ある戦場の記憶   作:抹茶とコーヒー

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良いお年を


個別記録♯X 凶鳥の見た世界

 目を覚ます。

 それは朝日が差し込んだからではなく、そう決めていた時刻になったからだ。

 

 呼吸は安定している。

 指は震えていない。

 夢も見なかった。

 

 水を飲み、最低限の栄養を摂る。味に意味はない。身体が動くかどうか、なんとなく確認した。

 鏡に映る自分を一瞬だけ確認し、問題がないと判断して視線を外す。

 

 今日は戦場ではない。

 だからボクは外に出る。

 

 街は静かだった。

 年の終わりが近いからだろう、人の流れはどこか緩慢で、急ぐ足音も少ない。

 

 高い建物の影が伸び、空はよく澄んでいた。

 

 ボクは特に目的地を定めず歩く。

 美しいものを見るためだ。

 

 崩れていない壁。

 規則正しく並ぶ窓。

 風に揺れないアンテナ。

 

 壊れていないものは、完成している。

 完成しているものは、眺める価値がある。

 

 そうしているうちに、空の色が少しずつ変わっていく。

 いつの間にか夕方だった。

 

 帰路につく人々とすれ違う。

 その中に、子供たちの集団があった。

 下校中だろうか。笑い声が弾み、どこかうるさい。

 

 その瞬間だった。

 一人の少年がつまずき、前につんのめるように転んだ。

 

 ボクは反射的に足を止める。

 

 泣くかと思ったが、少年はすぐに立ち上がろうとして、また膝を打った。唇を噛み、必死に声を殺している。

 

 ――ああ。

 

 その姿に、妙な既視感を覚えた。

 

 ボクは近づき、しゃがみ込む。

 

「…君、大丈夫?」

 

 少年は驚いたようにこちらを見る。

 目が合う。怖がっているが、逃げない。

 

「……うん」

 

 無理をしている返事だった。

 

「血は出てないね。泣かないなんて、強いなぁ…」

 

 そう言うと、少年は少しだけ目を丸くした。

 

「……ほんと?」

 

「ほんとさ。君は今ので壊れなかったんだから」

 

 少年は意味を測りかねているようだったが、やがて友達に呼ばれ、立ち上がる。

 膝を払って、こちらに一度だけ頭を下げた。

 

「…ありがとう!」

 

 ボクは手を振らない。

 ただ見送る。

 

 少年たちは夕暮れの中に溶けていった。

 

 ――壊す理由が、なかっただけだ。

 

 それだけなのに、胸の奥が少しだけ温かくなる気がした。

 

 帰宅し、部屋の灯りをつける。

 デバイスでニュースなどを閲覧する。

 

 企業の動向。

 紛争地域。

 惑星で行われる戦争と、戦果報告と死者数。

 

 相変わらずだ。

 人間は、まだ素材のままでいる。

 

 少しため息が漏れ、閲覧をやめようとしたその時。

 一つの記事に視線が留まった。

 

 「白い閃光…戦場……激化……?」

 

 詳細を読む。

 単独で戦線を維持し、戦争そのものを長引かせているという。撃破報告なし。どうやら長いこと戦況が変わらない原因になっているそうだ。おかげで企業が損をして傭兵が得をする面白い状況になっている。

 

 ……ふふっ…なるほどぉ…。

 

 背筋に、ぞくりとしたものが走る。

 

 もし、これを作品にしたら。

 何が作れるだろう。

 どんな景色が目に入ってくるのだろう。

 

 そう考えかけて、ボクは手を止め、自分でも自覚するくらい、口角が上がった。

 

 違う。

 

 これは――

 もう完成している。

 

 壊すことで完成するのではない。

 存在しているだけで、既に芸術だ。

 

 胸の奥が、久しぶりに満たされる。

 壊したい衝動ではなく、感動に近いもの。

 

 デバイスを閉じ、外に出る。

 

 夜風が冷たい。

 空には星が散らばっている。

 

 どれも遠く、手は届かない。

 

 それでも、ボクは腕を伸ばす。

 

「来年は……」

 

 声は自然と漏れた。

 

「どんな作品を作ろうか」

「どんな世界で、どんな美しい素材が、ボクを待っているんだろう」

 

 星は何も答えない。

 それでいい。

 

 届かないからこそ、

 描き続ける意味がある。

 

 ボクは夜空に魅せられたまま、しばらくその場で両手を高く上げ、立ち尽くしていた。

 

 年は、静かに終わろうとしていた




さあ!!私からのサプライズだ!!!
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