超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
Q:地球降下作戦はいつ始まるんですか?
A:私にもわからん!
ルウムでの大規模戦闘から2日。
ア・バオア・クーに帰投した俺たちは、そのまま勲章授与式と戦勝祝賀式典に出席せよという指令を受けて、ズム・シティまで戻っていた。
機体はそのままア・バオア・クーに預けてある。
必要があると判断されれば、補給とメンテナンスの後でこちらに送られてくるだろう。
とはいえ、ルウムでは機体を限界寸前まで酷使してしまったらしく、大半の消耗部品が、既に
あと、1~2回も出撃したら、俺もブグからザクⅡに乗り換えないといけないかもしれない。
整備員たちに「もっと丁寧に乗ってくださいよ」と叫ばれるかもしれないが、すまんがマグネットコーティングもないこの時代だと、丁寧に乗ってもこれなのだ。
定期的に差し入れでもするから、整備の皆さんには勘弁してもらいたい。
そういうことで、機体より一足早めにズム・シティにやってきた俺ではあるが、勲章自体はまだ用意できていないらしい。
まあモビルスーツのパイロットだけでなく、艦艇の艦長たちも含めるのだから、大量に用意しないといけないし大変なのだろうとは理解できる。
なので、授与式も式典も2日後の予定である。
ようやくゆっくりできるかもしれない。
とはいえ、街は既に戦勝報告を受けてのお祭り騒ぎの真っ最中。
俺やシャアの顔写真が載った号外が乱れ飛んでいる。
あることないこと盛られすぎて、適当なものを拾って読んだ後「うわぁ」という声を漏らしたのはここだけの話だ。
誰だよ。
俺の血縁上の父親がジオンに駐屯していた元連邦軍高官だって、俺ですら状況からの推測でしかない未確認情報を、マスコミに事実みたいにリークした奴は。
少し考えた後、俺はどうにもならないと判断した。
何をどう考えても、
士官学校受験の時の推薦の時点で、俺の身元は調べていたのだろうし、その時の調査で判明していたのかもしれない。
まあ、血縁上の父親が誰であっても特に興味はない。
向こうも俺の存在すら知らないだろう。
というか、この前の戦いで戦死してても別に不思議ではないんだよな。
ちなみに母親はジオンの名家のご令嬢だったらしい。
うわぁ。
嘘くせぇ。
ちょっとギレン総帥!
孤児だからって設定盛りすぎてますよ!
俺はフリー素材ではないんです。
こんな古典活劇の主人公みたいな、「実は敵と味方の名家同士の隠し子でした」な経歴盛らなくてもいいじゃないですか。*1
そのせいでマスコミに、悲劇の王子様みたいな扱いしてるところとかあるんですけど!?
それは
おかげで俺の孤児院には、
あくまで善意の客でごった返しているので、孤児院に被害があるとかそういうことではないらしいのが救いだろう。
これ、俺が帰ったら余計混乱するから、落ち着くまで帰れない奴ではないだろうか?
なお、本来の歴史通り、連邦艦隊司令レビル中将は『黒い三連星』によって拿捕された。
俺が最初に穴を穿ち、シャアと一緒に広げながら突き破った陣形を、内部から散々に食い荒らしたらしい。
有視界戦闘での乱戦となると、連中のジェットストリームアタックは無類の強さを発揮するだろうから、水を得た魚のようだったのだろう。
これで普段の言動さえまともなら頼れるエースパイロットたちなんだがなぁ。
だからなのか、『黒い三連星』のマスコミでの扱いは、俺やシャアよりも明らかに少ない。
せっかく敵の総大将を捕らえたのに、軽く触れられるだけで終わってしまっている。
予想に難くないのだが、まず間違いなく、これによって少なくとも
悪循環にもほどがある。
先ほど、レビル中将を拿捕したのは『黒い三連星』だと言ったが、今回の戦い――結果的にではあるが――、俺はレビル中将には関与していない。
理由は主に2つある。
まず第1の理由としては、あの大艦隊の中でたった1隻の旗艦を探し回るのが現実的でなかったことだ。
レビルと俺は士官学校入学式で遭遇した程度の関係しかなく、会話したことすらない。
ドズル中将やシャアの気配とは違って、レビルの気配ともなると、さすがに感じ取るのは無理だ。
加えて、レビルの乗艦であったアナンケは改装されているとはいえ元はマゼラン級だ。
撃墜可能な程度まで接近しないと、ブグのメインカメラではさすがに判別がつかない。
ガイア中尉たちがアナンケを見つけたのは、彼ら自身の幸運もあるだろうが、俺とシャアが敵の秩序だった隊列を散々に破壊したため、隊列を立て直そうとする旗艦が、ちょうどその時に陣中を食い荒らしていた『黒い三連星』の目に留まりやすかったという、タイミングの良さもあったのだろう。
第2の理由としては、そこまでしてレビルを葬り去る価値を、俺が見出せなかったからだ。
たしかに、レビルの救出か脱出が無ければ、南極での交渉の結果、この戦いはジオンの勝利をもって終わるだろう。
ただし、肝心のジオン首脳部側で早期和平の成立を望んでいるのは、悲しいかなデギン公王しかいない。
ギレン総帥とキシリア少将がそろって戦争継続を望んでいる*3以上、レビルの生死に大した意味はない。
レビルの死亡により、南極で講和が行われ、一時的に戦闘が終結したとしても、何らかの理由をつけて地球侵攻作戦は再開される。
そう俺は踏んでいたため、無理してレビルを撃破するよりは、1隻でも連邦の
その結果が、マゼラン級宇宙戦艦2隻とサラミス級宇宙巡洋艦7隻、シャアとの共同撃沈6隻という、ちょっとやりすぎたかなと思わなくもない戦果である。
シャアも単独でマゼラン級1隻とサラミス級5隻、俺との共同撃沈6隻と、何気に原作*4よりもヤバい戦果を叩き出していた。
そりゃマスコミも取り上げるよね……。
ちなみに、シャアの異名は『赤い彗星』で落ち着いたそうだが、俺の異名みたいなものは迷走している。
白銀の翼、白銀の閃光、白銀の弾丸、白銀の軌跡、白銀の神童、白銀の流星、白銀の魔弾、
媒体によって違いすぎてもう訳が分からない。
だから俺はフリー素材ではないんだと。
もう共通項の『白銀』だけでいいだろう。
少なくとも自称は
とりあえず孤児院に戻るとマザーに迷惑が掛かりそうだ。
そうして夕食を外で済ませた俺は、ドズル中将のお宅を訪問したわけであるが――
「嫌ですっ!」
夜の邸宅にガルマの声が響いた。
「参謀本部付なんて絶対に嫌です!」
ドズル中将に訴える。
俺が中将のお宅にお邪魔したすぐ後ぐらいのタイミングで、中将を祝いにガルマも訪ねてきたのである。
しかし、中将から今後の配属予定で告げられた内容を不服として、このありさまである。
ちなみに俺は、少し距離を取ってミネバと遊んであげている最中だ。
兄弟同士の水入らずの会話なので、出しゃばる状況でもないだろう。
「そう言われてもなぁ」
ドズル閣下も困り顔だ。
「僕は前線に出たいんです!
