メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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62.魔に生きる者

 

「ん?」

 

「ど、どうしたの?」

 

「いや、何か一瞬だけど凄い量の魔力を感じたんだけど...」

 

その頃、灯台を後にして家に戻ろうとしているハルクと行く宛がないためひたすらハルクの後ろをトコトコと付いてくるシャリーはその場で立ち止まった。

ハルクは魔法や魔術の才はなかったが、源である魔力くらいは感じることはできる。

感じたのは町の方角、丁度ティロスの屋敷からだった。

 

(ティロスさんの身に何かあったのか、それとも偶然?どちらにしろシャリーちゃんを不安にさせるわけにはいかないな)

 

後ろをおどおどしながらも必死に付いてきているシャリーの既に不安そうな表情を見てハルクは表情を曇らせる。

いや、これが彼女のデフォなのはわかっているのだが何処か釈然としなかった。

 

「ハ、ハルクさん」

 

「おぅ、大丈夫だ。だからそんな距離を取ることないぞ」

 

いつの間にやらシャリーはハルクから数メートル離れた木の陰に隠れてしまっていた。

逃げ足だけなら彼女に勝る者はいないと言えるほどの見事な速度である。

ハルクは苦笑いを浮かべながら、ズボンのポケットから煙草を取り出し火をつけて口に咥える。

 

ふと、前方を見ると何かが倒れていた。

それは人の形をしており、女性で、どこかで、というより明らかにハルクの知る人物だったりした。

ポリポリと頭を掻きながら小さく溜息を吐き、その人物に近づき声をかけた。

 

「.....何してんだ、ミスティちゃん」

 

「.....ハルク君を探してたら道に迷って、そこから突然発生したすごい魔力にびっくりして転んで立ち上がろうとしたらそこで体力が限界を迎えた」

 

「ハァ。ライムとレッドは一緒じゃないのかよ?」

 

「ライム君達なら、町長の所に行った。ていうか私はさっきから一体誰と話してるの?」

 

ミスティは体をピクピクさせながらゆっくりと起き上がる。

そして、煙草を吸うハルクの姿を見つけるとパァッ!とキラキラした何かを漂わせ、笑顔を浮かべる。

 

「や、やっと見つけた!」

 

「.....とりあえず突っ込みたいことは色々あるが、姉貴に心配かけるのも悪いから早く戻るぞ」

 

 

 

血飛沫が飛び散ることはなかった。

あまりにも一瞬にしてティロスの頭は破片が飛び散ることなく、文字通りに消滅した。

首から上はどくどくと血が床に流れ、彼の命の終わりを迎えたことを告げていた。

シャチは両手から放たれている赤黒いオーラのようなものをフッと瞬時に消し去る。

 

ライムは即座に駆け寄り、無駄だとわかっていても治療魔法を使おうと手をかざそうとするが、カラスがライムの目の前にまで移動してきて行方を遮る。

ニヤリ、とニヒルな笑みを浮かべてカラスはライムの耳元で囁く。

 

「悪ぃ〜な。相棒がせっかちなもんで情報得る前にティロスが死んじまった、とりあえず何するか知らんねぇがティロスに近づいて余計なことすんなよ、ん?」

 

「.....ッ!?」

 

おちゃらけた雰囲気から放たれた殺気は本物で思わずライムは身を後方に引いて初期位置と近い位置にまで戻る。

 

「へへへ、素直なガキは嫌いじゃねぇ」

 

「サル。この後どうするんだ?」

 

「おいおい、まさかノープランでティロスの野郎殺したのかお前!?ていうか何で俺に丸投げしちゃってんだよ、あと、俺はカラスだ!!」

 

「考えてもなかったな。まさか私が奴をこの手で殺してしまうとは...!」

 

「全く!せっかちすぎんだろ!」

 

カラスはやれやれといった様子でポリポリと頭を掻く。

その様子から焦りは感じられず、むしろ二人にはどこか余裕があるように思える。

 

「.....レッド、お前あの扉が開いてるとしたらここから脱出してミスティ達を呼びに行くことはできるか?」

 

「開いていたらな。だが、開けるにはお前が動かないといけないんだぞ」

 

「なら一瞬でも、あいつらの気を逸らすことは?」

 

ライムとレッドは口論している二人に目を向けてごくりと固唾を呑む。

レッドは目を細めて呟く。

 

「無理だな。一人ならまだしも二人はいくらなんでも厳しすぎる。だが、戦って勝てる相手でもない」

 

「あぁ。せめて扉さえ開いてくれていたら−−−」

 

