超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
ちょっと長かったので前編後編に分けました
「夢と思っていた自分をぶん殴りたい」
そう、俺はひとりごちた。
言葉にしてみると、少しだけ気が紛れる――ような気がする。
だが現実は、そんな独り言でどうにかなるほど優しくはない。
「える~、なにしゃべってるの~?」
のんびりとした声が飛んでくる。
振り向けば
丸い頬に、少しくたびれた服。年齢相応の、無邪気そのものの表情だ。
「何でもない。そろそろお昼ごはんだぞ。食堂へ行こうか」
そう言うと、その子はぱっと顔を明るくして頷く。
「はーい!」
その声に釣られるように、周囲にいた
「はーい」「ごはんー」「きょうはなにー?」
小さな足音が重なり合い、みんなが食堂へと走り出していく。
――そうだ。
ここは、ジオン自治共和国。
ズムシティ内にある孤児院の一つ、ヴァルツァー孤児院。
教会に併設された、小さな施設だ。
そして、ここにいる前世知識ありの俺の名は――
エルンスト・ヴァルツァー。
U.C.0069年生まれ、
……改めて、字面にすると頭が痛くなる。
「どうしろっつーんだ……」
兄弟姉妹たちに囲まれながら、食堂へ向かう廊下を歩く。
その間も、頭の中では思考が止まらない。
自分の『生前』は結局、どうなったのかも気にはなる。
だがどのみち、転生前のことをいくら考えても、夢?の中では
それぐらい理不尽に、唐突に、脈絡なく転生させられたのだ。
下手をしたら『本当の俺』は普通に現実世界で生活を続けていて、『この俺』はそこから分岐したスワンプマンの意識である可能性すら否定はできない。
つまり、そこに関しては考えるだけ無駄ということだ。
今、考えるべきは現状と、来るであろう未来についてだろう。
大前提として、一年戦争はU.C.0079に起こる。
そこはほぼ間違いない。媒体差はあれど、そこは揺らがない。
その時、俺はわずか十歳だ。
どないせいと?
開局早々から状況が詰んでいやしないか。
戦争が始まれば、ジオンは遠からず総力戦へと移行する。
そうなれば国力は消耗され、民間へのリソースや福祉に配分されるリソースなどは当然のごとく削られる。
孤児院の運営費なんて、真っ先に削減対象だろう。
言ってしまえば、この場所は、戦争が起きたら
どないせいと?
食堂に着き、長机を囲んで皆で昼食を取る。
質素だが、温かいスープとパン。
スープの具も潤沢ではないがきちんと入っている。
今は、まだ足りている。
現在はU.C.0072。
ジオン・ズム・ダイクンが死去してから4年が経過している。
病死か暗殺かは媒体によって違うが、どの作品の世界線であっても、彼が急死した事実は基本的に変わらない。
そして彼の死を契機に、連邦とジオンの関係は確実に悪化している。しかも現在進行形でだ。
だが、まだ決定的な破綻とまでは至ってはいない。
そのタイミングは作品によって違うだろうが、俺の覚えている限りでそれがはっきり描写されているのは『暁の蜂起』の直後だろう。
そうだとしたら少なくともあと5年は大丈夫、なのだろうか?
今はまだ国力に余裕があるし、その余裕が、こうして孤児院の運営にも回ってきている。
少なくとも、兄弟姉妹たちが空腹で泣くことはない。
一人でこの孤児院を切り盛りする老齢のマザーも、食事を抜くことなどもなく済んでいる。
――だが。
ジ・オリジンで描かれていたように、農業区画が破壊されたら?
一年戦争後半のように、総力戦へと雪崩れ込んだら?
考えたくもない未来だが、容易に想像できてしまう。
そもそもの話として、この孤児院には年代的に『わけあり』の子供が多い。
ジオン・ダイクンの死を境に、連邦との緊張が一気に高まった時期。
その数か月後から一年後ぐらいに生まれ、棄てられた子供たちが大半である。
棄てられた、つまり、親は生きているのに孤児になった――された子供たちだ。
俺も、その一人らしい。
詳しい事情は知らない。仮に聞いたところで子供に教えてくれるはずもない。
エルンストという名前すら、マザーが付けてくれた名前である。
だが十中八九、父親は連邦の役人か軍人なのだろう。
だから父親は母親を捨て、母親(もしくはその実家)は売国奴の誹りを恐れるがゆえに、俺は認知されず、棄てられた。
時期的にその可能性が一番高い。
アースノイド、しかも蛇蝎のごとく嫌われている地球連邦の人間とのハーフ。
そんな子供が集まるこの孤児院に、連邦相手の総力戦の最中に便宜を図ってくれるような、奇特なジオンの上役に心当たりはない。
正確に言えば、
だが彼は、この時代すでに別の孤児院を支援していたはずだ。
そしてこのままでいけば、リック・ドム12機とともに宇宙の藻屑になってしまうだろう。
盤上はほぼ詰んでいると言って良い。
民間人としてできることなど、この年齢では皆無に等しい。
そう、
普通に考えれば、荒唐無稽。
絵に描いた餅ですらない。
だが。
食べ終わったスプーンに映る自分の顔は、生粋の
彼は、「Frozen Teardrop」や「EPISODE ZERO」の描写を見る限りにおいて、6歳で実父であり師でもあるアディン・ロウに引き取られ、8歳で既に工作員としては完成していた少年である。
まるで戦場で生き残るために作られたかのような、人間兵器と言っても過言ではない存在。
その素質がこの身に宿っているとするのならば。
そして、記憶に未だ残る、
この道以外に、まともに取れる選択肢は存在しないと思う。
正確に言えば、俺一人ならどうとでもなる。
誰にも知られることなく一人でサイド3を脱出し、戸籍を偽造し、どこかで平穏に暮らすことも可能だろう。
だが、兄弟姉妹やマザーが無事に生き延びる未来はそこにはないし、そもそも
ならば。
今生の家族を切り捨てる選択肢など、ありはしない。
「マザー、ひとつお願いがあるのですが」
食事を終え、子供たちが思い思いに動き出したタイミングで、俺はマザーに声をかけた。
白髪混じりのマザーは、穏やかにこちらを見下ろす。
「どうしたの、エル?」
「よろしければ、明日からでも公営の図書館に行ってみたいのですが、許可をいただけますか?」
少しだけ、驚いた顔をした。
だが、すぐに柔らかく微笑む。
「……勉強熱心ね。いいわ、ちゃんと時間を決めて行きましょう」
まずは、知識の蒐集。
そして――
手段の確保である。
なんとなく幼女戦記リスペクトで一年戦争時に9~10歳を想定したらこんな年齢になった。
現実では無茶苦茶だけどヒイロなら別にええやろという開き直りの産物。