手柄を立てさせてください!」
「これは親父の希望で軍のトップが決めたことだし、俺には……」
それはそうだ。
ドズル中将は宇宙攻撃軍のトップではあるが、総司令官はギレン総帥だ。
総帥が決めた人事に、中将が異議を唱えるのは難しい。
しかも公王の意向がかかっているんだから余計にだ。
「今の兄さんにならなんだってできますよ。
兄さんはルウムの英雄じゃないですか!」
ガルマ、割と無茶苦茶言ってると思うんだがそれは。
中将も「まあな……」とか返さないでください。
ガルマが説得するとしたら、まずは父親であるデギン公王でしょう。
そう考えながら、こっちの手をニギニギとしてくるミネバの相手を続ける。
「負けたくないんです、シャアに……。
あいつは今度の功績で、2階級特進して少佐になるって聞きました。
そしたら僕は……」
まあそうだろうとは思ってはいたが、やっぱりまだライバル意識は続いてたか。
実際、シャアの2階級特進はしょうがないと思えるスコアではある。
あれで1階級しか昇進できないなら、他のエースパイロットが全員昇進できないだろうしなぁ。
ちなみにだが、似たような数値を叩き出した俺も、2階級特進して明後日には中佐の予定である。
降格前のラル大尉に並んでしまったよ。
ジオン軍、昇進速度異常じゃなーい?
「そういうことならお前も少佐に……!」
違う中将、そうじゃない。
心の中でつい突っ込んでしまったが、案の定、ガルマが激高した。
「僕は何も働いてません!」
ガルマの怒鳴り声にミネバがびっくりした顔をしている。
泣きださないように、こっちに注意を引いてあやす。
赤ん坊のいるところで大声を出すんじゃない。
「ごめんですよ、お手盛りの昇進なんて。
そんなことだから僕は馬鹿にされるんです。
所詮は、ザビ家のお坊ちゃんだからって……」
ついにはガルマが泣き出してしまった。
残念だがガルマ、お前がお坊ちゃん扱いされるのは、軍功と昇進のバランスとかよりも、そういった『兄に泣きついて配置希望を通そうとする』みたいなところだぞ?
公私混同のバランスを取るのが絶望的に下手なんだよお前……。
ゼナ女史があんまりに思ったのか、指でドズル中将をつつく。
夫婦のアイコンタクトみたいなものを交わして、ドズル中将が折れた。
ちなみに、こっちはミネバがもう少しで寝そうなところである。
「分かった。ギレン兄に相談してみる。
どうなるかは知らんぞ……」
情に厚いのは、ドズル中将の良い所でもあるが、悪い所でもあるな。
特に家族に対しては甘すぎるほどに弱い。*5
その言葉を受けて、ガルマがようやく泣き止む。
「ありがとうございます。兄さん」
「ただし――!」
ドズル中将が続ける。
「護衛にはエルンストを付ける。
それが絶対条件だ」
俺かよ!?
ようやく寝付いたミネバを乳児用ベッドに寝かしながら、俺は中将に視線を向けた。
ドズル中将が視線で「頼んだ」と言ってくる。
仕方がないなと、俺は頷いた。
ルウムから2日しか経ってないのにもう次の現場が決まりそう……。
読んでいただきありがとうございます。
戦果については塩梅が難しくて、このぐらいかと設定してみました。
弾切れになったら大人しく引き下がるとしても、まあこのぐらいかなと。
それでも連邦軍レビル艦隊の1割強ぐらいシャアと2人で落としてるという、アホみたいな計算になるので、パオロ艦長は強く生きてください。
ちなみに、シャア単独の戦果も原作より多いのは、МS開発チームの仕事の成果です。
後半のガルマとドズルの会話パートはほとんど原作と同じなので、入れるかどうか迷ったのですが、ルウム掃討にはガルマの護衛としてついていく展開にしようと思っていたので、背景でミネバと遊んでいるモブと化しました。
ということで、本年はありがとうございました。
来年も拙作をよろしくお願いします。