超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
かなり長くなってしまいましたが、お付き合いいただけると幸いです。
一年戦争までカウントダウン。
はやく戦争にな~(以下略)
U.C.0078
サイド3、ダーク・コロニー。
さらに1年近くが過ぎて、俺たちのミッションもようやく終わりが見えてきていた。
ザクで実行可能なモーションが、あらかた出揃ったためだ。
これ以上は実戦を経験させてデータを昇華していかないとどうにもならない、というところまで来たらしい。
全機合わせても5機しかいないチームなので、実際の作戦行動に合わせた行動をするのにも限界があるから、仕方ないと言えば仕方がない。
3機編成のチームでも2つ組めないので、小隊同士の戦闘を想定した模擬戦もできないのだ。
かといって今更人員を増やすわけにもいかない。
そもそも一応は機密部署なのだ。*1
時期的に考えて、タイムスケジュールが俺の記憶通りに進むのだとしたら、もうじき、あの一年戦争の幕が開ける。
そんなタイミングで、ようやくザクⅠのモーション構築が完了したというのは、いささか遅く感じるかもしれない。
実際、モーションやマニューバのパターン構築だけなら、これほど時間はかからなかっただろう。
だが、ブグもザクⅠもモビルスーツとしては初期ロットも初期ロットである。
そのため、仕事で実機を動かすたびに、機体の調整、データの修正、補修、場合によっては小規模な改修といった、それ以外の工程が多くなるのはどうしても避けられなかった。
さらに模擬戦ごとに、
いやまあ、損耗率の高いパーツのあぶり出しや、モビルスーツの部位ごとの脆弱性を暴くためにも、乱暴な運転も必要ではあるんだが、もう少しこう、何というか、手心*2というか……ね。
そういった背景もあり、それなりに時間がかかる任務になってしまったが、現状では十分なほどの戦闘機動がザクⅠで可能となったことだし、これ以上は望むべくもないだろう。
ザクⅠで構築できていれば、ザクⅡ以降の機体へのフィードバックも容易になるはずだ。
俺の制作したパターンもこれからの量産機に活かされるはずなので、新兵たちの死亡率が史実より少しでも下がることを祈るばかりである。
なお、いくつかのパターンは
解せぬ。
そういった事情から、今日は実機に乗っての任務はなく、整備班たちと軽くミーティングをした後、トレーニングルームにでも行こうかと廊下を歩いていたところ――。
「エルンスト、ちょっといいか?」
ラル大尉に声をかけられた。
現状、この基地で俺が唯一尊敬できる大人である。
整備員たちは、大人というよりも同僚といった感覚の方が強いのだ。
いつまで経っても、子供の俺に今でも敬語だし。
少尉だから遠慮しているのだろうか?
いやいや、この職場で階級をそんなに気にしている奴なんているのか?
え? 任官早々のオルテガとの
そんなこともあったね……。
「はっ、問題ありません」
敬礼すると、ラル大尉は「そういうのは良い」と手を振った。
真面目さとフランクさが良い塩梅だと思いつつ、敬礼を解いた。
少し真剣な表情にも見える。
「少し付き合え。内密の話がある」
なんだろうか。
ハモンさん*3とようやく籍を入れる気になったのなら、この部署を挙げて
ダーク・コロニーはモビルスーツの秘密研究施設であるが、基本的にここのメンバーはたまの休暇以外はここに缶詰めであるため、ほぼ男所帯である。*4
設定上、メイ・カーウィン嬢あたりはいてもおかしくないのだが、俺は会ったことがない。
