価値を見出だせず
価値を残せず

他者を嫌い
自分を嫌い抜いた

その果ての迷惑な『青春時代』の萌芽

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『青春時代』

 醜い人生であった。

 

 親は胎内から自分を『ひり出す』ことにその愛情の大半を消費し切ったらしい。

 なんでも、自分は生まれながらに孤児というものであるらしかった。

 

 だから親の愛というものを否定はしないが共感はできない日々を歩んでいた。

 それはある種の妥協であり甘えでもあった。

 そう気付ける頃にはもはや修正しようがないほど自分の中でそれは凝り固まっていた。

 

 無論、孤児という境遇が事実であるかは分からない。

 親の側に事情があったのかも知れないし別の事由が存在した可能性も否定できない。

 しかし、世の理は確かめるすべなどないことがそのほとんどなのだ。

 

 知るすべもないこと、知る価値もないこと。

 それらは全て等価値だ。少なくとも、自分にとっては。

 

 これもまた例に漏れずということと考えれば、なるほど、如何にも収まりが良い。

 

 だから自分だけの価値を求めた。

 これが自分の原点であったように思える。

 我がことながらなんとも青臭くて夢見がちで始末に負えない妄想だろう。

 

 しかし大真面目であったし今なお以ってもそこに後悔の気持ちは見出だせない。

 ならば、自己採点ながらこれは悪くないものであったのだ。

 おそらく、たぶん。

 

 自身の人生に採点をつけられるとすればやはり自分自身によるところが大きいだろう。

 だから自分で良しとすれば、『優』ではないにせよ『可』程度には落ち着くはずだ。

 

 ならば何を以って醜い人生と結論付けるに至ったのか。

 

 きっと別の要素だろう。

 心当たりは幾らでもでてくる。

 

 物心がつく頃から自分は、きっと、人間というものが嫌いであった。

 

 生存活動を他の物体に依存し、存在を捕食し続けねば形を保てない脆弱性。

 しかもそれを、一度や二度でなく生涯にわたって続けねばならない不完全性。

 

 極めつけは『感情』だ。

 外面的な接触に起因する情動に名を付けて観測する試みは理解できる。

 しかし、それを皮膚や瞳孔、視線や発汗などの外部出力に求め『そう』と断定する。

 

 そこまで陳腐化しておきながらさも高尚な存在であるかのように嘯きもてはやす。

 かと思えば娯楽として消費し他者のそれを積極的に摂取しようと試みる。

 非接触時に発生し得る感情の伝播。それを『空気を読む』と言ったらしい。

 

 まさに『侵蝕』。

 

 これを文化的活動と定義付け生きるために『寝食』を続けるのが人類のトレンドらしい。

 物を喰らい、感情を摂取し、他者に伝播させ、繁殖し、そしてやがて朽ちる。

 何故そんな不完全極まる存在のために他者を『侵蝕』しなければならないのか。

 

 それこそが、自分を生涯苦しめた疑問であり命題でもあった。

 

 だから、自分は『笑わない子』であったらしい。

 いや、施設ではもっと直截に『不気味な子』と呼ばれていたように思う。

 

 さもありなん。

 

 自分自身、物心ついたときには常に何かを睨むような存在であったと記憶している。

 他者への、何より自分自身への煮え滾るような怒りと嫌悪感。

 食べる量は少ないし積極的に誰かと揉め事を起こすような存在ではない。

 施設からすれば『手のかからない子』ではあったのだろう。

 けれど、異質さは隠しきれなかったのかも知れない。

 そんな『不気味な子』は遠巻きに警戒され距離を置かれるのは必然であった。

 

 嫌いであった。

 何もかもが。

 少しでも付加価値を見出そうと手当たり次第に知識を吸収する日々。

 しかし学校の成績は安定しない。

 当然だ。

 自身が吸収している知識と学校の教師がテストに出すそれが重なることの方が稀なのだ。

 自分の評価は『気まぐれな天才肌』という形に落ち着いていた。

 

 人間嫌いな故に誰ともつるまず、いつも猛烈な勢いで知識を吸収している。

 

 そんな自分を周囲なりに好意的に解釈してくれたのかも知れない。

 それと、学生生活終盤に成績が急上昇したのも関係があるのかも知れない。

 とはいえ、自身の意識が変わってテスト勉強に熱を入れたというわけでもない。

 学校の図書館の蔵書傾向はやはり学問に傾くものであるから重なる部分が増えていった。

 ただそれだけの話に過ぎなかった。

 結局、学生生活を通じても自分の価値は見付けられないままだった。

 

