超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
俺たちが作戦会議を終え、各々の準備を整えた数日後。
ついにメキシコ湾岸に濃霧が立ち込め、ホワイトベースがダラスを離れていった。
ヒューストンを素通りさせるのは違和感を覚えられるかもしれないので、ホワイトベースがヒューストンの防空圏内を南に抜けようとしたタイミングでスクランブルをかけさせ、ホワイトベースには
ホワイトベースのクルーの視点に立って整合性を考えると、これでホワイトベースの位置が割れていなければおかしいので、以後、ジャブローに至るまでは、散発的な攻撃を加えることになる。
あまり損耗しては欲しくないので、南米の部隊にホワイトベースの位置を伝達した際に、「引き際を誤るな」とは一応言っておいたが、彼らはジオンの南米戦線の部隊であって、北米戦線司令のガルマ、ならびにその補佐である俺の命令を聞く義務がない。
なので、どこまで真剣に聞いてくれるのかは分からない。
下手をすれば、「ジャブローへの目印になるので落とすな」という命令すら無視しそうである。
まあ、連中が躍起になったとして、それで落とせるとは思えないのだが。
正直、何部隊かはホワイトベースの戦力分析を誤って全滅しそうである。
管轄外の部隊の面倒まで見切れないので、仕方がないと割り切るしかないだろう。
キシリア少将が何も言わないのは「それで先走って全滅するような奴は、私の配下には必要ない」ということなのかもしれない。
もしそうだとしたら、やっぱり怖いわあの人。
ちなみに、地球方面軍の司令はマ・クベ中将ではあるが、そのマ・クベ中将がキシリア少将の配下であるため、実質的には地球方面軍の大半は突撃機動軍の下部組織と言ってもいい形態である。ドズル閥もいないことはないが、多数派ではない。
少将の配下に中将がいるのが変な感じではあるが、これがジオン軍である。
ザビ家だと、ティターンズみたいに2階級上の扱いとかになるのだろうか?
そんな組織形態なので、マ・クベ中将がオデッサから離れられない現状では、キシリア少将が作戦の指揮を取るのは当然の結果と言える。
ガルマに任せるには不安だし、俺が指揮を執ると俺がモビルスーツで出られない。
そもそもこの規模の部隊で、当該地区の担当ですらない佐官が総指揮を取るのは、反発が大きいだろう。
色々と立場やしがらみがあって、正直、
数日後。
案の定、功を焦ったというか、先走ったというか、いくつかの部隊が壊滅していた。
正直、頭が痛くなるが、これがジオン軍の平均的な振る舞いであるということを忘れてはいけない。
俺が半年以上かけて引き締めてきた、北米戦線の部隊が全体としては異常値なのだ。
幸か不幸か、壊滅した部隊のおかげで、ホワイトベースの現在地の予測はかなり正確に絞り込めている。
壊滅した部隊を線で繋げば、航路が推測できるからだ。
順調ならあと数日で――まだ他に先走る部隊がいたとしても、それに2日程度の遅れを見込んで、ホワイトベースはジャブローに到着するだろう。
キシリア少将は既に戦闘準備命令を出し、モビルスーツは秘密裏に、ジャブローを南北にそれぞれ挟む、マナウスとカラカスへと移送が開始されていた。
シャアは原作通りと言えばいいのか、潜水母艦マッドアングラーと試作型ズゴックを与えられ、アマゾン川に向かっている。
奴は南側からジャブローを攻める役回りだ。
対して俺はカラカスに移動し、徐々に南下。
オリノコ川支流のカロニ川をさかのぼり、グリ貯水池と呼ばれるダム湖の手前にて一時集結。
作戦開始の合図を待って、北側からジャブローを攻める部隊の現場指揮を任されていた。
俺が移動してから間もなく、ホワイトベースはなんとか無事ジャブローにたどり着いたらしい。
電波は上手く拾えたようで、ほぼ正確な位置が判明した。
「ただ今をもって、ジャブロー侵攻作戦を開始する」
キシリア少将の命が下された。
とはいえ、ただちに攻め込むわけではない。
まずはガウが
当然ながら、一直線に伸びる道などという精密爆撃ができる高度まではガウは降りないため、密林地帯をそのまま進むよりは通行しやすいといった程度の道である。
その道を夜闇に紛れて、闇夜のフェンリル隊が先行、ジャブローの開口部を複数箇所特定する。
これが第1段階となる。
