ある戦場の記憶   作:抹茶とコーヒー

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これは、ある戦場より数十年前の話

注意:内容が少しハードかもしれません。


個別記録その壱 凶鳥の戦場

 いつも、なんとなくからだ。

 大きな変化ほど気がつきにくいことから始まる。

 

 家にいるといつも父から殴られた。母が食べさせようとする物からは危険な匂いがした。

 ボクが邪魔なんだろう。ボクで憂さ晴らししたいのだろう。どうせ、ボクはその程度の存在価値しかないと思われているのだから。

 

 学校では一人だった。けどそれで満足だった。

 ただ人を見るのが好きだった。努力してる奴、そんな奴を馬鹿にする奴らもいたけど、それでも一点に集中しているその姿が綺麗な石みたいに輝いて見えた、羨ましかった。

 

 そんな奴がボクに時々話しかけてくる。

 彼らの語る夢は聞いてて楽しかった。

 

 「僕は将来最強のACに乗るんだ!」

 

 「私は将来企業で働くのが夢なの!」

 

 「すごいね!ボクにはよくわからないけれど、皆んなの夢、きっと叶うよ!」

 

 毎回そう言って褒めていた。だが決して嘘じゃない、全て本心からだ。

 

「ねぇ!あなたの夢は何?」

 

 そう聞かれると、笑顔で毎回こう言った。

 

「邪魔な物で最高の作品を作ること!」

 

 夢をいつか現実にしたかった。

 

 だから色々知識を得てから行動に移すことにした。

 

 まずは親が邪魔だった。

 

 だから作品にしてみた、母には毒で父は暴力で。

 

 清々しい、晴れ晴れとした気持ちだった。こんな美しい作品は今までもこれからも、二度とないだろう。

 

 こうして、ボクの夢は実現した。

 だが、まだ足りない。

 

 次に周りの気に入らない奴らが邪魔だった。

 

 夢を笑う奴、努力を無駄だと言い切る奴。全て邪魔だった。

 だから作品にした。

 

 そうやって邪魔な奴らを作品にしていった。いつもボクは完成する作品を壁にドライバーなど、鋭利な物で突き刺して固定した。だって作品は壁に描くべきだと思ったから。

 

 邪魔な奴らを作品にしていったら、困ったことになった。

 

 もう邪魔な奴らがいなくなってた。

 これじゃあ作品はもう作れない。

 

 そんな時だった。

 

 AC(あれ)を見たのは。

 

 大きな人の形、圧倒的な存在感。

 

 自分が作ってきた作品を今度はあんなので作れたら楽しそうだと思った。

 

 ACに乗ることは簡単にできた。

 

 金を稼ぐためには無駄な作品作りも必要だったけど、すんなり金は手に入った。

 そうして買って作ったボクの別の作品。

 

 黒い色、青いモノアイ、妙に美しく見える逆関節。

 圧感の一言だった。

 

 この作品で新しい作品を作る。こんなに楽しみなことはない。

 

「君はボクの初めての親友でパートナーだよ!君の名前は?」

 

 返事を期待したが、返事は返ってこない。

 

「そっかぁ、君は名前を付けて欲しいんだね!」

 

 ACは名前を欲している。そう思った。

 

 しばらく考えてから、口を開く。

 

「君はボクのキャンバスだ!だから、『ブラックキャンバス』!」

 

 とてもしっくりくる。この機体で、何もかもを作品にしたい。

 

 傭兵になれば、これに乗って作品を作り放題だ。

 

 傭兵という仕事は、都合が良かった。

 邪魔なものを壊しても、作品にしても、誰も咎めない。むしろ時に感謝され、金まで支払われる。

 

 依頼内容は単純だ。

 占拠された施設、反抗的な部隊、処理しきれない問題。

 どれも「作品にすべき雑多の塊」に見えた。

 

 戦場に出るたび、ボクはブラックキャンバスに問いかける。

 今日はどんな作品になるだろう、と。

 

 敵が抵抗すればするほど、作品の美しさは引き締まる。

 逃げる者は声が歪み、しがみつく者はより愚かに見える。

 だから最後まで作り上げる必要があった。

 

 名前を知る必要も、声に耳を傾ける必要もない。

 完成した瞬間、それらはすべて意味を失う。

 

 噂が流れ始めた。

 黒いACが戦場を歩いた後は、悲惨しか残らない。

 狂気の傭兵、早贄を楽しむ凶鳥(シュライク)と。

 その言葉は、悪くなかった。

 

 けれど――

 いつしか、完成しても満たされない瞬間が増えていった。

 

 どれも脆く、どれも同じだ。

 壊れる前から、何かが既に壊れている。

 

 もっと綺麗な素材が欲しい。

 もっと、描き切れない程の素材が。

 

 だから今日も、ボクはボクの戦場に立つ。

 いつか、本当に壊し甲斐のある「作品」に出会うために。

 




黒いACを駆る、あの傭兵…シュライクと言ったか。その者の過去のようだ。

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