 カウンセラーにそれとなく尋ねても思春期がどうのと要領を得ない回答が帰ってきた。

 それはどういうことであろう。思わず首をひねる。

 生まれてこのかた、ここまで寸毫たりとも緩和されない生粋の人間嫌いである。

 思春期と定義するには些か期間が長過ぎないだろうか。

 とはいえ、専門家が口にしたことだ。

 自分で無闇に再定義するより『それが正解である』という前提で受け入れるべきであろう。

 

 だから、自分は受け入れた。

 

 自分は今もまだ長い思春期の途上、『青春時代』の真っ只中にあるのだと。

 

 知識の吸収は続けた。

 もう『価値』を示すことに価値は見出せなくなっていたけれど。

 いつか何かの役に立つかも知れないから。

 

 それからは施設を出て、働きながらも知識を吸収し続けた。

 個人の家庭教師、引越し業者、夜の仕事、色々とこなしたものだ。

 

 定職に就いた方が長期的な人生を歩む上では『安定』を得られるのは確かだ。

 しかし、厳選すればフリーターの方が稼げるという側面も無視はできない。

 無論、それは『先の人生』を質に入れた上で各種技能があるのが前提ではあるが。

 

 そんなこんなで稼いだ金で海外にまで足を伸ばした。

 ハワイのオアフ島に行ってみたり、東南アジア方面を回ってみたり。

 現地の人と仲良くなったり、『色んな話』をしてみたり。

 言語、ジョーク、政治、噂話。人と人の繋がりに知識は役立った。

 吸収したそれらは無駄にはならなかったのだ。

 ならばきっと、価値はなくともそこに意味はあったのだろう。

 端から見れば『計画性はないが充実した人生を送っている』ように映るのだろうか。

 

 それはそれで悪くはないものだ。

 

 サプライズには計画性こそが肝要だ。

 計画性がある、などと事前に気付かれてはそれこそ台無しになってしまう。

 あっと言わせる準備は進んでいるがそれが伸るか反るかは未確定。

 当たれば良いが失敗してもまぁ仕方ないくらいの精神で平常心で挑もう。

 

 醜い人生であった。

 

 自分に価値を見出だせない。誰かに価値を見出だせない。

 それを誤魔化したくて知識だの、礼儀だの、感情だの、色んな『衣服』を纏っている。

 感情の伝播は、共有した『つもり』になろうとする生き様は…

 そんな世界でも『一人ではいたくない』という孤独のサインなのかもしれない。

 もちろん違うかも知れない。全くの見当違いかも知れない。

 というよりその可能性のほうが高いだろう。

 だって、ついぞ『そんなもの』を理解できないまま自分は手放すのだから。

 

 けれど、誰でも大なり小なり『そんなもの』は抱えて生きているに違いない。

 どんな善人でも、悪人でも、人が人である限り背負うべき宿痾(しゅくあ)というものなのだろうから。

 

 ……うん、よし! 

 

 今は後のことは考えずに突っ走ろう。これはきっとはじまり(おわり)の第一歩。

 

「『Hello World』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── 本日未明、現地時間午前4時頃。

 

 ── フィリピン、首都遠郊◯◯市にて邦人による銃撃・襲撃事件が発生しました。

 

 ── 容疑者と目されるのは日本人・◯◯XX23歳。

 

 ── 現場となったのは中国人夫婦が経営する詐欺グループ拠点…

 

 ── いわゆるフィッシングメール詐欺などを行う詐欺グループの拠点であり…

 

 ── 多くの現地人、そして拉致された邦人、韓国人なども巻き込まれる形で犠牲となり…

 

 ── また容疑者は複数回に渡り現地を観光しており現地住民との仲も良好であり…

 

 ── 動機の解明には至らないものの、強い怨恨の線から捜査を進めるとともに…

 

 ── 入念な下見を行った痕跡が見られ現地でのブローカーから銃を多数仕入れており…

 

 ── ハワイ、オアフ島で射撃訓練を行うなど計画性と殺意の高さが伺え…

 

 ── 施設内にいた全ての職員を射殺後、あらゆる電子機器を一箇所に集め爆破した疑いが…

 

 ── なお、施設内の爆破時に容疑者も残っていたと目され生存は絶望視されており…

 

 ── 現地政府は犠牲になった三十一名に哀悼の意を捧げるとともに日本政府に抗議を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 了


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