数日をおいてから、再度ガウの定時爆撃を装い、次は前回の爆撃とやや距離を置いた位置を爆撃することになるが、今回はバンカーバスターをメインとした爆撃を行い、本命の爆撃であると誤認させ連邦の目を引き付ける。
本腰を入れた連邦は戦闘機をスクランブル発進させて迎撃行動に出ると予想されるため、ガウに搭載したドップによって迎撃・戦闘に入る。
同時に、フェンリル隊が通った道を使い、ザクとグフで編成された数個小隊が、河川より合流したゴッグ、アッガイの援護を受けて、確認できた入口を制圧し、侵攻を開始する。
これが第2段階。
そして現在が第3段階。
ドダイYSの上に乗ったモビルスーツが、わずかに離陸し、陸地から距離10~20mの位置を飛行、いや滑空している。
外から見ると、森の直上をホバー移動しているようにも見えるかもしれない。
その部隊の先頭に、俺の操縦するイフリートがいた。
狙い通りというべきか、低空を飛行する俺たちには敵の照準が追い付かない。
高射砲で狙うには、なかなかに難しい位置だろう。
かろうじて発砲してきた砲台は、ドダイが足りなくて徒歩移動をしているモビルスーツの射撃を受けて沈黙する。
さすがに全てのモビルスーツが無傷とはいかず、それなりに撃破されたり、損傷して撤退を余儀なくされる機体もあるが、対空砲火の中を自殺覚悟で降下するよりは、だいぶマシなはずだ。
ドダイを侵入口の近くに停めた。
次々とモビルスーツがジャブローへと侵攻していく。
「目標は敵モビルスーツ製造プラントだ。
艦船ドックがある以上、積み込むためにも製造区画はそれほど離れていないと考えられる。
探索して破壊しろ。
また、敵モビルスーツが配備されている可能性が高い。
ビーム兵器には気を付けろ。建造物を盾にするか動き回れ!」
とりあえずの指示を出し、俺もジャブローへと侵入する。
俺の役目は中での司令塔、兼、暴れまわって囮になることだ。
潜入に成功したモビルスーツは、
原作の2倍弱といった所だが、これでもジャブロー全てを相手するには少なすぎるだろう。
早速現れたジムを1機、機体を左右に振ってビームスプレーガンをかわし、ヒートサーベルで袈裟切りにする。
スプレーガンですらジオンのモビルスーツには十分な脅威である。
この作戦にドムが用意できなかった以上、俺ができる限りのジムを引き付けておかねばならない。
「こちら第4小隊。
ホワイトベースを発見しました!」
「遠巻きに囲んで、建造物や洞窟の陰に隠れつつ応戦しろ。
まともに撃ち合うと死ぬぞ!
奴らの意識を釘付けにするだけで良い!」
ホワイトベース発見の報告に対し、通信機へと指示を返す。
確か第4小隊はそこそこ離れた位置からの侵入だったはずだ。
俺とガンダムが、この戦場でかち合う可能性は低いといえる。
そして、シャアの侵入予定の場所も似たような状況だったはずだ。
まあ迷路のようなジャブローのことだから、どちらかがばったりと出会う可能性ぐらいは頭に入れておくべきかもしれない。
「俺に随伴しているのは第2小隊だったな。
何機いる?」
「グフ3機とザク3機、全機おります!」
「ザク2機だけ、ビルを遮蔽物にしつつ、俺の援護を頼む。
残りは探索を続行。
俺は別方向へと移動しながら敵を引き付ける」
敵が俺の存在を知れば、それなりの数のモビルスーツを回してくるだろう。
連邦兵のホラー話の「白銀の亡霊」とやらがジャブローに現れたのだ。
シャアの存在も確認されれば、ルウムのトラウマから中枢部はパニックに陥るかもしれない。
俺の方に敵が向かってくるなら、別行動を取る班の安全性も上がる。
グフ3機、ザク1機あれば、何かあったとしても撤退することぐらいはできるだろう。
まぁ、アムロのガンダムにかち合わない限りは、という条件が付くが。
また1機、出てきたジムを切り捨て、続いて出てきた1機のジムも、ガトリングシールドでコクピットを蜂の巣にする。
ホワイトベースがジャブローに到着するまでの数戦でも、ガンダムがそこそこ経験を積んだのか、ジムの動き自体はそこまで悪くはない。
連邦驚異のメカニズムといったところだろうか。
まあアムロがいてもいなくても、これから質より量でジムの大軍が生まれ続けることになるのだろう。
と、どうやら、俺がいることが、連邦の通信で拡散されたようだ。
次々と近づいてくる気配を感じつつ、俺は操縦レバーを握り直した。
数分後。
「中佐、この区画のモビルスーツはあらかた片付いたと思います!」