まあ、こんな兵隊ヤクザどものいる場所に、名家のご令嬢を放り込むなんて真似、俺が親なら絶対に阻止するだろうし、この世界に彼女が存在していたとしても、ジオニック本社の方で開発に携わっているか、このコロニー内の完全に別の区画で仕事をしているか、のどちらかといったところだろう。
話を戻そう。
ほとんどが男性で構成されている開発チームのため、この区画には仕事を終えた連中の息抜き用という名目で、バーがいくつか設置されている。
そのうちの一つを貸し切りにして、俺とラル大尉は座っていた。
ラル大尉はともかく、俺の年齢*5で酒を飲むのはさすがにまずいので、俺はオレンジジュースである。
バーテンダーに退席を促した後、ラル大尉は話し出した。
「お前がここに来た時は、どうなることかと思っていたが、何とかここの目標を達成できそうだ。
士官学校で初めて会った時は、ただのガキにしか見えなかったお前が、ここまでもの大役を果たすとはな。
俺の目が曇っていたようだ」
いえラル大尉、あなたの見方は正しいです。
だから俺を基準に視点を歪めないでください。
「いえ、俺だけじゃありません。
ラル大尉の白兵戦技能の巧みさには驚かされましたし。
……なにより
ラル大尉が顔をしかめた。
「あのごろつきどもめ……。
まさかお前に酒を飲ませようとするとは思わなかったぞ!」
あのヤクザ連中、オレンジジュースに酒を混入して飲ませようとしてきたのだ。*6
まあさすがに気付いたので、犯行は未遂である。
直後にラル大尉に見つかって連中が怒鳴られただけだ。
日常の風景とまではいかないが、そんなに珍しくもないことである。
いや、珍しくないってだけでも十分ひどいな。
しかし、まさか昔話をするためにこんなところに呼び出したわけもあるまい。
そう思っていると、ラル大尉はグラスに軽く口をつけ、切り出した。
「今回の任務の功績をもって、現時刻よりお前は中尉に昇進となる。
まずはおめでとう」
昇進は素直にありがたい。
だが、それはそれとして、『
「ありがとうございます」
「それと――」
ラル大尉は一呼吸おいて、
「お前はシャア・アズナブルという男を知っているな?」
ん?
ラル大尉からシャアの名前が出るとは若干予想外だな。
え、何?
そろそろあいつ戻ってくるの?
確かに、俺の記憶の限りでは一年戦争の開戦まで秒読みってところだけどさ。
地球の土方バイターにそろそろ飽きたの?*7
「士官学校の同期です。
ちょっと
奴に再召集でもかかりましたか?」
ラル大尉が頷いた。
「正解だ。
そしてドズル大佐の口利きで、モビルスーツのパイロットの任に充てられることになった」
そういえば除隊の時にそんなこと言ってたな。
ドズル大佐、あの厚かましい口約束守ったのか。
律儀な人だわ。
「ではここに?
そろそろ
実際、パターン構築もほぼ終わっている現場に、シャアが来たところでやることがない。
今来たとしても、窓際部署にしかならないだろう。
再度、大尉が頷く。
「その通りだ。奴の配属先はここではない」
そこで一度区切り、改めて周囲を見回す。
周りに人がいないことを確認した後で、ラル大尉は声をひそめて話し出した。
「そしてここからが本題だが……。
軍の情報部が、ミノフスキー博士の亡命の計画を察知した」
ああ、あれはこの時期にある出来事だったのか。
というか、そもそもこの世界では起こる事象だったのか。
一年戦争までもうあまり期間が無いだろうし、もしかしたら起こらないかもしれないと思っていた。
仮に起こったとしても、ジ・オリジン以外ではかなり昔に亡命していたはずだから、ザクとヅダのコンペのようにタイムスケジュールがズレた場合、一年戦争中に気付いたら亡命してた、とかもあり得るなとは思っていたぐらいだ。
だから、彼の亡命が確定したというのは、俺にとっては初耳の情報である。
「博士が?
