言えないッスから!」

 

狼狽えるライムとゾブに対してケイジが一喝し、レッドに続く。

 

「クソ、一体地下にいる間に何があったってんだ!?」

 

ギリ、とライムは歯に力を込めてレッドを追いかけ続けた。

 




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