掩護を担当していたザクの1機が通信を入れてきた。
それにしても、ジムの動きが逐次投入すぎるな。
先ほどから延々と1機か、2機ずつしか現れない。
MAV戦術を採用するには気が早すぎるだろう。
おかげでこの周辺がジムの残骸で埋まりそうだ。
まだ連邦はモビルスーツの部隊運用に慣れていないのかもしれない。
とはいえ、先ほどから無線にはひっきりなしに交戦報告が飛び込んでくる。
「どこだ?」
サブモニターに現在までに判明しているジャブローのマップを表示する。
味方が観測する情報をまとめて、マップが更新されていくシステムであり、踏破済み区画が確認できる。
ミノフスキー粒子のせいで所々ぼやけているが、このブロックの隣接区画もそれなりの大きさがあるように見える。
そしてそこの区画の全体像が表示されずにマップは止まっている。奥まで踏み込めていないということだ。
交戦報告が流れてきているのはおそらくここだろう。
そちらのブロックに敵の部隊がまだ相当数、残っていることを意味している。
援護の必要があるかもしれない。
そう判断した俺は隣の区画へ向けて、イフリートを加速させよう――としたレバーを止める。
新しい気配である。
そこそこ距離があると感じる。ジムや61式戦車なら射程外と言える距離だが……。
殺気があるな。
数瞬後、バーニアを吹かし、横へと飛ぶ。
直後、俺のいた位置に爆炎が上がった。
俺は回避軌道を取りながら、一旦距離を取る。
地面から爆炎が上がった以上、ビームではなく実体弾だ。
爆炎の規模から推測するに、61式戦車程度の火砲ではない。
おそらく250mm以上、直撃をもらえばモビルスーツでも一撃でアウトだ。
俺は狙撃してきた機体を確認しようと、イフリートのカメラ倍率を最大に引き上げた。
薄くなってきた爆炎の向こうに機体が確認できる。
敵モビルスーツは1機――。
「マジかよ……」
思わずつぶやいた。
「この時期にもうあるのか?
ええ……」
少し頭が混乱する。
そんなに連邦は焦っているのだろうか。
ジャブロー戦後からならともかくとして、今の時期にこれを出すのは駄目だろう。
俺は複雑な表情を浮かべつつ、敵機――
RX-78-6 ガンダム6号機『マドロック』を見た。
遭遇した以上、仕方がないので、やるしかない。
そう判断した俺はイフリートのスロットルを踏み込む。
急加速するイフリートにマドロックが慌ててキャノンを発砲するが、砲身が追従しきれず、俺よりかなり後方の地面が吹き飛んだ。
爆風が装甲を揺らし、警告灯が一瞬だけ点灯する。
破壊力だけは抜群だが、そもそもの射撃管制システムが甘すぎる。
そのままマドロックへと接近する。
相手はビームライフルを構えるが、一射だけしてそれを投げ捨てる。
そもそも命中する射線ですらなかったので、回避行動さえ必要ない。
そのまま背部にあるビームサーベルを抜こうとするが、それもあまりにも遅い。
いや本当に、
これ、ひょっとしたら格闘戦用のプログラムが、そもそも入っていないんじゃないか?
俺はヒートサーベルを赤熱化させ、ビームサーベルを抜かせないままマドロックの右腕を切り落とした。
腕を失ったマドロックがバランスを崩した瞬間に、返す刀で右足を切断する。
マドロックはゆっくりと、轟音を立てて倒れ込んだ。
俺はそのまま、ヒートサーベルを頭部に振り下ろした。
「虚しすぎる戦いだった……」
そう俺は呟いた。
マドロックは見事に大破、行動不能となっている。
パイロットの脱出も先ほど確認できた。
「なんでよりによって、このタイミングで実戦に出すのかな……」
元々、マドロックはプロトタイプガンダムの初期試作型を、アムロの乗るガンダムのデータを基に再設計した機体のはずだ。
つまり、ホワイトベースがメキシコ湾を抜けたタイミングで、最速でマチルダ・アジャン率いるミデア隊と合流し、その戦闘データを回収されたと仮定しても、
いくらなんでも時間が足りなさすぎる。
ジオニックフロントにおいて、フェンリル隊が最初に戦った時も未完成で出撃していたが、この機体はそのレベルにすら到底達していないだろう。
あちらがマドロック未完成型とすれば、言うなればマドロック最初期型。
300mmキャノンを撃つための移動砲台と言ってもいい。
とても虚しい。
パイロットがエイガー少尉なら「なんで出撃させたの?」と聞いてみたいレベルではあるのだが――。