何故です?」
何故と言いながら、俺はある程度の答えは原作知識により予想はついている。
融合炉の小型化が実現した今、ミノフスキー博士はモビルスーツ開発の最重要人物ではなくなったからだ。
ミノフスキー粒子を用いた
ただし、亡命を決意した理由が原作通りの『軍国主義にひた走るジオンで、
というか、亡命でなく年齢を理由に隠居してればよかったのに、と思わなくはない。
どうせ連邦に亡命できても、兵器開発をやらされるのが落ちだろう。
「分からん。
だが、上は博士の亡命を阻止する考えだ。
俺たちにその実行命令が下ることになっている」
現状、意図的にリークしたのかは知らない*8が、連邦はザクの存在を掴んでおり、それに対抗してガンキャノン*9というモビルスーツ*10を開発しているという情報は、この施設にも入ってきている。
いかにあれの性能が「モビルスーツ(笑)」であったとしても、モビルスーツ以外であれを破壊するのはかなり難しいだろうし、俺たちに命令が下ることは至って当然の判断である。
「つまり、その作戦にシャアが加わると?」
ラル大尉は頷いて、グラスに入った酒を一口飲む。
本編のクラブ・エデンで見せたような泥酔する飲み方ではなく、あくまで口を潤す程度の飲酒なのだろう。
「そうなる。
一応、奴の腕も見てきたが、かなり腕は立つようだ。
足手まといにはならないだろう」
まあ、シャアだしね。
その辺りの実力は最初から疑っていない。
「奴の実力なら知っています。
しかしそうなると……『
ラル大尉の顔が苦虫を噛み潰したようになった。
ありありと想像できるのだろう。
『
いやホント、ラル大尉、あの連中のまとめ役お疲れ様です。
俺なら頼まれても無言で首を振る。命令であっても最後まで渋る。
兵隊ヤクザどもの頭領とか嫌でござる……。
「だが、あいつらの戦力的にも出さないわけにはいかん……。
だからエルンスト。
貴様には先んじてシャアと合流し、先行してもらう。
その後、現場で待機。俺たちの到着を待て」
ああ、なるほど。
シャアの物言いと、『黒い三連星』の性格を考えれば、水と油であることは即座に分かる。
最初の移動の時点から一緒に行動するとなれば、まず間違いなくいさかいが起きることは容易に予想できる。
それを避けるために、シャアを作戦開始時まで別行動させて、作戦開始のタイミングで合流させるとしよう。
だが、そうすると、今度は
そうなったら、作戦開始前に、その場で『
だから、
面倒くせぇ……。
大尉、本当にお疲れ様です。
「了解しました大尉。
ちなみに合流前に、不測の事態が起こった際の行動指針はありますか?」
「現時点をもって、俺の次に、お前が最も階級の高い士官になった。
俺が合流するまではお前の判断に任せる。
だが、最優先は博士の亡命阻止だ。
優先順位をはき違えるなよ」
博士の亡命が到着前に完遂してしまいそうなら介入しろ。
そうでないならやり過ごせ。
そういうことだな。
「承知しました。
作戦日時はいつになりますか?」
「情報部によると7日後の0600をもって作戦開始となる予定らしい。
よって貴様は6日後の0時をもって出立、シャアとの合流後、現地に向かうことになる。
作戦区域は月面。フォン・ブラウン市の近郊、スミス海だ」
身一つではなく、モビルスーツを伴っての移動、しかも秘密裏にとなると、それほど時間的な余裕があるわけではないな。
「任務完了後、ここには?」
「帰投はしない。
今任務の完了をもって、チームは解散され再編成される。
お前は俺と一緒に、ドズル大佐のモビルスーツ部隊設立の任に当たることになる」
ようやくあの
思い起こせば、15ヶ月ぐらいは連中と、モビルスーツで殴り合っていたから愛着も……。
湧かないや、やっぱり。
まあいい。
戻ったら私物のまとめも始めておこう。
オレンジジュースを飲み干して立ち上がる。
「任務了解。
エルンスト・ヴァルツァー中尉。
6日後の出立に備えます!」
「ああ、それとだ……」
ん?
まだ何かあるのか?
「お前のパーソナルカラーを決めろとの上からのお達しだ。
あー、それがあったか。
そうだよね。
専用色は大事になってくるよね。
「そうですね……」
少し考えこむ。
まず赤は却下である。
シャアと被ってしまう以上、『
なによりこの世界に
青はラル大尉がいる以上、気が引ける。
黒は
黄色はなんとなく重機のようなイメージが頭に浮かんでくるし、少し捻って金色?
……それは
緑はそもそも基本色である。
別に連邦の機体の色から連想してもいい*11んだが――、まず頭に浮かぶ
連邦製の機体で、ガンダム以外で良い色って、すぐには思いつかないな……。
ガンダムか……。
いっそのことウイングガンダム、あれは色合いが
ゼロもカラーリングは基本的に同じ系統だし。
いや、待てよ……。
しかし白だけだと、同じドズル閥になるであろう
この世界線に存在するかは分からない*12が、いた場合は少々紛らわしいだろう。
ならば少し捻るか――。
「決めました」
「ほう。早いな。
今からなら、作戦開始には間に合いそうだ。
で、何の色にするんだ?」
「俺の機体の色は……
悲報:シャア復帰ならず。
ラル大尉との会話シーン書いてると、ついつい各所に苦労人っぽさを滲ませたくなってしまい、結果として長くなってしまいました。
昇進と専用色お披露目という回。
専用色については、前話の後書きから予想付いていたという方がおられるかもしれませんが、その場合は申し訳ないです。
さすがに次は赤いの出します。