バァン!とライムが言葉を繋げようとしたところで執務室の扉は思いっきり開かれた。

カラスとシャチも口論を止めて扉の方に注目する。

開かれた扉からは侍女であるエイラが両手に拳銃を持って戦闘態勢で現れた。

 

「先程感じた魔力は一体何だ−−−ッ!」

 

「あらら、こりゃめんどくせぇ」

 

「やはり感づかれたか」

 

「なら少しは抑えろよ!?」

 

エイラはカラスとシャチの背後で倒れているティロスの死体を見て瞬時に状況を読み取った。

 

「ティロス様!?き、貴様らァ!!」

 

ドドン!と二発の銃弾がカラスとシャチに向けて放たれる。

 

しかし、銃弾は二人に直撃することなくカラスの背骨の中心辺りから生えた赤黒い触手のようなものが代わりに受けていた。

触手は尻尾のようにウネウネと赤黒いオーラを僅かに放ちながら動いていた。

銃弾は触手に埋め込まれるように速度を失ってしまっている。

 

「なっ、そ、それは!?」

 

「ったく、痛ぇな。一応感覚はあるから痛いのは痛いんだよ」

 

ビッ、と触手は横薙ぎに払われ銃弾はそのまま返されエイラの両頬を掠めた。

クスリ、とシャチはマスク越しにわざとらしい笑い声を小さく上げる。

 

「な、何だあれは!?」

 

ライムは驚き、言葉を失ってしまっていた。

エイラは恐怖のあまり足をガクガクと震わせ、硬直してしまっていた。

ただ銃弾を受け止められ弾き飛ばされたことに対する恐怖ではない。

カラスとシャチから放たれる異様な魔力とプレッシャー、人をゴミとして見てきたような冷ややかな視線。

 

そして、何より二人の正体を知ってしまったことが大きい。

 

「ぁ.....そ....そ、んな」

 

「全く。人間ごときが我々魔族に銃を撃つとは」

 

「愚かなり。何年経っても愚かな種族だ、実力の差もわからねぇ十年ちょっと生きただけのヒヨッコちゃんがよォ」

 

「魔、族!」

 

魔族。

その言葉はライムでも聞き覚えがあった。

魔術の祖とされており、人間を遥かに上回る魔力と長寿の種族である。

しかし、その数は数年前から減少しており、人間達に迫害され住処を失った者もいる。

亜人達からも差別の対象とされており、世界から敵にされている最悪の種族としても知られている。

 

シャチはエイラの首を掴み、ゆっくりと持ち上げる。

 

「ティロスは死んでしまったから貴様に聞こう。ルナ・シノハラはどこだ?」

 

「あ、がっ....ぁ!」

 

グググ、と徐々に力も増していき彼女は死への恐怖のあまり失禁してしまう。

その様子を見てカラスはヘラヘラとふざけた様子でシャチに声をかける。

 

「おいおい、シャチ。お前そんなことしたら話せるわけねぇだろ。喉潰す勢いで絞めてどーすんだよ?相変わらずお前は尋問下手だな」

 

「.....うるさいな」

 

シャチはそのまま頬を赤らめ、エイラを床に投げ捨てる。

エイラはライムのいた方向に転がっていったが、ここでカラスはライムがいないことに気がつく。

 

「シャチ、お前はここにいろ。俺はさっきのガキを探してくる」

 

「私が行った方が早くないか?」

 

「お前なぁ、それでもいいが情報ちゃんと聞き出せる自信あんのか?」

 

「.....ない」

 

「なら決まりだ。すぐに戻る」

 

ダッ、とカラスは執務室を飛び出して廊下に出る。

元々ティロスは寛容的かつ社交的な性格だったため屋敷内には客人は多く招いたが、使用人やボディーガードなどは町民と疎遠になってしまうという様子で多くは雇ってはいない。

なので今は客人もいないため、屋敷内はもぬけの殻状態である。

一部を除いては。

 

「おい!お前!」

 

「エイラから緊急信号が鳴ったんだ!お前が犯人か!」

 

屋敷の門番であるダイチとオオシオの二人がカラスの前に立ち塞がった。

カラスは怯む様子も止まる様子もなく、ボコボコボコと背骨から一本の赤黒い触手を取り出す。

 

そして、そのまま一瞬のうちにしてダイチとオオシオの腹部を貫いた。

 

「がっ...!?」

 

「はぁ...!?」

 

「悪いねぇ、あんたらにも情報提供してもらいたいけど今はそれどころじゃないんだわ」

 

ズボ、と二人から鋭く先端が尖った触手を引き抜き屋敷の出口を目指した。




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