一応、彼が
つまり――。
戦車的な運用に徹するならば、砲兵出身であるエイガー少尉なら戦力になると考えた、とすると一応のつじつまは合う。
61式戦車と連隊を組んで移動砲台として戦えば、ザクやグフ相手ならそこそこ奮闘できたかもしれない。
まぁ、いきなり遭遇したのが俺というのが、とびっきりの悪運ではある。
「中佐? 次の行動はどうされますか?」
ザクのパイロットが聞いてくる。
「あーー、お前たちはこの機体を回収し、撤退しろ。
ガンダムと比べるとハリボテもいいところだが、おそらく未完成の試作機だ。
キシリア閣下への手土産程度にはなる」
完成型ならともかく、最初期型じゃなぁ。
俺が回収したガンダムの腕と合わせれば、それなりのリバースエンジニアリングができるという程度だろう。
「俺は隣のエリアで足止めされている友軍の援護に――」
言い終える前に通信機が鳴った。
「ジャブロー侵攻全隊に通達。
モビルスーツ製造ブロックの破壊に成功。
くり返す。モビルスーツ製造ブロックの破壊に成功」
どうやら、俺が囮になっている間に、味方の部隊がきっちりと仕事をしてくれたらしい。
当然だがジャブローに製造ブロックが1つのわけがない。
だがそれは作戦に参加した全員が承知の上である。
1つでも破壊すれば、連邦の生産能力を数割程度は減らせるだろう。
これはそういう作戦である。
俺は撤退の指示を出すことにした。
もとよりその段取りであるので問題はない。
そういえば、シャアからの通信がないな。
「よし、各隊。順次撤退行動を開始せよ。
残弾に余裕のある部隊は味方の撤退行動を掩護。
シャアはどうしている?」
「シャア少佐は現在、ガンダムと交戦中です。
優勢ではありますが、押し切れていません」
うへぇ。
お前らやっぱり出会うのかよ。
宇宙一嫌な赤い糸で結ばれてんなぁおい。
シャアが優勢だけど勝ち切れていないということは、やはりメガ粒子砲の出力が足りなかったのだろうか。
「あーー、シャア。掩護はいるか?」
一応聞いておく。
ほどなくして返事が返ってきた。
「不要だ。
頃合いを見て、私も撤退するとしよう」
「そうか。
なら周辺の部隊が撤退するまでは、そいつの相手を頼む。
それじゃ、キャリフォルニアベースで」
「ああ」
通信が切れる。
ああまで言った以上、シャアならば無事に帰還してくるだろう。
「さてと……」
イフリートの状況を改めてチェックする。
ガトリングシールドは弾倉を使い切り、ガトリング部分を既に投棄。シールド部分はほぼ無傷。
腕に設置されている3連装砲は、残弾にまだ余裕がある。
各部関節は――多少の負荷はかかっているが、まだ許容範囲内。
結論――戦闘続行に問題なし。
撤退させまいとこちらに接近してくる、新しい敵の気配がある。
俺は一度深呼吸をしてから、操縦レバーを握りしめる。
そのまま、ヒートサーベルを構え直したイフリートを突撃させた。
「あとは撤収時、斬って斬って斬りまくる!」
読んでいただきありがとうございます。
多分、これだけやっても国力差全然埋まらないと思います。
一年戦争の時の連邦はおかしい。
あんまりな扱いのマドロック。
時期的に仕方が無いと思います。
ゲーム版のジオニックフロントだと、未完成品(オデッサ作戦後のジャブロー襲撃時)でエイガー君が「動けば十分だ」と無理をして出てきましたが、今回は彼ですら「いやそれは無理っす」って言ってるのに、パニックになった高官の命令で出撃しなくてはならなかった構図。
そして初手が白銀戦からの鹵獲。
エイガーは泣いていい。
0083に言及されている感想をいくつか拝見しました。
私見ではありますが、仮にガトーいなくても連邦が迂闊すぎるので、名無しのエースパイロットが数名いるだけで、星の屑は大体達成されると思っています。
シーマ艦隊がいなければ、ですが。
デラーズが優秀というよりは連邦迂闊すぎひん?というのが正直な感想です。
核保有基地のガバガバ警備もそうですが、なんで敵に核があるタイミングで観艦式やるの?
まあ、ノイエ・ジール乗れる人間はいなそうですが。
あと、お話の展開上、大きく状況が変わるのは『オデッサ作戦』が契機となると思いますので、もう数話お待ちください。
原作でも、オデッサ作戦までは、基本的にエースパイロットがいる戦線はジオンの圧倒的優勢だったと思います。(ただし天パに関わった場合を除く)